外伝だから間隔をあけることなく最後まで更新しきろうかなと思っている雑草です。
リアル忙しすぎて更新の間あけたら一生更新できなくなりそうだしなぁ、はははっ
「お前は…お前でいいんだ……自分の気持ちのまま、生きてほしい」
少年からの唐突な言葉に彼は息が詰まった。何となく気づいていた。
少し前から少年の様子がおかしいことには。
多重人格になっていた少年。本来の少年を胸の奥底に沈めてしまった少年。
なのに最近は
否、違う。
彼は…”元の人格”が見えだしていた。
あの優しい彼が、時折現れるようになった。
口調が、言動が、表情が、役と…偽の人格と乖離していく。剥がれ落ちていく。
素の彼が見えてきている。
きっと周りはそれを良いことだというだろう。
でも彼はそれが嫌だった。だって、あの優しさが…彼の恐れた少年の価値が戻ってきてしまう。
なにより、彼の見出した、彼自身の価値が失われてしまう。
何も持っていない。彼へ戻される。
ドンドンと偽が剥がれ落ちていく少年の姿を見て、内心恐ろしくなった。
だから、必死に知らないふりをしようとしていた。少年を引き留めようとしていた。
最低な行動だということくらい理解していた。それでも引き留めずにはいられなかった。
だが、どうやら少年がこうなってしまった原因であろう人間をさっさと追い出そうと焦ったのが仇になったらしい。
部屋を出て行く少年の…
「俺のままで…」
一人乗り残された彼、
悲哀を孕んだ息を吐き出し、静寂に満ちた部屋に彼の掠れた声が響く。
「俺は…もう”自分”なんて忘れちゃったよ」
ついこの間まですぐ隣に居た少年の、自分そっくりの顔が別人に見えて仕方がなかった。
この日、彼はまた自分の幸せが崩れる気配を感じ取った。
壊れたなら、また一から作り直せばいい。
今度こそ壊れない幸せを、普通を作り上げるために、彼は今まで適当に流していた友人関係に力を入れるようになった。
遊んで、任務に行って、ご飯を食べて愚痴を言い合って。
人間関係の構築は、面白いくらい簡単にできた。今まで学んだことを応用すればあっさり人が集まって来るようになった。
父と母には真面目な”
悪くない日常と言えた。でも、やっぱり虚しさが残る。
その虚しさは波紋が広がる様にじわりじわりと大きくなっていって、充実感も幸せも空いた穴をすり抜けていくように零れ落ちていった。
どうすれば、この感情がなくなってくれるのかわからなくなって、考えて…気づいた。
ならばどうするか。一から
優しくて頭が良くて皆に愛される主人公
最初、
それから数か月。過去の
こんな仕事なのだから入れ替わりが激しいのは当然。だからか、今の
笑みを浮かべて少し優しくすれば「良い人」だと簡単に信じてくれた。
泣いてる子が居たら、本で読んだ受け売りの言葉を、さも本心とばかりに述べれば「優しい」と言ってくれた。
本の主人公みたいにニコニコ笑って表情を取り繕って手を差し伸べた。
本当にそうなんだって思わせる様に。他人に見せる姿はいつだって理想の自分
誰かの求めるままに動くんじゃない。自分がなりたい人間になれば。常に自分が”夢想する自分”を演じればいいんだ。
最初からこうすればよかった。
最初からこんな風になっておけばよかったと後悔した。
家族だけじゃない、友人も多くできるようになったし、
「
「
父と母は今日も優しいままだ。あの頃のまま、優しい両親
また家族に戻れたことが何よりも嬉しくてしかたない。
父と母を混乱させないように
ああ、ここに片割れがいれば完璧なのにと、ふとした時にいつも思う。
だが
「
かわいらしい少女がクッキーの詰まった袋を差し出してくる。
仲良くなった子から、よくこうやって甘いものを渡されることが増えた。
「ありがとう。うれしいよ」
それに対して
そうすれば少女はぱぁぁっと顔を明るくさせて花が綻んだ様な笑みを浮かべる。
そうすれば少女の友人である少女がやってきて「私もあげる」とマフィンを差し出してくる。
それも受け取れば、最近仲良くなった男友達がニヤニヤしながら
「相変わらずモテてんな、
「ちょっと!
