「ふわぁぁぁ……」
大きな欠伸を零して廊下を歩く八生
現時刻は午前の7時。彼女は殲滅隊に入ってはや一週間が経過していた。
徐々に任務に慣れてきて討伐もうまくいっているものの、やはり不死者と顔を合わせれば恐怖というのは僅かに芽生えてしまうもので、それを何とか封じ込んで戦っているせいか精神的負荷が強く、一日が終わるころにはいつもくたくたになってしまう。
昨日も緊張と疲れから八生は熟睡した。
そうして翌日。起床時間一発目、早速任務が入ったのだ。
(ん、ねむい……)
思わず大きな欠伸を零す八生
正直布団に戻って二度寝してしまいたいが任務なのだから仕方がないと活を入れ服を着替えて地下通路に向かう。
「はよ」
「もうちょっと寝たいよぉ……」
「……」
地下へ行けば既に皆集まっていたらしい。寝起きがいい方なのか平然と挨拶してくる誠。寝たいと駄々をこねる紡。相も変わらず無表情の律。何ともバラバラな彼らの反応に思わず八生は少し笑う。
「今回の任務先はI地区だっけ…?」
「ああ、I地区の南エリアで人が何人も行方不明になったんだと。
でもって少し前から変な生き物を見かけたって言う情報もあるから見に行くんだよ」
「てことは不死者がいるか分からないってこと?」
「ま、そういうことだな」
今回の任務の詳細を確認して、地下を進めば午後と同じ場所でコロコロと転がって一人遊びをしているハコビが居た。
八生たちの姿を見るなり跳ね起き、ぴょんっと八生たちの前にやって来る。
「ハコちゃん、I地区までお願いね!」
紡はポケットから常時持っているらしいクッキーを取り出すとハコビに渡して頭を撫でる。するとハコビはブンっと尻尾を一度大きく振って跳ねた。にゃぁんという音と共に視界がブラックアウト
闇が解けた後は恐らくI地区の入り口の前に飛ばされていた。
ハコビに運んでもらうのは3回目。だが未だに慣れそうにないな、と八生は思いながらI地区への扉を開く
「わ、わぁぁぁ!!」
目の前の光景に八生は思わず目を輝かせる。
煌びやかな光景が広がっている訳ではない。だがボンヤリとした街灯が並ぶ街
壁やらには何やら特殊な模様のついた丸い灯りが飾られている。
「……魔除けの灯り」
律がぼそっと言う。
「魔除け…?」
「不死者がこねぇように学校とかで作らされる伝統的なもんだ。だがまぁ気休めだけどな」
灯で彩られた町並み。この町はJ地区のように崩壊もしていない。本当に不死者が居るのかと疑ってしまうほど平和な景色だった。
「街の風景を見る限り、不死者が入って来た形跡は何処にもないけど……」
「この地区は北エリアの復興がまだなんだよ。
そこから侵入してきた不死者が人間に紛れて他エリアに入ってくることもあるからな。まぁまだ不死者が居るとは限らねぇけど」
八生の疑問に対して誠が説明する。
不死者といえば壁や扉を盛大に破ってやってくる印象が強かったが、そういうモノばかりではないらしい。
「あ、ヤヨちゃん!ドーナッツあるよ!食べよ!!」
八生の手をぐいっと紡が引く。
見ればそこにはドーナッツの専門店があった。
食事がまだなこともあって八生の腹の虫が小さく鳴く。
「オイ!任務がっ」
「ここからは自由行動。一時間後そこの時計台集合」
「はぁ!?どこ行くんだよ!」
「情報収集」
ふらふらとドーナッツの誘惑に惹かれていく紡と八生。
そんな二人に声をかける誠だが、そんな彼らをおいて律はサッサと何処かへ行く。
現状不死者が居るかどうかも分からない。
それならまたばらけて情報収集し行方不明の事について聞いて回った方が賢いだろう。
