夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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紡と充幸のオハナシ。雑草、この二人好きなんですよねぇ。なんかちょっとほんわかする…気がする。


第二項

充幸(みゆき)は支援部隊の副隊長を務めている。

仕事は主に隊長である亜怜(あれん)の補佐。だが勿論それだけではない。

書類整理や避難誘導の指示、怪我の手当、亜怜が不在の場合の来客・他部隊への対応などといった仕事もこなす。

だが実際に充幸が務める仕事といえば、チームメイトの療養や死亡により一人になってしまった人が新たにペアを結成する。若しくは復帰するまでの間、共に任務に就くといった仕事の方が圧倒的に多いといえる。

 

支援はもしもの時のために戦闘もこなせる部隊、と表向きはなっているが

実際に戦闘に出たことのあるものは一割にも満たない。故に戦闘ができる人間は率先して戦闘部隊の面々のサポートに向かわされるわけで。要するに彼女もまた、戦闘ができる人間だからこそ、副隊長でありながら戦闘関連の仕事が多いのだ。

 

「この子のチームメイトは現在療養中で流石に新人一人で任務に行かせるわけにもいかなくて」

「私に話が回ってきた訳ですね」

 

現在、充幸は戦闘部隊部隊長である日向(ひなた)に呼び出された。

「仕事の件で話がある」と言われ、向かえば目の前には呼び出した彼と、小さな男の子が一人

充幸は少年に見覚えがあった。この間の緊急会議にて呼び出された隊員であり、夜縁討伐に貢献した一人だ。

 

「初めまして!筑波紡です!よろしくお願いします!!」

「初めまして、皇充幸といいます」

 

お互いに挨拶を交わす。

彼のチームメイトの二人は夜縁の殲滅に当たり、大けがを負ったため復帰はまだ先らしい。

紡はというと、住民を逃がすことに尽力していた為、かすり傷程度で済んでおり、直ぐに復帰が認められたのだ。

 

「すみません。忙しいのに」

「いえ、仕事なので気にしないでください」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

「はい!任せてください」

 

笑みを浮かべて感謝を述べる日向(ひなた)に充幸は、少し頬を染めながらも務めて冷静に言葉を返す。

そうして日向(ひなた)が去って行ったあと、おにぎりを頬張る紡を尻目に充幸はデバイスを開き、今回彼にきた任務の内容に目を通す。

 

「F地区南エリアにある館の捜索、ですか」

 

この館は充幸も一度聞いたことがあった。

名前は確か”香忘館(こうぼうかん)”……なんでも何十年も昔に持ち主が行方不明になったっきり取り壊すことも無く放置されている館だとか。

報告によれば館に肝試しに入ったっきり人が帰ってこない。変な呻き声や軋む音が聞こえてくると、これまたオカルト染みた話が多く寄せられている。

 

(後者は木が湿度の変化で縮んだり、膨張したりするときの音の可能性が高い…でも前者は気になりますね)

 

そもそもそんな所に肝試しに入るなと言いたいが、やはり人間といものは”駄目”だとか”危ない”だとか言われるとカリギュラ効果や心理的リアクタンスが働いてしまうものなので、最早仕方がないのだろうと充幸は諦める。

 

「では筑波くん。早速行きましょうか」

「うん!」

 

声をかけるとおにぎりを大きな口で頬張ると、F地区へ向けて本部を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼とした木々の間に抱かれるようにして、その屋敷はあった。

 

「大きくはないけど…凄い立派な屋敷だね」

「ええ、何でも持ち主は有名な資産家だったらしいので」

 

F地区の件の屋敷はかなり山奥に、隠れる様に立っていた。

まるで廃墟のように荒れ果てた庭には雑草がボサボサと生い茂り、手入れをする人間などもういないとでも言うかのように無造作に放置されている。門の鉄柵は錆び付き、腐って折れ曲がっている部分もあるほどだ。

だがどれだけ朽ちていようが外観の装飾や門のデザインから、かなりいい物だったことが伺える。

 

「それでは、早速中に入りましょうか」

「うん!」

 

「探検みたいで楽しみ!」なんて緊張感のない発言をしながら館の中に入っていく紡。その後に続いて充幸も中に入る。

内部は床が罅割れ、そこから雑草が生えてきていた。匂いから埃と湿気によりカビが発生しているのが分かる。

玄関の正面にはホール。左右にはそれぞれ別の部屋に続いているであろう廊下

そしてホールの右奥には二階への階段と、左奥には一つのドア。

玄関を抜けてホールの中心に向かう。

足元には天井から落ちたであろうシャンデリアの残骸が散らばっていた。

厚底のブーツであるため、気にすることはなくシャンデリアの破片を踏みつけ奥へと進んでいく。

 

