第三章これにて完結(=゚ω゚)ノ
「…」
ぱちりと紡は自室で目を開いた。
部屋は真っ暗。リングを確認すれば時刻は午前1時近くを指していた。
始業時間までまだ5時間近くある。
明日は東西交流会選抜メンバー顔合わせ。早い時間から集まって交流会に向けて合同練習をすることになるわけで。
それを考えれば紡は明日のことを考えて二度寝するべきだ。
普段の紡ならすぐにそうしただろう。
だが紡はベッドにUターンすることなく、ベッドを降りて部屋を出た。
「寝れないんですか?早く寝ないと明日に響きますよ」
廊下を素足でペタペタと歩く。静寂で溢れた廊下
消灯時間だからか廊下の電気はついていない。何度か任務の関係でこの時間に廊下を歩くことは多々あったが、1人でこの時間に歩くのは初めてだ、なんて思っていたところで背後から聞きなれた声がかかった。
振り返ればそこには充幸の姿
「充幸さん?……なんでここに」
「私は見回りです」
「こんな時間まで仕事してるの?」
「ええ、副隊長の業務はしばらくお休みですからね、せめてこのくらいは、と。それで?筑波くんはどうしたんですか?」
「寝れなくて…」
「お腹でも空きましたか?」
「ううん。なんか寝れないだけ、です」
「そうですか……なら、ホッとレモンでもいれましょうか」
充幸は紡を連れて一階の食堂へと向かう。
当然食堂には誰もいない。充幸は無人の台所に入っていくとそのままホットレモンを作る。
「どうぞ」
「ありがとう」
渡されたホットレモンをゆっくりと飲む紡
ふわふわと白い湯気がたっていて、飲むと温かい液体が胃に広がり、紡は思わずホッと息を付いた。
彼の対面の席に充幸は腰を下ろす。
「いよいよ明日から交流会に向けて本格的に他部隊との合同ですね」
「うん」
「……もしかして緊張でもしてるんですか?」
「そうかも」
「まだ大会じゃないのに?」
「ん」
紡はコクリと頷く。
「僕、こういうの初めてで……大会もそうだけど凄く楽しみだって思うと同時に、凄く怖いって思う…です」
「怖い…ですか?」
「うん」
コクリとまた紡は一つ頷き、ゆらりと揺れるホットレモンを眺める。
水面には紡の顔が歪みながら移り込む。
「僕ね、何もできてない」
「え?」
「試験の時は、ヤヨちゃんが助けてくれた。
ヤヨちゃんがいなかったら、僕絶対試験落ちてたよ。
それに、ヤヨちゃんが死んじゃった時…僕混乱しちゃって……。
りっちゃんが上手くカバーしてくれたけどりっちゃんがいなかったら、死んでたかも。
なにより……充幸さんは僕らがメンバーに選ばれたのは夜縁を倒した功績があるからって言ったけど、僕は何もしてないよ。
夜縁を倒したのはりっちゃんとマコちゃん。僕はずっと避難誘導してただけ。
本当は参加資格なんてないの。だから止めようかと思った。でもね」
紡が思い出したのは選抜メンバーになったと充幸に告げられたあの日の事だった。
”どうしたんですか?”
”あ、ちょっと先行っといてほしいな!です!”
”わかりました”
誠と律のいる病室を出るなり紡が笑って先に行くように言えば、充幸は少し首を傾げた後、頷いて立ち去っていった。
彼女の背中が角を曲がって見えなくなったところで、紡は溜息を吐いて壁に凭れて座り込む。
その表情は笑顔から一転して暗い表情だった。
”夜縁を倒した…かぁ…ボク、何もしてないよ。一回目の時も、二回目の時も、全然頑張れてない。
二人はボロボロなのに、僕だけ擦り傷があるくらい……怪我、痛そうだったなぁ…”
呟きながら膝を抱える紡
”どうして俺達の町がこんなことに!”
”アンタ殲滅隊だろ!?早く不死者を殺してくれよ!”
”私の子供が死にそうなんです!誰か助けてください!!!”
”殲滅隊、早く、早く助けて!”
