交流会本番、誠たちは善戦するものの東チームの狗星により敗北を余儀なくされる。
その一方で、何かしらの思惑が蠢いていた。
無慈悲な雑草の一言〈ついに折り返し地点。でもこの話の本番はここからだっ、テンション上げてこ~!!
第一節 第一項
「疲れた…なんで不死者ってこんなキモい見た目してるんだか…」
薄暗い館の中、溜息を吐く人影が一つ。
顔は良く見えないが、足元にはグチャグチャになった不死者の死体が散乱している。
その上に片足を乗せて自身の武器である二振りの剣の刃にはベッタリと着いた黒い血液。それを人差し指でなぞる。
どろりとした黒が指から掌を、掌から腕を伝って大粒の雫となり、地面にとぽりとぽりと零れて小さな水たまりを作り上げる。
「試験とはいえ怠いな……」
呟いた瞬間、ぐああああああああという雄たけびを上げ、壁を破壊し飛び掛かって来る不死者
そちらを見ることはなく、一瞬にして細切れに切り刻んだ。
動いたことにより館に掛かったカーテンが揺れ、窓から外の人工的な光が入って来る。
その光を受けてゆっくりとシルエットが明かされて行く。
「ま、さくっと全滅させりゃいいか」
天然パーマのようなふわりとした黒の短髪に深い紫の瞳
肌は白く人工的な光に照らされボンヤリと輝く。その目は好戦的なまでに輝き鋭く光る。
そんな少年は今年の参加者で会った。今年の”後期”参加者である少年は呑気に欠伸を零すと、ぴくりと顔をとある方へ向ける。
(血の匂いがする……匂い的に人。その近くに不死者の匂いもする)
心の中で独り言を零し、匂いのする方へ向かって走り出す。
そうして匂いを頼りに辿り着いた場所にはたった今食われそうになっている参加者の姿
少年はぐっと足を踏み込む。そうして一気に前へ加速して不死者目掛けて飛び込むと、そのまま二振りの剣を振り下ろした。
瞬間不死者の体が両断される。少年は飛び上がり、体と泣き別れ宙に舞った不死者の頭部。そこに付いた目玉を切り刻む。
弱点を刻まれた不死者は断末魔を上げて死滅する。
その際、四肢が振り上げられ、そこに捕まっていた坊主に近い茶髪のツンツン頭の少年が空に舞い上がった。きらり、と彼の首に下がっていたネックレスのチェーンが光に当たって鈍く光った。
反射的に黒髪の少年が彼を抱き留め、すとんっと地面に着地する。
抱き留められた少年は驚いたように目をパチパチさせて自身を抱き留めた黒髪の少年を見上げる。
「あ、あの」
「重い」
「へ?」
次の瞬間黒髪の少年は一切の躊躇もなく自身が抱え込んでいた少年から手を離す。
離された少年は重力に従ってドシンという音を立てて地面に落っこちる。
「い”った!!!」
悲鳴を上げる少年は尻を撫で涙目になりながら立ち上がり、自身を落とした黒髪の少年を睨む。
「な、なにすんの!」
「よし、次行こう」
「ま、ちなさいよ!!!」
何てこと無さそうな顔で別の場所へ行こうとする黒髪の少年の腕を掴む。
「ん?」と黒髪の少年が振り返ればツンツン頭の少年は涙を眼に溜めながらキッと少年を睨み上げる。
「助けてくれたのは感謝してるけどっ!だからってあんな雑に落とすこと無いじゃん!」
「感謝してるなら文句言わないでよ。君思った以上に重かったんだから仕方ないでしょ」
「だ、だとしても!落とすんじゃなくて降ろすとかしなさいよ!危ないじゃない!」
「ごめんなさい」
「あ、いや…そんな素直に……」
素直に謝られたことで、助けてもらったのにも拘らず文句を言っている自分が恥ずかしく思えたのだろう。
ツンツン髪の少年は気まずそうに目をうろうろとさせる。
そこで話題を無理やり切り替えるように「そ、それにしても!」と声を上げる。
「お前強いわね!!実は知り合いも此処にいるんだけど、一人で探すの怖いから…じゃなくて!一人でいたらもしも時に危ないかもしれないし?人と一緒にいた方がいいと思うのよね!だからよかったら一緒に回ってやっても___ってちょっと!!」
そんな、何処か女性口調の少年のことなど歯牙にも留めず、黒髪の少年はそのまま立ち去ろうとする。
それを見て慌ててツンツン髪の少年はその後を追いかけると目の前に立ちふさがる。
「人が話している時は話を聞かないと駄目なの!常識でしょ!?」
「へぇ、そうなんだ」
「そうなんだって…なによ!馬鹿にしてんの!?」
「してない。別にこのレベルなら危機に陥ることもないだろうし、だから一緒に回る必要もないから他のとこ行こうと思って」
「そ、そんなのわかんないじゃない!」
「いや、大丈夫だから。君も次は気をつけてね」
そういって立ち去ろうとする黒髪の少年
ツンツン髪の少年は暫く唸った後「ま、待って!」と叫ぶ。