「一先ず一階から見て回りましょうか」

 

充幸の言葉に紡は頷き、一部屋ずつ巡回する。初めに入った部屋は書斎だった。

置いてある小さな机や椅子は全て朽ち果てており、壁際には本があったと思われる跡がシミとなって残っていたり、ボロボロの本が数冊床に落ちている。

小さな机に置かれた花瓶の花は茶色に変色して枯れている。

花瓶もまた、水はなくなっており、水垢がそこに張り付いているのが見える。

 

「ねぇねぇ!」

「なんですか?」

 

途中、突然紡に話しかけられる。

充幸が警戒しつつも返答すれば彼は「ミユさんは亜怜さんって同じ苗字だけど親戚なの?」と聞いてくる。

その言葉に充幸はムッとした表情で振り返る。

 

「ミユってもしかして私の事ですか?」

「うん!」

 

キラキラの笑顔で頷かれる。その様子から悪気はなく、ただただ純粋に渾名という名目で付けているというのが分かる…のだが、親しくもない相手。それも目上に対してその呼び方はどうなんだと充幸は無意識に顔を顰めてしまう。

 

「筑波くん。あまり渾名を勝手につけない方がいいですよ」

「え、なんで?」

「渾名は仲のいい者同士で呼び合うものでしょう?私は貴方と仲良くありませんから」

「でも僕は仲良くなりたい人と仲良くなるために渾名で呼ぶようにしてるんだけど……ミユさんは僕と仲よくしてくれないの?」

 

キョトンと空色の大きな瞳を丸くして、紡は自身より背の高い充幸を見上げる。

そんな彼から視線を外し、充幸は「しません」と突き放した。

 

(彼の同期が復帰するまでの関係。性別も違う、年も離れてる、部隊も違う、立場も違うのだから当然でしょう)

 

部屋を出て、他の部屋のドアノブに手を掛け乍ら内心愚痴をこぼせば、紡は「そっかぁ……じゃぁ充幸さんって呼ぶね」と、少し悲しそうな声で言う。

 

「それと、基本立場が上の人間には敬語を使った方がいいと思いますよ」

「うぐっ…あい」

「で、私と亜怜さんの関係……でしたっけ?」

「あ、そう!親戚?…ですか!」

「ええ、親子ですよ」

「親子ぉ!?」

 

驚いたように目を見張る紡に充幸は少し笑みを浮かべる。

 

「亜怜さんがあまりに若々しくて驚きましたか?そうですよね、亜怜さん物凄く美人ですからね」

 

別に自分のことという訳でもないというのに、彼女は何処か誇らしそうな顔で言った。

紡は何か腑に落ちないように首を傾げる。

 

「うーん、それも吃驚したんですけど……あんまり似てないですね」

「え?」

「亜怜さんと充幸さん」

 

紡の疑問に充幸は「ああ」と納得したように頷く。

 

「私と亜怜さんは本当の親子ではないので」

「違うの?…ですか!」

「私は養子です」

 

充幸と亜怜は血が繋がっていない。所謂義理家族というやつであった。

 

「てことは充幸さんって施設出身?」

「いいえ。私にはちゃんと家族がいます」

「え、じゃぁなんで……」

「…今から五年以上前の話ですよ。私は家の決定で養子に出されることになったんです。

最初は、とある男性の家に行く予定だったんですが、引き取られる前日に亜怜さんが私を引き取りたいって言ってくれたんです。態々私なんかの為にお金を大量に払って…」

 

その日のことは今でも思い出せた。

これから自身を養子に迎え入れる男にどんな目にあわされるのか恐ろしくて身を震わせる充幸の前に現れた女性

「この子は私が引き取ります」と、そういって充幸の手を優しく握りしめ「これから私たちは家族よ」と微笑みかけてくれた彼女の笑みは彼女の網膜に今でも焼き付いている。

 

「亜怜さんとの生活は、私にとって夢のような生活で……亜怜さんは出来の悪い私にも優しくしてくれますし、他人の私に…本当のお母さんのように接してくれるんです。

だから私は……亜怜さんの事が大好きで、あの人に一生尽くそうって思うんです」

「そっかぁ、じゃぁソレも亜怜さんから貰ったの?ですか!」

 

