夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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この章ももう少しで終わりですね〜
というかそろそろ正月も来ますねー
ぐっぱい2023年!振り返れば良い一年だったような気がするよ!!!
というか小説を初めてハーメルンで投稿してからかれこれ5ヶ月!早いですね〜
こんなに更新続けられたのもこのサイトに生えてきたおかげですねー
見てくれる方も少し増えて雑草はとても嬉しいです(*´・ω・)(・ω・`*)ネー


第ニ項

また夢を見た。その日の夢は雨が降る夢だった。

 

 

 

空から降って来る雨に打たれ全身ずぶぬれのまま、ゆらゆらと路地裏を歩いた。

家に帰りたくなくて、連れ戻されたくなくて、腹をグーグー、喉をカラカラさせながら歩いた。

傷だらけの素足で、ほとんど裸のような状態で、薄っぺらく小汚い布を身に纏って、建物と建物の間をただ只管に。

やがて大通りに出た。人が沢山いた。だが視線を向ける者はいない。

所詮は他人。本人の気持ちは本人にしか理解することは出来ない。

真の理解者など存在しないし、欲しくもない。

黒々とした不快感は、大部分を覆い尽くそうとしていた。そんな時だ。打つ雨が唐突に鳴りを潜めたのは。

怪訝(けげん)に思って落としていた視線を上げれば、自身に向かって傘を差し出している男がいた。

 

男、大きな男

 

ひっと、喉が締まり、か細い悲鳴が漏れ、後ろに下がる。

だが男はこちらに傘を傾けただけ。捕まえる素振りは見せなかった。

よく、男の顔を見る。

傷だらけの三十歳ほどの男、父とは全くの別人だった。

恐怖を思い出したように震える手を握って男をキッと睨む。

 

「なんだ、お前」

「風邪ひくぞ」

「……どっかいけ」

 

殺伐とした、色のない会話

他人への親切など所詮は見返りを求めての行動でしかない。そんな安い同情は要らなかった。

だからアッサリ切り捨てた。だが男は引かなかった。

 

「家は?」

「……」

「お前、ウチ来い」

「は?」

 

男の言葉に思わず間の抜けた声が出る。

だが男の言葉の意味を反芻させて…思わず馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。

 

「同情か?それとも偽善者気取りてぇのか?

生憎だがいらねェんだよ、んなもん

悦にひたりてェならほか当たれ」

「うるせぇな。

世の中8割偽善と同情で回ってんだよ。一丁前に格好つけてんじゃねぇよ

つべこべいってねぇでこい、クソガキ」

「行かねェ」

 

そう冷たく言い捨てて最初の体勢に戻る。

しかし、差し出された傘は動かない。

いい加減苛立ち始めた彼女は、懐に潜ませていたガラスの大きな破片を男に突きつけた。怒気を孕ませた低い声で、呟く。

 

「失せろ。お前に用はねェ」

「お前になくとも俺にゃあんだよ」

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

視線を外した覚えはない。だというのに、気づけば自身の首にひんやりとした何かがあてがわれている。

視線だけでソレを見れば、それは大ぶりのタイプだった。

先程までは持っていなかったので、恐らくは懐から抜いたものなのだろう。

あまりにも早すぎる行動に一瞬思考が追いつけなかった。

 

「っ!」

「お、この状況で睨んでくるたぁ威勢いいじゃねぇか…ますます気に入った」

 

機嫌良さそうに男は首にあてがったナイフをひたひたと首に当てる。

少しでも動けば首は簡単に切れてしまうだろう。

そうすれば、死ぬかもしれない。

その恐怖に怯えながらも必死に男を睨めば男は笑みを浮かべ、ナイフを遠ざけると腕をつかんだ。

 

「損はさせねぇ。騙されたと思って来てみろ。

随分と痩せてるし、まともに飯も食ってねぇんだろ?うまいもん食わせてやるから」

 

 

そこで光景が切り替わった。

 

 

初めは一晩だけのつもりだったが、いつしかそこに住み着くようになった。

ただ正直な話そんなつもりではなかった。

というのも、食事を食べ、水を飲んだあと直ぐに家を出て行こうとしたのだが、そこで男に腕を掴まれたのだ。

 

「これからはここがお前の家だ」

「は?」

「お前が逃げようが俺はどこまでも追いかけるから」

「は??」

 

思わず呆然とした。

だって男の言葉がどうしても理解できないことだからだ。

 

「どうして他人にそこまでするんだよ」

「別になんでもいいだろうが、俺がそうしたいからそうしてんだよ。わぁったら飯の準備してやるから食え」

「……」

 

