人情消失圏域 亀有――失われた両津   作:ゴマ助@中村 繚

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Q.ところで何でこんなん書いたん?
A.ネタがそこにあったから&副題を思い付いてしまったから。あと、ペーパームーンを読んだら書きたくなったんです。ハイ。


第5節 ゴールデンヨロイ

 それは、地上に顕れた太陽。

 ロマニの叫びにいち早く反応して、十字の盾の後ろに立香を隠して前線に出たのはマシュだった。

 太陽の魔力と神性を帯びた紅炎の出現は、『超神田寿司』の障子窓を一瞬にして焼失させる。壁も何もかもが溶け落ちた陽炎の向こうからは、円卓の盾に守られた立香とレジスタンスの面々がいた。火傷の一つも負っていない。

 

「マスター! ご無事ですか?」

「大丈夫!」

「レモン!」

「こちらに」

「小太郎くんナイス!」

 

 中庸の両津が、真っ先に檸檬の身を案じた。

 檸檬は、彼女の側にいた小太郎が抱き上げて一瞬のうちに店舗の奥へと退避していたので無事である。驚きと恐怖で泣いてはいなかったが、小太郎の手を離れると助けを求めるように中庸の両津の職人服をぎゅっと握った。

 

「な、何が起きた?! 一体どうしてこんなことに……」

『サーヴァントの反応です!』

『データベースに霊基情報ありました! 登録クラス、ランサー……!」

「っ! カルナさん?!」

 

 現代を象徴するかのような東京の電柱の上に立つのは、神話の時代を象徴する神から与えられし鎧。西に傾きかけた日光に照らされる黄金の鎧は、父の祝福を受けた不死の具現化。黄金の鎧と、炎の……否、太陽の魔力を纏うは、蒼穹を映した双眸に鋭利な視線を宿した白皙の美青年。

 かつて第5特異点(アメリカ)で味方になってくれた英雄が、今度は敵になってしまった。

 太陽神の息子にして、インドの大英雄が1人――カルナが、攻撃して来たのである。

 

「黄金の鎧。まさか、インド叙事詩『マハーバーラタ』の英雄カルナ?!」

「彼も、サーヴァントというものなのか。どうしてここがバレた?!」

「その疑問については、マスター曰く「本田の好きそうなソシャゲに偽装した盗聴アプリを配信したら、見事に食いついてスマホにダウンロードしたのであちらの情報が筒抜けになりました」とのことだ」

「えええぇーーー!!?」

 

 本田が慌てて偽装盗聴アプリをアンインストールしたが、時既に遅し。手遅れである。

 それよりも、カルナが言うマスターとは善の両津で間違いないだろう。聖杯を手にした善の両津は、それを使ってサーヴァントを召喚した。そして、カルナはマスターの命令で攻撃して来たのである。

 

「女子供ばかりか。悪く思え」

 

 カルナが槍を向けるより速く、ランスロットが正面から踏み込んだ。不意打ちができないことは百も承知だ。剣と槍が斬り合う剣戟の音が耳を劈き、カルナが距離を取れば炎の礫が飛んでくる。

 ランスロットの背後にはコンクリートブロック塀がある。そこを乗り越えた先は普通の民家だ、避けるという選択肢はない。炎の礫を真正面から受けたが、鎧が少し焦げ臭くなっただけ、次の瞬間には湖面の輝きの如き光を宿すアロンダイトが振り下ろされた。

 

「その剣、アプサラスにも似た魔力を感じる。水精の加護か」

「日輪の神性……太陽が昇りきったガウェイン卿の方が厄介か」

 

 襲撃に来たのはカルナ1騎だけ、近辺に他のサーヴァントの反応はない。しかし、手数で押し通せる相手ではないことは、かつての旅で立香は十分に知っている。

 気配遮断した小太郎が音も気配もなく投擲された苦無の雨は、カルナの周囲を浮遊する鎧の一部によって弾かれた。コンクリートの地面を砕くほどの足音を立てて突進してきたメイヴの猛牛も、槍の柄で簡単に止められて放り投げられた。

