もうすぐ過去編も終わりを迎えます。がんばって書くぜ!!!
「あ、そうだ。先に言っとくけどもうすぐ戦闘部隊やめるから。書類渡したら受理の方よろしく」
チームを結成した日から二年が経過した。
本来チームを組んでいない隊員は誰かとチームを組んで任務に行くことが普通なのだが、善も
そんなある日、善がいきなり
脈絡なく言われた言葉に
「え、なに、科学にでも移動するの?」
「いや」
「じゃぁもしかして支援?亜怜さんいるけど大丈夫?」
「だいじょばない。新しい部隊立ち上げようと思ってね」
「え、マジ?何部隊」
「今はまだ決まってないけど、科学の……ほら、なに?悪い人拷問したり、殺したりする仕事あるでしょ。あれやる部隊やろうかなって」
「え、断罪業務やるの?」
「あれ断罪業務っていうんだ。なら名前は断罪部隊にしよー」
そういって善は欠伸をする。
その様に本気だと悟り思わずぎょっとする。
「いやいややめときなよ。善くんには絶対向かないってその仕事」
「そんなことないんじゃない?同期曰く人の心が無いらしいから」
無表情で目を少しそらしながらいう善
その顔を
戦闘部隊の副隊長は基本書類とか仕事が増えるだけで表立ってなにか特別なことをするわけではない。
ただ、時折戦場で指示を任されたり、隊員の戦線復帰の許可を下す仕事を回されることがある。
しくじれば相手の人生に関わる問題だって多い。
そんな選択一つでも精神的に来るものがある。
なんせ、失敗すれば自分ではなく他人の人生が変わるのだから。怖いに決まってる。
(断罪はもっと直接的に相手の人生に関与する仕事だ。僕ですらしんどいのに、それ以上のことを善くんがする…?いや絶対に無理でしょ…)
なんて言葉は口にせず「そうかな?」とだけ言っておく。
「で?突然断罪業務やろうと決めた理由は?」
「楽しそうだからに決まってんじゃーん」
「……はぁ」
何てこと無さそうに口にする善に溜息を吐く。
(要するに本当の理由は話したくないってコトか。
誤魔化すにしても言葉くらい選べばいいのに……いや、逆か
変に詮索されたくないからあえて最低なこと言って無理矢理話題終わらせようとしてるんだろうな。
ホント、僕じゃなかったら最悪殴られてるってのに………)
そういえば、だ。
(虫生さん死んだんだっけ)
少し前の任務で、善は望たちとチームを組んで挑んでいたことがあった。
その任務で、望は死んでしまったらしい。
そして生き残ったのは善と…。
「
「え?」
「カウンセリング、受けてるんだよね。その人」
「ああ、うん。幼馴染が死ぬ瞬間見ちゃったからね。療養も暫く受けさせてるみたいだよ。
回復するかどうかはわからないけど。個人的には支援に移動してほしいかな」
「…なんで?」
「人は全く同じ人間はいないっていうでしょ。性格とか過去の体験とか好き嫌いとか環境とか、全く同じ人はいない。
精神病ってそれ全部に強くかかわってると思う。
人の数だけ精神病はあって、症状が悪化すれば悪化するほどそれが顕著に出る。
似てるけど完全に同じ症例はないから重度になればなるほど治療法の模索に時間はかかるし成功率は低い。
ちらっと見に行ったけど、相当ひどかったよアレ。暴れるし叫ぶし、ずーっと俯いて泣きながらぶつぶつ言ってる。幻覚幻聴幻触も起こしてるみたいだ。
最近は落ち着いてるみたいだけど偶に発作出てるし戦場には出ないほうがいい。
フラッシュバック防止の意味でも自他への安全面の意味でも。できれば殲滅隊やめてくれるのが一番の理想だけどなんか事情があるみたいだし、こればっかりはね」
「心配してるんだ?」
「一応同期だし」
「ふーん?」
「善君って嫌いな相手には優しいこというタイプなんだ。天邪鬼?」
「…え?」
「声に嫌悪感が滲んでるよ」
その言葉に善は少し目を見開いた。
その顔を見て無意識か、と
