善は
必死に
思ったことを口にして、気ままに動く
友人が多いほうが幸せなはずなのに、何故か
子供っぽいくせに妙に勘が良くて実力もあって、器用で容姿も悪くはない。
なのに、周りに縛られず、自由に動き回る。
周りが彼を嫌っても、彼は堪えた様子もなくいつも通りだ。
前に一度、聞いてみたのだ。「嫌じゃないの?」と。
悪口や嫌がらせをされることが嫌だと思ったことはないのかと
「別に気にしたこと無いな」
善は平然と答えた。
「だって皆、対して知りもしないのに悪口いうじゃん。そういう奴の言葉って薄っぺらくて痛くないんだよね」
本当に、心の底からそう思っているような顔で言う善に
そんな
「なんでそんな顔すんの?」
「いや…僕は、どれだけ薄っぺらくても言われたらいやだなって。人に嫌われるって嫌でしょう?」
「……だからそんな気持ち悪い笑顔浮かべてんの?」
「……は?」
「その笑顔。別に楽しくもないのにずっとニコニコしてるじゃん。疲れないの?」
「……疲れないよ。人に嫌われなくて済むし」
「ふーん?」
善は特に興味ないとでもいうようにホカホカのラーメンをすすっていた。
その顔を見ながら、ああ、ほんと嫌い、と心底思った。だから聞いた。
「天満くんって何されたら嫌なの」
聞かれて、善はピタリと箸を止める。
そして考えるように視線を宙へ巡らせ
「女の声で怒鳴られるのは…苦手かも?」
と、いった。
「女性恐怖症ってこと?」
「恐怖症って程じゃないけどね…
如何に気に食わない相手とはいえ、人間関係を重視する
「………狭い部屋とか」
「閉所恐怖症?」
「かもね」
「へー」
自分から聞いてきたくせに対して興味もなさそうな顔でラーメンを食べるのを再開する善にイラッとする。
興味がないなら聞いてくるな、という気分だった。
(
好みのタイプが被らないのは良いことだとは思うが、それでも嫌いなやつと大事な家族がくっつくかもしれないと思うと酷く複雑な気分になる。
そう、嫌い。
誰に対しても嫌な態度ばかりとっているだけの人間なら、どうして
だがら、それでよかった。
「
「わかる、目も紅いしさ。アイツ不死者だったりして」
偶に流れてくる悪口
大きく成れば、こんな悪口は
その言葉を言われるたびに”間違えた”と思うし、心臓が妙に痛くなる。
でも、もう慣れた。だってずっと言われ続けていた言葉だから。
キャラ変した後も、前も。慣れた筈なのに、一々ダメージ負うなんて、と未だに耳をふさぐこともしない自身に内心呆れる。
「大声で話すなよ。すごい迷惑なんだけど」
ああ、もうさっさと通り過ぎてしまえ………家でやってたみたいに息を殺して気配を消す。
そんな時だった。透き通る声が聞こえた。少し高い、よく通る声
「げ、天満」
「いやいや!お、お前だってそう思うだろ!?誰にでもいい顔してさ!うぜぇって思わねぇ!?」
「思わないし相手がどうしようが勝手だろ。僻んでる暇あるなら筋トレでもすれば?弱いんだから」
「はぁ!?」
善のストレート過ぎる言葉を食らった男達はぐにゃりと顔を歪めると悪態をついて舌打ちし、居心地悪そうに足早にその場を去って行った。
それを見送った後、善はそのまま立ち去ろうとする。
「なんで」
思わず声をかける。振り返った善は少し驚いたような顔をした。
「聞いてたの、君」
「聞いてた。なんで、あんなこと言ったの」
「なんでって五月蠅かったし、それに」
「それに?」
「君、ああいうこと言われるの嫌なんでしょう?」
あっけらかんと善はそう言い放った。
その言葉に
「…覚えてたの?」
「うん」
他人に興味ないくせに?態々あんなどうでもいい会話を覚えていたの?