 

「牛か……忌々しい」

「強い男ではあるけど、タイプじゃないのよね」

 

 立香が魔術を発動させる。それなりに場数を踏んできたのだ、ど素人の一般人だってそれなりの魔術を使えるようになっていた。

『オーダーチェンジ』を発動させて、カルナの正面にいたランスロットとメイヴの位置を入れ替えた。

 風を切る音と伴って振るわれた乗馬鞭は、メイヴの筋力でもコンクリートブロック塀を崩壊させるほどの威力はある……だが、やはり浮遊する鎧によって防がれてしまった。

 

「っ、やっぱり攻撃が通らない」

『立香ちゃん! カルナは一旦後回しにした方がいい! 周囲をマユゾンに囲まれている!』

「ええ!?」

 

 ロマニからの通信と同時に、『超神田寿司』の入り口からマユゾンの大群が流れ込んできた。両津と同じマユゾンが生えたゾンビのような有象無象が唸りながら侵入してきて、職人も中居も関係なく襲いかかって来たのだ。

 

「ひぇぇぇーーー!? マユゾンが!!?」

「っ! 『安全統制治安法』の施行地区に千代田区が追加されたわ!」

「残りの麻酔弾はこれだけ……間に合うか……!」

 

 心許ない数の麻酔弾をリボルバーに装填し、中川はマユゾンへと銃口を向け引き金に指をかけた……と思ったら、照準を定めていたマユゾンが消えた。

 ぶん殴られて、中川の視界から外れたのだ。

 

「テメェら! 土足で人様ン家に入って来るんじゃねェ!!」

「中庸の……先輩!」

「両津!」

 

 中庸の両津が真っ先に殴りに行ったのだ。

 マユゾンの大群を片っ端から殴り飛ばし、反撃されても怯みもせずに千切っては投げ、千切っては投げ、マユゾンが窓や壁を突き破ってめり込んだ。中庸の両津1人でマユゾンの大群とやり合っている。

 

「マトイ! 夏春都! 奥に引っ込んでろ!」

「うん!」

「カンキチ!」

「レモン、お前もだ! 蜜柑を守ってやれ、お姉ちゃんだろ! こいつらは、わしが全部片付けてやる」

 

 擬宝珠家のみんなが家の奥へ引っ込んだのを見届けてから、中庸の両津の猛攻が始まった。

 マユゾンの大群に突進し、ブルドーザーの如く押し出して店内から強制的に退出させる。更には、ついさっき自分で壁に突き刺したマユゾンを引っこ抜いてジャイアントスイングでぶん投げると、マユゾンの大群がボウリングのピンのようにストライクされたのだ。

 

「凄い暴れっぷり」

「マユゾンの元となったというのも納得です」

「感心してるバヤイか。正直言っていただけないぞ、この状況!」

「千代田区から離れましょう。他の区にもぼくたちの拠点があります」

「一旦別れて……ここで落ち合いましょう」

「分かりました!」

 

 麗子から教えられた拠点の座標を記録し、立香たちも『超神田寿司』を脱出する。今、真正面からカルナとやり合っても疲弊するだけ、ましてやマユゾンの大群も大波で押し寄せているのだ。

 ほらまた、中庸の両津がストライクして片付けたと思ったら、津波のような群勢が迫って来たのである。

 

「ヴヴヴヴヴヴヴ……!」

「ヴヴヴーーー!!」

「多すぎるだろこいつら! いでっ!? 誰だ、わしの頭を殴ったのは!?」

 

 マユゾンの大群に気を取られた中庸の両津が、後頭部を強打された。背後には誰もいない。

 だか、恐るべき野生の勘が働いたのか、何もいないはずの空間を叩くと手応えと同時に半壊のドローンが地面に落ちて来た。これが、中庸の両津の後頭部にぶつかってきたのだ。

 

