因みに、開発部隊の副隊はいないのです(´・ω・`)
「思ったより平気そうだな」
「ちょっ、りっちゃん!」
誠が部屋を出ると、そこには5、6時間ほど前に別れた律と紡が立っていた。
彼等はところどころ絆創膏やらシップやらを張り付けているだけでそこまで大きな怪我はしていないらしい。
だが紡の顔は泣き腫らしたのだろう。目元は腫れており、鼻もほんのり赤くなっている。
律はいつも通りだ。普段通りの無表情のまま、口を開く。
「使い物にならなくなってるかと思ったが、思ったより図太いな」
「だから何でそうりっちゃんは…!」
少し煽る様な口調で話す律に紡が慌てる。だが誠はそれに対して突っかかることはせず、静かに頭を下げた。
「前の任務、足引っ張って悪かった」
「え!?」
謝る誠に紡はぎょっとして驚きの声を上げる。対する律も僅かに驚いたように目を見張った。
「…別に」
律はそれだけを零し、眼を逸らす。
彼等のやり取りを見ていた紡は目を丸くしているが、やがて整理が付いたのかホッと息を吐くと「そうだ。さっき会議室に来てって言われたの」と誠の腕をやんわりと引いた。
「会議室?」
「すぐ来るようにって」
「大方夜縁の話だろ。俺らは戦闘をしたうえでの生存者だからな」
夜縁が人前に出てくることは滅多にない。
実際夜縁が最後に目撃されたのは10年ほど前だと言われている。
その希少さゆえに夜縁についての情報は少なく、また長年殲滅隊と不死者との戦いに決着がつかない理由なのだ。
そんな奴らが10年越しに現れたとなれば、情報を少しでも得るために呼び出されるのは当然と言えるだろう。
そう結論付けた誠達は、会議室へ足早に向かった。
ーーーーーーーー
会議室に辿り着いた誠達は隔てられた扉の前で静かに息をのんだ。
会議室からは扉越しからでも分かるほどに強いプレッシャーが流れており、思わず入室を躊躇してしまう。
喉が引き攣り、じわりと手に汗が滲む。
だがこのままここで立ち往生していても時間の無駄だということは明白だ。
誠は一つ深呼吸をしてから扉を軽くノックする。
「戦闘部隊所属、氷雨誠です」
「入りなさい」
声が震えないように気を付けながら誠がはっきりと自身の名を名乗れば、扉の向こうから女性の声で返答が返って来る。
その返答から一拍置いてから、誠はドアノブに手を掛ける。
ひんやりとした金属の温度を掌で感じながら、ぐるりと回して扉を開けばキーッという金属の軋むような音が響いた。
扉が開いた先。そこには9人の男女が円形のテーブルを囲んで座っていた。
彼等の目が誠たちに向いており、どくりと誠の心臓が悲鳴を上げる。
「なっ」
だが、それも一瞬だった。
彼等の顔をぐるりと見た誠は一点を見つめて目を見開いた。
何故なら、そこには数十分前に顔を突き合わせた男がいたからだ。
男はこの緊迫的状況だというのにも関わらず、だらしなく頬杖をつき、僅かに笑みを浮かべながら誠を見た。
しかし誰も男の声にも、その態度にも反応する様子はなく、誠達新米三名を中に招き入れると、ぱたりと扉が閉じられる。
「揃いましたね。それでは緊急会議を開始いたします」
【不死者殲滅隊秘書
彼女が無表情で言葉を切ると同時に、更にピンっと空気が張り詰められるのが肌で分かり、ごくりと喉が鳴る。
「今回の議題は夜縁についてです」
「ふふ、夜縁だなんて11年ぶりくらいかしらね」
優雅に笑ったのは桃色の瞳に目元には泣き黒子のある綺麗な女性だ。
マリーゴールドの髪飾りでミルキーベージュの髪を緩く結んだ彼女は白魚のようなしなやかな手を唇にあててる。
その際、豊満な胸が窮屈そうに腕に押されている。
【支援部隊部隊長
「正式な夜縁はそうですね。
逸れものなら5年前に確認されていますが」
