夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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対人訓練第2弾だぞぃ!!今回は會くんと日向ちゃんだ!いぇい!!!


第二項

「皆さん、いよいよ本日で育成期間も終わりを迎える…ということは勿論知っていますね?それに伴って前々から予告していた通り隊長たちによる詰め込み訓練を行います」

「ほんとは三日くらい前にくる予定だったんすけど、仕事で立て込んでて予定開けれなくなっちゃって…なんか悪いっすね。こんな日程になっちゃって…まぁなにはともあれ今日はよろしくっす」

「よろしくね。皆」

 

翌日、午後12時

誠たちは最後の育成期間に挑むべく訓練室で鍛錬を行っていれば扉が開かれる。

入ってきたのはサポート役の充幸。そして今回の詰め込み訓練を行うことになった断罪部隊副隊長の(かい)。そして戦闘部隊隊長の日向(ひなた)の二人であった。

 

「それではよろしくお願いします。垣本くん。日向(ひなた)さん」

「了解っす」

「任せてください」

 

頭を下げて立ち去っていく充幸

そうして残ったメンバーは一度体験している分、不要な説明をすることなく早速対人訓練へと移行することになった。

 

「僕がしばらく相手するから」

「了解っす。叶恋はちょっとこっちきてもらってもいいすか?」

 

サクサクと会話を進める二人により訓練が開始された。

日向(ひなた)含め、叶恋以外が戦場摸倣室へと入っていく中、會は残った叶恋の方を見る。

 

「さてと、この紙の内容今日中で出来る限り覚えてください。明日回収しますんで」

「え、え!?」

 

叶恋に渡された紙。叶恋は困惑した顔で紙を見る。

 

「え、なにこれ」

「断罪部隊は断罪業や不死者の討伐の他に情報の奪取なんかもするってことは知ってるっすよね?」

「う、うん」

「その時必要になるのが記憶力っす。

叶恋はちょっとその辺が弱いので強化訓練だとでも思ってくださいっす。

ということで訓練へ参加しながら頑張って覚えてくださいっす」

「そんなぁ…」

 

そうして二人は戦場摸倣室へと入る。

 

「お、やってるっすね」

 

外に出れば、日向(ひなた)が木刀で近接が得意な紡と天緒、誠を捌いている所だった。

 

「つ、つえぇ…!!」

「ありがとう」

「!」

 

顔を引き攣らせた誠。彼の言葉に感謝を述べながら回し蹴りをすれば、誠の手が弾けて武器が飛んでいく。その間に紡と天緒の事を片手で背負い投げをし合間を縫って仕掛けてきた律の木刀を吹き飛ばした。

 

「ぼ、僕たちも結構強くなったはずなのに…」

「全然勝てる気がしねぇ」

「これでも戦闘部隊の隊長やってるからね。そう簡単に負けられないよ」

 

日向(ひなた)は笑みを崩すことなく言う。

 

日向(ひなた)くーん、こっち話終わったんで、俺が近接担当しますよー」

「じゃぁお願いしようかな。犬成さんと、辰巳さんはこっちで遠距離の練習でもしましょうか」

「え、ボク遠距離は…」

「あれ、今日はしませんか?」

「……いや、やる。けど今日ライフル持ってきてない」

「こっちで用意してるんで大丈夫です」

 

木刀を降ろした日向(ひなた)は天緒と護とともに誠たちから少しだけ離れた場所へ移動すると遠距離射撃の練習を始める。

手慣れた様子でライフルを構えると、出現した的に一寸の狂いもなく銃弾を撃ち込んでいく日向(ひなた)

出てくる銃弾はゴム製のもので的に張り付くだけだが、それでも銃弾はすべて的のど真ん中に張り付いている。

それだけで彼の狙撃技術の高さがよくわかり、遠くからそれを見ていた誠は「隊長もオールラウンダーなのかよ…」とぼやく。

 

「いや、日向(ひなた)くんは普段銃しか使わないっすからオールラウンダーとはちょっと違うっすね。てかあんなに動けるとは…知らなかったっす」

「どわっ!?」

 

日向(ひなた)を見ていた誠。その背後にはいつのまにか會が立っていて、ぎょっとするように誠が振り返る。

驚いた表情をする誠に會は苦笑いをする。

 