「えー、
「はいはいあとでね」
「ちょっとぉ!
「冗談だよ。あげないって」
「ほんとかなぁ?」
昔から考えればありえない光景だ。
楽し気に笑みを浮かべて話す。明るい声が満ちる空間
でもまた壊れた。
その幸せをまたもや壊したのは、
人付き合いが苦手だからか、友人は一人もおらず、顔は悪くないのに誰も寄り付かない。
入隊当初から悪い噂が付きまとっているからか、ずっと皆から嫌われて、常に悪口ばかり浴びせられているような子
嫌なことされても助けてくれる人なんて居なくて、そこにいるだけで疎まれるような可哀そうな人間
Z地区攻略後も大して変わらない扱いからどれだけ嫌われている立場が板についているのかが伺えた。
なんせ天満善は、人の評価を気にしない人間なのだから。
別に強がっているとか、そういうわけではなく、本気で友人がいないことを気にしていないのだろう。
だから、友人がいなくても何とも思っていない。悪口を言われても微塵も傷つかない。最初は自分と同じ演技なんだと思ってた。見栄を張っているだけ、強がっているだけだと。
人間誰しも一人では生きていけない。心の支えになってくれる誰かを探す生き物だと
だが天満善はそんな様子。一切なかった。
どれだけ怒鳴られようが知らないふり、殴られても無視する。自分の選択に間違いなんてないといわんばかりの立ち姿。わけがわからなかった。
(なんでそんなに怯えないでいられるの。なんで平気な顔でいるの。なんで苦しんでないの)
天満善は自然体でずっと振舞ってた。
どこまでも、自然体に。自分の気持ちを繕うことなんて、一切なかった。
それなのに、何故か日を追うごとに天満善を気にかける人間が出てきたことに驚いた。
無論、
(守られるのが普通、とでも思ってるのかな)
天満善は本当に何もしていない。
いや、何もしていないというのは語弊がある。
明確には"人に好かれる努力"をしていないのだ。なのに人が寄って来る。
黙って殴られてたのに、気づけば誰かが間に入って庇っている姿を何度か見た。
何もしなくても好かれる人間…というのは驚くことに存在する。
天満善はその手のタイプだったのだろう。それなら納得も行く。
あの誰を気遣う訳でもなく、自由に振る舞える態度も、誰の顔色をうかがうことなくできる発言の数々にも。
いつも守られていたから、ああいう振る舞いが出来ていただけなのだと。
(あんなののどこがいいんだよ
放っておいて、自分の所に…。
そこまで考えて、ふと善のもとに銀髪の少年が駆け寄っていったのが見えた。
彼は何処か恥ずかしそうに、緊張したような面持ちでポケットから何かを取り出した。
それは髪ゴム。紫に銀の糸が編み込まれたソレを
それを渡された善は一瞬驚いたようにぱちぱちと目を瞬かせると、ほんの少しだけ口角を上げ、大切そうに小さい両手で髪ゴムを握り締めていた。
そんな善を見ていた
(あれ……?)
