夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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薔薇6本

〈どうして今月は帰ってこなかったの?そんなに仕事が忙しいの?〉

「うん。そうなんだ。ごめん」

〈そう…でもね、家族の時間って大事だと思うのよ。だから、忙しくても出来るだけ帰ってきてほしいの。

日向(ひゅうが)”は良い子だから分かってくれるわよね?〉

〈父さんたちはお前たちの事を愛してるんだよ。

お前だってわかるだろ?だから今度の休みには”日向(ひなた)”も連れてこい。な?〉

〈あと、おかあさんたち少し生活が苦しいのよ。

だからお金を借りようと思ったんだけど…貴方が来てくれないと借りれないから、出来るだけ早く帰って来てね。あ、でも無理はしなくてもいいからね。美味しい物一杯つくって待ってるわ〉

「……うん、わかった。でも日向(ひなた)は帰って来るかわからないかも、アイツ自由人だから。でも、僕は帰る様にするから……うん、また」

 

静かな一人だけの室内

日向(ひなた)は小さい携帯の電源を切ると乱雑にポケットに入れる。

ベッドに座り込む。軋んだベッドなど気にも留めず、彼は片手で顔を抑え、深い疲労の混じった溜息を吐きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ日向(ひなた)くん」

「……天満君」

「最近ますます死にそうな顔してるね」

 

また酷くなってきた頭痛に悩まされながら、日向(ひなた)が廊下を歩いていれば日向(ひなた)を待っていたのか、善がしゃがみ込んでそういってきた。

善の言葉に日向(ひなた)はふいっと目を逸らす。

 

「………体調管理が下手なだけだよ」

「体調…ね。その割にはやることやれるだけの体調はあるみたいだけど?」

 

濁した言い回しだが日向(ひなた)には何を指しているのかハッキリわかったのだろう。苦笑いを浮かべる。

 

「……相変わらず気持ち悪いくらい鼻がいいね」

「不便だよ、ぶっちゃけ。例えば知り合いの下事情を知る羽目になる…とかね」

「そりゃ不憫だ」

 

日向(ひなた)は同情する素振りもなく適当にいうと足早にその場を立ち去ろうとして………すれ違いざまに善が日向(ひなた)の袖の端を摘んだ。

 

「なに」

「…日向(ひゅうが)くんが」

「は」

日向(ひゅうが)くんが心配してたよ。最近話せてないし話しかけても、なんかよそよそしいって」

「そんなことない。気のせいでしょ」

「気のせいじゃないでしょ。なんか悩んでる。違う?」

「……」

日向(ひゅうが)くんにくらい話せば?大事な家族で双子なんでしょ?」

「……家族だから、双子だからって何でもかんでも話さないといけない決まりでもあるの?」

「え?」

 

日向(ひなた)が振り返って言えば、善はキョトンとした顔で日向(ひなた)を見る。

まるで想像もしていなかった答えだとでも言うように。

その様子に日向(ひなた)は眉をひそめる。

善に悪気はなかったが、その反応こそ日向(ひなた)の癇に触れたのだ。

ヒナタは乱暴に善の手を振り払う。

 

「秘密を共有すれば仲のいい家族になれる?

思ったこと全部口に出せば大事だって言える?

家族に、双子の片割れに隠しごとするのはダメなことなの?

天満くんの家族は仲が良いみたいだからわからないかもしれないけどさ…大事だからこそ言えないコトもあるんだよ」

 

日向(ひなた)はそのまま立ち去ろうとして

 

「…なんで怯えてんの」

「……は?」

 

その言葉に立ち止まる。

振り返れば、あの目がまっすぐと日向(ひなた)を捉えている。

心の中を全部見られているような、そんな気持ち悪さがあった………にも関わらず、まるで引力でも働いてるかのように日向(ひなた)はその澄んだ紫から目を逸らすことができない。

 

「なんでそんなに怖がってんの」

「べ、つに…怖がってなんか」

「怖がってんじゃん

自分の片割れが別人に変わっていくところが怖いの?それとも、変わっていく片割れに拒絶されるのが怖い?自分だけ置いてけぼりにされたみたいで悲しい?」

 

心臓が跳ねる。

ドクンドクンと爆音が耳元で鳴ってひどく煩わしく感じる。

 

うるさい、うるさい

 

ドクンドクンと何度も何度も主張するように鳴り響く音にただでさえ痛い頭が痛くなる。

 

「もしそうなら大丈夫だよ。日向(ひゅうが)くんはそこまで変わってないし、日向(ひなた)くんのことちゃんと好きだよ」

 

黙れ…黙れ

 

「ただ自我が強くなって、ちょっと自分の欲に忠実になっただけで日向(ひなた)くんの知ってるヒュウ」

「うるさいんだよッ!!!」

 

そんな声が廊下に響く。何度か木霊して、やがて静寂が満る。

いつしかあれほどうるさかった心臓の音も今は鳴りを潜めていて、痛いほどの静寂に日向(ひなた)ははっとする。

前を見れば、目を大きく見開いた善が呆気に取られたように日向(ひなた)を見ていた。

 

