去年の祭りはコロナが或る程度収まっていたとはいえ、やっぱり出店かき氷とかくらいしかなくてしょぼかったんですけど、今年はある程度いろんな出店が出てて楽しかったです~
りんご飴とか焼きそば、たこ焼き焼き鳥、ハッシュポテト、あとサガリとかありましたね。全部美味しかったZE…って何の話や。
今回はちょっと長いよ(^^ゞ
「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!クッッソォォォ!!!!」
地獄は午前8時をすこしすぎたころ。訓練場の隣、戦場摸倣室より雄叫びがあがり、訓練場まで響き渡った。
丁度起きて訓練場にやってきた律は、その声を聴いてうんざりした顔をし、すぐ隣の模倣室の扉から中を覗き込む。
「何やってんだアイツ」
「上手くいかないんだってぇ」
既に参加メンバーは律以外揃っており、律が最後だったらしい。
彼の疑問に答えたのは叶恋だった。
彼等の視線の先。誠は只管手足組である紡と天緒相手に戦い、転がされ続けている。
遠距離を得意とする葵はずっとその姿を見て隅っこの方で応援しているだけの様だ。
誠がギリギリと歯を食いしばり、悔し気に地面を殴る。
「クソッ!!何で勝てねぇんだよ!!」
「二体一は引いたほうがいいと思うよ」
「んなこと不死者を前に言える訳ねぇだろ!!」
「マコちゃんはほんっと真面目だねぇ」
立ち上がって誠に対して、のほほんとしながら紡はえげつない攻撃を仕掛け、合間を縫うように天緒が攻撃を捻じ込んでいく。
誠は必死に食らいつこうとするが、翻弄され、結局押し負けてしまう。
二対一という数的不利の状況もあるが、それはそれとして、昨日の今日でよくもまぁあそこまで連携が成り立ったものだと律は内心感心する。
「きっと気が合うんだね。あの二人」
律の心を見透かしたように叶恋が言う。彼女も同じことを感じたらしい。
「ああ、皆さん揃っていたんですね。おはようございます。食事を持ってきたので、皆さんで召し上がってください」
そこで充幸が入って来る。
その手にはカートを押しており、沢山の料理が詰めったお弁当が乗せられている。
「わぁぁぁ!ミユちゃんありがとう!」
誰よりも早く反応したのは案の定と言うかなんというか紡であった。
紡は誠とぶつけあっていた木製のツヴァイハンダーをぽいっと空中に放り出すとそのまま誠たちを置いて訓練場の方へ走って来る。
後ろから、誠が「一段落ついてねぇだろうが!!!」と怒鳴っているが、今の彼には目の前に揃えられた食事に夢中で気が付いていない。
「筑波くんの分は多めに持ってきました」
「わぁ、いっぱい!本当にありがとう!」
そのまま訓練場に入ってきた紡に充幸は弁当を渡す。
他の人は二段弁当なのにも拘わらず、紡のものだけ7段くらいの弁当になっていた。
早速と言わんばかりに紡は弁当をバクバクと食べ始める。
「此奴菓子を出すとかの不死者と遭遇した時、普通に釣られて殺されるんじゃねぇの」
「その不死者凄い弱そうですね」
突然訓練が中断されたことで不機嫌になりながら訓練場に戻って来る誠と、苦笑いを浮かべた護。彼らの後ろには天緒なんかもいて、彼等は揃って食事を食べ始める。
それと同じく、律と叶恋も食べ始めた。
「皆様にお知らせです」
「え?」
「特別練習は3日後を予定していましたが急遽予定が変更となり、この後あなた方には」
「前倒しで特別訓練を受けてもらうよ~」
「!」
充幸の言葉に被せるように第三者の声が響く。
声のする方に目をやると訓練室の扉には二人の人物、善と日向が立っていた。
「あ、善さん!と、えーっとぉ…………
「ハズレ」
「うっ、す、すみません
叶恋が眉を下げながら謝罪すれば、
「あ、善くん、お久しぶり」
「護くんお久~」
ヒラヒラと誠の隣に座っていた護が善に向かって軽く手を振れば善も護に気づいたようで軽く手を振り返す。
「特別訓練ってなにするの?」
ご飯を掻きこみつつ、紡が疑問を口にする。
充幸が「敬語」というとすぐに「何をするんですか!」と紡が慌てて言い直す。
聞かれた善は笑みを浮かべ、ズカズカと中に入り込ると、そのままストンと誠の隣に座った。
善が苦手な誠は「うげ」という声を発しながら少し距離を取る。しかし善は気に留める様子はない。
「特別、なんて言ってるけど内容はいたってシンプル。
隊長、副隊長との対人訓練だ。
まー、君等が昨日やったっていうやつに近いかな」
(戦闘部隊の副隊長とやれるなんて…こんな機会、そうそうねぇ!)
