夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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ついに12月ですよ。
コタツと布団が恋しくなる時期ですねぇ
雑草は布団を恋人にしようか本気で悩んでいます。
そういえば「蒲団」っていう小説ありますよね〜
あれよく気持ち悪い話って言われますけど、主人公の好きな人に対する依存に近い感情の揺れや動きがめちゃくちゃ繊細に描かれてて雑草は好きなんですよねー
読んだことない人は良ければ布団に丸まりながらご愛読くだせぇ


第三節 第一項

「はい、てことでいきますか」

 

あれから四日が経過し、善と叶恋の非番の日がやってきた。

早速彼らは揃って地下に降りてきたわけだが。

 

「善さん。非番なのにその恰好なんですぅ?」

「なんだかんだ落ち着くんだよ」

「…………もしかして他に服ないんですかぁ?」

「部屋着は一着だけあるけど。基本持ってない」

 

答える善の格好は普段と何ら変わらない。白いカッターシャツにジャケットを肩に掛け、下は黒のズボンに長いブーツという格好である。

そんな善の傍らにいる叶恋はというと、可愛らしいフリルとリボンのついた所謂ロリータ風な赤とピンク色を基調としたワンピース

普段結んでいる髪についたリボンの中心には小さな薔薇のクリスタルがあしらえてあり短い白靴下にもふんだんにフリルが付いており

それらの魅力を限界まで引き出すように、可愛らしいピンク色のアンティークリボンシューズである。

それにより、普段は長い靴下や長袖の服で見えない彼女の腕や足が惜しみなく出される。

腕、足にはピンク色のリボンがボディーステッチとして編み上げられている。

人によっては人形のようで気味が悪い、と感じるだろうが彼女はそれらを気にすること無く堂々としている。

 

「あ、ハコビちゃん!今日はねぇ、お揃いのリボンつけて来たよぉ!」

 

そんな彼女は一切の躊躇いも無くハコビを抱き上げると頭を撫でた。

そうして、ポケットに手を入れたバナナを取り出した。

 

「はい今日はバナナぁ!」

 

差し出せばハコビはぶっとバナナを飲み込む。

 

「不死者に人間の食べ物あげても意味ないっていつも言ってるのに…空腹って概念も味覚も無いんだから」

「知ってますってぇ、でもほら食べてくれるしぃ。

もしかしたら、味覚はなくても人間の頃の…味覚があったころの記憶で、分からなくても”感じてる”かもしれないじゃないですかぁ」

 

叶恋はヨシヨシとハコビの頭を撫でる。

 

「感じたところで何なんだって話だと思うケド…。

まぁいいや、早く行こ。ただでさえハコビ使用届書かされて時間無駄にしてるんだから」

「書いたの叶恋ちゃんだけですけどねぇ」

「そりゃ隊長権限あるし。

てか、一般隊員は任務以外でハコビ使えないようになってるんだから使えるだけ有り難いでしょ」

「まぁそうなんですけどぉ」

 

殲滅隊では基本隊長クラス以外の人間はハコビの私用利用は出来ないようになっているのだ。使えるのは隊長、副隊長が同行する際、書類を提出すれば利用できる仕組みとなっているのだ。

 

「じゃ、行こうか…ハコビ、X地区に連れてって」

 

善が言った瞬間、視界が一転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「普通…ですねぇ?」

「地区事態はね」

 

X地区に来た叶恋の第一声はそれだった。本当にどこにでもありそうなところだった。

地区は全体的にどこか古めかしさを感じる。

雨が振っているようで、パラパラと空からは大粒の水が降ってくる。

町の照明に照らされ、時折キラキラと光る雨に思わず目を奪われた。

 

「雨、久々に見た。やっぱり綺麗」

「どこがだよ…雨も雪も視界悪いし歩きにくいしでいい要素ないよ…」

 

そう言われて差し出されたものは傘だった。

 

「質素な傘ですねぇ、可愛いのが良かったですぅ」

「文句言わない…っと」

 

善は自身が肩にかけていたジャケットを上からかぶる。

当然ジャケットなのでフードなどはなく、頭にかけた状態だ。

 

