「落とすよ!」
ガンという音と共に紡によって巨体を持つ不死者の頭が地面に叩き付けられた。
周辺の木々を巻き込み地面に沈んでいく巨大な2つの首を持つ不死者。
鳥のような見た目をしたソレには、双頭の額に一つずつと、又となっている首に一つ、目玉がぎょろぎょろと蠢いている。
ばさりっと大きな翼を振って周囲のものを薙ぎ倒しながら起き上がろうとする不死者。
だがその前に2つの人影が助走をつけて落ちてくる。
「ちゃんと合わせろよ。律、紡!」
「わかった!」
「ん」
誠と律は武器を振りかぶった状態で双頭の額にあるそれぞれの目玉目指して落下
背中に乗っていた紡もまた、一番近い首についた目玉目掛けて走りだした。
不死者が完全に起き上がる、その寸前。彼らはそれぞれの目玉に辿り着き。
三人は同時に三か所ある不死者の目玉を叩き潰した。
ぷちっという音が鳴って、不死者がびくりと大きく痙攣する。
暫くうごうごと動いていたが、軈て力尽きたように動かなくなった。死んだようだ。
「たく、3つ同時に破壊しねぇと殺せねぇとか厄介な事しやがって」
死体となった不死者の嘴を蹴り飛ばして誠がいう。
彼の言った通り、この不死者。空は飛ぶし肝心の目玉も三つ同時に破壊しないと倒せないという超回復能力持ちの不死者であった。厄介極まりないというやつだ。
ツヴァイハンダーを仕舞いながら紡は「こんな不死者もいるんだねぇ」と呑気に笑う。
「でも僕等、結構効率よく不死者倒せるようになって来たよね!」
「大会に向けて色々トレーニングやった結果だろうな」
「成長出来てるのが実感できてなんか嬉しいなぁ」
紡はニコニコしながら言う。
「にしても、明日が練習最後かぁ。早いねぇ」
「確か最後の詰め込みで隊長たちが明日来るんだっけか」
「そうそう。で、明後日が大会!楽しみだなぁ」
「どんな奴でも取り合えずボコる」
「やる気満々!」
紡は律の顔を覗き込む。
「りっちゃんも楽しみ?!」
「………まぁ」
少し目を逸らしながら律がいう。
あまり喋らないのは相変わらずだ。
紡はそれだけの返答でも満足なのかニコニコ笑い、誠はジトッとした目で律を見た。
「相変わらず反応薄いな。お前」
「でも結構自分の感情口にする事多くなったよ?」
「そうか?」
「そうそう」
会話をしながら3人は本部へ帰還するべく歩き出す。そこでチャイムの音が遠くから聞こえてきて、紡が顔を上げる。
顔を上げた先には他の建物より大きな建物が一つ立っていて、その建物から何十人もの子供が走って出てくる。
「あれ学校?」
子供は小さなポーチを肩から下げ、楽しそうに手を繋いで友人たちと話しながら歩いている光景
「ちゃんとした学校って初めて見たかも…」
「まぁ、基本小学校があるのはAからC地区の平和がある程度確立してる地区くらいだしな」
「てことはN地区も結構平和なんだね!」
「不死者出てたけどな。まぁでも…この地区も割と壁高ぇし頑丈だから、他の地区に比べりゃ入りにくくはあるんだろ」
ちらっと見た区切りの門
区切りの門も地区によって少々違いがある。
区切りの門が分厚く高く、頑丈であるほど平和が確立されている、といっていい。
それを考えればこの地区も十分平和的だと言えるのだろう。
「そういえばマコちゃんって施設に入る前は学校行ってたんだよね?どこの地区の学校行ってたの?」
「H地区だ。俺あそこ出身だし」
「H地区にも学校あるんだね!」
「一校だけな」
誠は欠伸をしながら言う。そんな誠を見上げて紡は「へぇ!」と目を輝かせる。
「ね、ね!学校って楽しい?!」
「あー?どうだろうな。俺は怠かったな」
「怠いの?」
「勉強とか面倒臭いし、一緒に遊んだりするような奴も特にいなかったから」
「ボッチ」
「っるせぇ!!お前普段喋んねぇくせにこういう時だけ横やり入れてくんなや!!!!」
ボソッと呟いた律の言葉に誠が吼えるが律は明後日の方向を見て無視をする。
その間に、紡は仲良く手を繋いで歩いている子供たちを眺める。