それに、今の様子を見るに、本当に
つまり見返りが欲しくてやってることではないということだ。
なんで?なんでなんで、と
その困惑は意味のわからないもやもやになって、そのモヤを吐き出したくて、怒りという感情を混ぜて吐いてしまう。
「…意味わかんない。一緒になって笑えばいいじゃん。気持ち悪いって。嫌えば良いんだよ。別に言ったって誰も咎めたりしないんだから」
八つ当たりだ。完全に。善は何も悪いことなどしていないのに。
現に善は心底不思議そうに
「何怒ってんの?別に君は気持ち悪いって笑われる要素ないじゃん」
「要素があるから笑われたんだよ。嫌われるのだって、僕にその理由があるだ」
理由があるから、両親は怒るし周りからは嫌われるんだ。
だが善はそう思っていないらしい。男たちが去っていった方を見る。
「別に気にしなくて良いんじゃない?多分彼奴等が君を嫌うのは大した理由じゃないよ」
「…そんなのわからないでしょ」
「そう?でも皆、必ずしも理由を持って行動してるわけじゃないでしょ。
好きに理由がいらないっていうのと一緒。嫌うのにも理由なんていらないの」
善は肩をすくめる。
嫌な気持ちが湧いてきて、何かが気持ち悪くて仕方ない。
「僕…君が嫌がらせを受けてても助けないよ。
「助けない変わりに害にもならないだろ、君は」
目を見開く。ああ、またこの目だ。
頭が痛い。腹がムカムカする。
だからこれは、意趣返しだった。
「天満くん」
「ん?」
「僕、君のことが嫌い」
「……ああ、そう」
言わないようにしていた本音を言った。
普段はそんなこと言ったら後が怖く焦った気持ちが湧いてくるのに、この時ばかりはどうでもよかった。
傷つけばいい。悲しめばいい。それで、
別の感情を抱えたまま、彼は善の顔を見る。
でも善は、微塵も感情を揺らす様子はない。
可笑しいでしょ。意図的でなかったとしても助けた人間に仇で返されたら普通嫌じゃないの?
なんでそんなに平然としてるの?おかしい。おかしい。
そんな思考が脳みそを埋める一方、ああやっぱり、というどこか落胆に近い感情が沸く。
「嫌いでもいいけど、明日任務入ってるから、ちゃんと来てね」
いつも通りの会話を投げて来て、善は
その姿を見て、次に湧いてきたのは矢張り嫌悪で
善を見ていると、自分の醜さが謙虚に出ているような気がして、ますます
顔を合わせたくないと思う。これ以上自分の醜さを目の当たりにしたくないと。
それでも
だから、極力事務的な会話だけ済ませて
でも、相手はその気はないらしい。嫌いだと言ったのに、何故か話しかけてくる。
その日もそうだった。
「…っはぁ」
息を吐きながら
体を覆う倦怠感、足が重く、視界がフラフラとする。
ここ最近ずっとこうだ…と
原因はストレスだろうか。頭痛が酷く、妙にしんどいのだ。
ぎりっと歯を嚙み締め
寝ても覚めても頭は痛い。しかし仕事が入っている以上、休むわけにもいかない。
休んでしまえば他二人に迷惑がかかってしまう。それが嫌で、
「体調悪そうじゃん。どうしたよ」
「……天満、くん」
そんな時に、声が響いた。
正直会いたくない相手だったが声をかけられたものは仕方がないと
「ほっといて………」
「無駄に長い脚投げ出されると邪魔なの。わかる?」
「……」
その間に善は
「はやく、どっかに………」
「で?どうしたの」
ああ、話聞かないところも嫌い。
「……頭、痛くて」
「風邪?」
「……多分ストレス」