表情にもどこか案じているようなものだ。
だが…
(そういえば、この子。亜怜さんにも比較的優しいんだよな。普段明け透けに物言うタイプなのに)
「…別に?寝不足でイライラしてるだけだよ」
「……嫌っちゃ駄目だっていう強迫観念でもあるの?」
「ないって」
へらっと、困ったように笑う善
「あのさ」
「ん?」
「………なんでその笑い方してんの?最近」
「は?」
きょとんとする善。
「……善くん、別に楽しくもないのに笑ってるでしょ。なんで」
「ああ、そういう……君さ、好かれたいから笑ってるって言ってたでしょ」
「言ったね」
「もう一つ、理由あるんじゃない?」
「!」
善は図星だという様にけらっと笑う。
「実際にやってみてわかったよ。笑ってると楽だね」
感情を、見破らずに済むから。
人に本心を、知られなくて済むから。
「……」
「じゃぁね」
そういって善は軽く手を振って機嫌よさそうに歩いていく。
でもね、でも、僕は知ってるんだ。
確かに笑ってるのは楽だ。でも誰にもわかってもらえないっていうのは、しんどい。
「善君」
だから、それを言おうとした。やめたほうがいいと。でも
「…」
振り返った善の顔を見て息が詰まった。
今まで感じたこともみたこともない温度を宿した瞳がそこにはあった。でもそれはすぐに温度を宿す。
「どうした?」
一瞬勘違いかと思うほど。でも、勘違いではないとわかってしまうほどに強烈だった。
まるで本心を感情で塗りつぶしているような気味の悪さ。
首をかしげた善はそのまま立ち去ろうとする。
この手をつかまなくてはいけない。そんな警報が脳内でなったけど伸ばした手は宙をにぎっただけだった。
結局彼は何を言うこともできなかった。
ただ
「その笑い方も、断罪業も全部やめときなよ。向いてないよ。どっちも」
遠ざかっていく善にはきっと聞こえないだろう。
「おっまえなぁ、まぁたちょっかい掛けられてたのかよ」
善が廊下を歩いていると、
善の頬は少し腫れていて、明らかに誰かに殴られたのだとわかる。
「いやぁ、人気者って困るね~」
けらけらと笑う善に
「躱せよ。痛いだろ」
「んー、まぁ気が向いたら?」
「今すぐ向け。見てるこっちが嫌なんだよ。そういうの」
「なら見なけりゃよくない?」
「よくねぇ。大事なやつが傷ついてて平気なわけないだろ」
その言葉に善は目を丸くする。
「大事?なんで?」
こてりと首を傾げる善。それに対し、
「はっ…な、なんでって…そりゃお前がッ」
「?」
「おま、おまえ…が………」
段々と顔を赤くする
軈て、何かが爆発するように「あ”ー!!もう!!」と叫びだした。
「なんなのお前!!!!!」
「え?」
「鋭いのか鈍いのかはっきりしろよ!!!なんでわかんねぇんだよ!わかれよ!!!割とわかりやすいだろうが俺!!!!」
「…?………なんで怒ってるの…?」
「怒ってねぇし!」
「いや怒ってるじゃん…」
「怒ってねぇっつの!!!」
一通りぎゃんぎゃん吠えると、はぁぁぁぁっと疲れたように長い溜息を吐き出す。
「…
「なんで
「だってアイツ何でもできるし。俺より頭いいし物怖じしないし、人を引っ張ってく力って言うの?双子なのに全然ちげぇ…俺、あいつに何かで勝った試しねぇから。ほんとすごいよ」
「……」
善は
「お互いがお互いのこと褒めちぎってる……わかってたけどめっちゃ仲いいな…」
ぼそりと呟いた。
と、そこで善は思い出す。
(まてよ。
この二人ちょっとびっくりするくらい仲が良いし、しかも…
最近じゃ
この兄弟の行動。善には既視感があった。
そう、これは皇旭の時と”全く同じ”なのだ。
あの時、善はその思惑に気づかず、旭が自分に興味を持ってくれたのだと勘違いして喜んだ。実際は違ったが、まぁその時とかなり酷似していた。
つまり
(これ、旭ちゃんと同じでは…??)
