(えーっと
リングで検索を掛け乍ら廊下を歩く
あの日両親との関わりを絶ってから、
正直まだ引きづっているし、気にはなる。
向こうがどう思ってるかは知らない。だが
そこに嘘はないが、いざ縁を切ってみると彼らとの関わりがどれだけストレスだったのかを実感してしまい、何とも言いにくい気分になってしまう。
「ひーなた!」
突然ガッと腕を回される。
振り向けばそこには前に一緒に任務に当たったことのある隊員二人がいた。
「久しぶりだなぁ!元気だったか?」
「元気だけど…そんなにあってなかったっけ?」
「あってねぇよ!お前最近付き合い悪いからさぁ!なに?なんかあったの?話聞くぜ?」
その言葉に
「ならいいけどよぉ。あ、てかみほちゃんが会いたがってたぞ。最近誘っても一緒にいてくれないーって」
「あいりちゃんも同じこと言ってたぞ。なんだ!?ついに本命でもできちまったのか?!」
「本命って…なわけないじゃん。気分じゃないだけだよ」
半分嘘だ。本命なんていないけど、もうそういう遊びをする気はない。
あれは、誰かに必要とされたくてやっていたことだ。
結局性欲が解消されただけで特に何も感じなかったし欲しいものも得られなかった。
「あ、てかさてかさ」
「ん?」
「最近アイツはどうなんだよ?」
「アイツ?」
「天満だよ天満!」
その名前に
あれから一週間以上たつが、残念なことに
仲が険悪になったとかそういうわけではない。
いや、
というのもここ数日間は任務の量が多く休憩がない。
だからだろう。善は任務が終わるなり速攻で部屋に帰り少しでも睡眠を取るべく寝ているらしい。そのため声を掛ける隙がないのだ。
(いや、別に話したいわけじゃないんだけど…)
「いやさぁ、天満って正直どうなのかなって」
「………どうって?」
言葉の意味がわからず首を傾げれば男は「ほら!」と声を上げる。
「アイツお前らと組む前は1週間で結成と解散繰り返してただだろ?お前等もうどれくらい?半年はとっくに経過してるよな?いやぁ大したもんだわ」
「俺等一回アイツとチーム組んだことあるんだけどさぁ
付き合い悪ぃし反応薄いし全然喋んねぇし」
(確かにね。間違いない)
「かと思えばいちいち偉そうに指図してさ、正直うざくね?まじ自己中野郎だし」
「あー、わかるわかる。遊びとか誘っても付き合い悪いし
ちょっと他の奴より強いからって調子乗ってるっていうか」
(……指示っていうか、多分アドバイス。付き合い悪いのは少しでも万全の状態で任務に出るために部屋で休息とってるだけっていうか…)
「あ、でも実はあいつって結構小心者らしいぜ?
偉そうにしてるくせにいざ責められると何も言えなくなんの。ウケるよな」
「…」
彼らの言う"責める"というのは所謂嫌がらせに近い行為のことだった。
善は周りからいい印象を持たれていない。
故によく嫌がらせの対象にされていた。
言葉で嫌味を言われることも時には手を挙げられていることだってある。
でも善は特に何をすることもなく、じっと相手を見ているだけなのだ。
やり返そうと思えばやり返せるというのに。
前までは誰かに助けてもらうのを待っているだけなのだと思っていたが今は多分違うんだろうなと分かっている。
「
「……え?」
善のことを考えていた
一瞬反応は遅れるものの、すぐに聞かれた内容を理解し、次いで考える。
「……うーん……言葉は、まぁキツイかなぁ。偉そうなのも思うかも」
「だよな!」
「でも………多分根は優しいんじゃないかな…」
「は?優しい?」
「えぇ、優しい…あれが?まじで??」
微妙な顔で首を傾げる二人
それをみて、しまったと思う。
(これ、一緒に悪口言うノリだったやつだ)
もうちょっとうまく流せばよかった、と少し顔を顰める。
「まぁでも
「あー、ありえるわぁ。嫌なことされたら言えよ?助けてやるから」
「…うん、ありがとう」
