夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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今回はちょっと長いよ!!!
それにしてももうすぐ年も明けるなぁ。
来年も課題に追われる一年になることでしょう。
はははは……SHI☆NU(^◇^)


第二項

其の日、彼らは大きな会場に招かれていた。そこは、新人の際に連れられた場所だ。

緊張した面持ちで隊員が中に入れば、すでに何十人もの人間が犇めき合っていた。

誰も彼も表情を硬くし、空気も又ピりついていた。

そんな彼らの様子を、壇上にて彼は見ていた。この組織のトップ、浅葱大賢だ。

彼は時間を確認し、扉を閉めるように指示を出すと、そっとマイクに口を寄せる。

 

「諸君、今日は集まってくれてありがとう」

 

彼の声に、落ち着きのなかった隊員たちは動きを止め大賢を見た。

大量の人々の視線を集めながら彼はトップらしく堂々とした態度で喋る。内容は勿論”遠征”についてだった。

 

「さて、諸君らも分かってはいるとおり、これから諸君らには東の隊員たちと共にZ地区へと向かってもらう」

 

Z地区。それは始まりの土地

不死者を生み出すホワアンヘルが作り出され、また夜縁が誕生した土地

地面が見えないほどに溢れた不死者たち

花咲も混じっているそこは攻略不可能の土地として立ち入り禁止区域となっていた。

だが7年前にとある部隊が調査に向かい、生還……その際、一部の情報を持ち帰ることに成功したものの、それは全体の一割にも満たない程度

故に、人類がまた一歩不死者に迫るため、彼らは再びZ地区へ向かうのだ。

 

「そう、Z地区に足を踏み入れるということはつまり」

 

彼の言葉に誰もが息を飲む。

 

「死地に赴くということだ。無論、命の保証はできない。

だが問題はあるまい。諸君らはもとよりそのつもりでここに入ったのだろう?

しかし諸君らにとっても突然死亡率の高い場所に向かえ、というのは些か酷なことは私もわかっているつもりだ。

だからこそ、私は言う____ただ”殺せ”

諸君らは殲滅隊だ。殲滅隊として、不死者を一匹でも多く殲滅せよ。

その先に、生は存在する。その先に未来はある。使命を全うせず逃げた臆病者に明日はない」

 

大賢の言葉を聞き、皆がざわつき始める。中には退院同士で顔を見合わせている者までいた。

無理もないだろう。なんせ彼らは突然この作戦に組み込まれたのだから。

勿論異議を唱えたいと思っている人間はいるだろう。

だからこその問……だが、それに否を唱えればどうなるか。

 

「さぁ、諸君たちの選択を私に聞かせてくれ。人類のために、何より自身のために諸君らは命を懸けて戦えるか?」

 

彼らは選択肢を突き付けられている。生きながらに一生腰抜けだと後ろ指を刺されるか

死ぬ可能性を孕みながらも、英雄となってこの場や家族の元へ帰って来るか…。

 

「戦えます!!!」

 

そんな中、誰かが声を上げる。

誰の声なのかは判断できやしないが、しかしその声は酷く大きく、会場全体に響き渡った。

そのハッキリとした心のある声により、一人、また一人と「俺もやらせてください」「私もやります」と声を上げる。群集心理の雪崩現象、という奴だ。

一人が声を上げればドンドンと感情の波が荒れて行き、全員がその気になる。

嫌がっている人間もこの状況下だと出て行き辛い。

 

(流石浅葱サン。やり手っすね)

 

大賢の斜め後ろに立つ會はその光景を見て苦笑する。

面白いくらいに策略にハマっていく彼らの間抜けさに呆れつつ、同情してもいたからだ。

まぁ何にせよ、これで彼らは逃げられない。ならばもう、進むのみ。

 

「この作戦に臨んでくれる諸君らの、その勇気に感謝と敬意を」

 

そして、遂に作戦は始まる。

 