焦げ茶色のストレートな髪。前髪も、長い後ろ髪の毛先も真っ直ぐに切り揃えられており、人差し指にはビーズで作られた指輪をつけた女性。
彼女はオレンジの瞳を僅かに細め、補足を入れる。
【支援部隊副隊長
「…そうでしたっけ?」
ボサボサの黒髪。顔は整っているというのに、翡翠の瞳の下には濃い隈を携えた男が興味なさげにそう呟いた。
【開発部隊部隊長
「楓くんはホントに死体と研究以外に興味ないのねぇ」
ふふっと微笑みながら亜怜が楓に言えば、彼は目を動かして彼女の方を見る。
「元より私はそれを目的に部隊に入りましたから。当然と言えば当然でしょう」
「そうだとしても来栖さんは研究部隊の隊長です。興味がなくとも、ある程度のことは頭に入れていただかないと困ります」
「ふふ、充幸は真面目ねぇ」
亜怜は笑みを浮かべて言う。言われた本人はホンノリと頬を赤らめ「普通ですよ」と呟いた。
「そんなのどうでもいいじゃん。それより巡回やって書類やって討伐行って帰ってきたら休む暇もなく招集食らったんだけど。マジ可哀そーじゃない?誰か慰めてよー」
そんな中、溜息交じりにそう意見する男。ただでさえだらしなかった体勢を更に崩し、机に撓垂れ掛かりながらポケットから取り出したクッキーをがぶがぶと食べだした。
【断罪部隊部隊長
「普段からサボって俺に仕事投げてくるんだから丁度いいじゃないっすか?つかアンタは仕事しか取りえないっしょ」
鼻に絆創膏を張り付け、センター分けにされた茶髪に琥珀色の目をした男。
首にはバーコードのような青刺がくっきりとある。
彼は「クッキーは後で食ってくださいっす」と善のクッキーを取り上げながら睨みつけた。
【断罪部隊副隊長
「會君は毒が強いなぁ。もうちょっと労ってくれても良くなぁい?」
「労う要素が何処にあるんすか?あります?ないっすよね?うん、ないっすね」
「わぁ、自己完結されたぁ」
雑な対応をされたというのにもかかわらず善は対して気にした様子もなく、ケラケラと笑う善。會は不機嫌そうに顔を歪め小さく舌打ちを打った。
「話が脱線し始めてる。そろそろ真面目にやりませんか」
逸れだした話題を元に戻すようにいう銀髪の男。
どこかピリピリとしており、仏頂面のまま、彼はいう。
【戦闘部隊副隊長
「雑談は後にして、一先ず本題の話をしましょう」
そんな彼のピリピリとした雰囲気とは正反対に柔らかい雰囲気に柔らかい笑みをのせ、そっくりの顔をした男が言う。
【戦闘部隊部隊長
「ああ、時間もないし始めようか」
彼等の意見に賛同するように扉から一番遠い席に座っている男は机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元で組む。
口元は手で隠れて見えないが、彼の瞳が鋭くなったのがわかる。
【殲滅隊首領
彼の鋭い目が誠達を見る。すると自ずとその場の全員の目が此方を向く。
一斉に向けられた沢山の双眸に一瞬怯みそうになるが、誠たちは何とか平然を保つ。
「貴方方は本日夜縁と遭遇しました。私たちは夜縁の情報を一つでも多く得なくてはいけません。
全ては人類の為に…。故に貴方方三名をここに招集しました。ここまではご理解いただけますね?」
「はい」
「それでは早速夜縁の異能や名前、その他何か知っている情報はありますか?」
千歳に聞かれ、誠達は口を開いた。
「夜縁の名前はニナだと名乗っていました。巫女装束を着ている女で…異能は蛇を操る能力を扱っていました」
「おっきい壁を作ったり、毒みたいなの使ったり、痛い蛇さんを使って攻撃してきました!」
「夜縁本体の攻撃能力も高いようです。素手で人体を貫通し、堅い地面をあっという間に掘って逃走を図るなどしていました」
律がちらりと誠の方を見ながら言う。
誠の体は螺によって貫通することはなかった。八生が庇ったからだ。
