夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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戦闘シーンむずかし~ははは、でも戦闘シーン書かないとこの小説成り立たないからがんばりゅ~(^0_0^)


第二項

「名前、聞けばよかったなぁ」

 

M地区東エリアにて、一人の女は呟いた。

時間も時間なため、時折ふわぁっと欠伸を零しながら女はせっせと閉店した店の中、明日の準備を行っている。

店は和菓子屋だ。店内には彼女しかおらず、小さなキッチンで出来立ての生地に餡子をスプーンですくうとそのまま包み、木製の箱の中に敷き詰めていく

そんな彼女が思い出すのは少し前に出会った誠であった。

 

「…かっこよかったなぁ。また食べに来てくれないかな」

 

彼女は頬を緩めながら呟いた。

 

「ん…?」

 

ふとそこで表が騒がしいことに気が付く。

 

「また行方不明でも出たの…?」

 

訝しんでいると、トントンと扉が叩かれた。

 

「お店閉店してるんだけど……誰かしら」

 

小首を傾げ女は手を布巾で拭うと「はぁい」と返事をしながら扉を開いた。

 

「どちらさ___」

「無事か!?」

 

開いた先には誠の姿があった。

慌てた様子で扉に手を掛け女を見る誠に目を丸くして驚く。

 

「わ、お兄さんじゃないですか!どうしたんですか?そんなに慌てて…あっ、もしかして忘れ物とかですか?」

 

誠に会えたことが嬉しいのか女は少し嬉しそうな表情をしながら聞く。

対する誠は女に怪我がないということを確認する。

律に40分以上離れていたこともあって、すでに連れ去られている可能性はあるといわれていたこともあり、心配していたのだが、まだ襲われる前だったということが確認できて、ホッと安堵を零す。

だがここでちんたらとしている暇はない。夜縁がいつ来るか分からない分、さっさと彼女を避難させてしまいたいのだ。

誠は要件を口早に伝える。

 

「実は今、この町に不死者が紛れ込んでいて、危ないんだ。だからついてきてほしい」

「え、ふ、不死者?」

 

見れば、他の人達も次々と家を出ているのが見える。

だが、一部は「なにが不死者だ!明日の準備があるんだ!!」とか「異常者軍団が!訳の分からない妄言を吐き散らすな!!」などと言って拒否している人も数人見える。

今のところ町に目に見えた被害は出ていない。

だからこそ、信用することもなく拒否するのだろう。

 

(これが過去に大災害を受けたことのある地区などなら簡単に避難誘導が出来るっつーのに…平和なのはいいけど、ある意味それが弊害になるなんてな)

 

誠は内心舌打ちを零す。

 

「えっと私……」

「頼む!信じられないかもしれないが、ここにいたらホントに危ないんだよ!だから___」

「タイムオーバーだ」

「!」

 

律の声に誠と、少し離れた場所にいた紡はリングのボタンを押し武器を取り出す。突然武器を出した誠に女はぎょっとする。

 

「きゃっ、ど、どうしたんです!?そんなもの取り出して!」

「アンタは奥に隠れててくれ。そんで、隙見て逃げて」

「へ?どういう____」

 

それは突然のことだった。

物凄い音を立て、目の前の建物が崩れ何かが落ちてきた。

天井の屑や巻きあがった土煙で視界が濁る。

「きゃぁぁぁ!」と悲鳴を上げる女

段々と煙が晴れてきて、それが正体を現す。

降ってきたソレは人間で緩い黒の服を着ている。

だが腹から下は骨が剥き出しになっており、ラズベリーの華が咲いていた。

顔は血色が悪く、頬には逆三角のペイントが施されていて、その双眸は……赤

その男こそ、夜縁の一人である儡であった。

 

「夜縁様のお出ましって訳だ」

 

誠が刀を構えながら儡を見る。

儡は不機嫌そうな顔で誠を見る。

 

「何お前。お前に用事なんてないんだよ。僕が用があるのは彼女だ」

 

誠の背に隠れ怯える女を儡は見た。

瞬間、血色の悪かった肌は僅かに赤く染まり、柔らかい顔つきで彼は手を差し出した。

 