「さぁ!今一度人類の未来の為!その一歩を踏み出そう!!!」

 

さぁ、Z地区進出が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z地区への扉は地下通路には存在しない。開拓ができなかったのだ。

そのため、Z地区へ行くためには基本、W地区もしくはR地区を経由しなくては行けない。

 

「後がつっかえてるっすから、どんどん電車に乗り込んでくださいっす」

 

會が声をかけながら、かつかつとブーツの音を響かせ歩く。

普段は来ていないパーカーを着ており、フードを被っている。

顔の前には透明の布が垂れていて、僅かに光を反射していた。

だがそれは彼だけではなくこの場の全員同じ格好である。

 

「あ、會くん。そこ浸水してるから気を付けてね」

「え?あ、ほんとだ。あぶね」

 

声をかけたのは亜怜だった。注意を受けた會は足を止める。

 

「にしても…凄いっすね」

「ええ、そうね」

 

ここ、R地区は一面氷に覆われた大地だ。

ツルツルと滑る上に、ところどころ浸水しているので非常に歩きにくくなっていた。

 

「あっ、亜怜さんと會くんじゃないですか」

「こんにちは」

 

転ばないように慎重に歩いていれば声を掛けられる。

話しかけてきたのは開発部隊の護と天緒の二人であった。

 

「あら、護くんと天緒くんじゃない。ふふ、久しぶりね」

「お久しぶりです」

「今回選ばれた中には二人もいたんすか」

「はい。ホントなんで自分なんか選ばれたんだか…」

「護さんは射撃上手いから。自信持ってください」

 

溜息を吐く護を元気づけようとする天緒だったが護は「自信なんて持てるわけないでしょうよ……」と更に落ち込みながら何もない首元を摩る。

 

「にしても……歩きにくいですね」

「うん、歩きにくくてこけそう…」

「ここ、本来は一面湖だったらしいっすよ。そこが気温で凍ったらしくて……。

日によって溶けたり凍ったりを繰り返してるせいかボコボコしてるところも多いっすから怪我には気を付けてくださいっす」

「……ここでは戦いたくない」

「ええ、同感ね」

「談笑中すみません。後ろつっかえてるんで進んでもらえませんか?」

 

困ったように眉を下げて彼らの会話に割って入ったのは朔であった。

 

「あら、ごめんなさいね」

「談笑はここまでに、さっさと入っちゃいましょうか」

 

話している彼らは朔の言葉でさっさと電車の中へと入る。

と、そこでなにかを思い出したように會は朔の方を振り返った。

 

「ところで、東はどうしたんすかね?」

「なんでも、ゴタゴタがあったらしくて少し遅れるらしいですよー」

「なら現地集合っすか」

「多分そうですね」

 

話しながら彼らも電車に乗り込む。そうして、水を掻き分け電車はZ地区へ向けてゆっくりと進み始める。

 

電車はRの門を潜り抜ければ、辺りは一面の荒野…………かと思えば、そこもまた湖のように薄く氷が張っていた。電車が通れば地面がパキパキと割れて、その下にあった水が振動で震えて波紋が広がっていく。

 

「なんかすごい不思議な感じだなぁ!」

「ウン。罅が入ったリ水が揺れタり」

 

窓から顔を出した叶恋と蓮が楽しそうに言う。

會はそんな二人の様子を見て呆れた様な表情を浮かべた。

 

「あんまりはしゃがないでくださいっす。ここ狭いんで」

「えぇ?會くん反応薄いよぉ!」

「こうイうの枯れテるって言うんデショ」

「枯れてねぇっす!!!」

「會五月蠅いですよ。子供じゃないんだからはしゃがないでくださーい」

「色々理不尽っす…」

 

ガクッと肩を落とす會にケラケラと断罪部隊の面々は笑う。

 

「断罪は緊張感ないわね」

「どこいっても大抵ああですよ。断罪は」

「でも、全体の士気にも関わるからやめて欲しいんだけどね…」

「ま、まぁまぁ、変に緊張してもあれですし。極度にほぐれていいんじゃないですか?」

「そうかしら」

(亜怜さんの断罪嫌い、なんか悪化してないですか……?)