「え、傘ないんですか?」

「ない」

「えぇっ!じゃぁこれ返しますよぉ!」

「それなら君どうするの。風邪なんか引かれたら遠征困るんだけど」

「そ、それは…」

「その服もこの間買ったばっかのやつでしょ」

「うっ…」

「しかもメイクちょっとしてるよね?少しでも濡れたら化け物になって悲惨だけど」

「ば、ばけもの…ひさん…」

「それでもいいなら傘返して」

「……お借りしまぁす」

 

風邪をひき、遠征で迷惑をかけることは勿論、服もメイクも台無しにしたくなかった叶恋は大人しく傘を借りることを選ぶ。

そうして二人は小屋から出ると雨の中、地区を歩き出した。

傘に雨が当たる軽い音を聴きつつ、叶恋が改めて建物に目をやれば、雨や風が蝕ばまれてしまったらしく

鉄パイプなど、金属製品のものには赤茶色の錆が己の存在を主張するかのように発生している。

地面も緩いのだろう。土塀が崩れていたり家が傾いていたりしている。

本当に、活きが良いのは植物だけだ。

建物に蔦を生やし、一部では立派な牡丹なんかも咲いている。

 

(雨が降ってることを除けば、ほんと良くある地区って感じ)

 

それが、叶恋のこの地区の印象だ。

 

「施設って何処にあるんですかぁ?」

「ここの反対。西エリアにあるから、ここから少し歩くよ」

 

そういって二人は西エリアを目指して歩く、と。

 

「……」

 

どれだけ歩いただろうか。西の看板を見かけた辺りから明らかに街中の空気が変化するのを感じ、叶恋は僅かに息をのむ。

 

(なに、この雰囲気)

 

ぞわりと肌が粟立ち、少し不安げに辺りを見渡して、一点を見て固まる。

そこに居たのは人だ。しかし、どこか雰囲気が可笑しく、別に痩せている訳ではないのに、隈がひどく頬はコケ、髪はボサボサ、なのにも拘わらず衣服は何所か小奇麗で……でも、手首に金属の枷のような物が付いている。

どこか腫れぼったさを感じさせる瞳には生気を感じられず、空虚を見つめる様に虚ろだ。

傾いた建物の陰。ジッとこちらを見ながらブツブツと何かを呟いている。

 

「よ、善さん」

 

不安になって叶恋は善の腕を掴む。

善はそちらをチラリとも見る事無くただ一言「気にしないでいい」とだけ言って歩く。

一人だけじゃない。段々視線を感じ始め、気にするなと言われても気になってしまい、恐る恐る視線の方を見れば、やはりそこにも人影が。状態は違えど、皆何処か虚ろな目で此方を見つめている。その光景がひどく不気味であった。

そうして、やがて背の高い大きな建物が見えてくる。

 

「こ、ここが施設?」

「そう…”生”の施設で一番惨いって言われてる場所」

 

他の建物と違い綺麗な建物

他が年季を感じさせるものばかりだからか不釣り合いに見えて、それがまた奇妙さを感じさせた。

善はひょいっと施設を取り囲む塀に飛び乗るとそのまま敷地に侵入する。

そして一つの小さい窓の前に立ち止まりひょいひょいと叶恋を手招いた。

叶恋はごくりと生唾を飲み込み、僅かに震える手を固く握りしめて善に近寄る。

そうして、窓枠に手をかけ、背伸びをしてそっと窓の中を覗き込む。そこには____。

 

「!!!」

 

大量の機械を取りつけられた男女の姿

その近くには大体赤子ほどの大きさのカプセルがあって、その中にはなにかの液体で満ちており、小さな肉の塊が蠢いている。

それだけじゃない。その近くには腹を大きくした全裸の女や男の姿もあった。

 

「なっ…ぇ…ぁ……な、に…?」

 

全員目が虚ろで、痩せているわけではないが窶れていて、意味のない言葉をブツブツと呟いている。

中には奇声を上げているものまで居て、誰も彼も正気とは思えなかった。

 

(よく、わからない…わからないけど、っ)

 

よくわからない…が何か悍ましい。

 