「ねぇ花蓮、迎えに来たよ。来るのが遅れてごめんね?さぁ僕と一緒に行こう」

「ヒッ、ば、バケモノ!!」

「化け物?花蓮は酷いことを言うね。でも仕方がないか…ずっと一人で待たしてしまったし、怒っているなら謝るから、ね?」

 

そういうが、女は半狂乱に頭を振って叫ぶ。

 

「わ、私には咲子っていう名前があります!花蓮なんて知りません!!!」

「……は?」

 

女が名乗った瞬間、儡の顔から表情が抜け落ち、低い声を発する。

その声に女だけでなく誠達の背筋が僅かに震えた。

だが儡は無表情のまま、だが瞳孔の開いた瞳で咲子を見る。

 

「………僕の事騙したの?」

「だ、騙してなんかっ」

「もういいよ」

 

儡は少し俯くと、すぐに顔を上げ

 

「お前を殺してまた探せばいい」

 

ぱちんっと指を鳴らした。すると地面がボコリと蠢く。

 

「隙見て逃げてくれ!」

 

誠が咲子を家の奥に押し込むと同時に地面から、白い物が這い出てくる……それは

 

「なっ」

 

食い荒らされた死体たちだった。

母音を発しながら動く沢山の死体たち。

その多くは、恐らく女性のものだ。

来ている服はずたずたに裂けており、そこから覗く肌は土と血で汚れ、本来の白い肌など見る影もない。

長いであろう黒髪は乱雑に切られ、誰も彼も歪な長さとなっていた。

そして黒い瞳が嵌っていたであろう部分はぽっかりと穴が開いていて、本来あるはずの眼球は見つからない。

 

「殺せ」

 

儡が言うと同時に死体たちが一斉に此方に走り出した。

 

(死体を操る能力か。どうりで死体が出ない訳だ!)

 

誠達は家の中に入らせないように死体を捌く。だが如何せん既に死んでいるために痛みを感じるはずもなく、何度だって起き上がる。

その様子が酷く痛々しく映って誠は顔を歪める。

 

「手足を切って動き止めろ!」

 

そんな誠を見て律が叫んで指示を出してくる。

足を切っても腕で動きを止めてこようとしてくるうえ、噛みついてくる死体の女たちだが流石に手足を切り捨ててしまえばもう何もできない。

死体なのだから、不死者みたく体制の能力はないのだから当然だ。

誠は歯を食いしばって死体の腕と足を切り落とし、蹴り飛ばす。

死体は奥の建物にぶつかってビクビクと動くだけで、こちらに向かってくる様子はない。

 

(死んだ後もこんな扱いかよ……)

 

キッと誠は死体たちの奥で飄々と立ち尽くす儡を睨みつけた。

 

「何その目。気に入らない」

 

目を細め、誠を睨み返す儡

直後、誠の体に何かが纏わりつく気配がした。

背後を見れば、そこにはいつの間にか巨大な骸骨が誠を掴んでいた。

建物より巨大なそれはぐっと誠の体を掴む手に力を籠める。

 

(いつの間にっ!!!)

「っ、マコちゃん!」

 

そうして誠の体が持ちあげられ、地面に投げつけられた。

誠は受け身を取るが、強い力で叩きつけられたことで一瞬息が詰まる。

 

(亜怜さんのほうが…いや同じくらい痛かった!!)

 

だが亜怜との訓練がここで生きてきた。

歯を食いしばると誠は転がりながら起き上がり、刀を構える。

 

「な、なんだよこれぇぇぇ!!!」

「いやぁぁぁぁあああああ!!!」

 

そのまま骸骨や儡に集中しよう。そう思った矢先だ。

背後から沢山の人の悲鳴や絶叫が響く。振り返ってみれば、そこには逃げることを拒否した住人たちであった。

恐らく戦闘音で外に出てきたのだろう。

 

「逃げろ!」

 

誠が叫ぶが既に手遅れだった。

混乱に陥った人間に声など届くはずがなく、皆が皆悲鳴を上げ、大パニックが巻き起こる。

 

「…家畜が五月蠅いな」

 