”家が…これから、これからどうすれば…!”
彼の脳裏には町の半壊ぶりを見て泣き崩れる町の人々の姿
夜縁の襲撃で崩れた建物により怪我を負った町の人や怒鳴る人、必死に助けを求める人
そんな人々の声が、今も耳の奥で響き、泣きたくなった。
”ぼく、なにもできてないのに。なにも…”
”お前、自分なんかが選抜されて良かったのか、とか思ってるか?”
その時だった。病室の中から律の言葉が聞こえてきて、紡は肩を跳ねさせる。
”……いきなりなんだよ”
”他意はない。お前は面倒な性格をしてる。
事実今回、夜縁を討伐したっていうのに、ずっと納得いってなさそうな顔してる。功績の話をされた時もだ”
”……確かにな。俺は功績に関しては納得してない部分はある。でも、だからって辞退する気はない。
隊長が俺等を選んだんだ。それは隊長が俺等なら育成する価値があると思ってくれたから選抜してくれた。俺はその期待に応えたい”
”隊長の為か?”
”…違う…俺は、俺は…強くなりたい。不死者を殺したいから、其の為には力がいる。
この期間を使えば、強くなる秘訣が分かるかもしれない。折角手に入ったチャンスだ、溝に捨てる気はねぇよ”
”つよく…”
誠の言った言葉を紡も口の中で反芻する。それから暫くの沈黙が流れ
"お前もしょうも無い事悩むな"
扉の向こうから律の声が聞こえた。
それは誠に向けて言われたものではないのだろう。
ならば誰に向けられたものか…紛れもなく扉の前に居る紡に掛けられているということだと分かった。
「本当は未だに僕が出てもいいのかなって、資格なんてないんじゃないかって思ってる。
また二人の足引っ張ったらどうしようって考えるとすごく怖い。
でも、二人はそんなつもりなかったかもしれないけど、それでも励ましてくれた気がして……僕に期待してくれてるような気がして。
二人の期待に応えたいし、僕も守れる力が欲しい…もうあんな思いしたくないの」
ボンヤリと遠くを見ながら紡が言う。それを見て、充幸は少し目を細める。
「確かに、貴方方を選んだ大きな理由は夜縁を倒したという功績です。でも、それだけじゃないと私は思っています」
「え?」
充幸の言葉に紡はきょとりと目を瞬かせた。充幸は紡の目を見つめて言う。
「基本的に市民の避難誘導をするのは私達支援部隊の仕事です。
私たちが誘導している間に戦闘部隊の皆さんが不死者を倒す、というのがよく見る光景です。
しかし、貴方のように戦闘部隊の人間が避難誘導すると言うのはかなり珍しいんですよ。
まず大人数を、それも混乱する人間を誘導させる能力のある人間がいない。
本来それは回数を重ねて漸く手に入れられる能力ですから。
それを貴方は一人で、何の経験もないのに誘導して見せた。それは凄いことなんです。
なにより、信頼関係がしっかりしていないとこんなことは起きない」
「信頼関係?」
「避難誘導というのは戦線を”離脱”すると言う事
夜縁の脅威から”正当な理由”で逃げることができるんです。
だからこそ、みんな自分がその立場へ行きたがりますし、誘導を言い出した仲間を逃がさないようにするんです」
「そ、そんなことしたら…」
「そう、住民が死んでしまう。でもそんなこと、頭にないんですよ。
濃い死が間近に迫った瞬間、人間の本性が顔を出す……だからこそ、貴方達は凄いんですよ。
君を信じて戦った二人も、二人に託して一人で避難誘導に駆り出した貴方も。
そういうところも、きっと選ばれた理由の一つだと私は思っています。だから、貴方は誇っていい。
これに選ばれたことに負い目など感じなくていいんです。胸を張ってください。貴方は凄いんだから」
充幸はゆっくりと笑みを浮かべる。それを見て、紡はぱちくりと瞬く。
「……ありがとう。充幸さん」
充幸に釣られるように笑みを浮かべた。
「ねぇ充幸さん」
「なんですか?」
「やっぱり僕、充幸さんと友達になりたい!です!!」
紡は充幸の目を真っ直ぐに見て言う。
その言葉に今度は充幸が面食らう番だ。
「え?」