「ああ、すんません。気配消して動くの癖なんすよね」

「そ、そうなんですか…」

「と、よそ見してない俺たちもやりましょうか」

 

會が促せば誠は木刀を持ちあげる。

そして誠の後ろでは律と紡、叶恋もまた、各々の武器を構えた。

それを見て會は木製のナイフ二本を取り出す。

 

「さっきみたいに一斉にきていいっすよ。叶恋と律くんもガンガン攻撃してきてくださいっす」

「了解」

「わかったぁ」

 

言うなり彼等は一斉に會に襲いかかる。

相手は一人、四人がかりでの勝負なら制圧できる可能性もあるかと思った。だが會の戦い方は日向(ひなた)と違ってはじき返すようなものではなく、躱したり味方同士の攻撃をぶつけさせたりして動き回るものだった。

それにより、お互いの武器や体がぶつかり、縺れ合う。

 

「鉄球投げんな!鎖邪魔だ!」

「ま、マコちゃん脚ぶつけないでよ!」

「ちょっ、退いて退いてぇ!」

 

大混乱する三人。

腕に鎖が絡みつき怒る誠。その誠の足が紡の足を引っかけ、その際紡の体が鎖に倒れ込み、その鎖の先を持っていた叶恋の体を強く引っ張り、結果叶恋は紡と誠、両者に激しくタックルを決めてしまう。

ある意味見事な連携プレーだった。

 

そして団子のようになってしまった彼らの大きすぎる隙を會が見逃してくれるはずもなく、一瞬にして三人揃ってぶっ飛ばされる。

そんな會の背中を襲う律。だがソレは背中に回されたナイフによって弾かれる。

すぐに引こうとする律。だが一歩で追いつかれ、回し蹴りによって薙ぎ飛ばされる。

地面に転がる四人。會はふぅっと息を吐き出す。

 

「さて…まずアンタ等三人についてっすけど」

 

會は未だに地面に絡まって倒れている三人を見下ろす。

 

「三人とも周りを見なさすぎっす。自分一人で戦ってるわけじゃないんだから。

主張が激しすぎて全然噛み合ってないっす。だから味方同士で足引っ張っちゃうんすよ。

特に俺みたいに素早い動きで躱したりするタイプの人間相手だときついっすよ」

「うぐ、それは…」

「君等は少し”引く”ことと”待つ”ことを覚えた方がいいっすね。無闇矢鱈につっこみゃいいもんでもねぇっすし」

「強敵から逃げるとか戦闘部隊の名が廃る……」

「別に俺は”逃げろ”っていってねぇっす。引くと逃げるは別モンっすよ。勝つために引く、戦略的撤退って言葉を知らないんすか??」

「いてっ」

 

ナイフの掴み部分で額を軽く叩かれる誠

思わず呻くが會は誠の反応をスルーした。

 

「で、アンタはその反対っす」

 

後ろを振り返る會。誠たちと違ってさっさと起き上がった律が會の方を見る。

 

「アンタはこの三人と違ってタイミングを見るっていうのが出来るし、視野や反応速度も悪くないっす。

ただ、少々慎重になりすぎっすね。さっきの行動は回避行動をとるんじゃなくて、あのまま踏み込むべきだったっす」

「……はい」

「まぁ実力は十分にありますし、ちょっと意識したらすぐ伸びるっすよ。

さて、今の反省を生かしてもう一戦するっす。ほら、アンタ等はいつまで転がってんですか。さっさと立つっすよ!」

「ひゃんっ!」

「う”っ」

「わ!」

 

地面に転がる三人。彼らの尻をゲシッと蹴り上げれば彼らは各々声を上げて立ち上がる。

叶恋は彼等から鎖を外すと標的である會を見て構える。

そんな彼らを見ながら會もまたナイフを構える。

 

「さ、どこからでもきてくださいっす」

 

少しだけ笑って構えをとる彼らに来るように促す。

だが、誠たちは誰一人動かない。

ただじっと會を見るだけだ。最初こそ會もまた彼らを見ていたのだが。

 

「…」

 

この状態で1分がたったころには、會は彼らの真意に気づいて呆れかえった。

そう、彼らは”待っている”のだ。會の言った助言の通りに。

會はジトッとした目を彼ら三人に向けた。

 

「いや、待てとは言ったっすけど何もしないのはまた違うでしょ。何考えてんですか馬鹿なんすか」

 