すると黒髪の少年は律儀に足を止め、振り返る。
その顔を見てツンツン髪の少年は何かを堪えるような表情をした後「こ、怖いの!!」と恥を忍んで叫んだ。
「怖い…?」
「っ、そう!怖いの!だから一緒にいてほしいの!!もしまた不死者にでも遭遇したら……それにアイツも不死者に襲われてるかもで…」
「……いや、遭遇したら切ればいいじゃん。君等殲滅隊員になりたくてきたんじゃないの?」
「これ……さっき折れちゃったから…」
そういっておずおずと差し出されたものは根元からバッキリと折れた大ぶりのナイフ。それをみて黒髪の少年は顔を顰める。
「わぁ、芸術的なまでに綺麗に折れたナイフー、どうやったらこんな綺麗に折れるの……で?あいつってことは誰か探してるんでしょ?探してる方は?」
「ソイツは戦闘部隊希望じゃなくて、化学部隊希望だから……」
「ああ……なんか化学の試験会場が使えないとかで合同になっちゃったんだっけ?」
今回の戦闘部隊の試験なのだが、どうやら化学部隊が本来向かう試験会場が実験場に使われるとかで現在使用することができず、今年に限り戦闘部隊との合同試験となっているのだ。
化学部隊の試験内容は化学の実験、筆記、自身が改良した武器での実践
それを少しレベルの上がった場所でやるだけなので勝手は変らないと言う大人の暴論により、その話が通ってしまったらしい。
「君の知り合いの改良武器、近、中、遠、どの戦闘距離なわけ」
「え、遠距離…」
「……まぁ狙撃試験だもんね。本来は」
化学部隊の実践試験は不死者の狙撃だ。
そりゃ大概が遠距離武器を持参するに決まっている。
溜息を吐いた黒髪の少年は、ガシガシと頭を掻くとチラリとツンツン髪の少年の方を見る。
「……目的だけど」
「え?」
「この館の不死者を一掃したいんだ」
「一掃って……この館中の?!」
「うん」
驚く少年に黒髪の少年はなんてことなさそうに頷く。
「な、なんで…そんなわざわざそんなこと」
「不死者嫌いだから?」
「なんで疑問形…」
「まぁなんでもいいじゃんそんなの
兎に角、この館を適当に回るわけだけど、その途中で君の知り合いとやらが見つかるかも」
「そ、それって」
「どこにいるか分からない以上
「そ、それでいい!その、本当にありがとう!!」
「ん」
歩き出す黒髪の少年に、ツンツン頭の少年は駆け寄ると、二人は並んで歩き出す。
「ねぇ!」
「なに」
「お前、戦闘部隊希望……なんだよね?」
「まぁ一応?」
「やっぱ戦闘部隊目指す奴ってみんな強いもの……なのかな」
「さぁ?」
「さぁって…」
「知らないよ。興味ないし」
「……お前変わってるわね」
「よく言われる」
黒髪の少年はそのまま歩き続け、ふと足を止める。
「え、ど、どうしたの?」
「……あっちか」
「え、ええ!?」
だっと走り出す黒髪の少年。その速度に驚きつつも「ま、まってよ!」と追いかける。
だが、声は聞こえてないのかズンズン走っていくと、丁度曲がり角を曲がって来る不死者
ソレを視認した瞬間、ざっと一瞬にして腕を千切り取る。
「あ”あ”あ””あああああ!?」
叫ぶ不死者。だが次の瞬間目玉を抉り取られ、巨体は悲鳴を上げ続ける事無く地面に倒れ込んだ。
「ふぅ」
「いやふうじゃない!」
べしっと頭を叩かれる。振り返れば肩で息をするツン髪の少年
「なんでっ、おい、てくの…っ!」
「……あ、うっかり」
「うっかり、って…はぁっ」
「ごめん。でも君この程度で疲れるとか、もうちょっと体力付けた方が良いと思う。今後の為にも」
「うっ……それは、そう…かも…」
「あとついでにもう一つ。君はもうちょっと鍛えるなりして筋肉増やした方が良いと思う。余計なお世話ならごめん」
指摘すれば少年は分かりやすく凹む。
そばかすのついたふくよかで丸い頬をぷにぷにと摘まみながら小声で「謝らないでいいわよ…最近お菓子を食べ過ぎたから、ソレが原因ね…」と呟いた。
「筋トレ……増やすようにする。死にたくないし」
「うん。それがいいと思う。健康のためにも」
「にしても、あんなに離れていたのに正確に不死者の位置特定するなんてすごいのね。全然わからなかった」
「まぁ鼻が利くから」と言いながら黒髪の少年は剣を振って血を飛ばす。
「さて、次いこうか」
「あ、うん」
二人はまた不死者を探しに向かった。
・・・・・・・・
「……これで最後、かな」
「す、すご……ほんとに全滅させちゃった」
恐らく最後であろう不死者を蹴り転がした黒髪の少年は額の汗を拭ってそう言えば後ろに居たツンツン髪の少年は目を丸くして驚いている。その身体には一切の傷はない。
「ホントに強いのね…」
そう彼は感心したように呟く。
「ところでアンタはなんで殲滅隊に入ろうって思ったのよ」