「っ!!!」

 

うっと胃に圧力がかかる。胃から内容物が込上げ、喉にツンッとした刺激が走る。

思わず口を手で押さえるが、嘔吐感が体を駆け巡り、口いっぱいに吐瀉物(としゃぶつ)の味が広がり、ジワリと目じりに涙が浮かんだ。

 

「あーあー、やっぱりか…ほら吐いちゃっていいから」

 

いって差し出された袋に吐きだせば胃の中が幾分かスッキリした。

 

「はぁ……はぁっ、はぁ」

 

息を荒げながら、口の中の違和感をなくそうと、必死になって吐き出す。

そうして、ある程度スッキリした所で口をハンカチで拭って顔を上げる。

善は袋の口を縛ると近くに会ったゴミ箱に投げ捨てた。

 

「あの……ここってぇ」

「端的に言えば”生命”を作る施設

人工の深刻な問題は叶恋ちゃんも知ってるでしょ?

だから人口を増やすためにこういう施設がいくつか出来てるんだよ。

効率を考えてカプセルで育成する体外受精って形でね。

でもまぁ、見ての通り体外受精には常にそのモトが必要になるわけだから、あの手この手で搾取されてる。

それに生殖体とか、臓器とかが不具合で使えなくなったら死体から摘出し、コールドさせたやつを解凍して植え付けて無理矢理機能させたり

カプセルがいっぱいになった時は性転換手術で母胎作って受精後、体内で育てさせたりと…まぁめちゃくちゃしてるんだよ。

ここに放り込まれる奴らは大概悪いことした奴らだって言われてるけど…厳密なことはわからないからねぇ…ほんとなのかどうなのか……。

そんでさ。皆心折れちゃっててさ、人間性っていうの?ないんだよね。

因みに生まれた子供は子供が欲しい人のところに送られたり他施設に入れられたりするかな」

「………他二つの施設も…こんな感じ、なんですかぁ?」

「施設によって度合いは違うけど……まぁ結果を言えば似たような物か。

一番人らしい扱いを受けられる”いく”の施設だって場所によったら心が壊されて機械人形みたいになってる子もチラホラ見かけるし」

「機械”人形”…」

 

 

___施設がゴミ箱として俺等はゴミだ。

 

 

___人権何て

 

 

「…………なんで、こんなひどいことぉ…」

「酷いこと…まぁ確かにね。でもこうなったのって不死者のせいだし、元を辿ればホワアンヘルなんて作ろうとした人間のせいでもあるから、言ってしまえば自業自得?

でも、この施設で生まれた子達からすれば傍迷惑な話だよ。

罪があるのは先祖であって子孫は関係ないのにね。

でも、そういう時代に生まれちゃったんだから自分の悪運を呪ってもらうしかないかな」

 

善は淡々という。

窓からは未だに苦し気な声や喘ぎ声、うめき声、掠れた悲鳴が聞こえてくる。

恐ろしい現実が目の前に会って、叶恋は窓の中を再び凝視してしまう。目が、離せないのだ。だが

 

「ほら、いつまでそんな胸糞悪い物見てんの?それともこういうの好きだったりする?」

 

トンっと両肩を掴み聞く善に、叶恋はびくりと体を跳ねさせ振り返る。

 

「そ、んなわけないでしょぉ?!」

「そう、ならよかった。人の趣味趣向を否定する気はないけど知り合いの特殊なあれこれを知るのは抵抗あるからね」

 

「人間関係がこじれる理由の一つは気まずくなることらしいし」なんてサラッという善に叶恋はボソッと「気まずくなくても善さんの人間関係は拗れ捲ってんじゃん」なんて呟けば、それが聞こえたらしく、軽く頬を抓られる。

 

「いたいですぅ…」

「生意気なこと言うからでしょ。ほら、さっさとここ離れよ。

というか、どっか行こうよ。折角の非番だし、どうせここから更に忙しくなるんだから」

「……」

「それとも、これ見た後じゃそんな気にもなれない?」

 

聞けば叶恋は小さく頷く。善は「真面目ねー」とけらりと笑う。

 