思考が少しよろしくない方へとシフトした。全力で。
(
ウェスターマーク効果とは長らく一緒にいる相手に恋愛感情を抱きにくくする効果
主に家族に対して発動されるとされているものだが、微塵も発揮されていない!と善はおもいっきり勘違いしていた。
生ぬるい目を
「…
「……は?!」
突然、善が真面目な顔でそんなことを言いだしたからか
ぽんっと
「大丈夫。問題は多いと思うけど応援してるから。世の中には建物とか自然とか種族の垣根を超えて恋愛する人もいるくらいだし同種族ならたとえ兄弟だとしても望みはあるよ」
これは、そう。善にとっては励ましの言葉で、完全な善意であった。
「……は?」
ただ、とんでもねぇ勘違いが発生していたというだけで。
「なんでそうなったんだよ?!」
「どーりで女にも男にも興味ないわけだ…」
「おい!まて!!!」
「何かあれば相談乗るから」
「話聞けって!」
「だから隠す必要ないんだよ」
「だから違うってば!」
むにゅむにゅと善の口を両手で挟む。
「ほんと、そういうとこだぞお前…」
「ん??」
「だー!!!もう脱線した!!!と、とにかく!俺はお前がその…大事なんだよ!だから…!だ、から…」
「……傷ついてるとこ、みたくないんだよ」
その真面目な言葉に流石の善もたじろいで目を僅かに泳がせ
とんっと誰かが善の肩にぶつかった。
ぶつかって…止まった。直後、
こんな廊下で、先程までしなかった鉄の匂い。
そして…ぱたぱたと液体が落ちる音
それは…善とぶつかってきた男との間で流れ落ちていた。
「……ごめん
「なっ、おい!」
目を見開いた
それに対して男は「離せ!」と喚く。
「善!大丈夫か!?」
ばっと見れば善の手のひらにはナイフが一本、握り込まれていた。
握っていたのは柄ではなく、刃の方で。
掌が切れたのだろう、だぼだぼと血が大量に滑り落ちた。
手だけではない、脇腹にも血が滲んでいた。
「俺はこいつに妹を嵌められたんだ!」
「…は?」
「っ」
その言葉に善は表情を変えることはない。彼は叫ぶ。
「俺の妹は横領なんてやってなかったのに!冤罪だったのに!お前はあいつを拷問にかけた!
毎日毎日悪夢にうなされて…!!!テメェはなんでそう簡単に人を殺したり拷問したりできるんだよ!?
あいつは冤罪だってずっと言ってたのに!!ふざけんじゃねぇ!
お前の給料や地位の為に、なんであいつが苦しまないといけないんだよ!!!!おい!お前何も思わねぇのかよ!!」
「別に善は証拠もなくやってなんか…」
「黙ってろよ!お前はこいつの肩持つことくらい知ってんだよ!仲がいいからなぁ?!
お前はこいつのことを知ってるっていう先入観でこいつが正しいって思ってるだけだろ!?こっちには証拠だってあるんだ!!」
「え」
その言葉に
力が緩んだすきに男は拘束を抜け、ポケットからぐしゃぐしゃになった紙を取り出す。
「お前が手柄欲しさに揉みけした証拠だ!!お前が消したカメラの映像!お前が言った時間や金額なんかの詳細も書いてる!!」
「…」
「…それ、本当に本物なのかよ」
「そうだっつってるだろ!!!盲目野郎は黙ってろ!
それより天満善!お前だよ!さっきから黙ってんじゃねぇよ!
自分が間違ってるくせに庇ってもらうのを待つだけで謝罪すら言えねぇのかよ!ふざけんなよ!!!
…なんで、なんでだよ…!あいつは、すげぇ優しくて、明るくて、他の奴にも気配りができる自慢の妹だったんだ。
なのに、お前のせいで、今は見る影もねぇ……ずっと泣いて苦しんで、飯もまともにくえねぇ…なんで、なんであいつが…っ」
男はその場に崩れ落ち、泣き始める。
「馬鹿なの?」
その言葉に男は「あ”ぁ!?」と顔を上げ、
「茶番もいいとこだね。
「…え」
「変な所なんてねェ!でまかせいってんじゃねぇ!」
「よく考えて」
そして
「…横領で、拷問……?」
首を傾げる。
横領。金をくすねることだ。
勿論悪いことだ。処罰されて当たり前といえる。
だが、だからといって拷問するほどの罪かと言われれば、いささか罪が重すぎる。
「そういうこと」
「な、にがだよ!どういうことだよ!!」
「別に彼女の罪状は横領だけじゃないってことだよ。
彼女は横領に加え書類の偽造やら任務放棄、同僚の持ち物を盗難。更に一般人への恐喝、暴行を確認できる限り2度やっている。更にそれを知った同僚を一人怪我させた」
「なっ…!!!!」
「因みに横領と恐喝に関しては三度目らしい。
そもそも君が持ってきた証拠も他の阿保と手を組んで偽装した証拠だったってこっちで検証済みだ。