片耳を押さえ、鬱陶しそうにした儡は長い人差し指を揺らす。

すると先程誠を投げつけた大きな骸骨が動き始め、その大きな手を振り上げて、逃げ惑う住人に向かって勢いよくその手を振り下ろした。

誠も律も住人の救助に向かおうとするが、間に合うことはなく、手は地面に落ちた。

だが、血が流れだすことはなかった。なぜなら。

 

「……ふ、んぬぬ」

 

手が住民を押しつぶす前に紡が体を滑り込ませ、武器で受け止めたからだ。

小さな体に似合わぬ万力を持つ紡。その間に住人たちは手の下から逃げ出す。

それを確認し、紡もまた手を僅かに弾くことで隙を作りその間に体を抜いて回避する。

一度は紡が止めた。

だが住人たちがここにいる限り同じことが何度でも起きかねない。

 

「紡!!お前は住民避難に手を回せ!」

 

支援部隊もいない今、住人を誘導するには自分たちが動くしかない。

だからこそ、比較的コミュニケーションがうまく、かつ住人を守れる力を持っている紡に任せる判断を取る。

だが指名された本人は「え、で、でも!」と躊躇する。

当然だ。相手がただの花咲なら兎も角夜縁だ。戦力は多い方がいいだろう。

しかし、それよりなにより住人の命を優先するべきだと誠は考えた。

 

「お前にしかできねぇんだよ!だからいけ!!」

「こっちは問題ない」

「…っ、ぜ、絶対死んじゃやだよ!」

 

律から後押しもあったからだろう。

紡は少し迷った表情をしたものの、頷き戦線を離脱、住民の誘導と護衛に回った。

その間、二人はただ死体を切り伏せ続ける。

死後硬直が始まっている分、一体切るだけでかなり疲れが蓄積されて行く。しかもボスはまだ残っているうえに、巨大骸骨までいる。

 

(体力勝負だな)

 

タラリと汗を流しながら誠は切り伏せ前に進む。

直後、誠の背中がぞくりと粟立つ。殆ど直感だった。

左に飛べば、誠が居た位置に振り下ろされる大きな骨の手だ。

あと少し回避が遅れれば押しつぶされていたであろう威力

住民の波が引いたことで巨大な骸骨の狙いが誠達に移ったらしい。

叩きつけられた手が置きあがり、薙ぎ払う様に誠に迫って来る。

迫って来る手を刀で弾きつつ、空中に逃げれば、手は誠の後ろにあった家にぶつかり、一瞬にして家が粉砕する。

 

(あの威力に硬度…さっきはヤバかったな。あのまま握られてたら死んでた…今度は掴まれるわけにはいかねぇ)

「あ、全部切ったんだ」

 

儡がぼやく。

その言葉に顔を上げれば律が残りの死体を切り終えたらしい。

地面には大量の千切れた手足と、達磨状態の死体が散らばっていた。

儡の発言から恐らくストックが切れたのだろう。だが儡は特に焦る様子もない。

 

「まぁいいや。コレがあれば問題ないしね」

 

儡がひょいっと人差し指を指揮でもふるうかのように揺らせば、先程より速度の上がった骸骨の手が…いや、体ごと倒れ込んでくる。

広範囲の攻撃。後ろに下がろうとするが、範囲が広すぎる。

誠は完璧には逃げ切る事が出来ず、巻き込まれて地面に倒れ込んだ。

直ぐに這い出すものの下半身にずきりとした痛みが走る。恐らく今の攻撃で足首を捻るかしたのだろう。

 

(夜縁……やっぱ強ぇ………一ヶ月経ってんのに、何も変わってねぇ。違う。変わって無くても戦うんだよ)

 

悔し気に顔を歪める誠に僅かに息を乱す律

二人掛でも間合いにすら入れないことに段々と焦りが芽生え始めた。

 

「君達は僕を騙したんだ、簡単には殺さない。あの女も一緒だよ。

爪を剥がして指を折って、目玉をくりぬいて殺してやる……今までの奴らと同様にね」

 

儡の淡々とした言葉に、誠は鼻で笑う。その態度に、彼の眉根が微かに下がった。

 

「んなことさせねぇよ」

「あっそ」

 