関連するように数時間前の出来事が蘇り、誠の表情に影が差す。
そんな彼を見て、亜怜は痛ましい者をみるような表情で誠を見る。
「貴方のその目は、夜縁に直接攻撃されて出来た物なのかしら?」
今、誠の右目は潰れている。螺に抉り取られたからだ。
応急処置程度に包帯を巻いているが、先程部屋で確認した所、視力が戻る様子もない。というかそもそも炎症で腫れ上がっているのか開くことができなくなっていた。
亜怜からの質問に誠は一つ頷くと「単体でも能力の高いタイプ……厄介ですね」と充幸が言う。
「他に気づいたことは?」
「………」
誠は暫く思案し、一つ思い出す。
「八生が……俺の仲間が必要以上に狙われてたんです」
「あっ、そういえば食べるとか言ってたよね」
誠の言葉に紡も思い出したように頷く。
螺は確かに八生に対して”食べる”と言っていた。
「最初は単純に殺そうとしているんだと思っていたんです。でもあいつが死んだ後も…その、執着してるみたいで」
本来不死者は”食事を必要としない”生物だ。噛むことはできるし、呑み込むこともする。
しかしそれはあくまで殺すための”手段”として用いるだけで人間のような理由で食べるわけではない。
だから死体には興味を持たないものだ。だというのに螺は死んだ八生の死体になおも執着し続けた。
まるで本当に”飢えている”かのように。
「夜縁は謎が多いです」
最初に口を開いたのは楓だった。
「その全貌は分かっていないことの方が多いです。ですが一方、分かっていることもあるんですよ。その一つが”食癖”という現象です」
「食癖……?」
聞いたことのない言葉に誠たちは首を傾げる。
そんな彼等に目を向けることなく楓は続ける。
「夜縁にはどうやら”とある条件”を満たした人間を捕食したくて堪らなくなる現象があるようです。
その条件は個体によって異なるため、何が基準なのかは分かりませんが…どうやら酷い飢餓に襲われるようです。
そしてその対象になった人間の事を”食料体”と私たちは呼んでいます。
飢餓に襲われた夜縁の行動は比較的単純になります。脳内が飢餓を癒すことで埋め尽くされ、それ以外マトモに物事を考えることが出来なくなるんですよ。
だから、食料体に選ばれる人間の基準が分かれば一気に戦いやすくなるんですけどね」
「まぁそんな訳わかんない物チマチマ調べて死体増やすより、目玉抉りに行った方が断然早いけどね~」
夜縁と遭遇するということは危険を伴う。最悪全滅に瀕する可能性だって少なくはない。
遭遇率が低く、遭遇すれば死亡リスクが極めて高い夜縁。そんな連中を使って食癖の条件をちまちま調べることは、時間も掛かる。
そしてなにより、糸口を掴む過程で屍の山が量産されることになるだろう。そんなことをするくらいならばさっさと殺した方がいい、ということだ。
善の意見はもっともであり、事実賛同するように何人かが軽く頷いているのが見えた。
「成程。よく分かりました。情報の提供感謝します。もう戻っていただいて構いません」
話を聞き終えた千歳が、誠たちに退出を促す。
促された誠達は「失礼しました」と軽く頭を下げるとそのまま部屋を出よとする。
「あ、氷雨誠君」
律、紡と部屋を出て、誠も出ようとしたところで背後から声がかかる。
誠に声をかけたのは亜怜だ。振り返った誠は少し首を傾げる。
「は、はい」
「不死者に抉られたっていうその目……まだ手当てを受けていないわね?駄目よ。しっかり手当てしないと。黴菌が入って、違う病気を持って来かねないわ。ちゃんと見るから少し外で待っておいてくれるかしら?」
疑問形での問いかけ。だがその言葉には何処か有無を言わさない圧を感じる。
ただでさえ上官であり、圧力のある言い方をされ、誠は「わかりました」と大人しく頷くとそのまま部屋を退出していくのだった。
