夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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最近雑草は気づいたんです。雑草のキャラにつける名前って結構難しいってことに。
でも仕方ないじゃないですか!特殊な漢字とか名前とか付けたくなっちゃうんですよ!!
なんでかって?かっこいいからだよぉぉ(なお、センスは中二で止まっているもよう)


第三項

「おや」

 

いつも通りの廃墟の中、そこらに捨てられた巨大な機械に腰を下ろしていた巫蠱は背筋に伝う悪寒を感じて顔を上げた。

彼の目の前に集う同胞たちも同じものを感じ取ったのだろう。同じように顔を上げて固まっている。

 

「どうやら儡が死んでしまったようだ」

 

巫蠱が言うと絡もまた意外そうな表情を浮かべ「真逆あの儡死ぬとは思わへんかった」と零す。

仲間からこれ程の評価を受ける程度には儡の実力は高いものだった。

強固で攻撃性の高い骨と死体を操る儡が殺された。それだけで人間側がいかに脅威であり厄介かを彼らに悟らせるには十分と言える。

 

「全く人間はホンマに厄介や」

 

「で?どないすんの?」と子禽が巫蠱に聞いた。同胞が一人死んだ。

つまり彼女のいう「どうする」というのは撤退するか、戦うかという質問であった。

巫蠱は静かに目を細めて笑う。

 

「勿論このまま続けるとも。死んだ儡の為にも、まだ引く時じゃない。そうだろう?

それに、何百年も同じことの繰り返し…いい加減嫌気がさしてきた頃だ。

そろそろ神に逆らう愚かなる人間に鉄槌を下さなくてはね」

「確かに、ええ加減決着はつけたいよなぁ」

 

絡も彼の意見に同意する。巫蠱は満足げに頷いた。

 

 

 

「ねぇね。ライにぃしんじゃったの?」

「そうよ」

 

螺は婁邪を膝に抱え、普段は子禽たちが座っている階段に腰を下ろし、上から彼らの会話に耳を傾けていた。

話を理解できる年齢である螺。対してまだ難しい話を理解することができない婁邪は螺の膝の上で不思議そうに首を傾げながら螺を見上げた。

 

「ねぇね。もうライにぃにあえないの?」

「ええ、会えないわ。だって死んじゃったんだもの」

「えほん、もうよんでくれない?」

「そうね。死んだ奴には無理じゃないかしら」

「おにんぎょうごっこ、もうできない?」

「そんなの、アタシがいくらでもやってあげるからいいじゃない」

「……ねぇね。かなしい?」

「悲しくなんてないわ。だってアタシ……アイツの事、嫌いだもの」

 

螺の表情はどこか暗く見える。建物の影のせいかもしれないが。

だが婁邪の頭を撫でる手つきは優しかった。

優しいが、微かに震えていて…婁邪の被り物に触れて、小さく音を立てる。

婁邪は再び螺を見上げる。

 

「ねぇね」

「何よ」

「こわい?」

 

婁邪の言葉にハッとしたように螺は婁邪を見る。

婁邪はいつも通り、不思議そうに螺を見上げるだけ。被り物があって、婁邪が一体どんな表情を浮かべているのか螺には想像もできない。

ただ、彼女は

 

「怖くなんてないわ」

 

少し顔を引き攣らせながら首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

遅れて到着した応援の隊員に訳を説明し、回収作業が始まった。

腕をもがれた咲子はあの後気を失い、支援部隊の隊員に運ばれ現在は治療を受けているそうだ。咲子の出血量が不安ではあったが命に係わるほどのものではないと言っていたので、ひとまずは安心してもいいだろう。

そうして誠と律も現場を後にし、本部に戻った。

 

「聞いたわよ誠君。凄いわね」

 

肩を怪我した誠の治療をしてくれている亜怜が彼をねぎらうように言葉をかける。

だが誠は曖昧に笑って流すだけだった。

夜縁という強敵を葬ることに成功したというのにも関わらず誠の中で勝利への喜びはひどく薄いものだった。

 

最後の戦闘、あの時儡は手を緩めていた。

それを相対した誠だけは気づいていた。相手が戦う気を失っていた、だから誠は勝てただけだった。

その意図は分からない。なんせ本人はとっくにこの世を去っているのだから。

ただ、彼の行動が誠の心をざわつかせた。それだけ。

 

「あの、亜怜さん」

「なにかしら?」

「…天人計画って、なんですか?」

 