「ストレスねぇ」
善は暫くうんうんと考えた後、突然しゃがみ込むと、袖を伸ばし、
「…なに、してるの?」
「ストレス頭痛に効くツボ押してる」
「……触りたくないならやらなきゃいいのに」
ぼそりと呟く。
でも、程よい力で押されて、少し気持ちがいい。
善の体温が布越しにじんわりと冷えた
「手慣れてるけど、誰かにやってたの?」
「ん?うん、姉と兄にね」
「へぇ、兄弟いたんだね」
「まぁね」
「どんな人なの?」
なにげなく聞いた言葉だった。別に深い意味はない。
ただ会話の繋がりで聞いてしまっただけ。善は「んー…」と思い出すように目を細める。
「どんな…温かい人だよ。二人共
怖い夢見たら寝るまで手を握ってくれるし、ちょっとでも怪我したらすぐ心配してくれる。
どっちも年上だから大人ぶろうとするけど、お菓子一つで取り合いになったりしてさ
子供っぽいんだ。でも二人共家族が大好きで、ホント…家族思いの優しい人」
「…そっか」
「
聞かれて一瞬息が詰まった。でも、すぐに口が動く。
「お母さんは優しいんだよ。よく僕等の事褒めてくれてさ。
それにお父さんも、誇りだって言ってくれる。
欲しい物があったら買ってくれるし、いろんなところに連れてってくれるんだ。
毎年誕生日に家帰るんだけど、毎回僕等の好きな物作ってくれて、ケーキとか、でっかいの焼いてくれるんだよ。プレゼントも欲しいのくれる」
ケーキもプレゼントも毎年ちゃんと貰える。頑張れば褒めてくれる。笑ってくれる。
昔、絵本で読んだ愛されていない可哀想な子供というのはそういうものを一切貰えないそうだ。
頭は撫でてもらえず手も握ってもらえず、プレゼントもケーキも褒める言葉も貰えない。
でも
「…誕生日ってケーキ食べたりプレゼント買ったりするものなの?」
「うん、そうだけど……天満くんのとこは無いの?」
「ない。ケーキも食べたこと無いや…おいしい?」
「へぇ…美味しいよ。甘くて」
善はケーキを貰ったことがない。プレゼントも貰えない。
善より
どうして、
いいや、理由は分かってる。
”中身”だ。
なんせ、ついさっき中身の詰まった話を聞かされたばかりなんだから。
善の顔を見ていたら全部本当だということが嫌でも分かってしまう。
ケーキもプレゼントもない。だがそれでも本気で家族を愛していて、家族に大事にされているのだろう。
同じなのに。自分の話も決して嘘ではないのに、どうしてこうも別物に感じられてしまうのだろう。
どうして、善の話は中身があって
おかしいじゃないか。まるで
そんなことない。大事にされてるし愛されている。先ほども両親から連絡があった。
「応援してる」といってくれた。「愛してる」といってくれた。
そう、あの頃みたいに優しく。
___
一瞬、体を重ねた女の声と母の声が重なった気がした。
違う。あんな上辺だけの言葉ではない。母の言葉には絶対に、中身があった。
本当に?
「……頭痛マシになった?」
「…うん、ちょっとだけ。ありがと」
「ん」
ああ、ずるい
ずるいずるいずるい
どうしてこいつばっかりそんなに好かれるの。
そんなに幸せそうなの、そんなに愛されてるの
なんで?どうしてお前ばかり。なんでだよ、おかしいだろ。
俺だって精いっぱい頑張って、好かれようと必死になってんのに、なんで好かれる努力なんて一切してないお前ばっか周りから好かれるんだよ。
なんでそんなに優しくなれるの?おかしい、理不尽だ。酷い、酷い酷い!!!!