はぁぁぁっと溜息を吐く會。誠たちは顔を見合わせ、そして

 

「うおおおおおおお」

「わぁぁぁぁぁ」

「えぇぇぇい!」

「…律くん、この子ら全員阿保の子っすか?」

「はい」

「ですよね」

 

つい数分前のことを忘れたらしい。またしても三人揃って攻撃を仕掛けて来たのを見て會はそれはもう深く溜息を吐き、律は無表情で肯定しながら、彼も彼で攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辰巳さん。もうちょっと左右の手の位置離して、腕は少し曲げた方がいいかもしれないです」

「…こう?」

「そうですね」

「ん、確かに握りやすい。そうする」

 

ライフルを撃つ天緒と、指南する日向(ひなた)。その隣ではボウガンを射る護の姿があった。

日向(ひなた)は天緒から視線をずらし護の方を見れば、丁度彼のボウガンから放たれた矢が的に中ったところだった。

当たった位置は的の丁度真ん中で、先程から彼の打つ矢はすべて的の中心を射抜いている。

 

「相変わらず上手いですね」

「いや、日向(ひなた)くんには及びませんけどね」

「そうですか?善も褒めてましたよ。射撃が丁寧だって」

「え、善くんが?…あの善くんに褒められたなら、ちょっと自信持てそうです」

「相変わらず仲いいですね」

 

日向(ひなた)が笑みを浮かべて言えば、護は「まぁ善くんとは同期で付き合い長いんで」と笑みを浮かべて再びボウガンを握りなおす。

 

「ただボウガンは飛距離が比較的短いですし一射目と二射目の間には嫌でも隙が生じます。相手との距離だけ気を付けて下さいね」

「隠密の練習はばっちりなんでがんばります」

 

そういってボウガンを打つ護

 

「だぁぁぁぁ!君達ちょっとはマシになってきましたけどまだ自己主張強すぎっす!もう一旦ばらけろ!!!」

「ぎゃぁ!」

「いっつー」

「うぐぅ」

 

一方近接組はというと、たった今、怒れる會の拳により三人揃って仲良く地面に沈められたところだった。

ぎゃっと悲鳴を上げて地面に倒れ込む三人。少し離れたところには僅かに息を乱した律の姿があった。

會は地面に倒れた三人を見下ろし、本日何度目かの溜息を吐き出す。

 

「もう仕方ないっすね。こうなりゃ一人ずつ指導するっす。

先に言っときますけど、アンタ等大会では絶対共闘しちゃ駄目っすよ。やるとしても二人まで!

じゃねぇと馬鹿団子三人衆(アンタ等)は本領発揮できねぇっすから…わかりましたね?!」

「は、はい」

「わかりましたぁ」

「うん…」

 

どこか歯切れ悪く頷く彼らに會は「ホントにこいつらメンバーでいいんすかね…」なんて今更ながら不安が過った。

そんな不安を振り払うように會はガリガリと頭を掻くと誠の方を見る。

 

「たく…んじゃまず君。誠くんでしたっけ?アンタからやります。

紡くんと叶恋は律くんと二対一。ある程度時間がたったら今度は叶恋は一人で二人を相手すること。わかったっすか?」

「わかったぁ」

 

返事をするなり早速律に攻撃を仕掛ける叶恋と紡。彼らを尻目に會は「さて」と呟くと、訓練室へ入り、机の隣に置いておいた袋を持ってくると會は袋を床に置いた。

しゃがみこんで袋の中を漁りながら會は口を開く。

 

「まず先に言っときますっす。アンタは夜縁と二回も戦って、どちらも生還している上、二度目の戦闘においては勝利を掴んでいる。

その功績は凄いことですし、君はここ数か月で目を見張るほどに強くなってるっす。本当によく頑張ってるって思うっす」

「…ありがとうございます」

「ただ、弱い事には変わりはないっす」

「……え?」

 

突然の鋭い言葉に誠は目を点にする。

會は誠の方を見ることなく言葉を続ける。

 

「夜縁は隊長クラスでも手間取る相手。倒せたのは正直運が良かっただけっす。

なんか色々持ち上げられてるみたいっすけど、勘違いはしないでくださいね。アンタはまだまだ弱いんだから。

自分が強くなったと勘違いして、引き際を見誤ってると死ぬっす。

しっかり引くこと。タイミングを見計らうこと。どんな状況でも冷静さをもつこと。これ大事何で、頭に詰め込んでくださいっス…てことで、はいこれ」

 

