夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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一章の第一の見せ場
かっこよく登場させたかったです。でも文才がなくてダメでした。無念
作者が一番気に入ってる子の登場ですね。ぐっへっへ(´艸`*)


第三項

(え………し、死んだ…?)

 

八生は地面に突っ伏した化け物を見つめる。

軽くつま先でつつくが矢張り化け物は動かない。

どうやら本当に絶命したらしい。その事実に安堵したのだろう。ふっと全身から力が抜けて座り込みそうになる。

しかし視界の隅でガタガタと震えているツクシの姿を見て、今にも崩れ落ちそうな足を叱咤する。

 

「つ、つくし、大丈夫…?」

 

嗚咽を交えながらも、呼吸器官を正常に動かすのに精一杯の彼女は床に這いつくばい、まるで許しを請う罪人のように頭を抱えて震えて丸まっていた。

手に持っていた椅子を放り投げた八生はそんなツクシに声をかける。

八生の声が聞こえたのだろう。彼女は恐る恐る顔を上げる。

ぐっしゃぐしゃの顔に振り乱してボサボサになった髪、その隙間から涙にぬれた瞳

 

「っ、八生!!!」

 

ツクシは涙を滲ませた声で八生の名前を叫ぶと震える腕で八生に抱き着いた。

全身を震わせた彼女は子供のようにボロボロと涙と鼻水、涎で顔中を濡らす。

その際八生の制服の肩を汚したが、八生はそんなことより親友の無事を喜んだ。

 

「もう大丈夫だから…」

「うん、うんっ…あり、がとう……!た、助けてっ、くれて……もう、無理だって…思って…っ!」

「つくしが無事でよかった……一先ずこの場から離れよう」

 

ツクシの体を少し離し、八生がいう。だがツクシは顔を俯かせて「怖かった、怖かったぁ」と涙を流し、言葉を繰り返す。

ツクシは本当に寸前まで命の危機にさらされた。混乱するのも無理はない。

八生としてはこんな場所、一刻も早く離れたい。

だがツクシを思うなら、ある程度落ち着くまでここで待ったほうがいいのかもしれないと考える。

 

(……?)

 

そこでふと疑問を抱いた。

 

(あれ?ツクシの足って…折れてなかったっけ

 

八生は記憶を掘り起こす。

化け物に迫られているとき、彼女の白い脚は目も当てられないほど異常な方向に折れ曲がっていた。

だからこそ、彼女は床を這っていたのではなかったか。

しかし彼女は今こうして自分に抱きつけている。自分の両足で”しっかりと”立っている。

それに気づいた八生はまるで冷水を頭から浴びせられたように脳内が覚めていくのがわかる。

ふと、視線の隅で何かが動いた。

それを見ようと視線を向ける。

 

そこには、動脈のようにドクドクと脈打つ一本の蔦が床に埋もれていた。

黒い蔦には先程までなかった蕾が出来ていて、その蕾のついた一本の蔦は伸び

 

「!!」

 

ツクシの足首にできた小さな傷口と…………繋がっていた。

彼女の足は折れていなかった。

代わりに、傷口には根っこのような網目が皮膚の上からでもはっきりとわかるほどに紫色に張り巡らされ、彼女の血管が通っているであろう場所は蚯蚓腫れのように膨れ上がり、まるで虫が這っているかのようにドクンドクンと蠢いているのが肉眼でもわかった。

それは足首だけではない。彼女の制服から見える白い太ももも鬱血したように色が変色し、血管がうごめいている。自身に縋りつく、柔らかい手も、そこから覗く手首もそうだ。

それに気づいてしまったからだろう。

八生は思わず一歩後ろに下がる。

だがツクシの不気味な手が八生の手を掴んで離してくれない。

じわりと収まってきていた恐怖がまた、八生の体を這い上がって来る。

 

「怖カったよぉ、殺されルかと思っタよォ、ヤヨイ、ありガトウ」

 

まるで壊れた人形のように言葉を繰り返すツクシ

心なしか呂律がドンドンと回らなくなっていく喋り方も又不気味で

「つ、つく…し」と喉が引きつったような、不安定な声が喉から出る。

 

「ありガトウ、アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ」

 

そこで漸く俯いていたツクシが顔を上げた。

 

「ひっ」

 

彼女の顔を見て八生は短い悲鳴を上げる。

可愛らしい彼女の顔は見るに堪えない悍ましい物へと変貌していた。

「彼氏ができた」とキラキラと輝かせて言っていた彼女の美しい茶色の瞳も

照れたように「ありがとう」と告げた赤い唇も、ふんわりと微笑む柔らかい表情も、なにも…どこにもなかった。

 

あるのは”穴”

 

口や耳、鼻といった穴からは蔦が生え、右目からは葉っぱが、左目からは蔦が突き出していて、まるで顔面から植物を生やしたような姿となった親友がそこにいた。

そしてその顔の造形は八生が瞬きをするたびに変形し、人間のものとは程遠くなっていき、もはやツクシの面影すら残していない。

 