その笑みを見て、違和感を覚えた。
違和感。善と
脳裏をよぎったのは自身と仲良くしてくれる友人たちの姿、その瞳に宿る”感情”
善と
だが友人たちの瞳は汚い。欲に塗れた、不純な瞳
「……」
本当はわかっていた。
だって
特に自分に向けられた感情には、かなり。
でも信じたくなかった。いや、違う。あれが”普通”だと思いたかったのだ。
そして
(なんで、
彼が浮かべる表情には”中身”があった。
そんな表情、
自身の片割れが、あんな笑みを浮かべられるなんて知らなかった。
なにより、
友人たちと同じ、欲に塗れた汚い笑みしか浮かべられない。打算まみれの歪んだ笑顔。中身のない、薄っぺらい物でしか己を取り繕えやしない。
幼いころに感じたひんやりとした感覚が体中を支配する。
心臓が煩い。胃の中は空っぽなのに、吐き気がして口を手で覆う。
違う違う。そんなわけがない。
だって
いくら欲に塗れていても彼等はちゃんと
なにより、両親だって昔のように…。
だから彼は何も持っていないわけではない。
(僕にはちゃんと価値がある。僕はちゃんと…もって………)
脳内にとある会話が過った。
殲滅任務後、任務中に腕を怪我した時のことだった。
支援部隊に怪我の手当てをしてもらおうと医務室に向かったのだが、室内で数人の隊員が集まっていたのだ。
彼等は楽しそうに会話をしていて、なんとなく入りにくく、部屋の外で待っていた。
『てか雪村君たちってホント、黙ってたら見分けつかないよね』
そうしているうちに、話題は
『ホントにな。喋り方とか表情とかが違うからわかるけど、ホント其れ無かったらわからんわー』
『てかアンタ、
『微妙な顔の違いとか身長とか?』
誰に話題が降られたのか、扉越しなのでわからなかった。
ただ、
なんて答えるんだろう、そう思っていると聞こえてきたのは笑い声だった。
そしてその笑い声のまま、告げる。
『そんなんで見分けなんてついてるわけないじゃん!』
楽しそうな声が響く。
『
ま、ぶっちゃけどっちでもいいけど。どっちと仲良くなっても”得”するのは変わりないわけだし!』
その後のことはよく覚えていない。
ただはっきり言えることは、彼らにとっては
他人から必要とされなくても、
だが
(
”どうでもいい”と他人から思われてしまえば、彼自身に何の価値があるのだろう。
彼の存在に意味などあるのだろうか。
また何も持っていない、どうでもいい存在に成り下がるのではないか。
そう考えるだけで怖くなって苦しくなった。
新しい
「
「うん。いいよ」
「やった!」
事実に気づいてしまってから、この行為が虚しくて仕方なくなった。
前までは求められていることに少なからず喜びを感じていたはずなのに、今は驚くほど何も感じない。
だってどれだけやっても変わらないのだから。
あるのは虚しさの残る快楽と、空っぽの”愛してる”っていう言葉くらい
でもそれは
分かっていた。周りが彼に向けているそれは”好意”ではなく”下心”であることくらい。
分かっていたけど、わかりたくなくて必死に目を瞑っていた。そうすれば”普通の幸福”を享受できたから。
善は下心で寄ってくる人間がいない。代わりに、好意を持って人が寄ってきている。本物ばかりもってる。
でもそれは善が下心をもって他者に関わっていないからだ。善は取り繕わない。故にいつも本心で接している。
類は友を呼ぶ、という言葉がある様に本物の周りには本物が集まって、反対に偽物の周りには偽物ばかりが集まる。
吐き気がする。醜い。気持ち悪い。
【淫楽は互いに臭骸を抱く】なんてことわざがあったっけ。確かにその通りだ。間違いない。
それでも、
その言葉の中にもしかしたらほんのわずかにでも本物が混じっているんじゃないと期待していたからだ。
下心じゃない。好意がどこかにあるんじゃないかと。”愛情”ってものがあるんじゃないかと期待したから。
でも、どれだけ抱いても意味はなくて。求めていた中身なんてどこにもない。
本物を探して安心したくたってないものはない。でもそれは仕方ない。
だってそもそも
いくら好きだと言われても微塵も喜べない。
試しに愛してるなんて囁いてみても心は一切動かない。
この関係はお互いの自己欲求と自己愛の延長線上
他人なんてどうでいい。自分が満たされればソレでいいだけの虚しい行為
相手も…なにより
自身と関わることで得を得ようとする周りも
自分に価値が欲しいから、友人や家族すらも利用しようとする自身も、醜くて醜くて仕方がない。
天満善と会わなければ気にしなくてすんだのだ。
他者から求められている。その認識だけで良かったのに。
自他の中にある感情の…その中身なんて、きっと気にしなくて済んだのに。
自分がどれだけ醜い人間だったのか、思い出さなくて済んだのに。
薔薇3本の花言葉は告白、らしいです。
告白って言われれば恋愛を想像しますけど、秘密を打ち明ける、というのが本来の意味ですからね。この物語ではそっちの意味の方がデカいかなぁ(´ω`*)むふふ
早く恋愛パートが書きたい雑草です。