紡が何気なく、充幸の右手の人差し指にハマったソレを指さす。

人差し指には粗雑なオレンジの小さなビーズで作られた指輪、中心には一つ、白のポインセチアのビーズが嵌めっている。

それに目を落として、充幸は目を伏せると小さく首を振る。

 

「……違いますよ。これは亜怜さんがくれた物じゃない」

「そうなんです?」

「はい……実は亜怜さんから他の指輪などをいただいていまして。

こんな粗末な物など捨てて、そっちを嵌めたいんですけどね、なかなか…」

「そっか、大切な物なんだね!」

「……そういうんじゃないですよ」

 

紡の言葉に苦々しい顔で答え、部屋を出る。

その部屋もまた、異常はなかった。それから二人で一階を一通り見て回った。

何所も何十年も使われていないだけあって、床は凹み、壁は黄ばみ、どこもかしこも埃の匂いが漂っている。

ただそれだけ。不死者の気配はなく、行方を晦ませたらしい肝試しに入ったという人の姿もない。

 

「ここが一階最後の部屋ですね」

 

そうして充幸たちはホールの左奥、豪奢なドアの前に立つ。

ドアを開けようとすると、傍の壁にかけられたプレートが目に付く。そこには英語で【DINING】と書かれていた。

 

「食堂?」

「え、ご飯!?」

「ないですよ。あったとしても何十年も前のモノなのでお腹を痛めます」

「それもそっか」

 

いうなり紡はキャラメルを取り出し口に入れる。充幸にも「一ついる?」と聞けば充幸は「敬語外れてますよ。あといりません」と断る。

そして、警戒を滲ませながら静かに扉を押し開いた。

扉は老朽化により軋む音をあげながらも問題なく開いた。途端にカビ臭さと血生臭さの入り混じった匂いが鼻孔を刺激した。

 

「うわっ!?」

「………」

 

顔を顰め乍ら真っ暗な室内に足を踏み入れる。そうして、さっと室内に視線を巡らせる。

部屋の中央に、長テーブルが一つに簡素だが装飾の施された椅子が5つ。奥の開け放たれた扉からは調理場らしき部屋がうっすらと見える。そして

 

「っ!」

 

長テーブルに掛けられたテーブルクロスを真っ赤に染めて、その上に横たわる…否、無造作に放り投げられたかのような”何か”に視線が釘付けになる。

ところどころ白い棒のようなものが露出し、それに赤黒い塊がこびりついている。

そしてその”何か”は一つではなかった。

テーブルの下、椅子の影、絨毯の隅……いたるところに積みあがったそれらは揺らめくリングから発せられた明かりに暗い影を落としていた。

充幸はその光景に思わず一歩足を下げてしまう。代わりに隣にいた紡が一歩前に出る。

特に気にした様子もなく、それに近づいていく彼の背中を見つめる。

やがて彼はテーブルに辿り着くと、黒い塊を躊躇することなく拾い上げた。

 

「つ、筑波くん……それは」

「人の首だね…です!」

 

紡はテーブルの上に転がった黒くて丸い物を抱え上げたままに充幸のいる扉の方を向く。

それによって黒い物に光が当たり、先ほどより鮮明に見える。

血にまみれた頬、不自然につぶれた額、千切れた顎……そして、虚空を見つめる生気のない濁った瞳

精密なマネキンなどではない、正真正銘本物の殺された人の生首だった。

殲滅隊にいる以上、死体は今まで何度も見て来た。しかしここまで凄惨な物は初めてであった。

一体何人もの人がこの部屋にて殺されたのだろうか。その惨さに、充幸の背中にべっとりとした汗が噴き出る。

 

「充幸さん、だいじょぶ?」

 

首を机に置いて紡が顔色の悪い充幸に尋ねる。

 

「え、ええ……筑波くんは平気なんですか?」

「見慣れてるから」

「見慣れてる……そう、ですか」

 

紡は戦闘部隊だ。充幸も死体処理の際に沢山の死体を見て来たが、一般戦闘部隊で戦う紡は実際に生きている人が不死者に食べられる光景を何度も見ている。

実際に生きていた人間が、目の前でその命を散らす瞬間を、その際に響かせる断末魔を、何度も。

 

「顔色悪いし、ちょっと休む?…です?」

「いえ、私は平気です。それより二階に____」

 