それから毎日毎日家から逃げ出そうとした。

だが、本当に律儀に連れ戻される。その度、男は鼻で笑い「まだまだだな、クソガキ」とニヒルに笑うのだ。

だが正直悪くなかった。

男のこちらを気遣ってくれる言動もクシャッと頭を雑に撫でてくる手も柔らかい目も、居心地が良かった。

 

だが同時に、言い様のない嫌悪が湧いて出た。

 

自分は、こんなに汚い。思考も、体も、全部全部穢れている。自分は異常者だ。

 

男みたいに人に優しくすることなんてとてもできない。

男みたいに相手と話すことなんてできない。

男みたいに誰かに手を差し出してやることはできない。

男みたいに誰かを心配してやれる余裕なんてない。

 

父親を嫌っておきながら、カッとなるとすぐに暴力をふるおうとする。口汚く人を罵る。

優しさなんて分けることでないし、人を思いやることなんて到底できない。汚くて凶暴で気の狂った餓鬼

 

ああ、あまりにも違う。

 

なんで?

 

なんで??

 

その言葉が、その行動が、その声が、その瞳が、その手が、その温度が、その性格が、その思考が、その優しさが

 

何よりも誰よりも……自分を惨めにする。

 

最初は偽善者だから、同情してるからと誤魔化そうとした。

だがただそれだけで済ますには、あまりにも男は暖かく、そしてこちらに誠実で献身的だった。

こんな貧民街で安くもない服を買い、食糧を食べさせる。

金にもならない。寧ろただの金食い虫でしかない自分に男は優しくしてくれる。

そうして等々誤魔化しが効かなくなって、一日…また一日と日々が過ぎていく中で、確かにあった小さな幸福感も全て黒ずみ不快感に塗り潰された。

吐きそうだ。吐きそう。

 

その頃から、悪夢を見るようになった。

見る夢は何時も一緒

 

父親に犯される夢

殴られて捻じ伏せられて、何度も何度も拷問にも近い辱めを受けながら洗脳するように言われる。

 

異常者だ。穢ている。

 

体が毒に侵されたみたいに、脳みそが腐っていくみたいに全部が全部その言葉で汚染されていく。

精神がスレ減っていくのがわかる。イライラしている。ただでさえない余裕がなくなっていく。

 

このままじゃ、まずい

 

一刻も早く離れないと……爆発する前に

 

そう思ったからこそ、この家を出ていこうとした。

半ば軟禁みたいな状態とはいえ、男のおかげで生きられているのは事実だったから

この感情をぶつけたくなかったのだ。

だから、男が寝静まったころ、扉にそっと手をかけて

 

「何処に行く」

 

扉に手を掛けたところで背後から声をかけられる。

 

「寝れないから散歩」

「前も言ったがこのへんは治安がよくねぇ。なんか淹れてやるから明日にしろ」

「……心配しすぎなんだよ」

 

早く早くこの家を出たい。

早く何処かに行ってくれ、じゃないとぶつけてしまう。この感情をぶつけてしまう。

歯を食いしばって必死で耐えようとして

 

「阿呆か、心配しねぇわけねぇだろ」

 

そう言って、男はただポンと頭に手を置いてニカっと笑った。

それが、決壊の合図だった。

勢いよく、男の手を振り払う。

パチンッと乾いた音が静寂に響いた。

キッと男を睨みつけ感情のままに言葉を吐き出した。

 

「…放っとけよ」

「あ?」

「っ、放っとけっていってんだよ!!!!

血も繋がってねェただの他人にそんなに情かけてどうするつもりだ?!俺のことはもう放っておいてくれよ!!!!

別にそこらで死んでたってお前にはなんの影響もないだろうが!!」

「あ?俺がお前を構おうが俺の勝手だろうが」

「うるせェ!!その濁し方はもう飽き飽きだ!いい加減ハッキリしろよ!!何が目的なんだよ!!

お前見てるとイライラするんだよ!」

 

やめろ。本当に感謝してるんだよ。

 

「お前見てェにお綺麗な人間じゃねェ!穢れてんだよ何もかも!!

普通じゃねぇんだよ!分かるだろ!?

二か月近く住んだんだから、どれだけ異常かくらい!