平隊員である誠が
「近接専門のやつはこっちおいでー」
「じゃぁ遠距離は俺が指導するわ。あとお前らも」
「は?」
誠の予想を裏切り、近接戦闘の師事をするのは
「確か君は近接だよね?さぁ、張り切っていってみよー」
「は?え、副隊長が相手するんじゃ」
「文句言わなーい」
放心する誠の襟首を掴むと、満面の笑みを浮かべたまま善はズルズルと戦場摸倣室へと引きずり込む。
「あ、あの人が断罪部隊の隊長さん…だよね?」
「そうですね。あの人がそうです」
「あれ、大丈夫なの?」
紡が困惑したように摸倣室の方を見ながら問う。その問いに答えたのは充幸ではなく、同じく断罪部隊の叶恋であった。
「大丈夫だよ!鬼畜だけど死にはしないから!」
「不安でしかないっ!!」
「死…?」
「ほら、そこの二人もこっちおいで」
摸倣室の中から善が招きをする。
ごくりとつばを飲み込み、紡と天緒たちもまた、摸倣室へと足を踏み入れた。
「痛い痛い痛い痛い!!!」
「っ…う”」
「あ”あああああああ」
悲鳴が摸倣室から響く。それぞれ誠、天緒、紡の三人だ。
紡は兎も角、普段悲鳴を滅多に上げない誠、そして割と無口である天緒もまた呻いているあたり、明らかに何か異常が生じているのは間違いない。
恐ろしいことでもされているのだろうか。
否、摸倣室の中で何が行われているのか。答えは簡単だ。
「体固すぎるでしょ。ほら頑張れ~」
「押すな押すな!」
「しぬぅ!!」
「い”だい…い”だい…」
柔軟であった。
「筋トレすんのも大事だけど柔軟も同じくらい大事だからこれから毎日やるように。
可動域が広がる。可動域が広がったらできる攻撃の種類が増えるし、全体的に動きがよくなる」
「あ”あああああああああ」
「う”うううう」
「いたいぃ、いたいよぉ」
「ありゃ、聞いてないなコレ」
二人ずつ押しているわけだが、押されている誠と天緒は痛みに叫び
すでに押し終わって解放さえた紡は地面に転がって股関節を撫でながらプルプル震えて転がっている。
「はい、柔軟は一旦これでおわり。さ、対人訓練するからさっさと立つ」
パンパンっと手を叩かれ、彼らは小鹿のように足を震わせながらもなんとか立ち上がる。
そんな彼らの足元に木刀が投げられる。
「三対一でいいや。一発でも当てれたら
「え、でも隊長さんは素手なの…?」
「今の君たち相手なら素手で余裕」
「っ、馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」
キレた誠は木刀を掴むと駆けだす。
だがそれをさらりと横に躱して木刀を流す。
「君らも早く打ってきな」
「は、はい!」
「わかりました」
頷いた紡と天緒も切りかかる。
三人がかり、だがそれでも善はそれらすべてを捌き切っていく。
足を引っかけ転がされた誠と天緒
「足元甘い」
「わっ」
「はーい、一本」
「つ、つよいよぉ……」
そして最後まで残っていた紡もまた、容赦なく地面に転がされ、善はぺしっと手刀をぶつける。
見事に全員ダウンだ。
「天緒君は確か遠距離武器も使うんだっけ?」
「はぁ…はい」
「だったら後半は遠距離武器の練習しときな。近距離割とちゃんと動けてるし」
「そう、します」
息を切らせながら頷く天緒
善は「なら次何にしようかな」と言いながら彼らに背を向ける。
「っ、くそ」
地面に手をついた誠はその背中を睨みつけ、手元に転がっていた竹刀を勢いよくぶん投げた。