どろどろとした嫉妬が脳みそを犯す。
ただ善意で優しくしてくれてる善に対して、こんなことばかり考える自分が気持ち悪くて仕方ない。
死ねばいいのに、なんて思っても、感情をどうにか止める手段なんて彼は持ち合わせていない。
だから、少しでも、マシにしたくて
「天満くん」
「うん?」
「見返り、なにがいい?」
善に聞く。
別に好意に対して見返りを求めることは悪いことではない。
寧ろ、無償の優しさ、なんてものを求めるの方が間違っている。
皆はっきりと口にはしない。だが内心で、あるいは無意識に相手に見返りを求めるものだ。
それが物か行動か、あるいは好意か。
でも善はそうではない。物も求めない、行動も必要としていない。好意でさえ必要としていないのだろう。
見返りを求めていないからこそ
あの日、
ああ、気分が悪い。
別に見返りを求めることは悪ではない。でも、少しでも善に下心があると知れれば、少しはこの感情もましになる。そんな気がした。
「見返り……?」
でも善はきょとんとした顔をするだけだ。
その顔が無性に苛立った。
善の手首に指滑らせ、そのまま掴んでぐっと引き寄せる。しゃがみこむ体制だったため踏ん張ることが出来ず、善は壁に片手をついて倒れ込むことを耐える。
2人の距離が一気に縮まる。傍から見れば善が
少し驚いたような表情をする善
「どう?僕男も相手したことあるからよくしてあげられると思うよ?」
囁くようにいう。
物欲がないのは目に見えている。今更
だからこそ、こっち路線で提案することにした。
そうしてちらりと善の顔を見て……。
「…うわ」
善は何とも形容しがたい表情をしていた。
予想外の反応に
しかし表情は未だ変わらない。いや、寧ろ酷くなっている。言葉にするなら……ドン引きという言葉が似合うだろうか。
そうして数秒見つめあって善が徐に口を開く。
「とりあえず手、離してくれる?鳥肌たちすぎて鳥になりそうだから」
「……ウン」
手を離すとバッと善は
「…別にさ、君の考え方を否定する気はないんだけど、誰彼構わずいうのはやめた方がいいと思うよ。流石に」
「……」
「というかさ、
善の言い分はもっともだった。
チームメイトと体を重ねようものなら翌日から泥沼展開になるのは間違いない。というか実際そうなったことが何度もある。
更に言うと、善は
「…ごめん」
「いや、いいんだけど……君、普段から見境ない感じ?」
「……普段はちゃんと、人選んでるよ」
嫉妬心をどうにかしたくて血走ったことをしてしまったうえに赤っ恥を晒す結果になってしまい、
その様子を善は微妙な顔で見つめ、溜息を吐くと
「ならいいけど……見返りの件は保留で。今はしてほしいこともないし。いつかできた時に使うことにするよ」
「…」
「あと、月並みな言葉だけどさ。自分の体は大事にした方がいいと思う。見境なくはしてないって言ってるけど、人間なんて本性わかんない人ばっかなんだから、やばいやつに当たったら大変なことになるよ」
その言葉に
自分を大事に?できるものならとっくの昔にしている。
したくても、出来なかった。そんなことをしていたらなにもできなかったから。
手段を選んでいては、どうすることもできやしなかったから。
家族に大事にされて、守ってくれる友人もいて、自分を心の底から愛してくれる人がいて
そんな善にはきっと
「……大事にできる人はいいよね」
「…え?」
「嫌い」
「大嫌い」
はっきりという。
自分でもわかっている。これはただの八つ当たりだと。
善は純粋に
分かっているけど、どうしても黒いドロドロを消化できなくて心配してくれている相手にぶつけてしまう。
言われた言葉に善は特に表情を変えない。
ここで怒る人だったら、どれだけ良かっただろうと
そうすれば、少しは胸のもやもやも晴れるだろう。
だが善は怒るでも悲しむでもなく「そっか」と何でもないような顔で返すから、いつも最後は醜い自分だけが残るのだ。
嫌いと言いつつも確実に距離が縮まっている日向と善のお話
因みに薔薇四本の意味は”死ぬまでこの気持ちは変わらない”だそうです。
薔薇の花言葉って死ぬほど多いからなにかと便利なんですよね。こういう時。
雑草は花言葉を小説を作るにあたって滅茶苦茶調べてるんですけど、薔薇みたいに花言葉が多い華は本当に助かるなぁっていつも思ってます(´・ω・`)