パタンと閉じた扉の音を聞き、会議室内に残った彼らは再び向き合う。
僅かな静寂。それを破ったのは楓だった。
彼は「今回の夜縁ですが」と前置きを一つ置くと口を開いた。
「彼が回収してくれた死体を鑑識にかけた所、傷口から毒が検出されました。
致死性はないようですが、大量の蛇の多くは神経毒をもっており一部ではありますが腐食毒も検出されました。
他にも違う毒を持っている蛇を扱う可能性もありますので、警戒するに越したことはないでしょう」
「成程。報告ありがとう」
「…それにしても」
亜怜は悲しそうな表情を浮かべる。
「今回死亡した隊員。八生ちゃん、だったかしら?彼女は今回の入隊者だったんでしょう?可哀そうに…」
「そうですね。有望な隊員が死んでしまうのは悲しいことです」
同じように充幸も頷く。
亜怜は「ええ、そうね。生きていれば将来は立派な隊員になったかもしれないわ」といい、そして
「どうして、1年しか鍛えていない隊員に試験を受けさせたりしたの?」
亜怜は一点を見つめていった。
どこか責めるような声。その声が向いているのは、善だった。
亜怜の言葉に充幸は「え、1年!?」と驚いたように声を上げ、會は「短過ぎませんか、それ」と善をみた。
他は静観するだけで口を挟むことはしない。
そして肝心の善だが。亜怜の言葉が自分に向けられたものだと察したのだろう。上体を起こし頬杖をついて、目だけを亜怜に向ける。
「だって十分実力がついてたし。後は本人の意思」
「そうだとしても、貴方が彼女の教育係を務めたんでしょう?調書にそう書いてあったわ。
教育者として、死なないように全力でサポートし、鍛えるのが責任というものでしょう?実力があるとか意思だとかは関係ないわ。事実、彼女は死んでいるのだから」
「全力でサポート、鍛えた結果がこれなんだけどね。あの子、入隊前にはすでに不死者殺せてたし」
「入隊前の一般人に不死者を討伐させたんですか!?な、何考えてるんですか!!本来三年学校で学ぶようなことを一年でやらせて、その上実践なんて…!!」
「別に違反じゃないじゃん。ヤバくなったら助けに入る予定だったよ。
それにさ、結局知識だとか技術だとかを習うより実践させた方が実になる。訓練と本番は全くの別物なんだから」
「そ、それでもっ」
「貴方は本当に身勝手よ」
尚食い下がろうとする充幸。
だが彼女の言葉を遮ったのは亜怜だった。彼女の声は低くなり、怒りの色が浮かんでいるのが誰の目から見ても明らかだった。
「自分の価値観を押し付けるだけ押し付けて、相手の未来のことなんて考えていない。考えた気になって満足しているだけ。
自分の行動が正しいと思いこんで、他人の意見を受け入れようとしない。それが間違っているとは微塵も思っていない」
「……」
「貴方みたいなイイ加減なことしかしない人間が教育なんてする資格ないわ。
貴方の軽率な行動が彼女を殺したようなものなのよ。まぁ貴方はきっと”死んだ人間のことなんてもうどうでもいい”と切り捨てるんでしょうけど」
その言葉に善は少し口を閉じる。
だがすぐにへらっと笑う。
「そうだねぇ。死んだ人間のことなんて、どうでも___」
「善がどのような訓練を施したかは僕は知りません」
善が亜怜の言葉を肯定しようとしたところで、口を挟んできたのは先程まで静観を決め込んでいた
「ですが別に善はいい加減な指導はしていないと思いますよ。
実際、断罪部隊の多くは善が一から指導していますが、全員強い隊員として育っています」
見られた會はそれはもう不満そうな顔をしながら、嫌々口を開く。
「まぁこの人、人の心ないっすからね。
素人だろうがなんだろうが平気で鬼畜なメニュー詰め込んでくるっす。頭湧いてるっすよ。絶対」
「えぇ?そこまでいう?」