その目には羨望と、同時に諦念が宿っている。
「僕は学校行ってみたいけどなぁ。お父さんもお母さんもいないしお金もないから学校行けなかったから…だから余計羨ましいって思っちゃう。
大変そうだけど授業受けて、分かんない所は誰かに聞いてさ、教えてもらうの。
で、休み時間に誰かと話して、一緒にご飯食べて、帰りの時間が来たら誰かと喋りながら帰るの。その誰かがマコちゃんとりっちゃんならきっともっと楽しいだろうなぁって」
笑みを浮かべて笑う紡に誠は微妙な顔をする。
なんと返答していいのかわからないのだ。
「……叶えればいい」
今まで黙り込んでいた律がボソッと呟く。
「え?」
「不死者を全滅させれば俺達殲滅隊は仕事がなくなる。自由になる。
自由になるなら、好きな事が出来る。殲滅隊で稼いだ金もある。やりたいことだって出来る」
「……」
「学校に行きたいなら、溜めた金で行けばいい」
言われて紡は目を瞬かせる。
考えたこともなかった。諦めるしかないと思っていたそれは、実際は諦める必要がない、叶えられる夢だということに、今気づかされた。
噛みしめるように「学校に、いける」と口の中で反芻する。
「……そっか。不死者が消えちゃえば、僕等もそういうこと…出来るんだ」
事実を確認する様に紡が呟いた。
そして「決めた!」と声を上げる。その声に二人はビクッとするが、紡は気にすることなく誠と律を見て笑う。
「僕ね、僕夢出来た!夜縁を倒して平和な世界が来たらね!二人と一緒に学校に行って今までやりたいって思ってた事全部やるの!!!」
「俺等も学校行くのかよ…」
「だって絶対楽しいよ!大丈夫!マコちゃんが寂しくない様に毎日教室行ってあげる!」
「別に一人でも寂しくねぇからいらんわ!」
キレる誠。だが紡は楽し気に笑う。
「でもそっかぁ、不死者が消えたら殲滅隊じゃなくなるんだね」
「……そういや紡って、なんで殲滅隊入ったんだよ」
「僕がいた施設って殲滅隊直系の孤児院だったから。孤児院の職員になるか、殲滅隊に入るかしかなくて。僕は施設に居たくなかったから、殲滅隊に入ったの」
「え、殲滅隊直系の施設とかあんのか」
「あるよ、いくつかね。その施設出身の子は大抵殲滅隊に入るか職員になるかしか道がないの」
紡は苦笑いを浮かべながら言う。
施設の事情というモノにあまり詳しくない誠はそんな施設があるなんてこと知らず、少し驚いた表情を浮かべる。
「僕は外に出たいから殲滅隊にきた。マコちゃんやりっちゃんに会えてすっごく嬉しいし楽しい。
でもやっぱり、ちょっと辛い所はあるかも…でも、ここ以外に生きられないから。
だから、諦めてたんだ。だって不死者が消える世界とか想像できないもん。
夢見たって叶わないなら苦しいだけだから、未来のこととか考えないようにしてた。
でも、絶対なんてない。夜縁が死んで、不死者が消え去る可能性だってゼロじゃない
確率は低いけどさ、それでも僕、初めて未来の事考えようってちょっと思えたよ!
だから、ありがとうりっちゃん、気づかせてくれて」
「……事実を言っただけだ」
「それでもありがとう」
笑顔を浮かべる紡に律は本当に少しだけ顔を顰める。
(こいつもちょっと変わったよな。いい方向に)
そうして明後日の方を眺める律を見て、誠は思う。
同時に、さっき紡が言っていた言葉を思い出す。
(……未来、夢)
思い出すのは夜縁を一体倒した際、善に言われた言葉
彼は未だに、その問いに返す言葉を見つけることが出来ない。
小骨が喉に引っかかる様に、未だに彼の脳内に居座り、ことあるごとに彼に問いを投げてくる。
逃がさない。忘れた振りなどさせない、と言いたげに。延々と。
___不死者がいなくなった世界で、君はどうする
(俺は……)
「おーいマコちゃーん!帰ろ!!」
「!、おう」
”生きたいのか死にたいのかすら分からない俺には、まだ何一つ答えられそうにない”
大丈夫、オマケ話じゃ君ら仲良く学校行ってるから。