「………不死者が嫌いだから」
「…そう」
「君は?」
「……お金が欲しいの」
「金ぇ?」
首を傾げる黒髪の少年。小さく彼は頷く。
「一人暮らししてるからお金がいるのよ」
「一人って……家族は?」
「いない」
「…なら施設に入ってないの?君まだ子供でしょ」
「……色々あって、施設には入らず一人で住んでるのよ」
「ふーん?」
「……聞かないの?」
「なにが?」
「色々ってなにが、とか」
「だって言いたくなさそうだし」
「……」
その言葉にツンツン髪の少年は口を閉ざす。
少ししてゆっくりと口を開く。
「…両親が強盗に殺されたのよ。
それを見てしまってね。それからずっと精神に病気抱えてるの。
家にいれば安心できるけど、長時間別の場所にいたら、すごく不安になって……だから家から離れられない。
こういう家じゃないと生きていけない、何らかの事情を抱えている人間は、金さえあれば施設に入らなくても特例で許されんのよ。
まぁ週に一度、施設の大人が様子を見に来るっていう条件ではあるけど」
「いうんだ」
「助けてくれたし…それにアンタは腫物扱いしなさそうだもの。まぁそういう理由でお金が欲しいの」
その言葉に黒髪の少年は首を傾げる。
その目には憐れむというより、どこか心配そうな表情だ。
「でもそれ大丈夫?殲滅隊って基本住み込みだって聞いたけど。忙しいらしいし一々家に帰れないんじゃないの」
「…精神は大分安定してきてる。半年に一度くらいの頻度で帰れれば問題ないわ」
「なら金稼ぐ必要ってあるの?生活はこっちでするじゃん」
「家は持ってるだけでお金がかかるのよ。
それに、丁度アイツも家の都合で受けるっていうから今回受けたのよ」
「例の知り合い?」
「ええ」
頷く彼に、黒髪の少年はこきりと首を鳴らし。
「と、そろそろかな」
「…なにが?」
「知らないの?この試験、毎回残り1時間とか30分とかになってくると何かしらのハプニングが___」
瞬間「う”うううううううう」という警報のような音が響き渡った。
「うるさ」
「な、なにこの音!?」
響いた音に思わずと言いたげに耳を抑える黒髪の少年と、動揺し慌てるツンツン髪の少年
そんな中、館内アナウンスが流れる。
『試験終了1時間前です。どうやら、この館の鍵が大型の不死者に奪われたようです。
四体の大型の不死者の内一体が所持している鍵を手に入れて扉を開けてください。
ただし、この大型不死者は非常に狂暴ですのでご注意を。
また扉は重く、一人で開くことは難しいでしょう。
更に、扉が閉まると再び開錠するには鍵が必須となりますのでお気を付けください』
声と同時にドシンと凄い振動が響く。
恐らくだが不死者が投下された音なのだろう。その音を聞きながら黒髪の少年は目を細める。
「……ゲームみたいなシステムぶっこんで来たね」
「吞気にしてる場合か!!急がないとヤバいわ!早く鍵持ってる不死者を見つけなきゃ!」
「分かってるよ。てか見つけた不死者片っ端から殺せばいいじゃん」
「そうだけど!!」
「あ、向こうから来てくれたっぽい」
「え?」
次の瞬間天井が抜けてガンっという音と共に巨体が降って来る。見ればそこにはバカみたいにデカい不死者の姿があった。
驚きのあまり尻もちをついてしまうツンツン髪の少年。冷静に黒髪の少年は不死者を見上げる。
「なななななにこの化け物!!」
「さっき言われてた大型不死者でしょ」
「冷静か!って、ぎゃぁぁ!!!!」
振り下ろされる拳。それをひらりと躱せば次に飛んでくるのは近くにあった扉を掴みこちらへ振り下ろしてくる。
尻もちを搗いた少年を黒髪の少年は咄嗟に抱えると、そのまま地面を滑りその攻撃を回避する。
バキッと叩きつけられた扉が地面に当たって砕け散った。それをみてギョッとするツンツン髪の少年
彼はがくがくと黒髪の少年の肩を掴んで揺する。
「やややややばいわよ!あいつ」
「なことないって、的がデカくなっただけでしょ」
「そんな単純じゃっ」
「うるさいなぁ…大人しく見てなって」
少年はポイっとツンツン髪の少年を投げると剣を握り直し、素早く立ち上がると飛んでくる椅子を踏みつけ、顔面目掛けて蹴りを放つ、そうして
「うっそぉ」
空中で体制を捻るとざくっと上から下へ叩き切った。
それにより頭が切られ、そのまま腹にあった目玉も切られる。ついでに床まで叩き切り、ばきりっと地面が割れた。
それにより不死者が地面に倒れ込んだ。
「ちょっと骨とか丈夫そうだと思ったけど、全然脆いじゃん」
「いやお前が強すぎんのよ…」
地面まで叩き割るような馬鹿力を発揮した黒髪の少年をツンツン髪の少年は謎の生物を見るかのような顔で見る。