 

楽しそうな断罪部隊を見て、にこやかに毒を吐く亜怜に苦笑いでフォローを入れる護

その隣で亜怜の言動に「何かあったのかな?」という顔をする天緒。

天緒もまた窓の外を見る。

 

「最初は地下じゃなくて外を走るなんて正気かと思ったんですけど……不死者、全然いないんですね」

「Z地区付近に不死者はいないっていうものね。本当にそうだとは思ってなかったけど」

 

辺りを見渡せば、確かに不死者の姿は見えない。

天緒は「A地区は平和だけど門外の不死者の量が凄かった」と思い出して遠い目をする。

どこもかしこもこんな感じだったら、外の移動も楽なのにな、とも。

 

「あ、そうだ」

 

そんな風に各々Z地区まで待機していれば、朔が徐に近寄って来る。

そうして彼は亜怜の前に立ち止まると小さな何かを差し出した。

 

「亜怜。これ持っていてくれませんか?」

「なにかしら、これ」

「ボタン?」

「発信機です。隊長格の生死の不明は混乱を起こしかねないので。

會にも渡しておきましたので亜怜にも渡しておこうかと思いまして。特に亜怜は彼女のこともありますから」

「……なるほどね。活躍することはないと祈っておきたいけど……一応貰っておくわ」

「で、こっちの機械が発信機の場所が分かるものです。こちらは適当な支援の隊員さん達にでも渡しておきますね」

「ええ、そうして頂戴」

 

そんな会話をしていればポツリと窓に雫が落ちたのが見えた。

 

「雨ね」

「Z地区、近づいてきましたね」

「やっぱり電車は早いですね」

 

ドンドン雨脚が強くなるのを感じ、視線を上げればそこには小さいものの遠くに門が立っているのが見えた。

その門は通常と違い、かなりゴツイ作りとなっている。あれこそZ地区の門だ。

門の近くには、更に小さな建物がたっており、そのスペースに電車が入りゆっくりと停車する。

 

「こっからどうするんですか?」

「これを使うわ」

 

電車から降りた亜怜は胸元に手を入れると小さな箱を取り出す。その表面を押せば、その箱は大きな輪っかに姿を変える。

 

「あ、それ大会でも見た奴ですね」

「スペースにあったやつ…」

 

偶々顔をだした護と天緒がいう。

その輪は彼らが参加した大会にて自陣のブースに設置されていたものであった。

 

「なんデすカ?それ」

「これはハコビを呼ぶものよ。ハコビは基本地下でしか移動できないけど、この輪と、これと接続している専用のマーカーが置いてある場所には飛んでくることが出来るの。

マーカーはZ地区に二箇所設置してあるわ」

「へぇ、便利~」

「ただ、この輪の原料が結構特殊で量産は難しいらしいわ。

一度壊れれば次作るのに一年近くかかる可能性が高いから壊さないようにね」

 

そうして亜怜は輪を地面に置き

 

「ハコビ。赤のマーカーの方にお願い」

 

アレンがそういったと同時に、輪の中に突如ハコビが現れ、次の瞬間景色が変わる。

 

「お………っとと、ここは…」

 

瞬間移動し、転げそうになる會だったが何とか踏ん張る。

彼らが転送された場所は、ぼろ臭い廃墟の家であった。

雨や湿気などで床板が腐り、穴だらけ……その上、この人数なのでかなり床が軋んでいるのが分かる。

小屋には大きな窓があって、ガラスはついていなかった。ここから出入りできそうだ。

反対に本来の出入り場所である扉は岩などで塞がっていて通れそうにない。

窓からなら自由に出入りできそうだが、見たところこの部屋は二階にあり

知恵の無い不死者は徘徊しているうちに色んな場所に入り込んでくるが、経路になりそうな扉が塞がっているから窓から蔦を伸ばして入る、という発想ができない不死者はこの小屋には入ってこなかったのだろう、と會は予想する。