その竹刀は善の背中に当たる、筈だった。
善は振り向きもせずに竹刀を後ろ足で上空に蹴り上げた。くるくる回転させ、落下、地面に落ちる前にに振り返り優雅な所作で竹刀を片手で掴み、くるりと一度回してみせた。
「………」
全員何が起こったか理解しきれず、周囲の空気が固まる。
「かっこいい…」
思わずと言ったように紡が呟く。其れと同時にハッとした誠が立ち上がり、紡が使っていた木製のツヴァイハンダーを掴む。
「っ、カッコつけてんじゃねぇぞ!もう一回だ!!」
叫びながら切りかかる。それをひらりと躱す善はケラケラ笑いながら「気合十分だねぇ」と言う。
誠が善に急接近してツヴァイハンダーを振り下ろす。
本来ツヴァイハンダーは重い武器だが、木製なのでその重さも半減。
少々扱いにくくはあるが誠は器用にそれを振り回す。
「ん、新人の割に良い動きするよね君。やっぱ一時的とはいえ亜怜さんに鍛えられたことが理由かな」
「ふっっ!!」
考えるような体制のまま後ろに下がることでツヴァイハンダーを避ける善。誠は遠心力で反対側の脚を善の首目掛けて打ち込む。
低姿勢からの回し蹴り。
「オラァッ!!」
当たる寸前の所で善は誠の足元に滑り込むように体を下げた。そうして素早く背後に回り込むと、善は誠の少し低くなった頭に肘を置く。
「それだと空振った時に体制の立て直しが難しいから確実性ない時以外は止めた方がいいよ。まぁでも結構ちゃんと鍛えてんじゃん。偉い偉い」
「………」
異様な体制で固まる誠など気にせず、善は平然とした顔でアドバイスを送る。ついでに空いている手で誠の頭を軽く撫でている。
一瞬流れた穏やかな空気に誠がプルプルと怒りに震え、ツヴァイハンダーを手放すと善が持っていた木刀を奪い去り、距離を取って構える。
「舐めた事してンじゃねぇ…!!」
「はは、君みたいな子を体力お化けって言うんだろうね。そのまま頑張って」
「うるせぇぇぇ!!!」
「ほーら、他の二人もさっさと立つ」
「は、はい!」
「はい」
そうして四人の訓練音が天井高く響くのだった。
「………」
「気になるか?」
「いえ…」
律と叶恋は
開け放たれた摸倣室は彼らの真後ろにあり、振り返れば練習風景が見える距離感だ。
彼等は彼等でやることがあるため振り返ってみる、ということはしないが、聞こえてくる音や声に無意識に耳を傾けてしまう。
それに気づいたらしい
「そうか。まぁ、お前らの容量が良けりゃすぐ終わるだろ。終わり次第混じってこい。結構為になるぞ」
言いながら、一人黙々と狙撃の練習をする護に「ボウガンは装着に時間かかるだろ。間を空けねぇように数本持って打った方がリロード早くていい」と指示を入れれば「そうします」と護は数本矢をもって撃ち始まる。
そんな彼らのやり取りを見て叶恋は置かれた机に肘をつく。
「正直
「善は遠距離武器が扱えねぇから教えられねぇんだよ。それに、アイツずる賢いだけで、お前らの疑問に答えられるだけの頭持ってねぇからな」
「おーい
「まぁバカな方が可愛いっていうし、いいんじゃねぇの?」
「それ褒め言葉にならないと思うんだよね」
そんな声が摸倣室の方から聞こえてくるため、返答もそこそこに机を見る。
「お前をこっちに呼んだのはお前が比較的頭が回るやつだと判断したからだ。
だからこの冊子の内容覚えてもらう。