骸骨の体が一回り大きくなり、誠たち目掛けて振り下ろされる。

骨の間を二人は走り回り、目を合わせながら連携した動きをとる。

 

「俺が前に出る。お前は援護しろ」

「了解」

 

動き出す二人を見て儡は「へぇ」と呟く。

 

(思ったより頭が回る。

特にチビの方…全然怯んでないし眼帯が動きやすいように戦況を見て動いてる。ちょっと厄介だな……まぁ関係ないけど)

 

律が迫りくる骸骨の攻撃を流しつつ活路を開き誠がその間に駆け抜ける。

だが手は一つではない。迫って来るもう片方の骸骨の手

誠は地面を滑る。その際刀を突き出す。一瞬刀の切っ先を骨に沿うように充てる。

それにより、金属の高い音が響き火花が散り、骨の軌道が僅かに上に逸れる。

骨に邪魔されることなく地面を滑り切った誠は片足で跳ね上がり、体制を戻すとそのまま駆け抜け、儡の間合いに入り込んだ。

 

(間合いに入れたっ行ける!)

 

目の前には儡の姿。その忌々しい赤い瞳目掛けて刀を振り上げ。

 

 

 

誠の肩に何かが貫通した。

 

 

 

「あ、あ”ああああああああああああ!?」

 

そのまま誠の体が地面に縫い付けられるように叩きつけられる。

だがそんなもの気にならないほどに肩が激痛を訴えていた。

燃えるような痛みに悲鳴を上げ、喘ぐ。

ダラダラと血が流れ、地面に血だまりを作っていく。

自身の頬が自身の血で汚れた。滝のような脂汗を垂れ流し、今も口を開けば漏れだしてしまいそうな悲鳴を懸命に歯で磨り潰して、唯一動く顔で自身の肩に刺さっているものを見る。

 

(っ、骨を……投げやがった……!)

 

刺さっていたのは白い骨だった。

更にその背後を見れば巨大な骸骨の肋骨が一つ減っていた。

凡そ、骸骨が自身の肋骨を抜き取って、儡へ迫る誠目掛けて投げたのだろう。

即死する可能性があったことから、死ぬことは一先ず免れる。

だが骨により地面に張付けられ動くことすらできない誠はすでに時点で詰んでいるといえた。

 

(氷雨はもう動けない。応援を呼んでからまだ5、6分程度。前回の事を考える限り応援はもうちょっとかかる)

 

律は冷静に攻撃を捌きながら頭を回す。

 

「氷雨、自力で抜けれるか?」

「っ、今、やってんだろうが…!!」

 

誠は無理矢理自分の肩に刺さった骨を引き抜こうとする。

骨は首などの骨と違って肋骨部分であり、比較的細い。だがそれでも誠からすれば十分太く重い。一人、それも片腕で押さえつけられている状態で外すのは到底不可能だ。

 

「……チェックメイト」

「!」

 

儡が一点を見て目を細めて言う。

彼の言葉と同時にパキッという音が響いた。その音は律の手に持つ斧からなっていた。

沢山の死体を切り、何度も重い攻撃を受け続けた律の斧の刃は欠け、ついに砕けたのだ。

武器が使えなくなった律に骸骨の拳がぶつかり、律の体は吹き飛ばされて地面に転がった。

その際に嫌な音が響き、律の左腕が可笑しな方向に曲がったのを誠は見る。

 

「律!っ、くそっ!!!」

 

藻掻く誠。だが勿論抜け出すことなど出来るはずもなく、無様に足掻くだけだ。

そんな彼を数秒見つめ、儡の目はゆらりと店へと向けられる。

そのまま儡は店の方へと歩き出す。

 

「まさか……!おい!まて!やめろ!!!」

 

ダラダラと汗を流しながら誠が叫ぶ。

だが儡はその声に耳を貸す訳もなく店の中に入っていく。

 

(頼む!頼むから逃げててくれ!!)