「君が気にしてもこんな問題、どうにもできやしないんだし気にしないでいいんだよ」

「どうにか出来ないんですかぁ?」

「無理無理そもそも彼らに逃げる意思がないし」

「逃げる意思がない…?」

「見たでしょ、ここに来るまでに人

彼らはこの施設出身でね。定期的に外に出されるんだけど、誰も逃げようとしない。

今まで意思を持つことを許されてこなかった人間が、突然自由にして良い、意思を持って良い…なんて言われて出来ると思う?自分で自分に枷はめてんだよ」

 

叶恋は思い出す。

確かに虚ろな目をした彼らは外にいたのに、じっとこちらを見るだけで逃げようとはしなかった。

ただただ大人しく、そこに立っているだけだった。

 

「それに助けたとしても彼らの寝床やら食事やらその他もろもろの責任とれる?とれないでしょ。金だけの問題じゃないんだよ。

仮にここの人が助かったとしても他にも似た待遇の人は腐るほどいる。全員助けるなんて無理

この世界が誰も彼も幸せになれるなんて夢物語なことくらい、君が一番よく知ってるだろ。

幸せになれる奴もいれば、不幸になる奴もいる。此処にいる人間は皆後者の人間だった。それだけだよ」

「……どうして」

「ん?」

「なら、どうして善さんは…叶恋ちゃんを助けてくれたのぉ…?」

 

そう聞く叶恋。善は首を傾げる。

 

「叶恋ちゃん、あのまま行けば施設に連れていかれる予定だったんだよねぇ…?なのに、どうして善さんは…」

「たまたま人手が必要な時に君がいたから声をかけた。

ある程度世話できる環境もあったしね。

だから、別に君を助けようとかそんなつもりで声をかけたわけじゃない」

「………」

「条件が揃えば誰でも良かったし、逆に条件が揃わなきゃ声かけなかったよ」

 

善のはっきりとした言葉に叶恋は目を伏せる。

 

 

 

____俺の代わりなんて

 

 

 

____俺だから、それを言ったんじゃない

 

 

 

 

律の言葉がグルグルと脳内を巡る。

善は叶恋をみて(面倒なこと考えなきゃ良いのに)なんて内心呟き、ポンポンと叶恋の頭を軽く撫でると、細い手首を掴んで歩き出す。

自身の手と、それを掴む善の手を見て、叶恋は少し昔の事を思い出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

支援部隊が管理している医務室

そこに設置された白いベッドには体を丸め、震える少女の姿があった。

彼女の両手両足には大量の包帯とガーゼが巻かれている。

長い髪はボサボサで爪はボロボロに欠けていた。

その欠けた爪で彼女は自身の腕をガリガリとひっかいている。腕だけではない。足にも似たような掻きむしった痕があった。

そんな彼女を見て、ひそひそと話す女性たちは、支援部隊の隊員であった。

 

「あの子、家族みんな死んじゃったらしいわ。可哀そうに」

「でもこれからどうするのかしら。明らかに精神病んでるわよ、あんな子。ウチで引き取っても…ねぇ?」

「隊長は施設行きと言っていたわ…でもあの精神状態じゃまともなところはとても…でも、仕方ないわよね」

 

そんな声が聞こえる中、少女…松田叶恋は一人ガリガリと腕や頭を掻きむしった。

ガーゼの貼られた頬には涙の跡がいくつも見られた。今の彼女は泣いていない。涙と共に感情すら流れてしまったのだ。

無表情でただ一心不乱にガリガリ、ガリガリ…。

そんな彼女の腕が突然掴まれた。

 

「いつまでそうしてんの?」

「ちょっと、天満くん!」

 

俯いた彼女の視界に誰かの足

その足の人物が自分の腕をつかんでいるのだとわかった。

誰かを止める声が響くが其の人は気に留める事無く腕を引く

 

「見たくないって俯いてたら、肝心なものまで見逃すよ」

 

連れられて廊下を歩きながら、彼女はその言葉を鼻で笑った。

 

 

何を見ろっていうの、こんな悲惨な現実なら見ないほうがいいじゃん

 

 