これに関しては
それに共犯の阿保も全部吐いたし、君の妹も最後は認めてた」
「そ、んなの…嘘だ!なわけねぇだろっっ!あいつがそんなことするわけ!!」
「そんなに信じられないなら証拠証言本人の供述、全部まとめて君の部屋に送ってあげる。
どうやら君の妹は君に知られたくなかったみたいだけど……これから妹の世話をするのは君になるんだ。知っといた方がいいだろ?」
「………」
善はナイフをポケットに入れると、ぐいっと手のひらをズボンで拭く。べったりとズボンの布に血液がはりついた。
そうして座り込んだ男を放置して歩き出す。
「……やっぱ断罪の仕事って大変、なのか?」
「断罪業より後処理のほうが面倒だよ。
自分に関係ないやつなら殺されたって拷問されたって気にしないくせに
いざ知り合いのことになるとろくに話も聞かずに難癖つけに来るんだから…盲目はどっちだよ」
「……今みたいに殺しに来るやつもいるのか」
「そりゃね。まぁでも、別にいいよ。それこみでこの仕事始めたんだし」
「…なんでそこまで。お前がやってることは、正当な事…だろ」
「人殺しに正当もクソもないでしょ」
「!」
善は目を逸らす。
「不死者だってそうだ。だから、殺すならこっちも命かける覚悟がいる。
だから、この仕事で恨まれたって、それこそ殺されたって構わないよ。ソレ前提でやってんだから」
「……怖くはないのか?」
「怖いよ」
「…っ」
「けど今更じゃん」
「…寝れば治る」
「治んねぇだろ」
「へーきだって」
そういって部屋に戻ろうとするが
「っ、こい!」
「え…?」
引っ張られたのは
「そこ、すわれ」
「え、でも」
「すわれ」
「……」
言われて大人しく座る。
「ほら、傷見せてみろ。ある程度手当してやるから。横腹も」
「はぁ……」
「っ!ちょっ」
善は仕方なさそうに溜息を吐くと、上の服を脱いだ。
その思い切りのいい行動に
「おまっ、いきなり脱ぐなよ!!」
「傷見せろって言ったのは君でしょ…」
「…」
「…おまえ、その傷」
横腹だけじやまない。
いたるところに傷があって。
その中でも特に腹に入った縦の傷に目が行く。
まるで、何度も抉られように、酷い痕になっている。
「…全部任務でか…?」
「ううん。このお腹の傷以外は全力疾走して転んだ時にできた」
「は??」
「だーから、全力疾走して転んだんだよ。いやぁ突発的に走り出したくなるんだよね。わかる?」
「……わかりたくねぇよ。つかなんで走ったんだよ」
「そこに広大な大地があったから」
「ドヤ顔すんな」
「てへ」
軽くチョップを入れる。
「はぁ、お前とろくに関わったことねぇやつなら騙されるだろうけど俺相手だと無理あるぞソレ」
「あ、やっぱり?」
「たく…」
一先ず手のひらと横腹を手当する。
「お前…なんでそんなに支援に行きたがらないんだよ」
「…支援の隊長にあいたくないから」
「ああ、不仲なんだったか?嫌いなのかよ」
「うんや。あっちから一方的に嫌われてるダケ。だからか支援部隊の隊員からも避けられてるんだよね」
「……そうかよ」
(…
善はボーとその様子を見る。
恐らく善と亜怜が仲が悪くなった原因などを聞きたいのだろう。だが
(人の核心に触れるのが怖いんだろうな……核心に触れて、関係が壊れるのが。
だから、下手に踏み込んでこないから、一緒にいて楽だ)
すると
「学校行ってたんだけど、殲滅隊の。
手当につかった道具をかたずけながら、いきなりそう言い出した
善はその言葉にいきなり何だ、と彼の顔を見る。
「俺の眼、紅いから……
歳も他の奴らより幼かったっていうのもあって余計に周りから遠巻きにされてた。
でも、俺には
ホントは…ずっと誰かに助けて欲しかった。こんな目に生まれたくて生まれたわけじゃない。それなのに、なんで俺等だけこんな目に合うんだって、ずっと。
でも、それ口に出したって変わんないし、なにより惨めになる気がして…ずっと考えないようにしてた」
普段の荒々しい声とは思えないほどに彼の声は静かだった。
「
でも”強がり”と”強さ”は一緒じゃない。
俺はそれを履き違えてた。ただ耐えて、現状が変わってくれるのを待つだけなのは、ただの弱いやつの考えなんだって、気付かされた。
耐えて演じて、笑って、誤魔化して。そんなことしたって意味なんてない。
その行為はただ、自分を失っていくだけの行為だった」
ふぅ、と
そうしてゆっくりと善を見た。その目は、どこまでも静かで
