夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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可愛い主人公の登場です。
坂谷八生(やよい)どうぞ彼女の人生を楽しんでいってください。


第二項

 

「ん」

 

ピピピピピという激しい時計の音で意識が浮上し、目を覚ます一人の少女。名前を坂谷八生(さかややよい)15歳の女子中学生だ。

彼女はろくに周りを見ることもなく片手をサイドテーブルに置いてある時計めがけて振り下ろす。

叩かれた時計はガシャンっと悲鳴を上げて音を止める。

その感覚が僅かに痛かったのだろう。彼女は自身の手を緩慢な動きで撫でる。

ボコりとした皮膚の感触をなぞりながら、彼女は薄く目を開いた。

何度か目を瞬かせたのち、ゆっくりとあたりを見る。

壁には自身の着るセーラー服がハンガーにかかっている。棚には小物、その中には家族写真の入った写真立てぽつりと鎮座しているだけ。

他にはこれといったものはない。

視線を横にずらせば、カーテンの隙間から差し込む月光が顔にやさしく降りかかる。

見慣れた景色だ。小さく欠伸をしてから彼女は上体を起こす。

 

一日が始まった

 

告げた彼女の瞳は、暗く濁っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかあさん、おとうさん、おはよう!」

 

パジャマから制服に着替えた八生は笑顔を浮かべて一階に下りる。

 

「遅いわよ」

「ごめんね、おかあさん!でもそんな顔するなら起こしてくれてもいいじゃん

ん!!」

「夜更かしでもしたかな」

「してないよ!お父さんじゃないんだから!」

 

リビングに下りればそこには眉を顰めて怒る母と、揶揄い交じりにいってくる父の姿があった。

いつもの坂谷家だ。

母と父は既に椅子に腰を掛けており目の前に置かれた机には箸が並べられている。

八生もまた食事をとるために冷蔵庫へ向かい、昨日の余りのご飯を取り出し、レンジで温めてから机に並べる。

昨日の夕飯だ。忙しい日に作り置きというのは非常に便利だと八生はつくづく思う。

コップにお茶を入れ、席に座ると手を合わせて彼女は食べ始める。

 

「いただきます!んー、きんぴら美味しい!

あ、そういえば聞いてよお母さん、今日ね体育があって、マラソンなんだ」

「それは大変ね。でもサボったりなんかしたら駄目よ」

「わかってるよ!ちゃんと頑張るって」

 

きんぴらごぼうと焼き魚を白米と一緒に頬張りながら、目の前で同じく食事をとる二人と談笑を交わす。

ふと彼女はリビングにある時計を見る。

時計はすでに午前8時を指していた。

 

「あ、もうこんな時間!早くいかなきゃ遅刻しちゃう!」

 

残ったご飯を掻き込むと「ご馳走様!」と早口に叫ぶ。

そのまま玄関に放置されていたスクールバックを掴んで急いで外に出る。

 

「行って来ます!」

 

元気いっぱいに言って八生は学校への道を駆けだす。

 

 

今日も、彼女の”平凡”な一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せーふ」

「あ、今日はギリギリだったねぇ」

 

八生は学校への道を駆け抜け、遅刻ギリギリで何とか学校に辿り着く。

荒れる息を整えながら自席に荷物を置いて座り込めば、直ぐに前の席に座る親友、長谷川ツクシが珍しいものを見たとでも言いたげな目で八生を振り返った。

そんな彼女の表情に八生は苦笑いする。

 

「そうなんだよ。ベッドでぼーっとしすぎちゃったみたい…というか、なんか今日のつくし機嫌いい?」

 

どこかそわそわとするツクシに八生が尋ねれば、彼女は”待ってました”と言いたげな表情で「やっぱわかっちゃう!?」と前のめりになって笑う。

 

「実はねぇ、彼氏ができましたー!」

「えぇ!?誰々!」

「隣のクラスの山本君!」

「あの隠れイケメンと噂の?!すっご!よかったじゃん!」

 

純粋な祝福を送ればツクシは照れくさそうに「ありがとう」という。

他愛のない会話だ。まさしく日常と呼んでいいほどに平和な会話

それをしていればいつも通りチャイムが鳴り担任の女教師がホームルームを始めるべく入って来る。

ホームルームはいつも通り出席確認と八生には関係のない連絡事項だ。

それだけを簡潔に述べ、一時間目の授業が始まる。

 

一時間目は社会だ。

 

教師が電光板を指先で軽くたたけば、事前に入力していたであろう文字が浮かび上がってくる。

小難しい内容。早々に八生はやる気をなくし、窓の外に広がる景色を眺める。

代り映えしない景色だがキラキラとした街の照明や空に浮かぶ星の光が綺麗だからついつい見てしまうのだ。

カンっと電光板を爪で弾いた音が静かな教室に響き、八生の意識がそちらに引っ張られる。

 

「今、外に広がる闇、皆さんもよく知っているでしょう。

私達はこの世界に広がる暗闇を”夜”と呼んでいますね?