そんな喧しい視線を無視し、黒髪の少年は不死者の体を
「鍵は持ってないね」
「てことは他が持ってるってコトね」
「そういうことになるかな…探しに行くの面倒くさいし、もう一度に来てくれないかな。全員切り殺すし」
「お前ならマジでやりそうで怖いわ…」
何処か戦慄したようにいうツンツン髪の少年を引き連れて、先へ進み。
「!」
「え、もしかして不死者を」
「見つけた」
「やっぱり!」
黒髪の少年が走り出せば、慌ててツンツン髪の少年も後を追うように走り出す。
「あ!!!」
そこには巨大な不死者。そして、その傍らでは腰を抜かしたのか座り込んでいる短髪の子供がいた。
「あの子よ!連れの子!」
「滅茶苦茶襲われてんじゃん。てか武器持ってないし」
「何処かに落としたのかも!」
「君もそうだけどホント武器折ったり無くしたり、何やってるの…?」
げんなりとしながらも、黒髪の少年は剣の片方をぶん投げ、そのまま加速
剣は不死者に突き刺さり、そのままほぼ同時に黒髪の少年が剣に飛びついた。
そのままスプーンのようにぐるりと剣を回し、引きちぎる様に引き裂けばダバダバと黒い血が地面に落ちる。
そうして器用に不死者の前に回り込むと、その目玉目掛けて拳を叩きつける。
それにより、不死者は絶叫し、黒髪の少年を振り落とそうとするが、彼は不死者の顔を蹴って剣を抜くと壁を蹴り、目玉を正確に突き刺した。
それにより、不死者は甲高い雄たけびを上げ、地面に倒れ込んだ。
と、同時にカランっと何か金属が落ちる。見ればそこには金色の鍵
「お、ラッキー」
黒い血が付着した鍵を血だまりから掴み上げる。
「だ、大丈夫!?ごめんね
「い、いいんだよ……自分こそ、ごめん…ごめんね」
後ろでは少年たちがお互いの生存に喜びの涙を流す。
短髪の少年とツンツン髪の少年は知り合いであるらしかった。
「……本音言えば他二体の不死者も殺してきたいけど」
「いや一緒に外に出た方が良いですよ…!」
「そうよ!馬鹿なことは止めなさい!!」
「ま、だよね…扉開けに行くか」
黒髪の少年はあっさり扉を開けに行くことを選択する。
そうして歩き出して、扉らしきものが少し先に見えて来たあたりで
「ひぇやややややああああああああああ」
絶叫が少し離れた場所から響いた。振り返ればそこには大型不死者と参加者であろう人物
彼らは全力で命がけの鬼ごっこをしているらしかった。その二人は全力で扉に向かって走っているようだ。
「なんで扉開いてねェんだよぉぉぉ!」
叫んでいるのが分かる。扉に目をやれば、まぁ当然開いてはおらず扉の前には人が集まっている。
集まっているあたり、誰も鍵を探しに行っておらず、誰かがカギを持ってきてくれるのを待っていたのだろうことがわかる。
「他力本願ね」
「たりき、ほんがん…?」
「他人頼りってことよ」
「…君じゃん」
「……ぐぅの音もでないわ」
苦虫を嚙み潰したようにツンツン髪の少年が言う。そこで扉の人たちにも不死者の姿が見えたのだろう。
「こっちくんじゃねぇぇ!」
「あっち行ってよ!」
「くんな!!」
そんな声を飛ばす。そりゃ扉はこの細い通路の先にしかない。こんな不死者が突撃してくればどうなるかなど察しがつくというものだ。
「うるせぇぇどけぇぇぇ」
「こっちにくるなぁぁぁぁ」
煩い人の怒鳴り合いに黒髪の少年は眉を顰めポイっと二人の少年に鍵を投げる。
「開けて来て」
「え?」
「扉の奴らが言う通り、このまま不死者引き連れてこられても迷惑だし、外に出られても厄介だから適当に切って来る」
「で、でも」
「わかった!」
「え」
驚く短髪の少年を引っ張って、ツンツン髪の少年は扉に走り出す。同時に黒髪の少年もまた不死者へ走る。
「お、お前」
不死者を引き連れて来た男は前からやって来た黒髪の少年を見て驚く。
だが少年は見向きもせず男と入れ替わる様に不死者の前に立つとそのまま足を切り落とす。それにより減速する不死者
「急所、は……首の後ろか」
態と仰向けで倒れた不死者を見ながら少年は「ひっくり返って貰わないと切れないな」と呟くがどう見てもこの体制の巨体をひっくり返すのは難しい。なら
「貫通させるか」
呟きながら手を切り落とした後、かなり太い首に剣二本を差し込む。
不死者が呻くがそこを何度も切り砕けば段々と核らしきものが見え始め「あった」と呟く……と同時に
「開いた!!」
声が後方から響く。どうやら扉は開いたらしい。此奴にとどめだけ刺して出るか、そう考え振り上げ
「あ”あああああああああああ」
「おっと」
ぴょんっとその場から退いた瞬間、不死者が遠くから飛んできた。
がんっともの凄い速度で迫った不死者に少し驚きつつ黒髪の少年は不死者を見る。