なのになんで手放さねぇんだ!?可笑しいだろ!理由がないわけないだろう!!言えよ!!!」

 

止めようとしているのに口が勝手に動き続ける。

男が止めてくれれば、止まれる気がした。なのに男はその罵倒を、黙って聞いていた。

やがて、こちらの言いたいことを終え、荒く肩で息をしながら男を睨めば、男は漸く口を開いた。

 

「俺は、お前を異常とも穢れてるとも思ったことは一度もねぇよ」

「口から出まかせ言ってんじゃねェぞ!」

「出まかせじゃねぇよ。何を持って穢れてるっつってるか知らねぇが、人間は皆きったねぇ生き物だよ。

それに、異常だっていうがな、そもそも普通の定義って何処にあるんだよ」

「っ、知るかよ」

 

そんなもの、あるなら是非教えてもらいたいくらいだ。

ソレが分かれば、少しはマトモになれただろうと

 

そんな思いを込めて吐き捨てれば男は少し目を細め、こちらを見る。

 

「そう、誰も知らねぇんだ。普通の人間なんざいねぇよ。

人の評価を気にしすぎるやつも

恋に夢中になってるやつも神に縋ってるやつも酒や煙草に依存するやつも

薬が好きなやつも金に執着する奴も、ハタから見りゃみんな異常者だ。

生きてれば皆欲を抱えて、何かに縋る…。

でもな、出る杭は打たれる。

人の目を気にするな、個性があっていい。とかなんとか言うやつもいるが…結局枠から大幅に外れれば奇異の目にさらされるんだよ。

それを理解してる。だから必死に普通の振りしてんだよ。そして自他を肯定、或いは否定するための魔法の言葉として振りかざすんだ。その意味も理解してねぇくせにな。まるで一種の宗教だ。どうだ?イカれてんだろ?

だからお前は変じゃねぇ、他の奴らと一緒だ」

 

異常じゃない?いや。そんなわけがない。異常だ。異常者だ。だから誰も助けてくれなかった。アイツはそういった。だからコイツが言ってることは可笑しいはずで…というか、そもそもそれは質問の答えになっていないだろう。

 

言いたいことは沢山あるはずなのに、うまく言葉に出来ない。

そうしていれば、男は優しく、優しく頭を撫でてきた。

その手を先ほどみたいに振り払おうとするが…体がうまく動いてくれなくて、中途半端に手が上がっただけだった。

目的を失った手を、ギュッと握り男を見る。

 

「……屁理屈並べてんじゃねェよ」

「屁理屈でもゴネねぇとやってらんねぇよ。

この世は理不尽で溢れてんだから……安心しろ。テメェの嫌がるような事はしない。

だが、やっぱりここ出ていったとしても俺はお前を連れ戻すぜ。何度だってな。

嫌なら俺から逃げられるくらい強くなれ

安心しろ、いくらテメェが力を付けようが俺には到底かなわねぇよ」

「!」

 

その言葉に思い出したようにポケットに手を入れると、前からくすねていたナイフを取り出し勢いよく男に突き立てようとする、が

 

「おせぇんだよクソガキ」

 

手首を捕まれ軽く捻られる。

ぴりっとした痛みによりナイフから手を離す。

手を離れたナイフは何度か床に弾んで転がった。

 

「お前が俺に劣等感を抱いてんのは気づいてる。

でもな、んなもん捨てちまえ。いくら他人を羨んでも何も手に入らねぇ。残るのは虚しさだけだ」

「……」

「それにな、俺はお前が思ってるほど綺麗じゃねぇよ。寧ろ俺からすりゃ……お前の方がよっぽど綺麗に見える」

 

そういうと、男は小さく笑う。

 

「はぁ!?んなわけ」

「綺麗だよ、ホント……眩しいくらいにな」

「……」

 

そう言い聞かせるような言葉に…何処か縋るような響きに、二の句を告げなくなった。

 

「わかったら寝ろ。身長伸びねぇぞ」

 

そういって今度こそ男は自室へ引っ込んでいった。

同時に自身は閉まったままの扉に背を預け、ズルズルと座り込む。

片手で額を抑え

 

「……なんなんだよ。クソ」

 

唸るように、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソガキ、てめぇその髪切ったりしねぇのか」

 

ある日のことだ。男の言葉に、顔を上げ…床に目をやる。床には自身の非常に長い髪が伸びている。最後に髪を切ったのはいつだったか思い出せ。

 

「引きずんのはきたねぇし、踏んづけたりなんざしたら怪我すんぞ」

「……そうだな」

「なんだ。その髪に思い入れでもあんのか?」

「……いや」

 

この髪に思い入れがあるわけではないので首を横に振る。

男は首を傾げ、近くの引き出しからきらりと光る鋏を取り出した。

 

「なら切らねぇのか?正直その長さは邪魔だろ。なんなら俺が切ってやろうか?」

「……ああ」

 