約×百年前までそんな夜を終わらせる現象が存在していたことを皆さんは知っていますか?それが”朝”と呼ばれる存在です」

 

手元にある教科書を適当に開くと、そのページは偶々今教師が言っていた”朝”が掛かれたページだった。

教科書に張られた写真には明るくて丸い、白い光が青い空で眩く輝いている。

この白い物を太陽というらしいく、青い空は夜の闇が払われた際の状態だ。

しかし八生も、クラスメイトたちも、そして教師ですらこんな光景見たことがないだろう。

なんせ何百年も昔に、失われてしまった存在なのだから。

 

「朝は夜を終わらせるだけではなく、象徴である太陽の光は植物や私達生物を生かし育てる存在でもありました。

そのため、太陽が消失し朝が消え去ったことは致命的な事態となりえたわけですね」

「なら俺達も直ぐに死んじゃうんですかー?」

「えー、なにそれこわーい!」

 

クラスの男子が笑いながら聞き、別の女子も乗っかる様に笑う。

その二人の言葉に教師は首を横に振る。

 

「いいえ。確かに私達は一度絶滅の危機に陥りました。

気温の低下、家畜の大量死、野菜の不作、酸素の枯渇

ですが現代では科学の力により、野菜も肉も限りなく自然物に”近いもの”を生み出せるようになりました。

皆さんも知っている通り、これらを総じて”アーティフィシャルフード”と言います。

また、人間は☓百年の時を経て進化を重ね、この日の当たらない環境でも生存が出来るようになりました。

ただ、その過程で人類は7割”死滅”しましたが」

(7割も死んじゃったんだ)

 

7割という人類の損失

規模が大きすぎて八生にはとても想像できないが、かなりの人数が死んだことだけは理解できた。

八生は先ほどまで見ていた窓の外を見る。

そこには大きな満月が浮かび上がる闇が広がっている。

 

(この景色が変わるとか、想像つかないなぁ)

 

頬杖を突きながら八生は思う。

なんせ、生まれた時からこの世界の光景こそが普通なのだから、この世界が変わる所など想像できるわけがない。

 

「ん…?」

 

ボンヤリと光景を眺めていると、遠くのビルに黒い何かが動くのを八生の目が捉える。

 

(なに?あれ……)

 

そして気づく。その黒い物のいる建物が少しづつ、傾いているのを。

思わず目を凝らして、よく見ようとする。

そしてその何かが再び動き

 

「!!!」

 

さっきまで曖昧にしか見えなかった存在が、その時だけ鮮明に映った。

黒い管のようなものが大量に束ねられていて、生き物のように蠢ていている謎の生物

そして、その中心には大きくてぎょろぎょろとした紅い、単眼の瞳

 

その瞳と八生の瞳は一瞬目が合う。

 

「っ!」

 

瞬間。駆け巡る悪寒に背筋が凍り、八生は思わず立ち上がった。

勢いよく立ち上がったことで椅子が横転し物凄い音をたてたが八生は全く気付いていない。

あの生物と目が合った瞬間息が詰まり、ドッドッドと心臓が早鐘を鳴らし嫌な汗が頬を伝って落ちる。苦しい。怖い。その感情だけがぐるぐると八生の脳と体を支配していた。

 

(なにあれ、なに、あれっ)

 

破裂しそうなほどに脈打つ心臓を抑えて、恐る恐る窓を見る。

 

(あ、あれ……?)

 

そこには、何もいない。

いつも見ている夜の景色があるだけ。

自分がたった今見たモノは夢だと言わんばかりの静かな景色だった。

目を何度も瞬き、もう一度見るが景色は依然として変わらない。

 

(寝ぼけてた、だけ?)