「てか天満つったらアイツ、部屋に鍵かけてねぇらしいぜ」
「そうなん!?」
悪口を言われるのは、たとえ本人が聞いていないとはいえ、いい気分がしないということを
だからこそあんまりそういう事を言いたくない。
早く話題が終われと願ってみるがどうやらまだ話は続くらしい。
「この間部屋入った奴が言っててさ」
「入ったのかよ!で、どうだった。ごちゃごちゃしてた?」
「ほぼ何も置いてなかったんだと」
「へぇ、意外!」
彼らは善の部屋の話をしている。
どうやら彼らにとっての善はごちゃごちゃとした部屋に住んでいるイメージだったらしい。
だが
善の物欲の薄さはよく知っている。大方かなり簡素な部屋をしているに違いない。
「あ、それなら俺等で部屋飾り付けてやろうぜ」
「は?………ああ、なるほど。いいねぇ、なら俺色々集めてくるわ」
ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべる二人はその表情のまま
「
「……あー、僕はこの後用事があるから」
「そっか、残念。まぁまた今度な!」
そういうと二人は各々解散していく。
大方”飾り付けできるもの”でも集めに行くのだろう。
遠ざかっていく背中を見ながら
この組織に来る人間は、大抵育った環境に何かしら問題を抱えている人間が多い。
特に戦闘部隊何かはその傾向が強い。
施設出身で働き口がここくらいしかなかった人間
親に無理矢理入れさせられた人間
金がどうしても必要で来る人間
家族や知り合いを不死者に殺されて復讐のために来る人間
環境に一切の問題もなく、自分の意思で態々こんな組織に所属する人間なんてそういない。だからか、皆ストレスを抱えがちだ。
部隊によって差はあれど、休暇は殆どない上に、緊急時は容赦なく仕事を詰め込まれる。
人死にがほぼ毎日起こるため、そこからくるストレスも凄い。
だからこそ、皆何かで発散したいと思ってる。
少しでも誰かを攻撃することで憂さを晴らそうと必死なのだ。
そしてその対象にされがちなのが善だった。
基本怒らないし、泣かないし、よっぽどのことがない限り報復してくることもない。
なにより、自他ともに認める嫌われ者
大多数に嫌われている人間を攻撃しても誰にも咎められない。
咎められないということは"悪いことではない"ということだ。
人間というのは簡単に洗脳される生き物だ。
悪いことだと教えられなかった結果
どんどんと自分の行いを肯定し、悪意は加速する。
そしてブレーキの壊れた悪意は肥大化し牙を剥く。
「……まぁ本人が嫌がってないなら、別に」
でもその矛先にいる善は嫌がっていない。
嫌そうな態度もしなければ嫌だと口にすることもない。
ただ相手をじっと見ているだけ。
助けてほしいなら助けてほしいと言うだろうし、嫌なら嫌だと言うはずだ。
言わないということは別に助けてほしいわけでも嫌がってるわけでもないのだろう。
……本当に?
口に出さないといけないとよく言われる。
はっきりと言わないと誰も何もしてくれないと。
言葉にしなくても相手に伝わると思うのは甘えだと。
でも、口に出して、何も変わらなかったらどうすれば良い?
思い起こされるのは幼少期だ。
両親が何かをずっと叫んでいて、父が母を殴っていて、気が落ち着かないからと"
最初は確か、僕らは"嫌だ"といっていた。"やめて"とも
でもいつから
言った所で現状は1ミリも良くならなかったと気づいた時?
結局誰も助けてくれなかった時?
どうせ言ったって意味がないと諦めた時?
全部だ。他者の痛みは他者には伝わらない。
どれだけ痛いと言おうがやめて欲しいと叫ぼうがそれはあくまで"情報"にすぎない。
そしてその情報だって聞いて理解しようと相手が思ってくれなくては意味がない。
人が人の話を聞こうと、理解しようと思うのは当人に"余裕"があるときだけだ。
この組織に果たして余裕を持っている人間がどれだけいる?