「強そうな不死者が____え」
瞬間、黒髪の少年を不死者を見上げて…目を見開いて固まる。
同時にその目前には拳が迫っていた。
「っ!!」
ぐんっと後ろに引っ張られる。少年の体を引っ張ったのはツンツン髪の少年であった。
「あぶなっ」
「!、なんで逃げてないの」
「流石にお前置いて逃げるほど薄情じゃないわ!」
叫ぶツンツン髪の少年に顔を顰めつつ、黒髪の少年は不死者を見る。そうして
「こいつ、馬鹿みたいに早いわね」
「……うん、そうだね。でも、見慣れれば大丈夫」
「見慣れるって」
「もう慣れた」
再び急接近されるものの少年は先程と違いひらりと躱すと、ざくっと額にある瞳を切り裂くと同時に振り返り、叫ぶ。
「横!」
「え、あ」
ツンツン髪の少年が横を見ればそこには先程まで倒れていた不死者が起き上がっていた。驚いて少年が逃げる、が
「え」
不死者はツンツン髪の少年など気にも留めず扉へ向かう。
「あ、ちょっ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
扉を抑えて待っていてくれたメンバーが顔を青くさせ、転がる様に一人、また一人と外へ飛び出していく。
「ま、まって!まだ二人がっ」
「もう無理だ!行くぞ!」
「っ、離せよ!!」
最後まで残ろうとしてくれた短髪の少年もまた引きずられる様にして外へ連れ出される。
「まっ」
支えてくれる人間がいなくなり、扉が自動的に閉まる。バタンッという音と共に不死者が壁に衝突したのかガンッという凄い音が響く。
「あ、ああああ…!」
消えた扉からの光を惜しむようにツンツン髪の少年は手を伸ばす……が、すぐに惜しんでいる時間も終わる。何故なら、矛先を失った不死者がターンして飛び掛かって来たからだ。
「いぎゃぁぁぁあ!!」
「一々叫ばない」
「!!」
飛び掛かられそうになった直後、ツンツン髪の少年の視界には不死者…そしてその不死者の背後に迫る黒髪の少年の姿
「これで御相子ってコトで」
そのまま首の後ろに会った目玉を切り裂いた。それにより、不死者の体が落っこちてくる
「ぎぇぁぁぁ!!」
生きていないとはいえ不死者が降って来る。それも血まみれ。それに押しつぶされ「ぐぇ」と潰れたような声を響かせツンツン髪の少年の上に乗っかかる。
「あ、ごめんごめん」
「っ、謝罪が軽いのよ!絶対形だけでしょ!?」
「うん」
「うんって取り繕うくらいしなさいよ…!」
動かなくなった死骸からツンツン髪の少年を引っ張り出す黒髪の少年。ツンツン髪の少年の服は見事に髪まで黒い血でドロドロに汚れていた。
「っ、最悪…どうすんのよ、扉閉まっちゃったけど」
「鍵もご丁寧に持ってかれてるしね。さて、どうしたものか…」
「どうしたもこうしたも……次回に期待するしかないわよ…はぁ、試験終了まであと30分以上この格好で過ごすなんてね」
落胆するツンツン髪を横目に黒髪の少年は扉の隙間に目をやる。そこには試験官である
(まだ試験官が居るってことは時間いっぱいまでは待ってくれるってコト…となればどうにかこうにかしてここから出られたら、あるいは…)
思案すると黒髪の少年は踵を返して館の奥へと足を進める。
そんな彼に項垂れているツンツン髪の少年は「どこいくのよ」と声をかける。
「探索。30分は暇だし、もしかしたら出れる方法があるかも。出来れば今回で合格しちゃいたいから」
「それは…そうだけど」
「君はここにいて。もし出れそうなことがあったら先に出ちゃっていいから」
「だからそんな薄情じゃないってば…というか出れそうなことって何よぉ…」
すでに諦めムードならツンツン髪の少年の泣き言は無視して黒髪の少年は屋敷の奥へと進んでいく。
そうして適当に色んな部屋の扉を開けて行く……と
「ここぶち破って来たんだな。あの不死者たち」
馬鹿みたいにデカい穴が開いた壁があった。
「やばい匂いする…っ、気持ち悪…吐きそう」
奥から漂ってくる悪臭は酷く。具合が悪そうに少年は顔を顰める。
流石に中に入る気になれないのだろう。足早に別の部屋へと向かう。
そうして他の扉を開ける。
他の部屋とは違い大した広さもないそこは、他の部屋のような明かりなどなく、真っ暗だ。
「暗いな…って、あれ」
何かに気づいたように少年は部屋の中へと入る。
後ろ手に扉を閉めれば光は完全になくなり、真っ暗闇に包まれる。
だが、少年は迷うことなく中へ歩いていく。
「…薬品の匂いがする。床から…?」
床に手をつくと薬品の匂いがする場所へ進み。
「…ここ、本棚の下からする」
目を凝らしてみればそれは本棚が置かれていて、先程から薬品の匂いが僅かにこの下から漂ってくるのがわかる。
(……地下でもあるとか?)