そうして會は袋の中からそれを取り出し、誠に向かって突き出した。

それをみて誠は困惑する。

 

「え、か、刀?」

 

刀。そう、刀だ。木刀ではなく、ずっしりとした重みのある真剣だった。

 

「そうっす。武器の製作は開発部隊が行いますが、全部が全部成功作を作れるわけではないんですよ。

これは所謂失敗作。なので遠慮なく破壊しちゃっていいっす」

「破壊……?」

「木刀は真剣とはどうしても勝手が違うっすからね。本領がだし辛いでしょう。

なので今からの訓練では、アンタはこの真剣を使って俺を殺しに来るっす」

「なっ!?」

 

驚愕する誠。当然だ、殺しに来い、なんて正気じゃない。

だが會は余裕の笑みを崩すことなく続ける。

 

「大丈夫っスよ。アンタ程度の実力じゃ、俺に掠り傷一つつけれませんから。

ああ、当然俺も抵抗するので刀の刃は折ったりしますけど。まぁそういう訳なんで、相手が人間だからとか関係なく殺しにきちゃってくださいっす。

その袋分がアンタの残機。その刃全部使い切ったらアンタの負けっす。

同時に休憩に入っちゃってもらっていいっすよ。

まぁアンタは休むためにわざと負けるような戦闘部隊の名が廃る真似、流石にしないっすよね?」

「!、当り前です」

 

そこで漸く、闘志の宿った瞳で誠は會を見た。

その顔を見て會の口角が一瞬下がった。だが誠が気づく前にすぐに上がる。

 

「ならよかったっす」

 

そうして會が満足げに頷いて

 

「はい。一回死んだっす」

「……え?」

 

ぱきんっと、誠の持っていた刃が真っ二つに割れた。

地面に落ちる切っ先。會のナイフが刃を折ったことはわかれど誠は突然の出来事に理解が追い付かず呆然としてしまう。

そんな彼の頭に、會はぺいっと手刀を落とす。

 

「いつっ」

 

頭を押さえて會の方を見上げれば會は誠の額に人差し指を押し付ける。

 

「アンタが生き残れた理由の一つに相手が初っ端から本気で来てなかったって言うのもあります。

初手から本気で殺しに来られたら、アンタは今みたいに反応する事も出来ず死ぬんすよ。

誰も合図何て出してくれないっす。戦闘は唐突に始まるんすから。

ほら、早くするっす。じゃないと何もできず殺されて終わるっすよ?」

「っ、おらぁぁあ!!」

 

誠が袋から刃を取り出すと素早く會の頭に向かって刀を振りかぶった。

 

「はい。一回死んだっす」

「ぐ……っ!」

 

だがその刀は柄を掴まれ、根元からバキッと圧し折られる。

砕けた刃が一本目同様地面に散らばった。

 

「ここでだして切りかかった場合、掴まれた時点で詰み。

この場合は攻撃をしかけつつ一旦距離を取ることを考えるっす。

大会相手がどのレベルかは知りませんっすけど、夜縁相手ならそっちが吉っす、ねっ」

「っ、く、そ!!」

 

刀を取り出すなり謂われた通りに距離を取ろうとする誠。だが上手く取ることは叶わず、苦し紛れに繰り出した蹴りも躱され、そのまま距離を詰められて三本目の刃も壊される。

代わりに離れた位置に逃げることが出来た誠は、先程以上に油断のないように會を見据えながら刃を取り出す。

誠を見て會は「スイッチは入ったみたいっすね」と呟くと、口角を上げる。

 

「さ、その調子でジャンジャン仕掛けてきちゃってくださいっす。

頭を使って考えて、見極めて詰めてこないと残機なんてすーぐ使い切っちゃいますよ?」

「はい!」

 

元気よく返事する誠

そこからは只管訓練であった。

 

「踏み込みが甘いっす」

 

「肩に力入りすぎ、動きが硬い」

 

「足元疎かにしすぎっす」

 

「無闇に相手の間合いに入るなっす」

 

刀がバキバキと折られて行き、床に破片が積もっていく。

刃の沢山入っていた袋は見る見るうちに萎み、気が付いたころにはぺちゃんこになってしまった。

 