そこで、死体の山が蠢くところを充幸の目が捉えた。

千切れ、腐り、ボロボロに溶けだしているソレ、鉄錆色に染められたテーブルクロス

轟音と共に目の前に現れた”何か”はそれらを悉く吹き飛ばして這い出して来る。

直ぐにリングのボタンを押して武器を取り出す。リングから出て来たのは一本の剣だ。

亜怜の両手剣に近しいデザインが施された剣を握り締め、何かを睨む充幸

やがて、姿を現したのは大きなカマキリような体に男の顔面が付いた人面虫であった。

その男の顔には見覚えがあるる。この館の持ち主として写真に乗っていた人物だ。

 

(行方不明じゃない…不死者になっただけ)

 

不死者は腕を振り上げて振り下ろす。直ぐに紡を掴んで逃げれば、ビュウと鋭い突風が吹いた。

続いて鳴る重低音と共に、フローリングの床が真っ二つに断裂する。

 

(突風を飛ばして攻撃してくるタイプ……気を付けないと一瞬で切り刻まれそうですね)

 

攻撃を警戒しながら剣を構える。相手は不死者、見つけたなら殲滅する…それだけだ。

 

「合図を出したら一斉に仕掛けます。準備はいいですね」

「おっけー!です!!」

 

緩く返事する彼も武器を取り出し構える。がば、と不死者が跳躍する。

椅子もテーブルも死体も、何もかもを薙ぎ払いながら不死者は此方へ一直線に向かってくる。

 

「行きます」

「あい!」

 

直ぐに充幸が切りかかり、紡が小柄な体を利用して壁を駆け空中に飛び上がる。

鎌を振って応戦しようとする不死者の腕を叩き潰しながら紡のツヴァイハンダーが核のある顔面に迫る。

だが不死者も黙ってやられるわけがない。即座に羽を広げ、狭い館の天井へ飛んだ。

空振りをした紡の体が宙に投げられる。

 

「ギシャァァァァァァア!!!!」

 

空気を揺るがすほどの雄叫びが響く。

 

「筑波くん下がってください!」

 

直ぐに叫ぶ充幸。だが紡は空中で身動きが取れない。その間に不死者は羽を閉じて急降下すると無事な手足をブンっと鞭のように降る。瞬間、紡の袖が千切れる。

 

「わわわ!?」

 

袖の布と共に肉が裂けたのか血が飛ぶ。

それに驚いたのだろう、紡が悲鳴を上げ、地面に落下する。

その間も紡に襲い掛かる斬撃

 

「ちょっ、充幸さん!この部屋狭すぎ!一旦部屋でよう!!」

 

慌てながら紡が部屋の扉に走る。確かにここで戦うには狭すぎるだろう。

充幸が直ぐに食堂を出ると転がる様に紡が出てくる。そのあとすぐに不死者も扉をぶち破る様にして追いかけてくる。

 

(今回の不死者、かなり動きが速い……早急に決着をつけないと)

 

身を反転させて攻撃を仕掛ける。

だが不死者は器用に攻撃を捌き、此方に斬撃を飛ばして攻撃を繰り出した。

すぐに身を引くことで直撃は間逃れたが掠ってはいたらしい。つう、と生暖かいものが首筋へと落ちた。それを拭う。

その間も紡が頑張って攻撃を仕掛けてるものの、先程同様空に飛んで躱されるか、寸前で足を犠牲に攻撃を受け止められてカウンターを仕掛けられてしまっている。このまま無策で突っ込み続ければジリ貧となるのは目に見ていた。

 

「筑波くん!」

「な、なに!?」

「一旦引いて形勢を立て直しましょう」

「りょ、了解!!!」

 

不死者の攻撃を弾くと不死者の足を数本捥ぎ取ってから紡は走り出す。充幸も直ぐに追いかける。

そして突き当りの部屋に入り込み、息を整える。

 

ここからどうするのが正解か、どうすればあの不死者を殺せるか。

 

そう考えを巡らせていれば紡が充幸の顔を覗き込んだ。

 

「どうかしましたか…?」

「あの、さ」

 

何処か言いにくそうに視界をウロウロと彷徨わせる紡は、やや間を開けてから口を開く。

 

「もしかして、あんまり殲滅作業したこと無い?」

「……」

 

其れはつまり、自分が役立たずだと言われているのだろう。

充幸が無意識に顔歪めたのを見て紡は慌てた様に「言葉が足りてなかった!」というと、そっと充幸の手を両手で包むように握る。

 

「えっと、ずっと手が震えてるから!……怖いのかなぁって思って…です」

「…え?」

 

言われて、充幸は握られている手を見る。

充幸の手は、本人ですら気づかない程に小刻みに震えていた。

 

「……慣れてますから。だから心配しないでください」

「でも」

 

心配げな顔をする彼にもう一度「大丈夫です」と充幸は念を押す。

と、同時に充幸は紡の頭を掴むと一緒に地面に伏せた。

直後、バキバキという音と共に目の前の扉が壊れ、天井や壁が崩れる。顔を上げれば不死者が立っていた。

 

(もう来た…!結局打開策は閃かない。応援を要請する?夜縁でもないのに?