少し棚を押せば何やら収納ボックスのような扉が出てくる。
開ければその下には階段が続いているのが見えた。
少し思案した後、少年は中に続く階段を降りることを決める。
そうして降りた先は、真っ白な部屋だった。
今までの雰囲気とは明かに違う場所
「……資料室…かな」
目が痛くなるような無機質な白
それに溶け込む様に同じく白い本棚が沢山置かれていて、棚には資料が詰まっているであろうファイルが並べられている。
本棚のほかには同じく白い机がポツンとあるだけだ。その奥には唯一灰色という色をもった扉がある。
「…入ってきちゃったけど、まぁ、ここ屋敷内だしセーフだよね。なんか扉壊すか開けるか出来そうなものないかな」
少年は部屋の中を歩き、一先ず扉に手をかけるが矢張りというか鍵は掛かっているらしい。
「……ここは流石に開かないか。引き出しは……ルーペと、小瓶と……あとマッチ……うわ、なんか濡れてる…火、つくのかな?これ…」
特にめぼしい物もない。
「もう出るか」と外に出ようとした、その時
「ん?」
ふと、机に置かれた一冊の分厚いファイルが目に入る。ファイルは無造作にも開かれてあり、文字が嫌でも目に飛び込んでくる。
「……天人計画?」
首を傾げ、ファイルを手に取る。そこには色んな内容が書き込まれている資料らしかった。
【天人計画について】
天人計画は失敗に終わった。花を媒体として作ったホワアンヘルは確かに機能した。
人間の細胞を極限まで高め寿命を限界まで引き延ばす。
改良を重ね、それは寿命という概念すら乗り越えた。しかしこれはとても実用できるようなものではない
ウイルスが脳味噌を侵食し脳が耐え切れず脳死してしまうからだ。
だが、このまま改良を重ねて脳死という問題さえクリアすれば天人計画は成功すると思われる。
【緊急報告】
結局脳死を防ぐ方法は分からなかった。
しかし突然脳死した被検体(以下不死体aと記す)の一人から蔦が生えたのを確認
その蔦を研究した所、植物細胞が何一つ存在していなかった。代わりに人間と全く同じ細胞が検出された。
つまり、蔦の形をしているだけで、その実蔦は蔦ではなかったのだ。
また、その11日後、不死体aの腕に目玉が生えたのを確認した。
後日、他の実験体に蔦を食べさせたところ、不死体aと全く同じ症状がでたことが判明している。ただし目玉の位置は額であった。(この被検体を不死体bと記す)
また、目玉を刺激した所、今まで一切何の反応も示さなかった不死体aが悲鳴を上げた。
試しに目玉を解剖しようとしたところ、目玉にメスを刺した瞬間硬い物が刃に触れた。
慎重に解剖していくと目玉の中心、瞳孔部分に石のような物を確認
破壊した所、肉体は急激に老化し、肉体の死亡が確認された。
【報告】
この前の不死体bだが同じ実験を繰り返し不死体cや不死体dを作り負荷テストを行った。
個体にもよるが、軽い衝撃で骨折し少し力の強い人間ならば素手で腕を引きちぎることすら可能である。
だが、目玉の中にある石(核)を破壊されない限り何度でも細胞は再生を繰り返し、動き続けることが分かっている。
しかし扱いを間違えると非常に危険だ。「不死体」は見境なく人を襲う傾向にある。
もしも不死体をコントロール出来れば天人計画を進める一方「最高の捨て駒」としての兵器にもなりうるのではないだろうか。
【報告】
量産した蔦をとある被験体に食べさせたところ花が咲いた。此花は蔦同様人間細胞出てきていたのだがそれだけではない。その被験体の体が唐突に燃え始めたのだ(以下不死体β1)
今までこのようなことはなかった。その際、数名の人間が燃え尽きたが、何とか不死体βを抑え、解剖を行った。
結果は不死体以上に海馬の機能や脳みその損傷が激しくはあるモノの大きな違いは見受けられなかった。
なぜ炎が出たのかもわからない。もっと実験を重ねる必要があるのだろう。
前回出た不死体βだが、今度は氷を出す不死体βが現れた(以下不死体β2)
その際もやはり蔦ではなく、花が咲いた。
どうやら一部の人間はホワアンヘルを体内にいれることで花が咲き、それにより異能が使えるようになるらしい。これはますます、天人計画に近づきそうだ。
【報告】
ついにホワアンヘルを体内にいれても脳が死なない人間が現れた。
我々は彼に不死者Θとつけ研究を行った。
結果、不死体βと全く同じ特性を持っている状態だと判明
更に手足は不死体のように脆くはなく、思考能力や意思の疎通も可能だ。しかし、やはり不死体と同じく核というのは存在する。
その核を壊さないように、今後はもっと深くまで研究を進めなくてはならない。
「……不死者が元人間なのは…まぁ聞いてたから知ってたケド…………。
死なないウイルスを作るために人を殺す…そうまでして不老不死っていうのになりたいんだ。
よくわかんないなぁ、そういうの…子供だからわかんないのかな」
ぼやきながらペラペラとページを捲っている少年の頭に名案が浮かぶ。
「あ、そうだ。ここの資料すごい大事そうなものばっかだし、さっきのマッチで火事でもおこせば開けてくれるんじゃ…。
あーでもダメか流石に……やっぱ今年は諦めるしか…でもあの子に悪いし、あの子は諦めるって言ってたけど…やっぱりなぁ」
「うーん」と考えてつつ、ファイルを戻して一先ず地下から出ようとしたところで机の脚に足を引っ掛かけ転びかける。