「坂谷さん、どうしました?」

「へ?あ、!」

 

思わず立ち上がったために周りのクラスメートたちは八生を見ていた。

全てのクラスメイトが己の奇行を見つめる。

その視線を感じてしまったからだろう。八生は自身の頬が熱くなるのを感じる。

だが背筋は未だ凍ったままで。嫌な音を立てる心臓をそっと震える手で胸の上から押さえつけ、引き攣らないように表情に力を込めながら笑う。

 

「あ、あはは、ちょっとトイレに行きたくて…」

「はぁ、なら行ってもいいわ。でも本来休み時間にいくものよ」

「はい。すみません」

 

別にトイレに行きたい気分ではない。だがさっきの光景が脳裏に過って集中して授業を受けれそうにもない。

一旦冷静になるためにもトイレに向かおうと足を廊下に向ける。

その時だった。ピキっと言う”何か”がひび割れたような音が耳元でなったのは。

 

 

 

「_____!?」

 

 

 

次の瞬間、パァァンという高い音と共に窓のガラスが割れる音が耳元で激しく響いた。

当然のことに八生は目を白黒させ、思わず座り込む。

突然の音。一瞬静まり返った教室

 

「ア”ッァァ”!!!!!」

「ぎゃあ”ああぁぁぁぁぁ!!」

 

そうして彼らは”ソレ”を見た瞬間悲鳴を上げた。

ちゃちな映画で見るような悲鳴とは程遠い。生物が心の底から危険を感じた際に出る本気の叫び声

人間のものかも疑わしい。動物のような鳴き声が教室に響き渡る。

 

状況がわかっていない八生は必死に状況を把握するために目を動かす。

八生が座っていた席の一つ後ろの席についた窓が割れている。

そして窓枠を踏み潰し、外から侵入してきたのは、ついさっき見たあの化け物であった。

ソイツは窓から飛び込んでくるなり、窓側に居た生徒の首を噛み千切り、あろうことかクラスメートを踏みにじったのだ。

 

「あ”ぁ”あ”あああああああああッッ?!?」

 

其れと同時に膨れ上がる悲鳴。我先にと逃げようとするクラスメートたち。

しかし逃げることは叶わずまるで蟻を踏みつぶすように、いとも簡単に潰されて行く。

 

「あ………あぁ」

 

白い教室が一瞬にして赤と恐怖で埋め尽くされて行く。

それはまるで悪い夢でも見ているようだった。

ころりと転がるトマトほどの大きさの肉塊や臓物

友人だったものから、ドボドボと止まることなく流れ出す鮮血

噴水を髣髴とさせる血液に飛び散ったそれは最近綺麗になったと教師が先月話していた教室の床や白い壁、高い天井を容赦なく汚し、足元に濁った水たまりが出来上がる。

絡みつく嫌な臭いに眩暈と吐き気がこみ上げてくる。

いっそ気絶出来たらどれだけ楽だっただろう。

そう思わせる程、目の前の光景は凄惨な物だった。

 

(なんで、さっきまで、普通だったのに…っ)

 

八生は教室の隅でガタガタと肩を震わせながら息を殺す。

周りには人だった物の残骸と、バラバラに壊れた机や椅子

気が狂ってしまいそうな光景を前に喉から溢れてしまいそうな悲鳴を口に手を当てることで無理矢理抑え込む。

代わりに流れ出す涙を制服が吸い取っていくのを見ながら、ただただ耐える。

見つからず、そのまま何処かに行ってくれと何度も心の中で何度も何度も願った。

 

「ウ”ゥゥ」

 

しかし、そんな唸り声と共に「次はお前だ」と言いたげにゆっくりと化け物は此方を向く。

化け物は血にまみれた蔦のようにしなやかな触手を動かし、一歩、また一歩近づいてくる。

ドクドクと心臓が悲鳴を上げ、濃厚な”死”が目の前まで迫っているのがハッキリと分かる。

 

「やだ、こ、ない…で」

 

ついに手の隙間から声が漏れる。

だが声は普段のような覇気は微塵もなく、か細く震えている。息をするのも苦しいほどの圧迫感が場を満たす。

背後には壁があってもう後ろに下がることすらできないと脳は理解している筈なのに体は必死に逃げる為に後退ろうとする。

 

だめ、だめなの……こんな死に方、ぜったい…!