内容は現段階でわかってる不死者の生態についてだな。
新人は入隊前にある程度不死者の知識をいれてるが、情報漏洩の関係で正隊員に比べて教えられる知識にかなり差がある。
だからどっかのタイミングで頭に入れてもらい、チームで共有させる決まりになってんだよ。本来なら入隊前して一月だったころに共有されるもんなんだが…夜縁やらの登場でそっちに手ぇ回んなかったんだわ。
で、松田に関しては、お前前期入隊だろ。善がお前の知識量に不安があるからってことでお前も一緒に読んどけ」
律と叶恋の前には冊子が置かれる。
「…なんで紙なんですか?」
「機密事項も乗ってるからだ。持ち出し、コピー不可」
「なるほど」
「なんか疑問あるなら言えよ。随時答える」
「わかりましたぁ!」
「了解」
・・・・・・・
「食事持ってきました」
午後12時に時刻が差し掛かったあたりで訓練室の扉が開いた。
入ってきたのは案の定充幸であり、彼女は食事を持ってきたらしく、午前の時同様カートを押してきていた。
彼女の姿を見た
「ん、ああ、もう12時か……よし、休憩するぞ」
「わぁ、やっと休憩。ご飯だぁ!」
机に突っ伏して喜ぶ叶恋
「おーいお前等飯にするぞ」
恐らく気づいていないであろう手足胴体組と善に食事休憩を知らせるため、
だがいつまでたっても誰も摸倣室から出てこない。
「お前等、飯だって…なんだこれ」
聞こえていないらしい彼らを呼ぶために摸倣室へ入れば、死屍累々とばかりに紡、天緒、誠の三人が地面に突っ伏して倒れていた。
なんなら、少し離れた場所でボウガンの練習をしていたはずの護もまた地面に突っ伏して倒れていた。
体力お化けの誠も流石にしんどかったのか、地面に倒れて肩で息をしている。
そんな彼の元へ善は笑顔を浮かべて近寄る。
「やーいやーい。絶対勝つとか言ってたくせにボロ負けしてやんのー」
「っ、このっ、次はぜってぇ…かつ、からなぁ…!」
「無理無理。次も君の惨敗だから。君は自信が足りないんだよー、だからいつまでたっても弱いんだ。ざーこざーこ」
誠の脇腹辺りを彼が使っていた木刀で突っつく善。そんな善の背後に
軽い音が響き「いてっ」という声を漏らしつつ、善はジト目で
「なにするのさ」
「あんまりうちの隊員を虐めンなよ」
「虐めてないし。人聞き悪いな」
自分の頭を撫でながら苦言を言う善だが
「お前等食えそうか?」
続いて、地面にひっくり返っている誠たちに声をかければ、紡が「ご、はんんんんん!!!」とまるでお化けのように物凄い速度で這いづって訓練室に入って行った。
前髪の長いお化けも悲鳴を上げて裸足で逃げ出しそうな絵面である。
「
「体質の都合上、仕方ないとはいえ食への執着エグイなアイツ……」
それを見送った善と
「今食べたら、吐く……」
天緒はそう呟くので「あとで置いとくから、腹減ったら食え」というと天緒は小さく頷く。
その間に善は倒れている護のもとへ近づく。
「護くんは?」
「自分は食べる」
軽く咳き込みながら護はのそのそと立ち上がる。
そんな彼に、善は笑みを浮かべる。
「鮭の匂いするし、今日は鮭弁かなぁ。それにごはんは豆ごはんっぽいね。豆ごはん、景気づけに半分あげようか?今なら野菜もついてくる」
「……何と交換が良いんですか?」
「鮭」
「鮭弁だって自分で言ってましたよね?メインもってくとか鬼ですか??」
「しかたないな。豆ごはんの豆全部くりぬいてあげるから」