「ちっ…その隊員、一年分やり切ったんでしょ?なら、まぁそうそう死なない程度にはなってんじゃないっすか?知りませんけど」
ブスくれたように顔をぷいっと逸らしながら會がいう。
彼もまた、善に鍛えられた人間だった。
「試験での映像は俺たちも目を通しています。
本人の性格なのか、危ぶまれる場面もありましたが、動き自体に問題は見受けられませんでした。寧ろ新人にしてはよく動けている、という印象でした。
死者のことを悪く言うのは正直いい気分はしませんが………今回坂谷隊員が死んだのは、入隊して一週間程度で夜縁と遭遇してしまった不運と彼女の性格が祟った結果だと思われます」
その説明に亜怜は眉根を寄せる。
「…そう。それでも一年は短いわよ。
それに、その性格っていうのも指導、教育をしていたあなたなら気づいていたはずよ。それをわかったうえで特に何も手を施さず、試験に臨ませるのはどうなのかしら」
「それなら僕も隊長として失格ですね」
「え?」
亜怜の言葉に反応したのは善ではなく矢張り
「僕も彼女の性格には気づいていました。あれが命に関わるほどに危ういものだということにも。
教育をしていたのは善ですが、彼女は僕の隊員です。
彼女の性格を知っていながら放置した僕の監督責任です」
彼は試験の映像を見ていた。八生が紡を助けに、残り数分で館の中へ引き返していったところを。
彼女が他人のために動いてしまうタイプの人間だということにはなんとなく気づいていたのだ。
「そ、そんなことは…流石に一週間程度じゃ」
「それでもですよ。性格の矯正は流石に無理でしょうが、それでも釘は刺すべきでした。
あれがあれば、もしかしたら彼女は生きていたのかもしれません」
充幸が庇う様に言葉を続けようとするが、
「…」
その様子に亜怜は二の口を継げることが出来なくなる。
そして、再び室内に静寂が訪れようとしたところで「終わった話をするよりもこの後に訪れるであろうことの話をしませんか」とまたもや楓が意見した。
彼の言葉のおかげで沈黙が落ちることはなかった。
だが、彼の言葉に反応したのは亜怜、そして大賢だった。
大賢は顔を暗くすると重々しく口を開く。
「ああ…夜縁が現れたということは、またあの惨状が訪れる、ということだ」
「ええ。傍迷惑な物ですよ。急に現れたと思えば破壊するだけ破壊して、その後はまるで煙のように姿を眩ませるんですから」
「楓くんの考えではやっぱり今回も」
「行われるでしょうね”夜縁の宴”が」
「なんですか?夜縁の宴というのは」
口を挟んだのは充幸だ。だが答えたのは彼等ではなく
「初めて夜縁が現れた時の事件の事ですよね?」
「ええ、そうよ。夜縁は世界を闇に閉ざすと同時に何千万もの人々の命を奪って去っていったわ。
そして十数年かに一度の割合で私達の前に姿を現し、数か月間に渡って人を惨殺する宴を開く。被害は数万じゃ収まらないわ」
「……何故一々10年もスパンを開けるんですか?ハッキリ言って夜縁は脅威です。
そんな脅威が態々自ら去ると言うなら何かしら意味があるのでは?」
最もな疑問をぶつける充幸
「夜縁って何人殺しても10年たつ頃には必ず3人はいるらしーよー」
「…それって、どういう?」
「アイツ等交配すんの。全滅しないようにね。だから10年スパンが空くんだよ」
「うげっ、アイツ等性行の概念とかあるんすか!?」
「何を想像したのかはなんとなく察しがつくけど夜縁はちゃんと人型だからね。そこまでの地獄絵図にはならないよ…多分」
善の言葉に想像してしまったらしい充幸と會は顔色を悪くし、それを聞いていた
「夜縁は臆病な個体が多いのか、一人でも死んだ時点で雲隠れすることが多いです。だからこそお互い王手が掛けられない」
「しかし何事にも終わりというものは訪れるものだ」