うなずくような返答の仕方をすれば、男はいそいそと寄ってくる。

そうして、長い髪の下をつかみ上げ、手でつかんだ鋏の刃を髪に合わせ

 

 

 

____この髪は母さんに

 

 

 

「っ、やめろ!!!」

 

悲鳴にも近い怒号が響く。

びくりと肩を揺らし髪を落とした男は目を見開いてこちらを見る。

しばしの静寂が場を満たした。

 

「…あ、わ、るい」

 

その沈黙にバツが悪くなり、思わず謝罪を口にする。

だが男は特に気にした様子もなく、ハサミを机においた。

 

「ガキが気にすんな…にしても、切りたくねぇなら”今”はいい、せめて髪くくるとかしとけよ」

「……ああ、そうする」

「…っ、けほ、けほっ」

 

咳き込む男。手で口を抑えながら咳き込めばジワリと指と指の隙間から赤い液体がにじみ、思わずぎょっとする。

 

「おい、薬は!」

 

男は何も答えない。それが答えだった。

 

「ちっ、今日まだ薬飲んでねェのかよ!本気で死にてェのか!?」

 

顔を歪め、戸棚から取り出した粉を水を入れたコップに溶かし渡す。男はその水を見つめ、静かに口を付け飲み干した。

空になったコップを机に置けば、男は前よりも幾分もしゃがれた声で口を開いた。

 

「なぁ、クソガキ」

「あ?」

「もう薬は買ってくるな」

「……は?」

 

男の言葉の意味が理解できなくて思わず固まる。

 

「お前は、いつまでこんな生活を続けるつもりだ?」

「はァ?」

 

男の言葉に眉根を寄せる。

 

「お前を拾って……何年だ」

「6年だろ」

「…そうだ。6年、6年だ。

お前、もうあの頃の貧弱ですぐ死にそうなクソ餓鬼じゃなくなったはずだ。なのに、お前はいつまでここにいるつもりだ?」

「……クソジジイがここに居ろって俺を何度も連れ戻した結果だろうが」

「それは前までの話だろ。もう止めやしねぇよ。

そもそも、もうすでにお前の方が強いんだ。

体もこんなになっちまった。止める力なんて、残っちゃいねぇよ」

 

男の目がまっすぐにこちらを見据える。

六年前から何も変わっていない、綺麗な瞳

 

「お前はこんな所で燻ってていい奴じゃねぇだろ」

「………」

「お前はこの数年で強くなったよ。それは腕っ節のことだけじゃない…ここだ」

 

男は指で自身の胸を差した。

 

「こんな肥溜めで、病気なんて厄介なもん背負ったオッサンの世話焼いてよ

見ず知らずの他人にも優しさを分ける。ちと暴力的だがブレーキをちゃんとわかってる。

そういう餓鬼はよ、こんな狭い場所でうじうじしてねぇで、広い世界に行けって話だ」

「………」

「それにな、人間はきっかけがねぇと変われねぇんだよ。こんな場所にいてもきっかけなんざつかめねぇ

だからこんな高価な薬買わねぇで貯金持ってさっさと出てけ」

「……うるせェな俺の勝手だ」

「……俺が、お前を忘れてもか…」

 

男の弱弱しく細い手が肩をつかんだ。

六年前からは想像もつかないほど弱い力が両肩に乗る。

懇願するように男は言う。

 

「日に日に、お前を認識できなくなってきてる。

記憶が抜けて行ってるんだ。わかるだろ?

お前を思い出すことも出来なくなる日がくる」

 

 

_____だから、完全に記憶がなくなる前に出ていってくれ

 

 

男はきっとそう言いたいのだろう。

力強さを持った瞳が、わずかに力の籠もった両の手が暗にそう告げてくる。

ああ、全く。ここに居ろと言ったり出て行けと言ったりこらころと意見を変える男の身勝手さに苛立って、ぐっと顔を顰める。

 

「…………だからなんだよ。うるせェな。もう今日は寝てろよクソジジイ」

 

これ以上男の言葉を聞きたくなくて、部屋へ連れて行くために男をさっさと抱き上げた。




一節一項の話の続きです(*´﹃`*)

と、ここでくだらない雑草雑談話〜

よくアニメとかマンガとかで「偽善者が…!」とかいうセリフを耳にしますが偽善者ってそんな駄目なことなんでしょうかね?
ええやないか、良い人ぶっても
みんな少なからず人には良い人って思われたいもんなんだし
誰かに迷惑かけてないんだから…といつも思う雑草なんですが…駄目なんですかね?
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