 

誠は心の中で願う。

窓からでも、裏口からでもなんでもいい。なんでもいいからそこから逃げ出して避難しておいてくれと。

そうすれば、せめてそちらに被害だけはいかないと。

だが願いも虚しく「いやぁ!」と叫ぶ咲子の声は響き、数秒後嫌がる彼女の腕を掴んで引きづり出す儡の姿があった。

腰が抜けているのだろう、彼女は立つこともできず、地面にずるずると轢きずられていた。

 

「おい!やめろ!!」

「…五月蠅いな」

「あ”ぁ”ッ」

 

敵のいなくなった骸骨はその場にしゃがみこむと、誠に刺さった骨に手を伸ばし、グリグリと抉る様に手で動かした。それにより誠は呻いて短い悲鳴を上げる。

 

「お兄さんっ!!」

「人の心配してる場合?」

「い”たい!いたいいたい!!!」

 

儡は咲子の腕に力を入れると尖った爪が白い肌を破りダラダラと血があふれ出す。

その血は白い肌を滑り、筋を作って零れ落ちる。

 

「っ、なんで、なんでこんなことっ、するの!?」

 

苦痛に顔を歪め、黒い瞳を涙で濡らしながら咲子が叫ぶ。

その言葉に儡の動かなかった眉が僅かに動き、ガッと咲子の顎を掴んで無理矢理顔を近づけた。

 

「じゃぁ聞くけど、なんで僕たちにこんなことしたの?」

「………ぇ?」

 

儡の言葉に意味が分からないと咲子は困惑を露わにする。儡は言葉を続ける。

 

「僕たちはただ普通に生きてただけなのに。いきなり親や友、最愛の人と引き裂かれて知らない施設に投げ入れられた。

苦しんで苦しんで何度も嬲られて”天人計画(てんにんけいかく)”に付き合わされて、最後は化け物に成り果てた。

人類の為?大勢の為になるなら僕たちの人生はどうなってもいいの?

多くの人の悲願を達成できるなら、その為に何人犠牲にしたって構わないの?どれだけ苦しんで泣いて死にたくなるくらいの絶望を味わわされたとしても、沢山の人たちが笑えるならどうでもいいの?

ねぇ、どうして?どうして僕たちがこんな思いをしないといけないの?ねぇ、どうして?」

「そ、それは…」

「分からないでしょ?だって僕たちは”偶々”選ばれたんだから。

君もそう。”偶々”僕の最愛の人と見目が似てた。だからこんな思いをするんだ。それだけ」

「ㇶガァ”ア”ッ!?」

 

ブチッという音と共に咲子の腕が引きちぎられた。

欠損部分からは噴水のように血が噴き出して儡の顔を赤く染める。

腕を千切られた咲子は顔をぐちゃぐちゃにする。その時の痛みからだろう。じゃばじゃばと彼女の足元がぬかるんだ。失禁したのだろう。

彼女は血液と尿の混じった液体で体を汚しながらもなお、喉を締め付けるような聞くに堪えない絶叫を響かせた。

しかし儡は蟻でも見るかのような感情のない目で彼女を見下ろすだけだった。

表情一つ動かさず、千切れた腕を投げ捨てる。

 

「あーあ、つい千切っちゃった。まぁいいか。結局は骸骨だけあればいいし…ねぇ、まだ始まったばかりだよ。ほら、気絶しないで、ちゃんとみて」

 

そうして今度は咲子の左手に手を伸ばし_____刹那、儡の腕が宙に舞った。

黒い液体を断面から噴き出しながら、手が地面に転がる。

 

「…驚いた。自分で自分の肩抉るとか……人間にそんなこと出来るんだ」

 

儡は切れた腕など興味も持たず、視線を向ける。

そこには肩を切り裂くことで骨を抜け出した誠の姿があった。

その傍らには律が立っており、その腕には涙を流した咲子を抱きかかえていた。

 

「律、止血してやってくれ」

 

誠は刀を握り、一歩前に出る。その様子に儡は嘲る。

 

「馬鹿でしょ。そんな体でどうやって戦うの?」

 

今まで大人しかった骸骨が再び活動を始める。骸骨は拳を振り上げ、誠を叩き潰そうとする。

だが誠は臆することなく踏み込み、骨と骨の空いている隙間に入り回避する。

続いて薙ぎ払うような動きがくるが、誠はあえてその骨に向かって駆け、骨を足蹴にすると前方宙返りの要領で回避してみせる。

全て間一髪だ。僅かにでも対応が遅れれば負けるのは誠だろう。

襲ってくる攻撃を躱しながら、誠は必死に思考を巡らせる。

 

(あの骨は滅茶苦茶硬い。でもあの骨を何とかしないとまた同じことの繰り返しだ。

どうにかして切らねぇと……なんか、なんかないのか!?)