駄目、皆夜縁が出てるせいで忙しい。

夜縁が出てきた時、そっちに手を回せなくなってしまったらもっと不味い。私達だけでやるしかない) 

 

充幸は紡から手を離し耳打ちする。

 

「私が不死者の気を引きますので、筑波くんは背後から回って奇襲してください」

「え、でも」

 

そんな声が聞こえたが、充幸は刀を抜いて不死者の足を切り隙間を縫って廊下に出る。

不死者は充幸の方を見ると追いかけるべく走り出す。

瞬間、頭の上を一対の鎌が高速で薙いでいった。

寸前で気づき、体制を下げたことで何とか直撃は間逃れたたが、やはり攻撃が早い。

部屋の壁を破りながら、こちらを目掛けて一直線に駆けてくる不死者。その合間合間に斬撃を飛ばしてくる。

 

充幸は戦闘要員としてよく駆り出される。

だが彼女が相手をすることは少なく、大抵戦闘部隊の人間が対処する。加えて相対するのは大抵花無しだ。

花咲との戦闘経験は少ない。だからだろう。

充幸の体は段々と傷が増えてボロボロになっていく。

それでも充幸は足を止める事無く走る。

ここで足を止めて死んでしまえば亜怜に恩返しができなくなってしまう。

 

 

”ねぇ充幸、支援部隊に入らない?”

 

 

亜怜は充幸にそういった。

 

 

”隊員の手当てをしたり街を復興したりするお仕事なのよ”

 

 

亜怜が充幸を誘ってくれた。

その事実が充幸にとっては何よりも嬉しくて、一も二も無く頷いた。

そして足を踏み入れた世界に絶句した。

死と恐怖に溢れた世界だった。こんな話、聞いてなかった。

化け物と戦うなんて聞いてない。死体の処理何て聞いてない。

こんなに……こんなに恐ろしい場所だなんて、充幸は露にも思っていなかった。

 

 

”充幸は真面目で、頑張り屋のいい子ね”

 

 

でも充幸は居座り続けた。

副隊長に任命された際、贔屓だと他の隊員に陰口をたたかれたって泣かなかった。難しい仕事でも必死に頑張った。

 

どうして?亜怜が必要としてくれたから。

亜怜に落胆されたくないから、亜怜と一緒に居たいから。

 

 

”充幸は頑張れる子だものね”

 

 

彼女の気持ちに応えること、理由はそれだけで十分だった。

 

「グルルルルァァァァ!!!!」

「っ!」

 

横腹に鋭い痛みが走る。

まだだ、まだ、まだ。囮にならないと、気を引かないと。もっともっと頑張らないと。紡が殲滅できるように。

 

「あ”っ」

 

突如、視界がひっくり返る。

足元の床が腐って穴が開いたのだ。足を取られ、そのまま地面に這いつくばる。

急いで床から足を抜いて立ち上がろうとするが既に不死者が頭上に覆いかぶさった。

生臭い息が顔にかかって気持ちが悪い。咄嗟に抜き放った剣で迫りくる鎌を防いだ。

だが相手は不死者、その力は人体を優に凌駕している。

ぎりぎりと刃が牙と擦れて火花を散らした。もう腕に力が入らない。

 

(亜怜さん、私が死んだら……泣いてくれるかな)

 

考え、ゆっくりと目を閉じ。

 

直後、ガンッという音が響く。スッと剣から重みが消え、目を開けば不死者の腕が捥げていたのが見える。

そして視界に飛び込んでくる空……次の瞬間、充幸の体が抱き上げられる。

 

「な、なんで…っ!」

「戦ってみて分かったんだけど、あの不死者の視野凄く広い!奇襲は絶対無理!だから作戦変更!!!」

 

充幸では躱し切れないであろう攻撃を充幸を横抱きにしたままに躱し、紡は走る。

 