それを誠も理解しているのか、顔を歪め歩き去る律の背中を睨んだ後、八生たちを見る。
「お前等、サボらずちゃんと働けよな」
言い残して誠も別の場所へ立ち去っていく。
「ドーナツ食べたら情報収集しにいこっか」
「うん!まずはドーナツだよね!!」
嬉しそうに顔を緩めながら紡は意気揚々と歩き出す。
まだ早い時間だというのに意外と店を開いている所は多く、ドーナツの店も開店している店の一つだ。
中に入れば店主の女がショーケースを拭いていて、店主の他には数人の女客が店内に設置された椅子に座って談笑しながらドーナツを食べていた。
八生たちも同じように気になるドーナツを購入する。
「わぁ、穴あいてるんだね。これ」
「開いてない奴もあるけどね!」
紡は早速とばかりにチョコと苺のドーナツを頬張る。
八生も一口齧ると中に挟まったクリームと生地のサクッとした触感が伝わり、思わず笑みをこぼす。
「美味しい…!」
「でしょでしょ!」
「でもちょっと喉渇くかも…」
「後でジュースも買お!」
暫く二人で食べていると「ねぇ聞いた?」と、近くの女性客の声が聞こえる。
「また”滝”に行ったきり帰ってこなかったんだって!」
「最近多いよねソレ……ほんと怖いなぁ」
内緒話でもするようにコソコソと話す女性客二人。
なんだか今回の件に絡んできている。そんな予感がした八生は持っていたドーナツを口の中に放り込むとナプキンで指先を拭い、女性客たちの前へ足を運ぶ。
そうしてそっと彼女たちの机に手を置けば女性客たちは八生に気づいたらしく八生の顔を見上げる。
不思議そうにする女性たちを前に八生は少しだけ緊張を和らげるために笑みを浮かべる。
「あの、その話少し詳しく聞いてもいいですか?」
________
パキッと軽い枝を踏む音が森の中に木霊する。
鳥のさえずり、ひんやりとする空気。何処までも続いているような錯覚に陥るほど代り映えのしない山の中。八生達は獣道をひたすら上っていた。
『南エリアの奥地…丁度西エリアとの境目あたりに山があるんですけど』
遠くから水音が聞こえ始める。
温度が僅かに下がったのを感じながら、数十分前にドーナツ屋であった女性客が教えてくれた情報を思い出す。
『一本獣道があって、そこをまっすぐ進むと滝が見えるんです』
音がかなり近くなったところで、目の前にある邪魔な葉を退かすように掻き分ける。
「わぁ」
視界が開けると同時に隣に立つ紡と八生の声が被った。
目前に広がる光景。蛍が飛び交い、目の前には月光を浴びてキラキラと光る大きな滝があった。
(これが滝……実物初めて見た)
「凄く綺麗…」
「うん」
「この光みたいなのなんだろ」
「わかんないけど、綺麗だね」
目の前を通過する蛍を見ながら八生たちは話す。
光る蛍を横目に二人は目的の滝に一歩近づく。
『その滝では人が失踪するんです』
ふと、脳裏に女性客の言葉が過り、八生は思わず紡の腕を掴んで立ち止まる。
「ここに不死者がいるかも……慎重にいこう」
紡はキュッと顔を引き締めて頷く。
そっと音を立てないように滝に近寄ると地面に手を付いて、滝壺を見下ろす。
「あれ?」
見下ろした八生は目を丸くする。
何故なら滝の下はコンクリートで一面塗り固められていたからだ。
滝壺部分もまたコンクリートで囲われ、箱のよう固められており、水があるのは箱の中と、水を流し込むために開いた箱の上部のみだ。
「本でしか見たこと無いけど…滝ってコンクリートで敷き詰められてるものだっけ……?」
「溺死防止……かもね。ここに来るには山を登らないといけない分来る人は少ないけど、下は…………ほら、道がちゃんと整備されてる。子供とかも来るんじゃないかな?