「はい残機全消費っす」

「…くそ」

 

最期の一本、歪な形をした刃が破壊され、キラキラと室内の光を反射しながら今までの刃同様地面に落ちた。

それを見つめ、顔を顰める誠。

 

「刀の残骸拾い終わったら休憩入ってもらっていいっすよ。昼飯は置いといてといてもらってるんで食っちゃってくださいっす。

休憩終わったら叶恋か律くんの相手。全員一周したら最後に一戦だけやるんで、それまでどうして勝てないのかしっかり考えてくださいっス」

 

悔し気な誠に、それだけいって紡に声を掛けに行く會

 

(袋の中パンパンに刀入ってたのに……)

 

地面に落ちた残骸を拾い上げ、空っぽとなった袋に入れながら溜息を吐く誠。

全然勝てなかった。その事実に誠は顔を顰めた。

本当に掠り傷一つ付けることも無く一方的に敗北したのだから。

全ての破片を拾い終えて、誠は訓練室のほうへと入る。

 

「脚、いてぇ……」

 

ふくらはぎ辺りをさすりながら誠は机に置かれた弁当を開く。

 

「はらへった」

 

呟き早速箸を割り食べる。

 

「はいお茶」

「さんきゅ……って、隊長!?」

 

ふと手元に誰かがお茶を置いてくれたのがわかった。

礼を言いながらお茶を啜れば、自身にお茶を入れてくれた人物を見てぎょっとする。

お茶を入れてくれたのは日向(ひなた)であった。

自身の隊長に向かってなんて口を、そもそもお茶を入れさせてしまったという事実に誠は慌てて頭を下げる。

 

「す、すみません!俺」

「いいよ、気にしなくて。それより頑張ってたね。お疲れ様」

「あ、ありがとうございます……」

 

素直に礼を言う。褒められることなどあまりなかったため、何処かむずむずして濁すようにパクパクとご飯を食べる。

 

「君は、どうして會くんに勝てなかったと思う?」

「え」

 

突然の質問に誠は暫しの間フリーズする。だがおずおずと「お、俺が弱いから、です」と答える。

その問いに日向(ひなた)は僅かに目を細める。

 

「僕は違うと思うよ」

「へ?」

「多分會くんは勘違いしてるんだろうね」

「か、んちがいって……」

「誠君は自分に自信がないんだろうね。だから會くんに勝てなかったんだよ」

 

机に肘を置いて頬杖を突きながら日向(ひなた)がいう。

またしても出てきた”自信”という言葉に誠は思案する。

 

(自信…アイツも言ってた……)

「ん?その反応、もしかして誰かに指摘されたことあるのかな?」

「一度だけ」

「そう、其の人は君の事よく見てるね」

「……自信があれば…その、強く成れるんですか?」

 

善には結局聞くことが出来なかった質問。それを日向(ひなた)にする。

「うーん」と日向(ひなた)は少し困ったような顔をする。

 

「一概にそうとは言い切れないね。でも極端なのはよくないかな。

ありすぎると軽率な行動をとってしまって、いざという時に対処が間に合わなくなって死ぬことが多い。

反対に自信がない人間はどれだけ実力があろうと、発揮する前に死ぬことが多いんだよ。

だから、油断しすぎず適度に自信を持ってる方がいいって感じかな」

「……」

「會くんは君の戦い方を見て逆に君が自信が有り余ってるタイプだと判断しちゃったんだろうね。だから、君に弱いことを自覚させようとした」

「は、自信が有り余ってる……?」

 

己とは真逆の言葉に誠は目を瞬かせる。

その反応が予想の班中だったのだろう。日向(ひなた)は苦笑を零す。

 

「あのね誠くん。自信が無い人間は普通、頭ごなしに強敵に突っ込んだりしないものなんだよ。でも君はちょっと他の人と違うんだ」

「俺が、違う……?」

「君は自滅癖がある」

「!」

 

誠は目を見開いて驚愕する。

 

「もっといえば、君は自分が死んでもいい”前提”で戦ってる。

殲滅隊に所属する以上、人類の為に命を捨てる覚悟で挑めとは言われる。

でも、本当に命を落とす前提で戦う人間はそうそういない。

死というのは全ての生物が生理的に恐れ、忌み嫌う概念だ。だから、どれだけ戦おうと決めても、強敵を前にすると足が竦むし、逃げたくなる心理が働いてしまう。

でも君はそうじゃない。君が恐れているのは”自分の死”ではなく”周りの死”。だから君は少し他の人とは違うんだ」

 