「全部お前が俺に教えたことだろ…なぁ、善。お前は、なんでずっと笑い続けてるんだよ。前まで、そんな感じじゃなかっただろ。なにがそうさせたんだよ。お前は……ちゃんと笑えてるのかよ」
「……」
その言葉に、善は何も言わない。
「楽しくもないのに無理して笑うなよ。お前、一人で何でもできるから周りを頼ることしねぇだろ。すごいことだって思う。でもそれが、たまにすっごく怖い。
お前が壊れそうで…だから、あんまり力になれないかもしれねぇけど、話くらいなら俺だって聞けるから。
しんどくなったら、たまには寄りかかってもいいから」
善は僅かに目を見開いた。あったかい温度と自分とが違う匂いが触れる。
抱きしめられていた。
少し呆然とする。だがすぐに笑みを”張り付けた”
「優しいね、
「は、はぁ!?」
完全に無意識で行動していた
その目は、先程までの
顔を真っ赤にしながら、
「今、そういう場面じゃなかっただろうが!!」
「しらないよ。
「!」
「で?カッコつけはもういいの?」
にやっとしていうと
「おま、ほんっと!!」
「んふふ、やさしいねぇ
「~っ、もうしらねぇ!!こっちは真面目に心配してたってのに!!!」
「ありがとう」
ぼそりと呟く。それは彼の耳にも届いていたらしい。気恥しそうにそっぽを向きながら「別に」と零す。
それに善は更にくすくすと笑った。
___やっぱり君は、深く踏み込んでこないでくれる。
「……はぁぁぁ」
彼は扉の前の壁に背をつけ、深い溜息を吐き出した。
(揉め事があったって聞いたから見に来てみたけど…なんだ。
そのまま床にズルズルと座り込む。
冷たい床の温度を感じながら、
脳みそでめぐるのは先程の二人の会話だった。
(無理して笑わなくていい……)
その言葉を
でも
(なんで双子なのに、こうも違うんだろ)
自嘲気味に笑みを浮かべ、目を瞑る。
思い出すのは、少し前の事だった。
『あんた、いいわけ?』
『なにがですか?』
『あれよあれ』
それは、少し前のこと。
廊下で
ふと、望が何かに気づいたように一点を指さした。指先へと視線を向ければ、少し離れた場所に善の姿があって、その周りには見知らぬ男が数名、善に話しかけているところだった。
中には話すだけでなく、善の肩などに触っているものもいる。
なにを話しているのか、こちらには聞こえない。
『別に、嫌がらせされてるわけじゃないじゃないですが』
『…アンタは焦んないのね』
『はい?』
『あんたの片割れは堂々と割って入ってたわよ。触るんじゃねぇって感じのオーラ纏ってね。余裕ない感じで見てて面白かったのに』
ただ説明されただけなのに、
『僕は善くんの事好きじゃないですから焦る必要とかないでしょう』
『……あんた自分の顔鏡で見たほうが良いわよ』
『はい?』
『いや…あ、嗅ぎつけてきたわね』
再び善の方へと目を向ければ
そのまま善と男たちを引きはがした。
その際、勢い余って善を抱きしめる形となっているが気づいていないのかぎゃんぎゃん男たちに吠えている。
『……
アイツは別に焦る必要なんてないのに…彼らは新人で、そんな関わりの薄い新人が善くんに惹かれたのは外見が理由でしょう。
下心と好意は一緒にしちゃだめです。
そもそも一日二日で人が人に恋することなんて無いし、一目惚れにしたって運命とかロマンチックな言い回しするけど結局は表面に惚れてるだけ。
その手のタイプは内面に惚れ込む前にもっと好みの奴を充てがっとけば簡単にそっちへ流れます』
『充てがうって…まぁでも、そうかもね』
男たちが去った後、我に返った
一見微笑ましいともとれる光景に
それを見逃さなかった望だったが指摘することはなく続ける。
『だからこそ、内面から惚れ込んでるタイプは色々厄介よ。替えが効かないもの。
外観はいくらでも似せれるわ。見た目は整形すればいいし、振る舞いは真似れば良い。声もいじれば良い。表情だって練習すればなんてことないわ。
ただ、内面はどうしようもない。
別個体である以上、完全再現なんてできっこない。全く同じになんて…なれない』
望の言葉は的確だった。
「どれだけ外観は似せれても完全一致なんてできやしない…ほんと、その通りだよ」
ヒュウガくんもヒナタくんもお互いがお互いに劣等感を抱いているという。
でもどっちも片割れ大好きだから仲はいいという。
今回はヒュウガのこともしっかりかけて満足でした。たのしかったぜ。
因みに薔薇の11本の花言葉は「かけがえのないもの」という意味があるようですよ。
情熱的ですねぇ。
なお次回最終回!!!