「僕、やっぱり充幸さんと友達になりたいの!改めて僕と友達になってください!!!」
まだ理解が追い付いていない充幸を置いて、紡は勢いよく立ち上がると、バッと体を折り曲げ、片手を差し出す。
それを見て、充幸は数秒ポカンとした後、ぷっと小さく吹き出し顔を抑えて僅かに体を震わせる。
突然笑い始めた充幸。どうして笑っているのかがわからなくて紡は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの充幸さん。僕変なこと言っちゃった…?」
「あ、ああ、ごめんなさいっ、なんかちょっと、告白みたいで…面白くて」
「こ、告白!?違うよ!僕は充幸さんと友達になりたくて…!」
「わかってます。わかってますけど…!」
暫く笑いを零した後、充幸は切り替えるように咳払いをする。
「まず友達の件ですが、やっぱり私と友達になることは厳しいと思います」
「え、なんで?!ですか!」
「私は、恥ずかしながら要領が悪く、仕事のペースも他の人に劣っています。
最近は慣れてきたおかげで何とか仕事を回せるようになってきてはいますが、やはり自分の事でいっぱいいっぱいになってしまうんです。
貴方と関わったのは、これが仕事だったからにすぎず、大会が終われば私は貴方と関わることもぐっと減ることでしょう。
それに、私には他の人よりも優先するべき人がいますから。
友人が出来たとしても私はその人を蔑ろにしてしまう。
こんな私と友達になりたいと言ってくれたのは、凄く凄く嬉しいです。
でも、だからこそ……私は友達を作る訳にはいかないんです」
充幸はあまり他者と繋がりを持たない。
それは支援内でも同じだ。よく周囲からは友達作りが苦手、やら周囲に馴染めていない、と言われがちだが、実際はそうではない。
彼女は意図的に他者との繋がりを避けている。
それもこれも、彼女の真面目で堅い性格ゆえだ。
そして、周りもそんな彼女に関わりに行こうとはしなかった。
線引をし、明確に壁を作る彼女の壁を破壊してまで仲良くしようとは誰もいない。
「それでもいいよ!」
「え?」
…筑波紡という少年以外は。
紡はいつもと変わらぬ暖かい笑みで充幸を見る。
「蔑ろにされちゃったり、一緒に居る時間が無くても僕は充幸さんと友達になりたいって思ったから」
「………」
「それでもダメ?です…?」
恐る恐る紡は充幸を見上げる紡
まさか紡がそんな返答を返すとは、充幸としても予想外だったのだろう。
彼女は「それは…」と言い淀み、僅かに沈黙を落としたあと、ため息を吐きだした。
「…どうして、貴方がそこまでして私のような人間と友達になりたがっているのかは分かりません。
でも、そうですね……私が今よりもっと仕事ができるようになって、友人を作るだけの余裕が出来る様になったら…その時は、友人になれるかもしれませんね」
「ほんと!?ですか!!」
「………ただ、何年かかるか分かりませんけど」
「まつ!!」
間髪入れずに即答する紡
彼の返答に充幸は困ったような、それでいて、ほんの少しだけ嬉しそうな、そんな表情を浮かべる。
「…ほんと、貴方は変わってます。
言っておきますけど当然贔屓はしませんし、明日の訓練もいつも通り接しますからそのおつもりで」
「わかってる!」
「……さ、早く寝てください、これ以上は本当に明日に響きますから」
「うん!お休みミユちゃん!ホットレモンありがとう!」
「ミユって、それに敬語もっ!」
まだ友達ではないのだから渾名も敬語も外すなと、言おうとするが紡の姿はすでにない。
「はやっ」と言葉を零し、充幸は溜息を吐く。
「全く………贔屓はしないと言っているのに…ほんとに…」
机の上には飲みきったホットレモンを入れていたカップ。
まだほんのり温かいそれを両手で掴み上げる。
「………明日からの訓練も、頑張ってくださいね。紡くん」
誰もいない食堂で、充幸の声が小さく響いた。
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