大賢がいう。全員が彼へ目をやり、そしてその言葉の意味を理解する。
「そしてその終わりを、今こそ我等の手で与える時だ!皆、手を貸してくれるね?」
彼の言葉にその場にいる7人は強く頷いた。
ーーーーーーーーー
亜怜の指示を受け、部屋の前で一人待っていた誠は壁に凭れ掛かり、ぼーっと天井の照明を眺めていた。
そうしてガチャリと開いた扉の音が聞こえ、そちらに目を向ける。
見ればそこには亜怜が部屋から出てくるところだった。彼女は誠の方を向くと柔らかい笑みを浮かべる。
「ごめんなさいね。長くなってしまって」
「あ、いえ」
「会議ですから仕方ないですよ」
誠が否定しようとすると亜怜の後ろから声が響く。
亜怜の後に続いて出てきたのは充幸だった。
「さぁ、行きましょうか」
扉を閉め、亜怜はいう。
スリットの入った丈の長いスカートをふわりと翻して彼女は歩き出す。そんな亜怜の後を充幸と誠は歩く。
「不死者に攻撃されて出来たと言っていたけれど、どういう風に攻撃されたのかしら?」
「えっと、抉る様に…その、指で」
「指で……それは痛かったわよね…今も痛いでしょう?目も開けられないかしら?」
「そうですね」
「そう…とはいえ、ちゃんと消毒をしないといけないわ。処置はしっかり受けてもらうわよ?」
「はい」
「次からは、怪我をしたらちゃーんと支援部隊に来ること!間違っても数時間ほうっておいちゃ駄目よ。分かったかしら?」
「…はい」
頷けば亜怜はニッコリと笑って「良い子ね」という。
その笑みに誠は思わずぼーっとしてしまえば「ん”ん」という咳払いが隣からした。
横を見ると惚けた誠を睨みつける充幸の姿が。彼女はそのまま口を開く。
「あげませんよ」
「は?」
その言葉の意味が分からず誠が首を傾げた所で、一つの爆弾が落とされる。
「亜怜さんは私のお母さんなんですから貴方に何てあげません」
「…………え、母親!?」
驚きのあまり敬語が外れたことも気にせず誠は叫んだ。
ブンブンと充幸と亜怜を見比べる。
とてもじゃないが親子には見えない。亜怜は若いし、充幸と年が近そうな印象だ。てっきり姉妹だとばかり思っていたのだ。
「て、てっきり
「うふふ、そんなに若く見えるかしら?」
「亜怜さんは綺麗ですから当然ですね」
「ふふ、ありがとう充幸」
「え、じゃぁ本当に…?」
「ええ、私と充幸は親子なのよ」
「分かったらさっさと行きますよ。廊下は冷えますから亜怜さんの体が冷えたら貴方のせいですからね」
「あらあら」
充幸は亜怜を連れてズンズンと歩いて行ってしまう。取り残された誠の脳裏には一つ疑問が浮かぶ。
(充幸さんって20歳くらいだよな…?なら亜怜さんの実年齢って一体…………)
ーーーーーーーー
ツンっと鼻を刺す消毒液の匂いと、カランと金属を置く音が白い部屋に響き渡る。
「おわったわよ」
誠の目周辺に出来た傷の手当てを終えた亜怜は誠の顔に黒色の眼帯をはめながらいう。
その言葉に誠はぎゅっと閉じていた目をゆっくりと開く。
そして数回瞬いた痕、亜怜に向かって頭を下げる。
「ありがとうございました」
「ふふ、お礼なんていいのよ。だってお仕事ですもの。当然でしょう?それよりも何か異常があればすぐに言うのよ?」
「はい」
頷けば亜怜は満足そうに数回頷き、手当ての際に使用した道具を箱の中に丁寧に詰め込みながら口を開く。
「ところで誠くん。貴方は直ぐに任務に復帰する気なのかしら?」
「え、まぁそのつもりですけど」
「ああ、やっぱり」
誠の返答に亜怜は困ったように笑った。
どうしたのだろうか、と誠が首をかしげると彼女は「まだ止めておいた方がいいと思うわ」と言う。
「訓練をしていない人間がいきなり片目で戦うということは難しいことなの。
視界も狭まるし、距離の感覚も両目の時と比べて全然違っている筈よ。