「いや豆だけそんなに渡されてもいらないし、普通に困るし」
「好き嫌いは良くないよ」
「それいうなら善くんでしょ?明らかに野菜排除しようとしてるだけですよね?」
「ついにエスパーを習得したんだね護くん」
「いや普通に分かりますから。寧ろ分からない人いませんて…てかなんで自分こんなボケッボケな会話してるんだ。早くご飯食べに行きましょう…」
何処か疲れた様に護もまた訓練室へ戻っていき、その後ろに善もついていく。
「食後だからな、吐かれても困るし一時間くらいゆっくりしてから再開するか」
「異議なーし」
そうして食事も終え、彼らは机を囲ってのんびりと休憩をしている。
というのも
「所でお前等。暇な時とかどうしてんの?」
唐突に
「え、暇なとき?」
「どれだけブラックな殲滅隊だって休みはあるし、任務と任務の間は多少時間が空くだろ。まさかお前等ずっと練習してるわけじゃねぇよな」
「マコちゃんは基本的にずっとトレーニングルームに籠ってるよ」
「は、マジで?」
「動いてないと落ち着かなくて…」
「なにそれ仕事人間じゃん」
「お前ほんと…」
ケラケラと面白そうに笑う善、呆れたように溜息を吐く
彼の方は大方、前に休めといった時も訓練場へ走っていったことを思い出したのだろう。
「僕はお菓子の食べ比べとかかなぁ」
「お、いいね。律くんは?」
「……ぼーっと、してる」
「まぁぼんやりするのも悪いことじゃねぇか。お前等は?」
「叶恋ちゃんはぁ、スイーツのカタログ調べとかぁ?」
「僕は、睡眠とってることが多いです」
「自分は休憩時は基本喋ったりとかしてますね」
「私は他の隊員の仕事の手伝いをちょっと…」
「うっわ、ここにも仕事人間いるよ。やだやだみんな殲滅隊の仕事大好き精神に汚染されてるんだ」
仕事に関することをする、という充幸の回答に「こわいわぁ」と善はわざとらしく声を上げる。
「そういうアンタは何やってんだよ」
誠が善を見ながら言う。善は「んー」と少し考える素振りをして
「ごろごろするとか?」
「おもんな」
「新人の平隊員じゃ、ごろごろすることの大事さなんてわかるわけないか。わかんない話しちゃってごめんね」
「あ”ぁ!?舐めんなわかるわ!」
ぎゃんっと吠える誠は拳を握りしめ「後で覚えてろよ。その涼しい面潰してやる」と善を睨みつける。
それをみて
「狗星?」
「東の隊員」
「げっ、駄犬ちゃんの話しないでよ…」
「ああ!善さんより強い人、ですよねぇ?目がいいって噂の」
「は?違うし。そりゃ何回か負かされたけどトータルじゃ勝ってるから」
(此奴を負かせた……)
その言葉に誠は少し驚く。今の自分じゃ到底勝てないような相手を何度も負かせている相手が東に居るという事実に驚いたのだ。
「そんなに強いのか。ソイツ」
「…まぁそこそこ?力の押し合いとかなら向こうに軍配あがるし。あいつ、訳わかんないくらい馬鹿力なんだ。絶対人間じゃないでしょ、あんなの」
「力強いってこと?それなら僕も力は強いよ!」
ご飯を食べて回復したのだろう、紡がニコニコしながら挙手する。
「へぇ、なら俺とちょっとやってみるか?」
「いいよ!」
「敬語」
「ですよ!!」
「いいよですよってなんだよ…まぁいいか」
相変わらず敬語が抜けがちな紡に釘をさす充幸
それにより奇怪な文章が出来上がったが、腕相撲をするため、彼らは机に肘を置き手を握る。