「わっ……いった…」
転ぶことこそなかったものの、棚に思いっきり顔をぶつけてしまう。
その振動により、棚の上に積み上げられていた資料がバサバサと頭上から降ってくる。
埃が積もっているため、辺りが埃塗れとなり少年はゴホゴホと思わず咳き込む。
「けほけほっ、はぁ、ついてないなぁ……ん?なにこの資料…」
手に触れたのはなんてことない資料だった。
少年はその一枚を拾い上げた。
・・・・・・・・・
「あ、戻って来た。お帰り、出る方法見つかったの?」
「ん?うん、みつかったよ」
にへっと笑う黒髪の少年。その片耳にはシルバーピアスが光っている。
ツンツン髪の少年は怪訝そうな顔をして首を傾げる。
「お前、なんかあった?」
「なんかって?」
「いや、それは分からないけど…」
言いようのない違和感を口にしたいのに説明が難しい。
そもそも自分はそれを口にできるほど目の前の少年について知らないのだ。
気のせいかもしれない、と口を閉じたところで、黒髪の少年が何かを持っていることに気づいた。
手にあったのは資料の束。少年は持っていたソレを扉の前に投げ捨てる。
「その紙は…?」
「館内で見付けた。大丈夫、内容見た感じどうでもいい内容しか書かれてなかったから」
黒髪の少年は口元に笑みを浮かべ、ポケットに手を突っ込んだ。
「閃いたんだよ」
「え?」
「…時間は15分ある。ならまぁ間に合うでしょ」
ポケットから取り出したのはマッチ箱
その中からマッチを一本取り出し、火を付ける
たちまち燃え上がると瞬間紙束に火が引火し、黒い煙が登り出す。
「ちょ、ちょっと!これ大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫…多分」
「多分!?」
燃え上がる炎はドンドンと火力を上げ、やがてデカい火柱を上げる業火とかす。その様にツンツン髪の少年は顔を青くさせる。
「な、なんかやばくない?!明らかに火力がおかしいんだけど!!」
「おお、濡れたマッチでも燃えるもんだね」
「は?濡れた…?あ、あのマッチ濡れてたの?!」
「うん。なんか浸水してた。変な匂いしたから心配だったんだけど大丈夫そう」
「変なって……おま、それ!酒じゃないの?!」
「さけ?」
首を傾げる少年。その袖口に見えるチリチリとした赤
「ちょ!!袖!!燃えてる!燃えてる!」
「んぇ?あ、ほんとだ。通りで暑いと思った」
「呑気か!!!てかこれ、焼死しかねないわよ?!」
「お、消えた………ああ、それはないから大丈夫。だってほら」
耳を済ませれば、黒い煙が外に出たのだろう。
外からは「火事?!」という声が響き、次第にその声は大きくなっていく。
「……浅葱様、火事が試験会場にて起こりました。如何致しましょう。
…はい。館の中で……申し訳御座いません。すぐに消化致します」
雑音に交じって、千歳の声もまた聞こえてくる。
「君は奥の部屋で待ってたら?目乾いてきたでしょ」
「お前はどうすんの…?」
「ここにいるよ。大丈夫だって、焼死することはないから」
そういって床に座る黒髪の少年
前髪が火の光で赤く光る。ツンツン髪の少年は少し離れた場所で呆然と立ち尽くしていた。
それから五分。物凄い音と共に扉が叩かれ、破壊するように扉が開かれる。
飛び込んできたのは千歳と数人の消防道具を持った男達
「五分とは、お早いご到着だね」
そういって立ち上がる少年。ツンツン髪の少年は「これは一体」と驚いた表情をしている。
その後ろでは千歳が「すぐに消化してください」と指示を出している。
「早い話、こっちで開けられないなら向こうに開けさせようって話
制限時間一時間以内に外に出れば合格
ほら、この混乱に乗じてさっさと外に出ちゃおう」
火の光に照らされながら少年が振り返って悪どい笑みを浮かべる。その光景を呆然と見つめ、ツンツン髪の少年は口を開く。
「……希は、
「
・・・・・・・・・・・・
ふっと意識が浮上する感覚に目を開く。
まず最初に見たのは真っ白な天井
耳元ではピピピっというリングから目覚ましの音が響いているのが聞こえる。
そこは自室だった。ハンガーラックには同じ制服が何枚も吊り下げられていて、棚には書類の入ったファイルが乱雑に詰められ、自身が眠るベッドには狼のような大きな耳に、つぶらな瞳、ふわふわの頬と手のひらにはハートマークがついていて、猫のように長い尻尾のぬいぐるみが鎮座している。
他に人はいない。
「……夢、か」
そこまで確認して漸く意識が完全に覚醒したのだろう。
天満善はベッドの上で体を伸ばして唸る。
「はぁぁぁぁぁ……」
顔に片手を当てて深い溜息を吐き出すとゆっくりと体を起こす。
普段半分ほどオールバックのように上に上がっている前髪が下がり、長い髪から気だるげな眼がのぞく。
寝巻として愛用しているオフショルダーの片紐は本来の位置より少しズレ下がっている。
それを直しながら服が皺になることも気にせず辛気臭いため息をもう一度吐く。
「嫌な夢見た…」
呟くとごきっと首を鳴らしてベッドから降りる。
そうして顔を洗い、黒のピンで前髪をとめる。
「……さ、仕事行きますかー」
そうして制服に着替えるなり扉を潜り、ばたんッと扉を閉めた。
・・・・・・・・
「はぁぁぁぁぁ」
「ホントなんなんすか。ウザいんでいい加減息止めてもらっていいっすか?」