「※代縺ゥ蜉」

 

もはや人間の声ではない。あの化け物に近い濁った声を響かせて彼女はもう片方の手で八生の手を掴んだ。

開かれた口からは涎とともにさらに蔦が這える。

八生の腕を掴んだ手は人間の肌色をしておらず、赤黒いものに変色している。

 

いつか彼女が自慢だと笑っていた髪の毛が抜け落ち、丸い頭部が内側から突き破られる。生えたのはやはり蔦だった。

その蔦が生き物のように蠢き丸い団子のような物を作り出す。

そしてその団子の中央に亀裂が入り、ゆっくりと開かれて行く。

その中央にあるものは_____紅い目玉

 

「_____っ!いや!!!」

 

その目玉を見た瞬間八生の体に恐怖が駆け回り、思わず悲鳴を上げツクシの体を力いっぱい突き飛ばす。

突き飛ばされたツクシはふらりとよろけると、足元の机に足を引っかけ、そのまま仰向けにひっくり返った。

その際、巻き込む様に体に生えた蔦は下敷きとなる。

巻き込んだ蔦の中には、あの目玉のついた蔦もあった。

目玉は倒れこんだツクシの体重を支え切ることが出来なかったのだろう。

そのままプチっと軽い嫌な音をならし、潰れる。中からは赤黒い液体が溶け出して床を汚した。

 

「ツ、クシ…?」

 

動くことも呻き声をあげることもなく転がったツクシを前に八生は狼狽えながら彼女に近づく。

彼女の体は小さく何度か痙攣した後、ぱったりと動かなくなる。

その際、僅かに動いていた蔦もまた、一度ぴんっと伸びたかと思えば力が抜けたように床に落ちた。

八生はそっと彼女に近寄ると、鬱血し、人間のものとは到底思えない首に手を伸ばして触れる。先ほどまであんなにも激しく波打っていた脈は完全に止まっている。

それはつまり、死を意味する。

 

「あ……あぁ………………うそ」

 

その事実に八生は後ずさりながら絶望をあらわにする。

この教室に生きた人間はもう自分以外居ない。

周りのモノは全部冷たくなった死体、死体、死体、死体だけだ。

 

(ああ、可笑しくなりそう…)

 

数時間前まで皆生きていて、マラソンが嫌だとか、恋人ができたとか、そんなくだらない話をして過ごしていたというのに。

今はどうだ。皆揃って物言わぬ肉と化した。

もう誰もしゃべってはくれないし動きもしない。人間と呼べるのは八生ただ一人だ。

おかしくならないわけがなかった。

 

「あれ」

 

だが八生はおかしくならなかった。

何故か、気が付いてしまったからだ。

この化け物は外から来ていた。

自分が見た時は、ビルを倒してこの教室に入って来ていたはずだと。

それはつまり、被害は”学校だけじゃない”

街も被害を受けたということだ。

 

家は………?

 

自分がいた家はどうなっているのか。

その家にいる母親や父親は無事なのか。

冷や汗が背を伝う。狂いかけた八生の脳内を冷静にしたのは皮肉なことに更なる恐怖であった。

 

(お母さん、お父さん…っ)

 

どきどきと心臓が煩く暴れる。まるで心臓が耳についているようだ。

煩わしいそれを聞きながら彼女は震える足を一歩前に出す。

 

「家に……帰らないと」

「シ縺◎ゅ縺」

 

家に帰ろう。安否を確認しないといけない。

そう思った彼女の耳に届いたのは理解しがたい声だった。

 

声を聴いた瞬間弾かれたように八生は後ろを振り返る。

振り返るとそこには…死んだと思っていた化け物の目玉

自身の目玉を覗き込む様にこちらを見る、大きな目玉がそこにはあった。

 

「っ」

 

驚き、彼女は後ろに下がる。

足元のぬかるみに足を取られ、床に尻もちをつく。

どろりとした嫌な液体の感触がスカート越しに尻を濡らしたがすでに彼女はそんなこと気にしている余裕などなかった。

 

目の前には自分が殺したと思っていた化け物が平然と動いていた。

椅子で殴りつけた目玉には傷が出来ていて、赤黒い液体が僅かに滴っているが潰れた様子はなく、触手もうねりながら活発に動いていた。

後ろに下がろうとする。だが床についた手が赤黒いぬかるみで滑り、どしゃっと背中から倒れこむ。

今度は逃がさない。そういうように触手が俊敏な動きで八生目掛けて伸びてくる。

スローモーションのように迫って来る触手に体は石のように動かなくて。

 

 

 

パリンッ

 

 

 