「何だこれは?」

「先輩! それはネオ警視庁が開発した、監視用の光学迷彩ドローンです! 法律が施行されて、千代田区にも飛行が許可されたんです!」

「無駄に高性能な物を導入しやがって。それより、何でわしが先輩なんだ……っ、うわっ! やめろ、流れるプールか!」

 

 光学迷彩ドローンに気を取られてしまった中庸の両津が、マユゾンの大群に飲み込まれた。定員オーバーの流れるプールのように、どんぶらこっこと波に流され、揉まれ、身動きが取れずにマユゾンに襲われた中庸の両津は押し流されて近隣の民家へ追い詰められて、マユゾンに突き飛ばされた衝撃で窓ガラスを突き破り民家に侵入してしまったのだ。

 

「畜生! 何なんだ一体!?」

「ひ、ひぃ……!?」

 

 民家には人がいた。夫婦と思わしき高齢の男女が、怯えるように部屋の隅で身を寄せ合っていた。

 

「悪いな爺さん。窓の修理代は超神田寿司に請求してくれ」

「で、出てけーーー!」

「私らまで目をつけられる! さっさと出ていってくれ!」

「いてっ! 言われなくても出ていくよ! ったく……」

 

 投げつけられたティッシュボックスが中庸の両津の額に当たった。角が地味に痛い。

 中庸の両津は悪態を吐くが、律儀に玄関から出て行った。が、外に出て秒でマユゾンの大群に飲み込まれた。

 

「でェェェェーーー?!」

 

 一方、マシュの盾でマユゾンの大群をかき分けながら外に出た立香たち。立香だけでもこの場から撤退させようと、サーヴァント総出でカルナを相手取るが、やはり黄金の鎧が厄介だ。

 かと言って、建物が密集しているだけではなくマユゾン化している人々が押し寄せるこの現状では、宝具や魔力を乗せた攻撃ができない。攻撃の手数を見るにカルナも同じ縛りがあるようだが、恒常展開されている鎧は、耐久値そのものに関係なく防御が固すぎる。

 

「やっぱりカルナさん強い!」

「マスター! 次の角を曲がります!」

「うん!」

 

 マシュが盾の衝撃でマユゾンを吹っ飛ばしたその隙に、うどんチェーン店の角を曲がる。あそこに出れば開けた道路だ、狭い路地よりは戦い易いはず……と、少しの希望を持って角を曲がった立香だったが、彼女たちを待っていたのは更に追加されたマユゾンたちだった。

 両津を象徴する極太の繋がり眉毛と虚な視線が、大量にお出迎えしてきたのである。

 

「こうなりゃ強行突破だーーー!!」

「はい!!」

 

 ヤケクソ気味に突っ込んで行った立香たち。当然、カルナもそれを追いかけ……ようとしたら、鎧の一部と共に浮遊するピンクのモコモコから何かが聞こえて来た。

 

あーそこはかめありーー♪

あーきっとかめありーー♪

 

「マスターか」

 

 カルナがピンクのモコモコの中に手を入れて取り出したのは、二つ折りの携帯電話。所謂、ガラケーである。どうやら着メロが鳴ったようだ。

 電話をかけて来た相手は、マスター――善の両津だった。

 

『カルナくん。カルデアは後回しにして、Mr.コロンブスを合流しレジスタンスの拠点を制圧してください』

「承知した。こちらはどうする。酒浸りのアサシンをよこすのか」

『いえ。光学迷彩ドローンからのライブ映像から推測するに、彼らはサーヴァントの相手は相当慣れています。下手にこちらの戦力を晒すことは悪手です。レジスタンスにはサーヴァントに対抗する手段がなく易々と制圧できたように、カルデアにはあちらが慣れていない相手を差し向けます』

 

 レジスタンスには、ただの人間では到底敵うことのないサーヴァントを差し向ける。では、カルデアには何を差し向けるかというと……。

 

『特殊刑事課を出動させます』




曲がってーごらんよー、あの角をー
みんなに、みんなにあーえーるよー(マユゾンの大群)
行くぜーー!!(強行突破)

ここまで前編!
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