 

歯を食いしばり、僅かな振動からすらくる痛みに耐えながら動き回る誠

だが彼の気持ちとは裏腹に体はだんだん鈍りだしているのは一目瞭然だ。誠が動けなくなるのは時間の問題だ。

 

「氷雨、そのまま突き進め!!」

 

最中、律の声が響いた。一瞬目を見開いた誠。だが自然と体は防ぐことをやめて走り出していた。

背後には店から取って来たらしい包丁を持った律の姿。彼は短い包丁一本で迫る骨に立ち向かう。

 

「デカくても所詮骨。間接は脆い」

 

律は素早い動きで骨の関節をうまく断ち切り、手首を落とす。これで右手は使えない……そして

 

「ついでに足も貰っとく」

 

付いている足首の関節を断ち切るとぐらりと骨が傾く。

直ぐに咲子を回収し距離を取れば骸骨が地面に崩れ落ちた。

その際包丁が砕け散ったが、もう包丁は必要ない。

 

「いけ氷雨!!!」

 

骸骨が壊れたことにより生まれた隙

誠は再び儡の間合いに入るチャンスを得る。

骸骨は使えない。直接攻撃を一切してこない当たり、恐らく儡事態に戦う能力は低い。

儡と誠の間を阻むものはもうありはしない。

 

「家畜ごときが、いい気になるな」

 

僅かに焦りを滲ませた儡は地面に刺さったままの肋骨を掴むと、誠目掛けて振り下ろした。

 

(この骨を此奴が斬ることはできない。怯んだところを殺してやる)

(この骨を俺が斬ることは出来ない。でも、斬らなくてもこの骨をどけられればそれでいい)

 

誠はグッと刀を握り…そして刀を放り投げた。振り下ろされる骨、その骨を左手の拳を殴りしめて殴りつけ軌道を外す。

 

「あ”あああああ!!!」

「なっ!?」

 

誠の悲鳴と共に鈍い音がした。拳の骨が砕け散ったのだ。

だがここで足を止めればもう動けない。骨と地面の隙間を抜け、投げた刀を右手で掴みとった。

 

「あ”ああああああ!!!」

 

そしてそのまま、刀を振りぬく。

抜いた刀は一直線に儡の目に吸い込まれ。

 

 

 

 

 

赤が散った。

 

 

 

 

 

 

「く……そっ」

「死体を一体残しておいて正解だったね」

 

誠の刀は確かにそれを斬った。

しかし切ったソレは、螺によって胴体や頭をグチャグチャにされた死体だった。

あの後儡は死体を回収し取り込んでいたのだ。そして肉壁として死体を使った。

地面に隠してあった死体を切ってしまった誠は電池が切れた人形のように力が抜け、襲い来る痛みと疲労感に地面に倒れる。

そんな誠の腹を儡は蹴る。

 

「残念だったね。あと少しだったのに」

「う”ぁ」

「でもこれで君達の死が決定した。君達を殺して、僕は蓮花を迎えに行かせてもらうよ

まぁでも、そうだね。本当はあの女が先の予定だったけど、頑張っていたしお前を先にしてあげる」

 

誠は苦しみながらも踏みつける儡を睨む。その目を見て、儡は顔を顰める。

 

「なんだよさっきから。その目は」

 

何度も何度も踏みつける。誠の顔が苦痛に歪んでいく。

それでもなお、誠の目は死んでいなかった。

どんなに痛めつけられようとも、目の光は消えていない。

だから今度は左肩を踏みつけた。

 

「ア”ァァッ!!!」

 

誠の口から濁った叫び声が上がる。

それでもなお、誠は視線を儡から逸らすことはなかった。

 

「その目が気に入らないんだよ!!!!」

 

がっと儡は誠の顔面を踏みつける。

 

「…不愉快だよ。お前」

 

そうして傍にあった骨を掴み、誠の腹を刺すために振り上げる。

 