儡は天人計画に巻き込まれたからこうなったと言っていた。

誠はその計画の内容を知らない。当然訓練学校でもそんな言葉は習っていなかった。

誠が知っているのは『不死者は”ホワアンヘル”と言われるウイルスに感染した』ということしか知らされていない。

それより深い事情を何も知らないのだ。

だがこの仕事を続けるなら、知るべきだろう。

誰に言われるまでもなく誠自身が強く思った。だからこそ亜怜に聞く。

亜怜はその言葉に僅かに目を見開くと「夜縁に聞いたの?」という。

それは質問というよりかは確認に近かった。

誠は一つ頷く、亜怜は「そう」と少し困ったような表情で呟いた。

 

「どうしても知りたいのよね?」

「はい」

「……いいわ、貴方には聞く権利があるもの」

 

亜怜は膝の上で拳を握り、目を伏せ、ぽつりぽつりと天人計画について話し出す。

 

「天人計画は、別名”不老不死計画”とも呼ばれているわ。

昔の人は特に不老不死という存在に強い憧れと可能性を感じていたの。

でも中々うまくいかなくてね。そんな時、とある植物が手に入ったの。

その植物は花なのか木なのかは定かではないけれど……一番知られているのは花ね、一輪の華

その花の蜜を啜れば忽ち病は治り、花弁を晒した水を飲めば寿命が延びる黄金の花

その花を発見した研究者たちは天人計画を本格的に始動した。

その花を元に作ったウイルス…ホアアンヘルを使ってね。

その際、実験体が必要となった。何百もの人が犠牲になったと言われているわ。

そしてその中でも、生き残った非検体がいた………それが夜縁よ」

「夜縁が…………そんな実験に」

「夜縁の一人が自身の命と引き換えに世界を闇へと閉じ込めた。

そして、残った死体を残りの夜縁に食わせた。

その血肉がほんのわずかにでも、生きている夜縁の中に流れている限り、絶対にこの闇は晴れない…そういう呪いをかけたの」

「…」

「日光が届かなくなったことにより、材料となった植物は全滅。

天人計画を進める人間はもういないし関係者も闇に葬られた。

資料を読めるのは隊長クラスの人間だけなの。だから私から聞いたことは内緒にして頂戴ね」

 

そう言われて誠は首を縦に振る。

 

「あの、部屋に戻ってもいいですか…?」

 

誠が亜怜に聞く。彼の質問に亜怜は何処か呆れたような反応をして溜息を吐く。

心情を言葉にするなら「やれやれ」という感じだ。

そうして彼女は「肩は絶対に動かしちゃ駄目。他にも打撲痕とかもあるから暫くは絶対安静。それが守れるなら戻ってもいいわ。ちょっとでも練習しているのを見かけたら療養室に縛り付けます」とにっこりとした笑みを浮かべ太い釘をぶっ刺した。

彼女の言葉に誠は「は、はい勿論です。ありがとうございました」と頭を下げると治療室を出る。

そうして自室への廊下を歩く。

廊下に人気はなく、静かだ。

だからだろう、誠の頭の中は儡の言葉が思い起こされ、そればかりで思考が埋め尽くされた。

 

”僕たちはただ普通に生きてただけなのにいきなり親や友、最愛の人と引き裂かれて知らない施設に投げ入れられた。

苦しんで苦しんで何度も嬲られて”天人計画”に付き合わされて、最後は化け物になりはてた。

……人類の為?大勢の為に僕たちの人生はどうなってもいいの?”

 

結局のところ、夜縁は被害者だった。彼らの怒りはもっともだ。

でも、だからといって関係のない人間を殺すことがいいことであるわけがない。

だが、彼等は望んでも無い化け物に無理矢理変えさせられた。

人間であることを、無理矢理やめさせられ、家族や友人、恋人と引き離された。もし自分がそうだとすれば………そもそも自分は、そんな彼らを…。

 

パチパチパチパチ

 

思案する誠の耳に、乾いた拍手の音が響く。

顔を上げれば廊下の先にはいつの間にか一人の男、天満善が壁に凭れ掛るように立っていた。

その表情は笑顔であり、ぱちぱちと拍手をしている。

彼は最後に一度ひと際大きく手を叩き、口を開いた。

 

「いやぁ聞いたよ。夜縁を一体葬ったんだって?とても喜ばしいことだ。うんうん」

「……」

「あれ?あんま嬉しそうじゃないね」

 

善は誠の傍に一歩、また一歩とブーツの音を響かせながら近づいてくる。

 