「あ、ごめ……」

 

日向(ひなた)はしまったという顔で口を閉ざす。そうして、目の前で未だ動かない善を気まず気に見る。

 

「あの、さ……僕に、構わないでくれないかな。

お節介なんだよ。そういうの………君は人に優しくするのが好きなのかもしれないけどさ。僕は不快なの。

何回も言ってるよね?僕、君が嫌いなんだよ。わかったらもう……関わらないで」

 

日向(ひなた)は早口で言い切ると逃げるように立ち去っていった。

善はもう、なにも言ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【体調大丈夫?変な物とか食べたりしてない?

日向(ひなた)とは仲良くやってるかしら。

日向(ひなた)ったら、着信拒否してるのよ、酷いって思わない?本当に薄情な子よね。あの子は昔からそうなんだから…。

日向(ひゅうが)が良い子に育ってくれて本当におかあさん鼻が高いわ。

日向(ひゅうが)の活躍はお父さんもおかあさんもしっかり聞いてるよ。危ない仕事で大変だろうけど頑張ってね。

所で、実は大急ぎでお金が必要になっちゃって。少しでいいからお金を送ってくれる?

本当にごめんね、やっぱり生活が苦しくて、返事待ってます】

 

 

 

 

 

 

「……」

「___た」

「……」

「___なた」

「……」

「おい日向(ひなた)!」

「え?」

「お前本当に大丈夫か?」

 

激しく肩を揺すられてハッとしたように我に返る。

声をかけられた方を見れば、いつの間にか隣にはご飯を食べていたらしい日向(ひゅうが)がいた。

それを見て、自分はまたぼんやりしてしまったのかと日向(ひなた)は内心ため息を吐く。

 

「大丈夫だよ」

「……本当に?なんか悩みとかあったりしねぇのか?

その、なんか調子悪そうだし…上の空になる事多いし

解決できるかは分かんねぇけど、相談くらいなら乗れるっていうか」

 

不安そうな、心配そうな顔で日向(ひゅうが)日向(ひなた)の顔を覗き込む。

日向(ひなた)は笑みを浮かべて首を横に振る。

 

「……僕の心配は本当にしなくていいよ。ちょっと寝不足なだけだから。

そんなことより、天満くんと進展したわけ?」

「えっ、はぁ!?」

 

日向(ひなた)がからかうように言えばブワッと日向(ひゅうが)は顔を真っ赤にして狼狽える。

何とも分かりやすい反応に、ニヤニヤと笑みを零す。

 

「ほんと大好きだよね。天満くんのこと」

「う、うるせぇ!善はべ、っつに……そういうんじゃねぇし」

「よくいうよ。髪ゴムあげたり、この間は二人でD地区遊びに行ったんでしょ?しかもサラッと名前で呼んでるし。

僕の知らない間にガンガンアピールしてるみたいでいいねー

愛想つかされちゃ駄目だよ?ただでさえお前ちょろいんだから。そのへんの子に目移りとかさ」

「しねぇし、ちょろくねぇ!」

「一週間で落とされたくせによく言うよ」

 

けらけら笑う日向(ひなた)。だが日向(ひゅうが)は少し神妙な顔をする。

 

「別に…あの時点じゃ、好きだったわけじゃないし」

「え?」

 

その言葉に日向(ひなた)はきょとりとして日向(ひゅうが)をみる。

 

「あんなことあったんだ。そう簡単に信じられるほど俺だってバカじゃない………精々気になる、程度だったし。ただ…」

 

区切る。じわりと日向(ひゅうが)の頬が僅かに赤らんだ。

 

「話、ちゃんと聞いてくれるんだ。

真剣な話だけじゃなくて、くだらない話にも耳を傾けてくれる。ちゃんと目を合わせてくれる。誰に対しても…そうなんだ」

「………」

「背筋伸ばして顔上げてさ、前だけ見てる。

偶に心配になるけど、どうしようもなく眩しい……そういうところが好きなんだ」

 

心の内を吐露するように告げる彼の顔を見て、日向(ひなた)は目を伏せる。

 

(ああ…今まで見たことないくらい、幸せそう)

 

これ以上、日向(ひゅうが)の顔を見たくなくて日向(ひなた)は視線をずらすとバレないように机の下で携帯を取り出し、文字を打ち込んだ。




この話、雪村双子の話なのに中々出てこないヒュウガくんという。まぁメインヒナタだから仕方ないには仕方ないんだけどさ、漸く出てこれたよ!

ということで、薔薇6本の花言葉は”貴方に夢中”
ヒュウガが善を好きになった理由が開示されました。かわいい。
ヒュウガくんも中々に雑草の中では癒し要員なので書いてて楽しいです。
この調子で可愛い双子が見れたらいいな、と思っています(*´▽`*)
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