「作戦…なにかあるんですか?あるなら言ってください、囮でもなんでも引き受けます」

 

今の状況、充幸でも分かる。自分は明かに足を引っ張っている。

年下の男の子に助けられて守られて、情けない。

せめて少しでも情けなくない行動をしないといけない。

 

「充幸さんはなんで一人で背負おうとするの?」

「え?」

「今は一人じゃないよ。マコちゃんとか、りっちゃんみたいに凄くないけど

僕だって戦えるから!だから一人で頑張らなくていいんだよ。一緒に頑張ろう!」

 

純粋な笑みを浮かべて言われる。

充幸はその顔を直視することが出来なかった。余りにも綺麗に笑うから。あまりにも眩しかったから。

あまりにも……自分が汚いものな気がして仕方がなかったから。

 

「ということで、作戦なんだけど特に思い浮かばなかった!」

「え?」

「でも大丈夫!充幸さんは僕を信じて!僕も充幸さんの事信じるから!!」

 

その言葉を理解するまで数秒、そして理解した後もやはり訳が分からず困惑する充幸

紡はまだ行ったことのない二階に駆け上がると、適当な所で充幸を下ろして、不死者に攻撃をぶつける。

 

(これは……やっぱり私に作戦を考えろってこと?)

 

きっとそういうことなのだろう。

ぐるりとあたりを見渡す。だがいい作戦は思いつかない。ただただ焦りだけが生じて行く。

 

(やっぱり私じゃ駄目なんだ。頭は普通、殲滅の技術も高くない。

一応殲滅隊の人に同行して任務を受けたことはあるけど、少しサポートしただけ。

副隊長だって、御飾りで……もっと、もっと頑張らないといけないのに、何を頑張ればいいのかすらわからない…私は、どうすれば)

 

 

”一人で頑張らなくていいんだよ”

 

 

充幸の脳裏に先ほど紡に言われた言葉が過る。

 

(………)

 

言葉がじわじわと胸の内に広がり少しだけ頭がクリアになる。

ふと、2階の吹き抜けが目に入る。

 

「筑波くん!」

 

叫べば紡は此方を見る。そんな彼を見ながら、充幸さ吹き抜けから1階ホールまでバッと飛び降りた。

そして床を受け身で転がりながら着地

そのまま、不死者から最も距離を取れる場所、正面ホールへ走りながら剣を構える。

あと少し。目を固くつむると息を深く吸い込む。

 

筑波くん!お願いします!!

 

充幸の声に二階にいる紡の身体は一早く反応した。

軽やかに吹き抜けの手すりに飛び乗ると、驚異的な身体能力で向かいの手摺まで一気に飛ぶ。

不死者も当然のように後を追おうとした。

だが、充幸がそれを許すはずもなかった。

助走の速度を殺すことなく充幸ほ走ると、そのまま地面を強く蹴る。

ホールの中央には壊れたシャンデリア

それを足場にして飛び上がると、剣を素早く振る。

 

紡が言っていた通り、不死者は素早く、視野が異様に広い。

だが広い割には急所以外の防御は疎かだ。

だから足を切り落とすためのこの動きは確実に当たる。

黒い血を撒き散らかして足が飛ぶ。

それにより、標的が充幸に向かい斬撃を飛ばすべく鎌を振り上げる。

だがそれと同時に充幸は鎌として振り上げた方ではない方の鎌目掛けて剣を投げる。

投げた剣は不死者の腕の付け根に刺さり、半分ほど千切れる。

両足は捥げ、左前脚も捥げかけている。

そして残りの右前脚は充幸を攻撃するべく振り降ろされる。

斬撃が充幸の顔スレスレを過るのを見送って、充幸は僅かに口角を上げる。

 

「後は任せます、筑波くん」

 

丸腰と言ってもいい不死者の背後に迫る小さな影を視界に収めて、充幸の意識が暗闇に落っこちた。

 

 

 

 

 

充幸の意識が落ちて床に落下すると同時に、不死者の頭が吹飛んだ。

不死者の頭を飛ばした紡は地面に降り立つ。

 

「やった!やったよ充幸さん!!」

 

完全に事切れた不死者を前に喜ぶ紡は、ふと地面に倒れている充幸を見て、固まる。

 

「え、充幸…さん?」




紡くん(圧倒的光属性・対人特効もち)相手じゃ誰も適わない!!
紡くんみたいな子が友達だったら楽しそうだなぁと思ったりする雑草でした(/ω\)
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