魔女の彩   作:まりもって良いよね…

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魔女との邂逅

「──今日からお前は、私の弟子だ」

 

 学校帰りの夕暮れ時。そんな「魔女」の一言が耳に響く。

 AI革命だ技術革新だと謳われるこの21世紀に、どうやら俺は魔女に出会ってしまったらしい。それもとびきり質の悪い魔女に。

 今になってようやくあの噂を思い出す。この辺りには魔女が住んでいるという、鼻で笑ってしまうような、でも本当だったあの噂を。

 

 ────────

 

「この辺りには大都会の魔女が住んでいるらしい」

 

 そんな噂を耳にしたのは、うだるような暑さが続く7月の半ばだった。

 

「大都会の魔女ぉ?」

「そ、大都会の魔女。今にわかに噂になってんだけどさ、どうやらこの辺りに魔女が住んでいるらしいぜ」

 

 休み時間。やっと2限の授業が終わったと思ったらめんどくさい奴に絡まれてしまった。

 目を輝かしながら話すこいつは青木太一といい、俺の友人であり、腐れ縁というやつでもあった。幼稚園が同じだったところから始まり、小・中学校は地元の同じ学校に、そして高校までもがなぜか都内の同じ私立高校に通っている。やんちゃしてそうな見た目をしているがこいつは大のオカルト好きであり、今回の魔女の話もまたいつものオカルト話が始まったか、程度のものだった。

 

「大都会の魔女ねぇ。お前がいかにも喜びそうな話だな。まあ、いつもの作り話だろうけどさ」

「いやいや、今回のはマジなんだって! 実際に魔女を目撃したって人がいたり、動画が撮られたりさ」

「ないない。一注目浴びたくてついた嘘とか作り物の類だって。そんなのいくらでも作れる時代なんだから」

「あーあー、そうですか。まったく、龍之介は夢がねーなぁ」

「うっせ」

 

 龍之介というのは俺の名前で、苗字は橘だ。ちなみに、龍之介という名前はなんだか名前負けしているようであまり好きではなかったりする。

 

「でもさ、なんで急にそんな噂が立ったんだ? この辺りは都市開発だなんだで、古臭いオカルトとは無縁だったろ」

「ん? なんだ、やっぱり気になるんじゃねぇか!」

「いや、単に急に噂が出てきた理由(ワケ)を知りたいだけ……」

「それがよぉ、最近──」

 

 聞かれたことがよほどうれしかったのか、太一は嬉々として話し始めた。

 どうやら魔女の噂はここ数か月の間に急速に広まったらしい。ことの発端は数か月前、動画投稿サイトに上げられたとある動画が始まりだった。動画の内容は、深夜に女の姿らしきものが浮遊し高笑いと共に暗闇へ消えていく……という、なんとも胡散臭いものであり、当然、当初はまるで信じられることはなかった。しかし、1つ2つと似たような動画が別の人からも投稿される他にも、実際に目撃したという証言が増えていくにつれて信ぴょう性が高まったのだという。今では魔女に関する動画は100を超えており、ネットの掲示板や一部の界隈では大いに盛り上がっているようだ。

 また、動画や目撃された場所のどれもがこの辺りなのだそうで、誰が呼んだか大都会の魔女なんて異名が付けられたのだった。

 

 ただ肝心の魔女の見た目に関しては、ある者は老婆であったといい、ある者は絶世の美女だったといい、そしてある者はなんと子供であったという者までいる始末であり、なんとも曖昧なものだった。動画で確認できないのかと太一に聞いてみたが、全ての動画で魔女の姿は煙のようにしか映っておらず確認できないのだという。

 

「胡散臭っ。合成かCGかなんかじゃないのか?」

「そう思うのも当然だな。でも実際に目撃したって人も何人もいるんだ。それも10人やそこらじゃないぜ? 少なくとも数百人単位で、だ」

「むむ、そんなにか」

 

 ここまでの人数が目撃しているとなると、作り話という線は確かに考えにくい。火のない所に煙は立たぬとも言うし、何かしらが実際にいるのは本当なのかもしれない。

 

 ──キーンコーンカーンコーン……──

 

 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。太一と話していたせいで次の授業の支度を何もしていないことに気づいた。なんだかんだで太一の話が気になってしまう自分が少し恨めしい。

 

「お、もう時間か。じゃ、俺は保健室に行ってくるわ」

「またサボるのか?」

「サボりじゃなくて休息と言ってくれ。毎日授業づくめじゃ息が詰まっちまうからな」

「分かった分かった。その言い訳を聞くのも飽きてきたぞ」

 

 太一は何だかんだと理由をつけては授業を休む癖がある。授業日数が足りなくなりそうなものだが、奴曰く「神がかった調整してるから問題ナシ」とのことだった。絶対問題あるだろ。