「………でも、僕には関係ないし」
誰だって自分が一番可愛くて、自分が一番大切だ。
妙なことをして噂が立って自分が標的にでもされたら溜まったものではない。
そもそも、人のことまで気を回せるのは、余裕がある人間か、或いは愚かとしか言いようのないお人好しくらいだ。
そのどちらでもない
「……」
戻った…はず、だったんだけど。
部屋に戻って一時間
何となく気になり
人の部屋に無断で入るのは流石に気が引けたが、少しだけ少しだけ、と数ミリ扉を開けて…すぐ閉めたくなった。
ベッド一つと最初から設置されていた引き出し付きの棚、小さなサイドテーブルが一つ。
壁には制服が一着だけ引っ掛けられていた。
必要最低限どころか初期と変わりない部屋。それが見るに堪えないほど汚されていたからだ。
恐らく食堂から取ってきたであろう生ごみが部屋の床に散乱し、白いベッドや壁に掛けられた制服なんかは全部泥で汚され、棚はびしょ濡れ
恐らく下着などが入っているであろう引き出しからも水が滴っていた。予想以上に酷い。
「……僕は何も見てない」
そう呟いて扉をしめる。
別に
幾ら善が鼻が良くても強い匂いがそばにあると分からなくなるともいっていた。
この悪臭だ。
罪悪感を感じる必要もないだろう。
「うげ、汚」
持ってきたゴミ袋にゴム手袋をはめてからゴミを突っ込んでいく。
水溜まりも、布で吸い取ってと作業を続け、ぽいっと袋に突っ込む。
そして、この惨状を片付けていたのだ。理由はわからない。自分自身でも謎だが、掃除している、ということだけは揺るぎのない事実だ。
そこで不意に扉が開いた。
「え、なにやってんの」
入ってきたのはこの部屋の主である善だった。
やはり、この悪臭の中、善の鼻はうまく機能していなかったらしい。
人がいるとは思っていなかったのか驚いたよう表情で
それをみて、やってしまったと
(この状況、僕が汚したって思われるんじゃ…そもそも部屋に勝手に入ってるし)
そもそもいくら鍵が開いていたとはいえ、本人に了承もなく入るのはマナー違反にもほどがあるだろう。
(別に感謝されたいとは思ってないけど、これでキレられるのは流石に…)
「別に良かったのに」
「え?」
ぽつりと善が壁に凭れ乍ら言ってくる。
「それ、代わりに片付けてくれてるんでしょ?いいのに、そんなこと態々しなくても」
「……僕がやったとは思わないの?」
「君なの?」
「…いや、違う…けど」
「ならいいじゃん」
さも当然とばかりに善が言うものだから
その間に、善は泥にまみれたベッドカバーをひっぺがす。
「
「…………なんで…そんなに普通なの…?僕のこと、恨まないの…?
散々ひどいこと言った。首だって…しめようとした。
なのに……なんで。前からそうだよ。訳分かんない。
僕に散々嫌なことされて、八つ当たりだってされたのに、なんで平然としてられるんだよ…」
「別になにかひどいこと言われたとは思ってないし、首だって実際しめられてないんだから気にする必要ないじゃん。
あ、もしかして掃除してくれてるのソレが原因?
律儀ねぇ"恩着せがましいやつ"っていっときゃ相手は黙るのに」
「……僕そこまで性格悪くないし」
「ありゃ」
「…僕は…お人好しじゃない。だってこれは善意じゃないから」
そう、これは善意じゃない。
自分の負い目を少しでも減らしたくて、恩を減らしたいから、言われてもないのに勝手にやってるだけ。
結局は自分のことしか考えていない。
人は簡単には変われない。
(醜い)
善が
そんな
「別に何考えて行動しようがどうでもいいじゃん」
「……え?」
「腹の中で何考えてるかってそんなに大事?皆が皆、善意だけで動いてるわけじゃない。大事なのは"実際に何をしたか"でしょ」
「……なにをしたか」
「君はいちいち難しく考えすぎ」
善は
どうやら汚れが付着していたらしい。
びくっと
そんな
「もうすこしさ、自分に甘くてもいいんじゃない?きっとその方が人生楽しいよ」
普段の無表情を崩して、目元を和らげる善
「まぁ手伝ってくれるのは普通に助かる。洗濯物突っ込んでくるからゴミ拾い、引き続きヨロシク~」
善は制服ももってさっさと立ち去っていく。
その背中を
触れられた頬がじわりと熱を帯びている気がして、
チーム結成から9か月。彼らの関係性は少しずつ変化していっていた。
漸く本格的な恋愛パートが書けそうな気がする…!とわくどきが止まらない雑草です。
因みに薔薇8本の花言葉は”あなたの思いやりや励ましに感謝します”