景色を見るだけならいいけど、水の中とか入っちゃって溺れる人とかも結構いるから、それの防止としてこの設計なのかも」
「なるほど」
ジッと箱の中を見つめる。滝の飛沫を受け止める箱の奥には大量の水が詰まっているのがわかるが、滝の勢いが強いせいで殆ど何も見えない。
「あ、ヤヨちゃんソロソロ戻ろ!ここに来るまで結構時間かかったから、今から戻らないと間に合わないよ!」
時計を見た紡に促された八生は頷いて立ち上がる。
八生は最後にもう一度チラリと箱を見てから山道を引き返した。
集合場所へ戻ってきた八生たちは早速情報交換を行う。
「滝に行った奴が失踪してる。しかも本部から今月は失踪人数は4人だって言われてただろ?でも聞き込みした結果、実は一週間くらい前から失踪者が出てるらしくて、今は6人になってるんだとよ」
報告より二人多い失踪人数。たかが2人、されど2人だ。
「誠君、それ本当?」
前のめりになって八生が聞けば誠は神妙な顔で頷く。
「ああ、間違いねぇよ。この短期間で同じ場所、6人も失踪してるんだ。不死者の仕業と考えていいだろ」
顎に手を当てながら情報を脳内で整理する誠
そんな誠に先程菓子パンを大量購入し、せっせと口へ運ぶ紡が首を傾げ疑問を口にする。
「んぐぐ?」
「何言ってんのか分かんねぇよ!つか食ってんじゃねぇ!!」
「た、確かに紡君の言う通りだよ!」
「いや、お前なんで伝わってんだよ」
呆れ顔で突っ込んでくる誠を無視して、八生は紡が言った疑問を口にする。
「こんなに人が同じ場所で居なくなってるのに、皆騒がないなんて…おかしい!」
「絶対此奴そんな長文喋ってなかっただろ。テメェ突っ込み要員だろうがボケに回んじゃねぇよ…。
でもまぁ…確かにちょっと妙だな。捜索隊の一つでも動いてても不思議じゃねぇのに」
少し考える。だが矢張り答えは出そうにない。
「大半の人間が失踪してるって思ってない」
彼等の疑問に答えるように律が言う。
全員の視線が律に向く。
「え?」
「前から思い詰めた奴が滝から身投げしてるらしい。あの滝は自殺スポットだ」
確かに自殺スポットだとすればあの滝に行って誰も戻ってこないとしても”ああ、またか”で済まされそうなものだ。
だがそれならそれで疑問が一つ残っている。
「じゃぁ死体は?自殺しても見つかるもんなんじゃ」
死体だ。自殺するなら死体が出てくるはず。
だというのにそのような話は出てきていない。
だが律は凡そ予想がついているらしい。
「坂谷たちの話じゃその滝、コンクリートで受け口以外は埋まってるんだろ」
「うん、そうだよ」
「どこから落ちるかにもよるが、上手く落ちれば箱の中に入る。
その後は上から流れ込んでくる滝の勢いで中に入った死体が押されてコンクリートで見えない場所まで流されていると考えれば不自然じゃない」
つまり、あのコンクリートの裏には死体が沈んでいる可能性があるということだ。
綺麗な滝の下に溢れる死体を想像し、八生は顔を青くする。
だが、もしそれが本当だとすれば説明がつく。
「成程な。めんどくせぇことしてくんじゃねぇか」
「んぐっ、さてと謎も解けたけど、これからどうするの?」
最期の一口を口に放り込んだ紡が聞いてくる。
その言葉に真っ先に反応したのは八生だった。
「そんなの決まってるよ!今すぐ滝に行こう!これ以上被害を出さないためにも!!」
八生の言葉に三人は頷き、早速件の滝を目指して歩き出した。
_________
「おお、マジで滝だ」
20分ほどかけて滝へ続く山を登り問題の滝へと辿り着く。
相変わらず流れる滝と辺りを飛び交う蛍は綺麗だが、あの話を聞いてしまった手前少し不気味という印象を抱いてしまうのは仕方がないことだろう。
「つかこれ蛍か?」