 結局、この日は太一が授業に舞い戻ることはなかった。いつの間にか鞄もなくなっていたので早退したのかもしれない。

 

 

 

 学校からの帰り道、たまに行く本屋に寄ることにした。俺が好きな作家さんの新作がそろそろ出ているハズだ。

 本屋は大通りから少し外れた路地にあり、案外この場所を知っている人は少ない。個人的には隠れ家的な雰囲気を感じて好きなのだが、あまりにも客がいないのでいつか潰れてしまうんじゃないかと来るたびに思ってしまう。

 都市開発の進むビルが立ち並ぶ大通りを10分ほど歩き、見慣れた路地に入って本屋に到着した時だった。

 

「んん?」

 

 何か、違和感を感じた。いつもの風景となんら変わらないように見えるのだが、何かが引っかかる。確実に何かがおかしいのに、その「なにか」が分からない。間違い探しの最後の1個が見つからない時のような、そんな気持ち悪さ。

 

「んんん……? あっ」

 

 その正体はほどなくして分かった。本屋から少し離れたところに、見慣れないさらに細い路地があったのだ。

 

(こんなところに路地なんてあったっけ……?)

 

 以前来た時にはこんな道はなかったはずだ。何の変哲もない、ただの路地……なのだがなぜか無性に気になる。

 気づけば足は路地に向かっており、好奇心に煽られるように足を踏み入れてしまったのだった。

 

 

 

 路地に入るとそこにはこぢんまりとしたレンガ造りの建物があった。最新の建造物が立ち並ぶこの辺りでは、なんだか浮いているように感じる。古臭さは感じるが小汚さは感じられない。むしろ、古びたレンガが味を出し、おしゃれなカフェのように見えなくもない。中世の街から切り取ってそのままここに運んできました、なんて言われてもギリギリ信じてしまいそうだ。

 中の様子が少し気になり窓から覗いてみるが、中は薄暗く良く見えなかった。かろうじて見えたのは、この家の広さにしては大きめの机と、そこに散乱する無数の本くらいだ。

 

(誰もいないのかな……)

 

 カフェかもと思ったが違うようだ。もう少し見てみようかとも思ったが、今の世の中あまりじろじろと覗いていては通報されかねない。そろそろ本屋に戻ろうかなと思った時だった。

 

「さっさと入らんか!」

「ぬおお!?」

 

 突然の声に、思わず自分は不審者じゃありません! と叫びそうになる。しかし、声の主の姿を見て思わず言葉が止まった。

 

「……子供?」

 

 そう。扉から現れたのは、白衣を着た、年齢を高く見積もってもせいぜい中学生くらいの少女だったのだ。背丈は150cmくらいで、さらさらと揺れる髪は腰まで伸びるストレートで黒色。そしてなにより、射貫くように見てくる視線が印象的だった。

 

()()の前をうろうろとするな。気が散ってかなわん」

「ご、ごめん……?」

 

 中学生くらいの少女とは思えぬほどの圧を彼女から感じ、思わず謝ってしまう。あの気の強い俺の妹からだって、ここまでの圧を感じたことはない。

 

「……まあいい。客だろう? 店なら開店しているぞ。早く入れ」

 

 どうやら、何かの店ではあるようだ。店の前をうろうろとしているものだから、客と勘違いされてしまったらしい。

 彼女はここで働くアルバイトなのだろうか。それにしては少し若すぎるような気もするが。それに、アルバイトにしては少し態度でかすぎない? 

 

「いや、俺は客じゃなくて……」

「なんだ、怖気づいたのか? ここに来たという事実が、客である何よりの証拠だろう。なに、こう見えても私は口は堅い。お前の痴態は漏らさないさ」

 

 そういうと、彼女は俺の手を引いて無理やり中に引き込もうとする。

 

「だから俺は客じゃなくて……って、うおおああ⁉」

 

 ぐいぐいと引きずりこまれる。重い岩を相手にしているようで、抵抗してもまるでびくともしない。

 

「ちょ、痛い! ちぎれる! 腕が! ちぎれる!!」

「は、お前程度の力では抵抗は無駄だ。おとなしく観念するんだな?」

 

 なおもぐいぐいと引きずり込まれながら、俺は今更ながらに考える。

 この少女は一体何者なんだ? 普通に世界狙えるレベルの握力あるんだけど。それにこの店も一体……? さっきなんだか物騒な言葉が聞こえた気もするし。口は堅いだとか痴態は漏らさないだとか……。あー分かった、絶対ヤバい店だね、ここ……! 

 しかし時すでに遅しかな。自分の置かれている現状を理解した時にはもう、自分にはどうすることもできずにただ手を引かれるのみ。こうして俺は何一つ分からないまま、レンガ造りの箱へと吸い込まれていったのだった。

 

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