日向(ひなた)の言葉はその通りだった。誠は自分が死んでもいい前提で戦っている。

 

「君は自信が無い。異常ともとれるほどの努力癖も自信がないことが起因してるんじゃない?弱いから、少しでも強くなって、仲間の足を引っ張らないようにって

それでも強敵に勝てるビジョンが浮かばないから、少しでも相手を削るために我武者羅に突っ込んでいってしまう…………會くんが治したいのは君の猪突猛進に突っ込んでいく悪癖だよ」

「……」

「一つ質問してもいいかな?」

「…はい」

 

誠は顔を上げる。

日向(ひなた)の不死者を彷彿とさせる赤い瞳が誠を見た。

 

「君は死にたいって思ってる?それとも生きたい?」

 

それは、いつも自問自答している問だった。いつも答えの出ない問だった。

 

「……わからないです。すみません」

 

そして今もまだ、答えは見つけられない。

日向(ひなた)は緩く首を振る。

 

「謝る必要はないよ。でもそうか…わからないか……。君はやりたいこととかないのかな?」

「…………不死者を殲滅したいです」

「それ以外は?」

「………」

 

不死者を殲滅すること以外になにかしたいことはあるのか。

それは”不死者を倒した後、どうするのか”その問いに近しい質問だった。

その話をされるたびに誠は困ってしまう。

不死者を殺す以外に思いつかないのだ。他など想像できない。

 

答えられず無言になる誠。日向(ひなた)は「じゃぁ君は今、何か食べたいものはあるかな?」と別の質問を投げかけた。

全然違う質問が飛んできて、誠は一瞬面食らうが「え、今ですか?あー……ハンバーグとか」と答える。

誠の答えを聞いて「ハンバーグか、いいね」と日向(ひなた)は笑みを零す。

 

「なら君は今日一日ハンバーグの為に生きればいい」

「……え??」

「夕飯はハンバーグにしてもらっておくから。ハンバーグを食べる迄しっかり生きること」

 

日向(ひなた)はふざけた様子もなく誠に言う。

だが誠の脳内はハテナで一杯だ。どうして己がハンバーグのために生きることになってしまったのか分からない。

 

「いや、え、まってください。俺ハンバーグのために生きるんですか??」

「そうだよ?くだらないって思うでしょ?でもそれでいいんだ。

何気ない、しょうもない願いが結果的に生きる活力になる」

「活力に…」

「そういう生きる活力が、土壇場で君を生かしてくれる力に変わる。

死にたいのか生きたいのか分からないってことは君はきっと理由を探してるんだ。

でも死ぬ理由を探すなんて虚しいし、なにより苦しいだけだ。

そんなもの探すくらいなら生きる理由を探す方がよっぽど楽しくて素敵だって僕は思う」

「…!!」

 

その言葉に誠の息が詰まる。

今までそんな事、考えたことはなかった。

 

「生きる理由を考えるついでに自信も持てるようになると、きっと君はもっと強くなれる」

 

言って日向(ひなた)は立ち上がる。

 

「応援してるよ。氷雨くん」

「!、ありがとうございます」

 

誠は思わず立ち上がって頭を下げる。

その様子に日向(ひなた)は可笑しそうに笑った後「ご飯中に立つのは行儀悪いから止めようね」と注意すると「す、すみません!」と謝りながら誠は直ぐに座る。

 

(隊長の話は、少し難しくて俺には全部理解は出来なかった。でも…少しだけ、俺も…)

 

口端を上げる誠は掻き込むように弁当の中身を口に詰め込むと、お茶を一気に飲み干し、木刀を持って外に飛び出す。

 

「よし!律、あと叶恋!やるぞ」

「……」

「なんかぁ氷雨くんやる気十分だねぇ」

「まぁな」

 

笑う誠に叶恋と律は顔を合わせて首を傾げた。




あったかもしれないお話

「え、日向隊長と日向隊長って下の名前の漢字いっしょなんですか?!」
「うん。わかりにくいから重要書類でもない限りひらがなで書くようにしてるけどね」
「な、なるほど」





誠君、ちょっとだけ前向きになってきたみたいでよかったですねぇ(*^^*)
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