黄色い光を放つそれを見て誠が言う。
「蛍?」
「俺も本でしか読んだことねぇけど、そういう生物がいるんだと。
特徴が一致してるし、これがそうなのかもな。でも虫なんざそうそう出てこねぇのに、相当ここの空気が綺麗なのかもしれないな」
誠が蛍を見ながら言う。
蛍という生物を知らない八生は「へぇ」と呟く。
「所で滝に来たのは良いけど不死者は一体どこに」
「……!」
肝心の不死者を探そうと八生が軽く辺りを見回した。そこで隣に立っていた紡がふらりと前に出る。
どうしたんだ。八生が紡を見る。彼はフラフラと滝の方へ近寄ると、その場に膝をつく。
「え、紡君どうしたの?」
「どうせ腹でも壊したんじゃねぇの?」
誠は言うが、明らかに様子がおかしい。八生は紡に近寄る。
「ね、ねぇ…本当に大丈夫?」
「……る」
「え?」
紡はスッと立ち上がる。そうして再び歩き出す。歩く先は滝だ。
「ちょっ、紡君!危ないよ!落ちちゃう!!」
しかし紡はそのまま崖先まで行くとピタリと立ち止まった。
「………よん、で、る」
ぼそりと呟いて一歩、踏み出す。彼が踏み出した部分は何もない空間だ。紡の体が重力によって前に傾いていく。
「紡君!!!」
八生は駆け出し、紡の体が完全に堕ちる前にその腕を両手で掴んで引き留める。
間一髪掴むことは出来た。だが紡は予想以上に重く八生だけの力では引き上げることはできない。
「紡君!ねぇ紡君ってば!」
「………」
「ちっ、此奴意識飛んでんのか?!」
ズルズルと一緒に落ちそうになる八生。誠が駆け寄り八生が掴んでいる腕とは反対の腕を掴むとそのまま崖の方に引っ張る。
当の紡は全くの無反応だ。二人係で紡の体をズリズリと引き上げているとピクリと紡の手が、僅かに動く。
「呼んでる!!」
そうして唐突に叫びだした。
叫び越えを上げた紡に誠と八生は驚き紡を見る。
同時に、ザバッという水の音が耳に届いた。
そして”ソレ”は、すぐ目の前にいた。
それはあの箱から飛び出してきたらしい不死者だった。
出てきた姿は巨大な鯨のような姿をしている。
狭い受け口から飛び出したとは到底思えない不死者は小さな花が苔のように張り付いた鋭利な歯を鋭く光らせ、口を大きく開いて八生たちのもとへ迫って来ていた。
すると目の前に影が出来る。
後ろの方で見ていた律が、いつの間にか斧を持って前に出ていた。
素早く紡の首根っこを掴むと、そのまま後方に投げ律はブンっと大斧を不死者の口と思われる部分にある目玉目掛けて横に薙ぐ。大斧は確実に不死者の目玉を捉えていた。
しかし、斧が当たった瞬間、目玉がぐにゃりと歪んだだけだった。
「は」
全員の声が揃う。
それだけ理解不能な光景だった。
だが不死者は彼等の脳内の整理が追い付くのを待ってはくれない。
不死者は大きな体を勢いよく落下させる。
八生は慌てて地面に転がった紡を連れて横に転がって避けた。
「何で核攻撃されてんのに死なねぇんだよ」
忌々しそうに誠が舌打ちをする。その隣で律はジッと不死者を見る。
「切った感触はあった。アイツは見た目から花咲きで間違いない。なら、そういう異能の可能性がある」
「どういった類の異能かは分かんねぇが、今はやるしかねぇ。オイ、八生!お前援護しろ」
「わ、分かった!」
八生が頷くと同時に二人は不死者へ一斉に攻撃を仕掛ける。
誠が不死者の体に飛び乗ると、そのまま駆けあがる。
そうして閉じられることなく開きっぱなしになっている口の中に臆することなく飛び込み、刀を振り上げて勢いよく目玉に叩き付けた。
しかし白い刀身が汚れる事はなく、不死者の目玉はあろうことか中心で割れた。モーゼのように割れたため、スカッと誠の刀が空を切る。
(くそっ、体は切れんのに!)