軽い音が耳に届く。

それは窓ガラスが割れた音だった。

同時に何かが目の前を過る風

そしてトンッという音が耳に届いた___瞬間。目の前の化け物が真っ二つに引き裂かれた。

触手だけではない。恐怖を象徴するかのような赤い瞳も引き裂かれたことで化け物は形容し難い悲鳴を上げのた打ち回る。やがてゴポゴポと黒い液体を吐き出すと化け物は今度こそ、その場に倒れ伏した。

何が起こったのか、事態についていけない八生は思わず身を固くし、息をのんでそれを見つめていると、ふわりと目の前に黒い布が舞った。

 

「ふぅ、疲れた疲れた」

 

布が揺れ、その奥を映す。

まず最初に見えたのは銀色の大きな鋏

刃先には黒い液体がまとわりついていて、鋏が上下に揺れて液体が地面に振り落とされる光景だった。

 

続いて理解できたのは声

高くも低くもない中世的な澄んだ声。だがこの殺伐とした空気には到底似合わない。そんな軽い声が響いた。

 

声の方にゆっくりと顔を向ける。

大きな鋏を振っていたのは自身より背の高い男だった。

肩に黒のジャケットのような物をかけている。先ほど目の前で揺れたのはそのジャケットだったらしい。

肩に付くかつかないかくらいの黒髪に紫の瞳。

左耳には一つ、シンプルなシルバーピアスがきらりと光っている。中性的な顔立ちの人物だった。

 

「今日は起床してからずっと仕事……あれ?滅茶苦茶働いてね?え、超偉いじゃん」

 

ポキポキと首を鳴らしながら独り言を呟くその人こそが、目の前の化け物を殺したのだと八生は漸く理解する。

何処か眠そうな目に、軽薄さを感じさせる薄い笑みを張り付けたその人が八生を見て言う。

しかし八生はその言葉に反応することはなく、ただ足元で完全に死んでいる化け物に意識は注がれていた。

化け物は完全に死んだ。もう動かない。自身の邪魔をしない。

それならば今の八生が取る行動は自ずと一つだけとなる。

 

「ねぇ、君もそう思わない?……って、どこいくのー?」

 

言葉を投げかけてくる声を無視して、八生は即座に立ち上がると教室の扉を開けて廊下に飛び出す。

人気のない廊下を駆け抜ける彼女。今はただ、一刻も早く家族の安否を知りたかった。

早く自分の目で、両親の無事を確認して安心したい。その一心で足を前へ前へと動かす。

 

 

 

八生が飛び出していったことにより、一人教室で取り残された男は走り去っていった八生を見て首を傾げる。

 

「あーりゃりゃ、行っちゃった。漏れそうだったのかな?」

 

的外れのことを言いながら、自身が殺した化け物の死体に腰を下ろす。

 

「別に漏らす奴なんか数えきれないほどいるんだから、漏らしちゃえばいいのに

一応”不死者(ふししゃ)”の駆除は終わったとはいえ危ないことには変わりないからここに居といてほしいんだけど」

 

なんて独り言を呟きながらも、追いかける様子は微塵もない。

いつも通りだと言いたげに欠伸を零して伸びをする。

全く持って焦りなどみえやしない。

そこで静かな空間にジジっというノイズ音が響く。発生源は手首に巻かれた銀色のリングだった。

リングの側面についた小さな突起。そこを押した瞬間電子音は確かな”声”に変わる。

 

〈任務は終了しましたか〉

 

聞こえたのは感情を感じさせない女性の声

男は化け物の上に胡坐をかくと膝の部分に肘を置き、頬杖をつきながら応答する。

軽薄そうな笑みはそのままだ。だが心なし何処か不機嫌そうな声だった。

 

「したけど。事前情報ミスってたよ。

二体って聞いてたのに実際はその五倍いた。情報収集ミスりすぎでしょ。

どうなってんの?お陰で全エリア回る羽目になった〉

〈そうですか。なら報告を〉

 

特に悪びれる様子もなく、女は淡々とその先を促してくる。

いつものことなのだろう。男は特に気に留めた様子もなく女の望む報告を口にする。

 

「B地区北エリアは軽傷者は居たけど、死者は居ないんじゃない?

東エリア、あと南エリアもあんま死んでない。見た感じだけど多分10人かそのくらい。

で、最後に西エリアだけど。最後に来たうえに、三体も侵入してたからねぇ

エリア人口がB地区で一番少ないっていうのもあってか死体ばっか。

外もぐっちゃぐちゃ。死体数えるとか途中で馬鹿らしくて止めたからわかんない」

〈では生存者は何人ですか〉

「生存者?」

 

女の声に男は思い出すように軽く唸り、目を汚れた天井に向ける。

 

「あー、生存者、生存者ねぇ」

 

思い出すのは先程教室を出ていった八生の背中

やがて男は紫の瞳を細め、告げる。

 

 

 

 

 

 

「____一人しか見てないや




(三話目にして時間設定投稿機能があることを知り、ハーメルンってすげーっと思った感動のあまり失踪しそうな雑草→)(; ・`д・´)
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