(このままじゃ死ぬ、なにか、何かないのかよっ)

 

その光景に誠は「死」を確信し、目を瞑る。

そんな誠目掛けて儡が骨を突き立てようと振り下ろそうとして。

 

 

「や、やめてぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

 

咲子の悲鳴が響いた。

 

その声に

 

「!!」

 

”やめて、やめて……”

 

儡の中で、誰かの悲痛な声が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐちぐちと嫌な音が部屋の中に響く。

薄暗く重々しい雰囲気が流れるそこには、先程から絶え間なくブチブチと肉を噛み千切り、関節を捩じ切り、中身を掘り出す不快音が流れていた。

一室は血にまみれていた。畳のある部屋は赤黒い液体が染みついていて、鉄の匂いが充満する。

畳の上で黒い髪を振り乱し、血だまりに沈む女の姿

その女に覆いかぶさる怪物が一人

花を咲かせた化け物は、その鋭い歯で女の柔らかい肌を食い破り、内部を荒らしていく。

 

「や、めて……や、め」

 

か細い声で、化け物に手を伸ばす女

黒い瞳は涙で潤み、段々生気を失っていく。

軈てぱたりとして動かなくなったそれから顔を上げた怪物は、ふと部屋の奥にあったそれに目をやる。

それは鏡台。女がよく身だしなみを整える際に使っていたものだ。

綺麗な髪に櫛を通す姿をよく見ていたからこそ、知っていた。

だが鏡台には誰も座っていない。ただ、鏡台に移りこんでいたのは…。

 

口を真っ赤に染め、愛した女の体を貪り喰らう、醜い化け物()の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

来ると思っていた痛みが来ないことに疑問を感じた誠が目を開ければ、ピタリと腹に当たる直前で止まる骨、そして

 

「はっ………」

 

無表情のままボロボロと涙を流す、儡の姿があった。

 

「ぁ、ああ…あ、れ…僕は、僕」

 

そのただただ呆然と何かを呟き続け、頬からボロボロと顔の皮が剥がれ落ち、花が枯れ始めている儡に困惑する誠、だが

 

「今だ!やれ氷雨!!!」

 

律の言葉が、彼の体を動かした。

グッと刀を握り、儡を薙ぎ払うように退かすと最後の力を振り絞って、儡の元に駆ける。

儡は顔の半分が黒く染まり、肉が剥き出しになっている状態で「あ、ああ」とぼやきながら骨を握り誠の姿を捉える。

誠は限界が近い。ただでさえ、出血多量により頭が回らずふらついているのだ。

儡の早い攻撃をかわせるわけがない。

 

(俺の攻撃が届くのが先か……いや絶対に届かせる!!)

 

誠は足の力を込め、ぐんぐんと速度を上げる。

しかし儡が対応できない訳がない。

誠を真正面から見据えると、一旦骨を引き、思い切り誠の脇腹目掛けて振りぬく。

だが骨は、誠に当たることはなかった。

 

 

 

其れよりも先に……誠の刃が____儡の両目を切り裂いた。

 

 

 

切り裂かれ、彼は一瞬パクパクと口を動かしたが、それは言葉になることはなく、核を壊された儡の体はばたりと地面に崩れ落ちた。

同時に、骨も骸骨も砂のように消えうせる。

残ったのは儡の死体の、彼に操られた死体のみだ。

 

「た、倒せたの……?」

 

肩に布を巻きつけた咲子が信じられないものを見るように小さく言う。

その言葉に律が一つ頷くと、咲子は「す、ごい、すごい…っ」と安堵の涙を流しながら声を上げる。

自身の腕の痛みなど忘れた様に…ボロボロと泣く咲子

律も戦闘が終わり、気が抜けたのか地面にばたりと倒れこんだ。

その顔は無表情だが、どこか晴れやかに見える。

 

「……」

 

そしてそんな二人とは対象に、誠は地面に座り込むと……ただただ儡の死体を見つめていた。




祝、儡くん討伐おめでとうまこちゃぁぁぁぁん!!!今日はパーチーよぉ!!\(^o^)/

はい、次回二章ラストです。はやいねぇ
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