直ぐに八生も目玉があるであろう位置を予測し銃弾を放つが銃弾は不死者の肉体を貫通しただけで目玉には当たらなかった。
不死者が滝の中へ誠を入れたまま戻ろうと体を翻す。
それにいち早く律が反応し、誠を器用に避けて斧を外から振るうとそのまま口内に居た誠の腕を掴み不死者を蹴って崖に飛び戻る。
八生はそんな二人の安否にホッと息を吐きつつ未だに殆どダメージの入っていない不死者を睨む。
(あれだけ攻撃しているのに全然効いてない……。
長期戦になれば体力的な面で先にこっちにガタが来る…銃弾も限りがあるし………どうすれば)
「ん……」
八生の傍で横たわっている紡の方からくぐもった声が響く。
そちらに八生が目を向ければ瞼をゆっくりと開く紡の姿
「紡君!大丈夫?!」
「やよ…ちゃ…………ぼく」
「急におかしくなって飛び降りようとしたんだよ!」
紡が起き上がるのを手伝う。
紡は頭が痛いのだろう。少し顔を顰めて額に手を当てる。
「僕が、飛び…………あ!!」
そこで何かに気づいたように紡が声を上げる。
八生はその声にビクッと体を飛び上がらせ、どうしたんだと紡を見れば彼はパクパクと口の開閉を繰り返す。
「そ、そう!そうだよ。そうだ!不死者!あのヒカ」
「オイ!お前等避けろッ!!!!」
「え?」
紡の懸命に紡ごうとする言葉を聞こうと耳を傾ける八生
だがそんな彼女の耳には大きな警告の声が飛び込んできた。声
の方を見ればそこには此方に叫ぶ誠と律、そして……不死者の尻尾だった。
(さ、最近尻尾に薙ぎ飛ばされるの多くない!?)
八生は咄嗟に隣に居る紡を押し退ける。そうして不死者の尻尾が八生を殴り飛ばす。
咄嗟に腕を出してガードしたものの、勢いがあったことから八生の体は崖から外に吹き飛ばされる。
「ヤヨちゃん!!!」
目を見開いた紡が此方に手を伸ばしていた。だが届く筈もなく八生の体は崖下に落ちていく。
「!」
水音と、体に響く痛みに八生はハッと意識が覚醒する。
どうやら落ちている途中で意識が一瞬飛んだらしい。
かなりの高さから水面に叩き付けられたため、体がかなり痛い。
ボコボコと口から水泡を吐きながら歪む視界で辺りを見渡せば、水中には律の予想通り、千切れた死体の欠片らしきものが沈んでいた。
無意識に唇を噛む。八生は残り少ない酸素を逃がさないようにしながら上を見る。
一先ずここから出なくては始まらない。
上から降って来る滝の勢いに抗いながら泳ぎ、何とか水面から顔を出す。
しかし石の箱は思った以上に高く、苦戦しながらも登る。ぜぇぜぇと荒い息を何度も吐き出す。
(水のある所に落ちて良かった……それに)
庇った腕を見る。
(あの図体の癖に、そこまでダメージが無い……)
試しに手を開いたり閉じたりして見るが特に痛みも痺れもなく、寧ろ水面に叩き付けられた時の方がダメージがデカい。
「おい!八生!生きてんのか!?」
そんな声が頭上から響く。
「あ、うん!大丈……」
顔を上げ、返事をしようとした八生は目を見開いて固まる。
何故なら視界に写っているのは……誠達が肉の塊をひたすら切っている光景だったからだ。
先程の鯨のような見た目をした不死者の姿はどこにも無く。ただの肉の丸い塊がそこに存在しており。肉の塊の背中、大体尻辺りに目玉があった。
「もしかしてあれが不死者の正体?」
しかし何故八生達には全くの別物に見えていたのだろうか。
それどころか誠達は今も尚気が付いている様子もない。
「……あれ、蛍?」
ふと水面を見ればそこには蛍が数匹浮かんでいた。
何気なく蛍に触れれば蛍は砂のように崩れ、水に溶けていく。
『そ、そう!そうだよ、そうだ!不死者!あのヒカ』
八生は吹き飛ばされる前に紡とした会話を思い出す。
(もしかして…”光”って言おうとした?
そういえば善さんが幻覚系の能力をもっている不死者もいるって言ってた。もしそうだとしたら……この蛍が幻覚を見せていた不死者の異能
私についていた蛍が消えたから、幻覚が解けたんだ…!