現在善は断罪部隊の専用部屋に来ていた。
そうして設置されているソファーに座るなりバタンッと倒れ込み、唸っているのだ。
そんな善を白けた目で見るのは同じく断罪部隊副隊長である
「めっちゃ辛辣じゃん。優しくしようよ。仮にも君の上司なんだから」
「アンタを上司とか思った事俺は一回も無いんで」
「手厳しいなぁ…」
ごろんっと會の方を見て苦笑いする善はまた溜息を吐く。
「そんなことより聞いてよ會くん。今日も今日とて午前から午後まで働き詰め。
断罪部隊ってあんまり討伐行かないんじゃなかったの?なんでこんなに仕事回ってくるわけ?戦闘部隊なにやってんの?仕事しろよ。
でもって帰ってきたら村から引っかけて来た捕虜の尋問してさぁ。終わったら不死者の殲滅作業してほーんっとブラックだわぁ」
今日この時間までに起きた任務の内容を死んだ顔で言っていく善
會は善の方を見ずに書類を進めながら口を開く。
「尋問やってないでしょ。
「押し付けてなんかないし
そもそもその手の仕事が嫌ならなんで自分から断罪きてんだよ」
「朔くんが来た時アンタしか断罪にいなかったから人手不足解消のために態々来てくれたんでしょ?ほんと善人気質っすよね」
「…そういえば断罪部隊の良心とか言われてるんだっけ?朔くん」
「まぁ、悪ノリしてくることだけ除けばいい人っすから。他の部隊でもよく手伝いとかしに行ってますし。
ほんと配慮の欠けたどこかの誰かさんにも見習ってほしいっす」
「自己紹介?」
「は?」
「こわ」
ケラケラ笑いながら善は体を起こすとリングを起動させる。
そのまま、何かの書類を読み始める善
會もまた、何か喋ることなく書類を進める。
少しの沈黙。何か思い出したように會が「ところで」と沈黙を破る。
「
「んー?あー、任務詰め込んでるからじゃない?」
「任務?詰めるほど叶恋って任務ありましたっけ?」
「いや?ないよ。でも今は諸事情で任務の消化手伝ってもらってるんだよね」
「アンタの任務を?」
「そ。おかげでちょっと休息できるわ…睡眠時間毎日1時間くらいしかないし。
非番も潰されるしでまともに休めてなかったから、今月はちょこちょこ休めそー」
「へー、どういう事情が知りませんが今月は楽できて良かったじゃないスか。
俺は今日も忙しいですけど。アンタみたいにうざ絡みする時間さえないくらい書類に追われて忙しいですけど。
あー忙しい。隊長はサボる余裕ができて羨ましいなぁ」
「んー、発言にトゲを感じるー」
げんなりする善。だが會はどこ吹く風だ。
「俺はアンタが大嫌いなんすよ。知ってると思いますけど。
雑談なんて楽しくやる気はないし同じ仕事でもない限り同じ空間にすらいたくないんで、休息とるなら他の場所行ってくれます?」
「わー、前に同じこと言って来た奴いたなぁ。今は仲いいけど」
「…あそ、俺はアンタと何年たっても仲よくする気なんて一切ないんで、話しかけないで貰えます?業務以外で」
「悪いね。おしゃべりなもんで」
「うざ……そんなに喋りたいなら
「
「新人指導?」
新人指導とはなんだ?と首を傾げる會
「ほら、誠くんって子いたじゃん?あの向上心の塊みたいな子
交流会終わってから任務の合間に良く頼み込みに行ってるみたいでさー」
その言葉に會は「うぇ」と言いたげに顔をしかめる。
彼は今だに誠に対してあまりいい印象を持っていないらしい。
口にしないだけ大人だが、それでも表情ではまるわかりなのでやはりまだ子供なのかもしれない。
會の表情には気づいているものの、善は敢えて何も言わずに続ける。
「んで、
大抵見てやれないんだけど、今日は非番だったみたいでね。
ついでだからって三年以内の新人で今日暇な奴等全員集めて一日訓練するって言ってた」
「へぇ、ならそれ参加してくれば?アンタの取柄なんか戦闘強いとこしかないんですから」
「これ以上の労働はなぁ…折角の休息だしなぁ…あー、でも丁度いいストレス発散にはなるか…行こーっと」
呟くと善が立ち上がって羽織を羽織って部屋の扉に手をかける。
「新人指導をしてこいっつっただけでストレス発散してこいとは言ってないんすけど……その思考にいきつくあたりほんとクズっすね」
非難の声が後ろから響くが善がその言葉に何か反応することはなく、サッサと部屋を出て行った。
あったかもしれない会話
「……望くん。痩せたね」
「そうなのよ!よくわかったわね!!3キロ落ちたの!!」
「へぇ、よかったね」
「ま、ストレスたまったら爆食いする癖があるせいで、ここ入ってから食べる量は二倍になったけどね。で、お前はちゃんとご飯食べてるわけ?」
「……たべてる」
「嘘つけぇ!!前と大して変わってないじゃない!まぁた抜いてるでしょ!!!ほらぁ!実際軽いわ!!軽すぎて怖いわよ!内臓入ってんの!?」
「……急に落ち上げないで。あとうるさいし。内臓入ってなかったら生きてないから」
「口答えしてんじゃないわよ!飯行くわよメシ!!」
今回の話は過去編
善と希、そして名前は出てないですが護の話が出て来たぜ!
一章の館が少し焦げていた、というのは善が燃やしちゃったからですね!FUU!善ったら過激~!!
あと善の性格ですが若干あの地下の下りの前と後じゃ対応っていうか、ちょっと違うんですよね。
かき分けって難し~!!!あひゃひゃひゃひゃ!