気づけば叶恋は断罪部隊という場所に入れられていた。

断罪の仕事も殲滅の仕事もやった。

でも叶恋はどんくさくて、何をやるにも失敗続きで、迷惑ばかりかけていた。

その度、同じ部隊の人たちが叶恋を慰めてくれる。叶恋の尻拭いをするため、通常より多く働くことになっている。

 

(昔も今もかわらない。ずっと誰かに迷惑かけてる。ずっと誰かに守られてる。何もできない)

 

どうして自分がここにいるのかわからなくなった。

 

たまたま話すことになった他部隊の人にも言われた。

 

”断罪はおろか、どこの部隊も向いていない”

”なんで殲滅隊に入ったの?”

”足引っ張るな”

"邪魔"

 

人に関われば関わるほど、誰かに迷惑をかけている。

 

(なんで生き残っちゃったんだろ)

 

生きてる意味もよく分からなくなった。

 

 

 

_______それでも、断罪にいたのは

 

 

 

『え、辞めた方がいイかって?』

 

その言葉にきょとんとしたのは蓮だった。

先程まで彼らは同じ任務に行っていて、その帰りだった。

下を向いている叶恋の視界には普段彼がつけている雑面が映っていて、そのことから今彼は雑面を外しているらしいということがわかる。

 

『叶恋ちゃん…役に、立ってないから…迷惑、かけたくなくて』

『…』

 

叶恋は俯く。

蓮は首を傾げる。

 

『迷惑って断罪の誰かに言ワれタ?』

『…』

『辞めて欲シいっテ、言ってタ?』

『……』

『仕事が出来ルことガ全部じゃナいト思う』

『…でも、全くできないのは問題…だよ。ううん。寧ろ足引っ張って、仕事増やしてる』

 

叶恋は未だに目を伏せたままだ。視線を合わせようとしない。

 

『…叶恋は”やめてくれ”っテ僕に言われたいノ?』

『……』

『断罪の皆二言わレたいの?』

『…』

『何か言っテくれないと、困ル』

 

しかし叶恋は何も言わず俯いたまま

蓮は深い溜息を吐く。それに叶恋はびくりと肩を撥ねさせる。

 

(失望…された)

 

でも仕方ないか、と叶恋は諦めたように目を細め

 

『い”っ!?』

 

ばちんっというものすごい音が響いて、叶恋の両頬に強い衝撃が走った。

蓮が勢いよく叶恋の両頬を挟んだのだ。

勢いがつきすぎてビンタみたいになっている。

泣きそうになる叶恋だが、蓮はそのままぐいっと無理やり叶恋の顔を上げさせた。

叶恋の視線が強制的に上がり、蓮の口元だけが見える。

その口が動く。

 

『やめたかっタらやめればイイ』

『…ぇ?』

『僕も、断罪のみんなも誰も止めない。

でもソレは、叶恋が邪魔ダって思ってるカラじゃなイ

叶恋の意思を尊重したいって思うカラ止めないだけ。

勝手に僕らノ気持ちヲ捏造(ねつぞう)して都合のいい人間(悪者)にしないデ』

『そんなこと…思ってない。ただ叶恋ちゃんは皆に迷惑を掛けたくなくて…でもこのままここにいても、皆に迷惑かけちゃうだけだから…』

『なら皆の顔見て聞けばイイ』

『!』

 

ぐいっと手を捕まれる。

蓮が開いた扉は断罪部隊の部隊室で…。

 

『叶恋はこっちをみない。ずっと俯いてる。

一人で思い込んで、ずっと心の中に引きこもってる。

僕らは叶恋を見てる。でも叶恋は僕らを見ない』

『…っ』

『僕らは叶恋のこと、迷惑なんて思ってない。會も、紫空も、善さんも』

 

叶恋の目が、ゆっくりと上にあげられる。

同時に扉が開け放たれた。

叶恋の目に映ったのは3人の姿

叶恋たちの方を見て………笑った。

 