そんな状態で戦ってもやりにくいだけだと思うわ。だから暫くここで訓練を受けてからにしましょう?訓練は私が見るわ。どうかしら」
言葉を濁していう亜怜。だがそれはストレートに言ってしまえば「戦闘に支障をきたして足を引っ張る」ということだろう。
今の所、別段不便がある訳ではないが戦闘となれば話は別だ。
また誠のせいで周りを巻き込むわけにはいかない。足を引っ張るのはもう沢山だ。
本音を言えば直ぐにでも復帰して不死者を狩りたい。だがその思いを今はグッと抑える。
「そうですね…亜怜さんの言う通りだと思います。だから訓練、受けさせてください」
椅子に座りながら頭を下げれば亜怜は「素直なのね」と微笑む。
そんな彼女と誠は目を合わせる。
「俺のせいで仲間を死なせた。だからあいつの分も不死者を狩る。
其の為に死ぬ訳にはいきません。これ以上俺のせいで仲間を…アイツ等を死なせるわけにはいかないんです」
誠は眼帯のついていない瞳で真っ直ぐに亜怜を見据えて言う。誠の言葉に亜怜は数秒黙り込む。
その顔は何処か曇っていて、悲しそうに彼女は目を伏せた。
「…どうして」
「え?」
「こういうのはアレだけど貴方は此処に入ってまだ二日程度しかたってない。
チームメイトとの関りだって薄いはずよ。家族の為、友人の為というなら分かるわ。
でも貴方は仲間の為に…チームメイトのために頑張るのよね?どうして他人も同然の相手の為に必死になれるの?」
言われれば確かにそうなのかもしれない。
誠は彼等と出会って間もないし名前と歳以外は何も知らない。
仲間より他人の方が近いという亜怜の意見は正しくその通りと言える。それでも誠が頑張るのは……。
「…ただの自己満足です」
これは本当にただの自己満足だ。
他人の為と言ってしまえば聞こえはいいが、結局は自分の為の救済だ。彼らのような崇高な目的も理由も存在しない。
「そう……ごめんなさい。変な事を聞いてしまって」
「いえ」
「でも、そうね。私は支援部隊部隊長。頑張る人を支えるのがお仕事。私は貴方を全力で支えるわ」
「あっ、りがとう…ございます」
誠の傷だらけの手の上から、彼女の白い手が重ねられる。じわりとした人肌の暖かさとともに、彼女は優しい笑みを誠に向けた。
手が重なったことで体がぐっと近くなり、見たくなくてもその豊満な胸に目が行ってしまい、慌てて目を上にあげるが、そこには大人の色っぽさというのだろう。近くには笑みを浮かべる亜怜の顔があって、誠は顔を赤くし、ドギマギしながら少しそっぽを向いて答える。
彼のその反応が彼女にとっては面白かったのだろう。誠から体を離してクスクスと小さく笑みを零す。
その笑みすらも優艶であった。
「じゃぁ、誠くんが一日でも早く復帰できるように、一先ず今日はゆっくり休みましょうか」
「え”」
「夜縁との戦い後、碌に休めていないでしょう?ほーら、わかったら大人しく寝ていなさい。わかった?」
「で、でも」
「休むことも訓練の一つよ。わかったらすぐに部屋に戻って寝ること。いいわね?」
「……はい」
亜怜により僅かに圧を掛けられた誠。彼自身も疲労があったこともあり、彼は素直に頷くのだった。
【世界観メモ10】
食癖は夜縁にのみ見られる現象
何らかの条件が満たされた人間に酷く執着し、その人間を食べない限り酷い飢餓に襲われる。夜縁に狙われた人間は”食料体”と呼ばれる。
【世界観メモ11】
夜縁の宴、十数年に一度夜縁が出没した際に夜縁が大量に人を殺していく惨状を表す言葉として主に用いられている。
【あったかもしれない善と幸村兄弟の会話↓】
「よーい」
「なに?って、いたッ!なんでデコピン…?」
「だめでしょあんなこといっちゃ」
「勝手でしょ。どう思おうが。それに、言ったって悲しむやつはもう死んでるんだから」