「そうだ、トレーナー?旅に行きたい」
トレセン学園内の自分の使用しているトレーナー室にて、日本ダービーも終わり、そろそろ夏合宿の準備でもせねばなるまいなと考えていた吉塚将也トレーナーは、自らの担当バが何を言っているのか、一瞬理解できなかった。思わず聞き返す。
「シービー…いつもいつも突然の自由発言にはいい加減慣れたし、それが君のいいところであるし、強みでもあるとは理解しているけど、今なんて言ったんだ?」
吉塚の言葉を聞き、担当ウマ娘であるミスターシービーは不満気に返答を返す。
「聞こえなかったの?だから旅、行きたくなった、今度はちゃんと聞こえたよね」
「旅?またなんでこの時期に突然?」
まだ6月中旬、前期の授業も残っていれば来月は夏合宿の予定を組んである。夏合宿の参加はウマ娘の体調面と本人の希望で参加、不参加を決めることもできるが、先日シービーに参加意思の確認をしたところ、参加するとのことで話は纏まった筈である…
「深い理由なんてないよ、アタシが行きたくなった、それで十分じゃない」
とミスターシービーは吉塚の疑問に当たり前の事だと言わんばかりに返答する。強いて言うなら緑が見たくなったからかなとも付け加えたが
夏はクラシックを走るウマ娘にとっての天王山とも言われている。この時期に努力して実力を高めたウマ娘こそ、秋シーズンのレースで結果を残せると言われている、所謂夏の上がりウマとなる為の大事な時期である、だからこそ、この時期に旅になど行って遊び呆ける等、普通であれば言語道断ではあるのだが…
「行きたくなったか、ならしょうがないな」
生粋の自由人にして、既に皐月賞、日本ダービーを制した二冠ウマ娘のトレーナー足る、吉塚は普通ではなかったようだ。いや、この自由人の破天荒振りに染まってきたと言うべきだろう。
「だが、まだ前期の授業も残っているし、期末考査もある、まあ、ダービーの疲れを取るための休学という形にすれば問題なく許可は降りるだろうが…」
二冠ウマ娘とは言え、学生であるからには勉学もある、一応心配事として伝えるが、
「授業と考査試験なら大丈夫、休学前に前倒しで受ければいいってさ、後輩のルドルフって頼りになる娘(※1)から聞いたから間違いない、うん気にしなくていいよ」
先手は打たれていたようだ、まあこの自由人を止められるとは欠片も思っていないので、別にいいのだが、ウインクしながら答えるミスターシービーに吉塚は形ばかりの溜息をつきながら、
「ーー夏合宿には出るんだな?」
「それは約束だから、ちゃんと守るよ、合宿までには戻ってくる、嘘は嫌いだからね、エース(※2)とも約束してるし」
「ならいい、行ってくればよいさ、モチベーションを保つためにも息抜きは必要だろうしな」
吉塚の諦めたような返答に、ミスターシービーはキョトンとした表情を浮かべると、吉塚が思ってもいなかった言葉を返した。
「何言ってるの?トレーナーも一緒に行くんだよ」
「ハア?!」
――自由なる風 天衣無縫の旅路 開幕
※1 後の皇帝シンボリルドルフのこと 史実ではまだ入厩はしているがデビュー前であり、ミスターシービーの一年後輩である。 まだ生徒会長ではないが将来有望な優等生として期待されている。
※2 カツラギエース ミスターシービーの同期でありライバル、皐月賞、日本ダービー共にシービーに敗れているか、まだ闘志は衰えていない、6月末にある特別競走に出走予定。
⚠トレセン学園の休学制度周りの設定は捏造です、ご容赦くださいませ。