 

どう足掻いても逃げられない現実にひゅっひゅと過呼吸のように息が浅くなり、涙が浮かぶ。

それでも彼女は決して眼を逸らさなかった。

少しでも生き残る可能性は探そうと彼女は忙しなく辺りを見る。

だが何か見つかるわけもなく。

獲物を追い詰めた化け物は狩りを楽しむかのように、見せつけるように触手を持ちあげる。

八生の目は、今まさに振り下ろされようとする触手に釘付けとなる。

そして、天井まで上がった其れが今まさに振り下ろし、八生の命を奪おうとする。

 

 

カタン

 

 

だが、衝撃は来なかった。

代わりに届いたのは小さな物音

普段の教室なら間違いなく聞き逃すほどに小さな音は、この静寂が流れる教室では、大きな音のように思えた。

無意識にその音源を探そうと八生の目は動く。音源は教室の扉からしていた。

 

(つ、くし……)

 

白く綺麗な脚を異様な方向に曲げたツクシが床に這いつくばりながら扉に手をかけている姿だった。

音が鳴った事に気づいたのだろう。彼女は顔を一瞬にして真っ青にすると、ボロボロと涙や鼻水を流しながら、化け物を見ている。

その表情に浮かんでいるのはどうしようもない恐怖と絶望だ。

 

「!」

「あ”ぁぁイ”ォォオオ」

「っ!!!」

 

化け物はツクシの方に行こうと大きな体を翻す。

その際、後ろの触手が鞭のようにしなり、教室を破壊し、ボロボロと上から屑が降って来る。

だが化け物はそんなもの気に留める事無く、獲物に顔を向けた。

化物とツクシの視線が確かに交わり合う。

瞬間、ツクシは声にならない悲鳴を上げると、ガンガンと音が鳴ることなど気にせず死に物狂いになって扉を開けようと何度も何度も引く。

 

「なんでっなんで開かないの!?」

 

扉付近には壊れた電光板や人の死体が転がっていた。

恐らくそれが扉を開けられない理由なのだろう。引っかかっているのだ。

普段の冷静な彼女ならすぐに要因に気づけた。

だが、恐怖に支配された人間は思考が短絡的となる。

死に取りつかれた彼女はただ開かない扉に叫び続ける。

その間にも化け物はツクシとの距離を詰める。

じりじりと、じりじりと

 

「早く!早く開いて!!開いてよッ!!開けって!開けよ”ォォォォ!!!!!」

 

ガンガン、ガンガンガン

長年一緒に居た八生ですら聞いたことが無いような声で…口調でツクシは叫びながら開かない扉を何度も殴る。

 

このままいけばツクシは死ぬ。

 

(どうしようどうしようどうしよう!!このままじゃつくしがっ!なんとか、何とかしなきゃ!私が、なんとか…っ)

 

目の前に差し迫る親友の死。それは先程己に向いていた死より何倍も恐ろしいものに感じられ、じわじわと汗が溢れる。

心臓が激しくなる中、彼女の右手に何かが触れた。

 

「ぎゃぁぁあ”ああああ!!!」

 

ついに化け物はツクシの目の前に辿り着いた。

ツクシの濁った悲鳴が上がる。バケモンの触手がツクシの顔を掴もうと迫る。

 

(私がっ、助けるんだ!!!)

 

手に触れたそれを掴み、立ち上がると化け物目掛けて走り出す。

 

「あ”ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

八生の絶叫に気づいた化け物が振り返る。

それと同時に八生は持っていた壊れていない椅子で化け物を殴った。

椅子の足は化け物のギョロギョロと不気味な目にぶつかる。

化け物は「ア”アアアアォェエ」という絶叫を響かせて、地面にばたりと倒れる。

そして大きな体躯はそのままピクリとも動かずに地面に沈んだ。

デカい図体に恐ろしい殺傷能力を持つ怪物はいとも容易くその命を散らした。

その呆気なさに八生は思わずぽかんとしながら足元に転がった化け物の死骸を見つめることしかできなかった。




(読者様から反応が来るのか、そもそもこの小説を読んでくださっている方はいるのかそわそわして失踪しそうになっている雑草→)(;^ω^)


【世界観メモ1】
この世界に朝はない。というか日光とか太陽っていう概念がない。
日がないから昼も存在しない。
ずっと夜が続いている状態である。

【世界観メモ2】
アーティフィシャルフードは飢餓に苦しむ人々のために開発された限りなく本物に近い食べ物…と言われているもの。
生き物が尽く死滅した世界のため、基本家畜や魚などは存在しておらず、そういう食材はアーティフィシャルフードで補われている。
その為、現代の人々はガチの豚や鶏、牛、魚、それに関連するもの(牛乳や卵など)を食べたことがない。
ただ、植物に関しては育ちにくくはあるが存在するので、野菜や果物といったものはアーティシャルフードでは賄われていない。
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