不死者の異能は分った……なら今の私がすることは、不死者の殲滅)
八生は箱から這い出ると、コンクリートの上に立って銃を構える。
(今の不死者は的が小さくその上良く動くから狙いにくい……。
皆幻覚を見せられてるから下手に撃ったら当たっちゃうかも、一瞬でも動きを止められれば…っ)
そこで誠がチラッと此方を見る。
「……」
誠は一瞬目を細める。そうして直ぐに不死者を見ると刀を振り上げザクザクと切り込んでいく。
矢張り余裕そうに不死者は丸い体を揺らしながらヒョイヒョイと動く。
刀が肉を貫通して目玉に届かないように調整しているらしい。
と、誠は不死者の右の肉を削ぎ落すとくるりと刀を回し逆手に持ち、振り上げる。
それをみて、八生は誠のやろうとしていることに気づき、銃を構えたまま走り出した。
そうして誠は振り上げた刀を、不死者を地面に張付ける様に上から突き刺した。
同時に八生は不死者に標準を合わせ、誠に当たらない位置を計算しつつコンクリート上を滑る。
誠の刀が刺さり、まるで杭を打つかのように不死者の肉が地面に縫い付けられ動きが止まる。
(ありがとう…誠君。これで狙える……!!)
八生は引き金に添えていた指を引いた。
両手を添え、しっかりと狙いを定められた銃口
バンッという音と共に放たれた銃弾は真っ直ぐ不死者の方へ飛ぶと、その眼球を貫いた。
_______
「あのデカ物が真坂こんなチビだったとはな」
八生は崖を登り、彼等と合流する。
そこには死んで動かなくなった不死者を見下ろす誠の姿
確かに幻覚で見た不死者は本当にとんでもない大きさであったが実際は本当に小さい。
不死者が死んだことにより周りにいた蛍も綺麗さっぱり消え失せていた。
「任務も終わったし、帰るか」
「うん、服も着替えたいし」
そういって自身の上着を脱ぐ八生
水分を吸ったジャケットはずっしりと重たいが、それを脱いだことで幾分か体が軽くなる。
だが八生が脱いだことで誠と紡が眼を逸らす。
「おまっ、ここで上着脱ぐな!」
「駄目だよヤヨちゃん!!透けてるから!」
「で、でも重いし寒くて」
上着を脱いで、水気を抜くために絞る八生。
騒ぐ二人に言われ、自身のシャツを見れば服は確かに透けている。カッターシャツの下に着用している白い下着が丸見えだ。
ただ律だけは特に騒ぐことなく時計を見ている。
と、ばさっと八生の顔に上着が飛んでくる。
「わぷっ」
「それ着てろ!」
「え、でも濡れちゃ」
「うるせぇ!テメェの貧相な体みせられるよかマシだ!」
「ひ、貧相って……!」
キレ乍ら自身のジャケットを放り投げてくる誠。彼の言葉に数少ない八生の乙女心が傷つけられ思わずムスッとするが、本当に寒かったので有難く制服を借りる。
袖を通せば僅かに暖かくなる。
「早く帰ろう。ヤヨちゃんの体がこれ以上冷たくなっちゃったら大変だし」
紡が八生を気遣う様にいう。早く帰る分には誰も文句はなかったらしい。
全員が一つ首を縦に振って頷くと、そのまま帰るために歩き出す。
〈緊急事態が発生しました〉
だがそこで突然機械音に交じった女性の声が響き渡った。
音の発生源は八生の腕に巻かれたシルバーリングで
”緊急”という言葉と、なにも応答のボタンも押していないというのに強制的に流された音声に異常事態だということを瞬時に察した彼らは真剣な顔つきとなり、その先に耳を傾ける。
〈現在T地区、北エリアにて不死者の出現を確認。今すぐ急行せよ〉
シリアスシリアスしそうだから、まだ衝撃が軽いうちに少しでも気を緩められる要素を入れたかった。
しかし作者に文才がないがためにあまりうまくいっていない現状。
ぶ、文才がぁ、欲しぃぃぃぃいいいいいいいいい>゜))))彡
【世界観メモ9】
この世界の生物は殆どが死滅している。
虫ならたまに見かけるので知っているが動物はいないので知らないケースが多い。説明の例えとして出しているが、彼らは鯨を知らない。
本の知識で知っている人間がいるかどうかくらいである。