「お前のタイミングでいいぞ」
基本腕相撲は公平さを保つため、第三者が掛け声をするものだが、
「なら、よーい…ドン!!」
特に
出すと同時に、いや、出す少し前から力を入れてしまった紡
相手が力を籠める前に力を込めた場合、その間が僅か一秒程度だったとしても普通は事前に力を込めた方が有利に働くものだ。だが
「あ、あれ?」
体質状、力が強いはずの紡の腕力をもってしても
普段から紡の力強さを知っている誠や律はその光景に目を見開く。
当の本人である紡も困惑しているらしい。
「…後1,2年立てば大分いい勝負できそうなくらいには馬鹿力だな。お前」
そういうと日向がじわじわと力を込めていき、とんっと紡の甲がいとも容易く机に引っ付いた。
「え、あれ、僕力弱くなった…?」
まさか腕相撲で負けるとは思っていなかったのだろう。驚く紡に
「何年も不死者と戦ってりゃ自然と馬鹿力が身につくもんなんだよ」
「そうなんですか…?」
「ああ。でだ。お前、確かよく地形とか建物とか破壊するだろ。支援のやつらから苦情という名の報告がよく上がってる」
「あっ、す、すみません!!」
「謝るなら次からすんなよ」
「えっ、あっ、はい!!もう壊しません!!!」
「無理だろ。できねぇこと言うな」
「ごめんなさい!」
ちょっと机に罅が入った。言った傍から壊しそうだ。それを見た
「筑波、俺は基本建物やら地面やらの破壊はしたことねぇ」
「え、なんで!?」
「お前の場合力の入れ方と抜き方が雑過ぎンだよ。考えなしに武器ぶん回せば力は分散するし、周りの物も巻き込む。
対して強くもねぇ奴相手ならそれでも通用はするだろうが、夜縁相手となると通用しねぇ。力が分散しないように一点に集中して力込める練習をしろ。
あとお前の場合、攻撃が大振りで振った後、急所がガラ空きだから、そこも対処しねぇと死ぬぞ」
そこまで緩い感じで話を聞いていた紡だが”死ぬ”という言葉に一瞬顔を強張らせる。
雰囲気が僅かに緊張感あるものに変わったのは誰の目から見ても明らかだろう。
「気を付ける、です」と少しトーンが下がった声で紡が頷く。
空気が少し暗くなった。
「因みに、俺より善の方が力強いぞ」
「いえーい」
「え”!?」
だがその空気は
無表情でダブルピースを決める善を驚いたように紡がみる。
「こいつ、5年くらい前か?狗星さんと大喧嘩してU地区に大穴空けた挙句一面更地にしやがったからな」
「あー!それ言わないでよ。心象悪くなるじゃん」
「すでに悪いだろ。お前の心象…」
「更地って…人とか大丈夫だったんですか?」
「U地区は人が住んでない地区だからそこは問題なかったがな、お互い戦闘部隊の隊長と支援の隊長にこっぴどく怒られてはいたな」
「そりゃ怒られるだろ…」
「因みにお互い素手だ」
(こいつ、マジのバケモンかよ。素手って…それとも不死者殺し続けてりゃそれくらい力つくモンなのか?)
誠は隣に座る善にドン引きながらも、素朴な疑問を抱える。
ほぼ全員が素手で地区を更地にした善に引いている中、紡だけは興味津々というように机に手をついて身を乗り出す。
「へぇ!すっごいなぁ!!アニメみたい!!それに、狗星さんって人も本当にすごいんだね!狗星さんってもしかして東の隊長さん?」
「いやあいつは隊長じゃない、平隊員…って、なんで暇潰しの話から駄犬ちゃんの話になってんだ…」
「あ、じゃぁじゃぁ話もどしましょ!