「君は宣言通り、自身と彼女の価値を見事示した。

生きているべきではない害が一匹この世界から取り除かれ、世界はまた一歩平和に近づいた。イイ事じゃん、ほら、喜びなよ」

 

善のいう通りだ。夜縁の被害にあう人が減る。それは喜ばしいことのはずなのに、誠は喜べない。

返事をしない誠に、善はその顔を覗き込んで笑う。

 

「それともなに?不死者に同情してるわけ?自分たちの行った虐殺を棚に上げて未だに被害者だと訴えかけるイカレ集団に?」

「……」

「図星かよ。笑えんね」

 

心底馬鹿だと言いたげな声だった。

どこか子馬鹿にした声色に誠の眉は僅かに反応する。

だが食って掛かることはせず、善の横を抜け自室へ行こうとする。

 

「一個聞いていい?」

 

善の言葉に足を止める誠。だが振り返ることはしない。

 

「君が夜縁を殺したことで、君の目標である__坂谷八生の価値を証明する事に一歩近づいた。

いや、もう既に十分な成果を上げたと思うんだけど…君、自殺するわけ?」

「……いや、しない」

「なんで?」

「…なんでって…まだ夜縁は残ってる。不死者も…」

「へぇ、今の君に出来るの?敵に同情して、本当に倒していいのかなぁって迷ってる君に?」

「…出来るかじゃない。やるだけだ。そしてアイツ等を全滅させる……俺は元々、そういうつもりで此処に来たんだ。当然だろ」

「そりゃいい目標だ!なら、その後は?」

「……は、?」

 

そこで初めて誠は善の方を振り返ってその顔を見た。

善は相も変わらず軽薄な笑みで笑っている。だがその目は笑っていない。

心の中すらも見透かしてしまうんじゃないかと不安になるほどに綺麗な紫の瞳が誠を捉えた。

 

「夜縁も不死者も死んだ世界で君は如何するの?」

「!」

「生きる意味となっている目標を終えた君は、今度こそ自殺しちゃうのかな?それとも……誰かを理由にうだうだと生き続けるの?」

 

その言葉に誠は目を見開いて固まった。

 

「夜縁を討伐してくれたご褒美代わりにアドバイスあげよう。

他人を理由に生きる生き方は長生き出来ないし、他者を理由に定めた目標は大抵直ぐに潰える。

どれだけ他人の綺麗な言葉で自分を塗り固めても、中身が詰まって無きゃただのゴミだ。

君、このまま他人任せで生きてたら死ぬときも他人を恨んで死ぬ羽目になるよ」

「っ!!」

「他人を理由に生きるのは楽だけど、思い返した時に虚しくなるから止めた方がいい…まぁ選ぶのは結局君だからね。どうでもいいんだけど」

 

そういうと善は「じゃぁゆっくり休むんだよ」とすれ違いざまに誠の頭をぽんぽんっと叩いてさっさと立ち去って行った。

 

一人廊下に取り残された誠は壁に凭れ掛かるとずるずると地面に座り込み、蹲る。

俯いていて顔を見えないモノの誠はぼそぼそと「違う」「だって」「それは」と呟き続ける。

脈絡もなく、ただ、自身の精神を守るために必死になって言葉を紡ぐ。

 

「……俺は、そんな……じゃ、なくて……ただ、俺…………」

 

淀んだ瞳がゆらりと揺れる。

 

「誠君!?どうしたの!?」

 

そんな亜怜の驚いたような声が聞こえてきたが、誠の耳には届いていない。

彼は頭を抱えながら小さく、小さく呟いた。

 

「おれ、なんで…これから、いままで…おれ、なんのために、生きて………」

 

その疑問に答える者はどこにもいやしない。

彼の小さな声は廊下の闇へと溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____芽生エタ苧環ハ滅紫二染マル




【氷雨さんへ。

突然のお手紙申し訳ありません。驚かれましたよね?
私は気を失っていて、貴方はあの場から居なくなっていたため感謝を伝えることが出来ず、この手紙を通じてどうしても感謝の気持ちを伝えたく、今この手紙を書いています。
あれから一週間が経ちました。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えています。
あの化け物と遭遇し、腕を取られ、苦しんでいた私をあなたは必死になって助けてくれましたよね。

あなたのおかげで、私は命を繋ぐことができました。そのおかげで今、生きていることを決して忘れません。
いつか町の復興が終わった際はまた必ず和菓子屋を始めます。
その時は、よければ食べに来てください。
またいつか、お会いできることを心より願っています。


咲子より】
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