『あ、叶恋、蓮おかえり〜』

『結構時間かかってたっすね、怪我とかしてねぇっすか?』

『血の匂いしてないし大丈夫でしょ。それよりこっちおいでよ。叶恋ちゃんが前に言ってたシュークリーム買ったんだ。てことでロシアンシュークリームでもやろ』

『だからそれ台無しになるじゃないっすか!!!叶恋からも言ってくださいっす!やめろって!』

『口直しのジュースもありますから〜』

 

楽しげな会話が耳に入る。

叶恋を嫌がっていない。そんな素振りすら見えない。

 

『どうしたっすか?どっか痛いとか?』

 

會がいつまでも近寄ってこない叶恋に声をかける。

 

『あ……』

 

心配そうにしている。

嫌悪なんて何処にも見えなくて…。

 

『誰も迷惑なんて思ってない』

 

隣から声が響く。

そちらに目を向ければ、火傷で爛れた肌が目についた。だがソレ以上に

 

『それに僕は叶恋がイルほうがイイ。明るクテ、あったカい』

 

優しい笑みから目が離せなくて……ぼろりと涙が溢れた。

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

過去を思い出して叶恋は目を細めた。

 

(叶恋ちゃんは…運が良かっただけ。運良く拾われただけ。

善さんが言ってることは間違ってない。

叶恋ちゃんだから選ばれたんじゃない。

でも、それでいい…叶恋ちゃんのことを必要だって、言ってくれる人と遭えたから)

 

手を引かれながら叶恋は後ろを振り返る。

あの醜悪な施設が見える。だが叶恋は顔を顰めたがすぐに前を向いて歩き出す。

 

(そんな人が、あの人たちにも出来てほしい。運でもなんでも良いから幸せに、なってほしい…。

でも、今の叶恋ちゃんにはどうにもできない。

仕方ない、なんて言いたくないけど、仕方ない……んだろうなぁ。

こんなことになったのは、不死者がいるから。

一人でもああいう人が居なくなるように……今の叶恋ちゃんにできることは夜縁や不死者を倒すこと…叶恋ちゃんは、今できる精一杯をやる)

 

気づけば西地区を抜けきった所であった。

そして、叶恋は少し顔を上げ背中に声をかける。

 

「善さん」

「ん?」

「偶々でも声かけてくれてありがとう」

「………」

 

叶恋の言葉に善は僅かに目を細めた。どこか複雑そうな表情。そんな善をみて、叶恋はニッコリと笑う。

 

「お腹空きましたぁ!」

「……は?」

「ご飯行きましょう!善さんの奢りでぇ!!!」

「……今絶対そういう事言う場面じゃなかったでしょ…」

 

呆れながらも「いいけど」なんて言ってくれる善に叶恋は小さく笑った。




今回はここまで!
叶恋の話と施設の話でした!
いやぁ小説だからあんまりグロくないけど想像したらなかなかに酷いと思われます!まぁ想像しなけりゃ大丈夫ですけどねっ!!!
それにしても、自由意志の話はよく教育の話で耳にしますよねぇ。
自由になりたい、自由になりたいっていう人ほどいざ自由にしていいと言われると誰かの指示を待っちゃったりするっていう。
人間の心理って面白いですよね〜

あと善がやってたジャケット被るやつ。よく雑草もしてました。
傘持ってきてない日に限って大雨降ったりするんですよ。
でも置き傘してるから大丈夫!!!とか思って見に行ったら誰かに取られてたりするんですよね〜。畜生めッ!!!!
学校で借りようと思えば借りれるんですけど職員室行くのも怠いので制服のジャケット被って土砂降りの中よく帰ってました。
まぁジャケット被っても結果的にずぶ濡れになるんで途中から脱いで被ることすら面倒くさくなってそのまま何もせずに濡れて帰る…なんてこともよくありましたけど(笑)
よく風邪引かなかったな、マジで

【世界観メモ14】
施設「生」では生命を作る活動を行っている。
施設によって作り方は様々であり
恋愛援助の末、その人の意思で子を作る場合もあれば、薬などを使用し、無理矢理性行為を行った末に作る場合、更にX地区のように機械的な方法を利用し生成する場合もある。
X地区に関しては色々とグレーゾーンギリギリの行いであると言えるが一応グレーなので見逃されているもよう。
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