「急に戻すな…あー、俺は……筋トレとか?」
「脳筋乙」
「それお前だろうが」
「ていうか
善がにまぁっと口角を上げながらいう。
心当たりがないのだろう。
「あ?他?」
「ほらぁ、いん」
「やめろやめろ!!」
だが善が何を言おうとしたのか瞬時に理解したのだろう。
そうして顔を近づけ、周りに聞かれないように小声で喋る。
「お前それ人前で言うんじゃねぇ!つかもうやってねぇよ!」
「えー?でも偶に匂いが」
「香水だけだろ!たまたまだっつの!変な勘ぐりすんな!!」
「ホントかなぁ」
「え、なんですかぁ?叶恋ちゃん気になるなぁ」
こそこそと話す二人に周りは首を傾げる。
彼等を代表するように叶恋がいえば、善はニヤッと笑う。
「ほーら、気になるってさ。教えてあげなよ
「っ、お前マジで…!兎に角言うな!狗星さんとの話出したのは謝るからマジでいうな。言ったらお前」
「言ったら、なに?」
可笑しそうな顔で
そこで
現在彼の左手は善の腰付近についており、小声で話すために前かがみになっていることもあって、距離が非常に近い。
第三者からすれば迫っているようにすら見えるだろう。
「……」
客観的に自分たちがどういう体制になっているのか気づいてしまった彼は、すすすっと体を離す。
その顔は僅かに赤くなっており、それを誤魔化すように「兎に角言うなよ!」と釘を刺す。
睨まれるがケラケラと善は笑う。
「
「っ、うるせぇ!」
ぽかんとする彼らに
「でもまだ三十分しか休憩してないからね。最初の三十分は柔軟でもしますか。よし摸倣室行くよ」
「いてててて!ああ、僕ちょっと腹痛が!!」
柔軟、という言葉を受けて顔を引き攣らせた紡は声を上げて腹を押さえる。
誰がどう見てもわかりやすい仮病であった。
勿論善もそれに気づいているわけで。
笑顔で紡をひょいっと抱え上げる。因みに横抱き。
軽々と抱き上げられた紡はぎょっとした顔をする。そんな彼を見て善は笑顔を向ける。
「大丈夫。他の場所が痛く成れば気にならなくなるから」
「粗治療!!!鬼!!!」
「聞こえない聞こえない」
善はそのままスタスタと摸倣室の方へ向かう。
「地獄の開幕」
「がんばりましょう、天緒くん」
「よっしゃ泣かす!ぜってぇ泣かす!」
嫌そうな顔をする誠と、あの激痛にまた見舞われるのかと思うと溜息を吐き出したくなってしまう天緒
そして、唯一張り切っている誠。彼はブンブンと腕を回して外へと飛び出すのだった。
・・・・・・
「時間も時間だし、俺等はもう帰るけど、お前等がトレーニングしてる間、他の奴らは任務いってんだ。
そのこと忘れずに、しっかり実りある期間にしろよ」
摸倣室にて、仁王立ちした
だが返答はない。参加メンバーからのリスポンスが返ってこないのだ。
「多分コレ、みんな聞いてないよ」
摸倣室の地面には現在頭脳組含めたメンバー全員がノックアウトしていた。返事が返ってこないのは全員もれなく瀕死だからだ。
「叶恋ちゃんたちは兎も角、他四人は虫の息だよ。
まぁ仕方ないか。ガンガン体力削られてたタイミングで
「俺かよ原因」
「
善はジトッとした目で
心当たりがあるのだろう、
「……明日任務帰りになんか差し入れ買ってくるか」
「そうしな」
そういうと善は、近くでこの惨状に引いている充幸を見て「あと頼んだよ」とだけいうと
「え、これどうしろと」
だがこの場で動けるのは充幸しかおらず、まともに返答を返せる人間もこの場にはいないため、彼女の疑問には誰も答えてはくれない。
充幸はため息を零す。
「一先ず食事の用意と救急箱を持って来ましょうか」
リングの時刻に目をやれば、時刻は既に19時を回っていた。
第一節はこれにて終わりです。
早いなぁ、ははっ
区切りがいいのがこのタイミングしかなかったんですよねぇ。
雑草はアニメや漫画などの過去編とか結構好きなんですが皆さんはどうなんでしょうね。
ということで、第二節はちょっとした過去編です。次回の更新は9月です~お楽しみに~(''◇'')ゞ