 

「あ”ああああああああああああ!?!」

 

家の軋みに呼応するように悲鳴が上がる。見れば、窓際にいたらしい隊員が外を見て座り込んでいた。彼等も釣られるように外を見れば

 

「な、なんだこれ……」

「ひっ」

「まじか」

 

外は大量の雨。そして地面には大量の不死者が群がっていた。

チラチラとしか地面は見えず、ほぼ不死者ばかり。

まるで地獄の底から此方を見上げる亡者のようだ。

事前に知っていたとはいえ、いざこの光景を目の当たりにしてしまえば(たちま)ち顔を青くし、既に戦意を喪失しそうな人間もいる中、會と紫空は冷静に不死者を見る。

 

「……見た所花咲はいないっすね」

「花無し。雑魚の群れって感じですねぇ。でもここの不死者は頑丈なのが多いですので油断は禁物ですよ」

「一先ず、爆弾で吹き飛ばすっす。開発部隊は爆弾投げちゃってください」

 

會が声をかければ、ガクガクと震えながらも開発部隊は持ってきていた手榴弾を取り出し、ピンを抜いて勢いよくぶん投げた。

爆発音と共に不死者が勢いよく飛んでいく。

数はかなり多いものの、それでも少し数が減る。その様子に、少しだけ安堵したのか、数名が息をつく。

だがしかし、安心するにはまだ早い。残った不死者が此方に気づき、蔦を勢いよく伸ばしてくる。

 

「戦闘準備!」

 

會が叫べば一斉に武器を出す。

 

「戦闘部隊は予定通り不死者を狩ってください!!蓮と叶恋は蔦切るっす!紫空は全体のカバー!」

「わかっタ」

「はいぃ!!」

「俺だけ指示雑ですね」

 

指示を受けた蓮と叶恋は頷くと蔦を片っ端から切っていく。漏れたものは朔が

蔦が減った隙に戦闘部隊の全員が小屋から飛び降りた。

地面に埋まる不死者を片っ端から殺して彼らは着地する。それも、今までみたことのないほど大量にだ。

それに若干気圧されつつも、會達は攻撃を開始した。

 

同時に開発部隊もまた各々の武器を取り出す。どれもこれも遠距離に特化した武器だ。

それらを使い、窓から身を乗り出して不死者を狙い撃ちしていく。

矢が刺さった不死者はそのまま倒れ伏すものの、その死体を乗り越えるようにまた別の個体が現れる。

それをみて護は顔を歪める。

 

「こんなことならもっと爆弾持ってくるべきでしたね」

「仕方ないですよ」

 

天緒がスコープを覗き込み、引き金を引く。

パンッという小気味良い音がして、一寸の狂いもなく不死者の眼球を貫いた。

 

「相変わらず凄まじい命中率……自分先輩なのに……イイとこないなぁ」

 

溜息を吐き、ボソッと呟く護もまたボウガンを放つ。矢は吸い込まれるように不死者へと突き刺さっていく。そしてそのまま倒れていった。

 

「にしても、数多イ」

「き、きりないですよぉ!!」

「疲れてきました」

「……さっさと書類奪取にいきたいんすけどね。東が来てくれない事には彼等放置も出来ませんし」

 

ざっくざっくとナイフで敵を切り裂きながら會がいう。

と、その時だ。

 

「遅れてわるーい!!」

 

高い青年の声が響き、少し離れた場所から飛び込んでくるのは東の隊員の姿が見えた。

 

「漸く来ましたね」

「す、すみませぇぇん!!おくれちゃって、ごめんなさぁぁい!!」

「うちのボスは心配性でして、何度も何度も同じ話を念押しするように話してくるんですよ。今回は特に多かったですね。鬱陶しい」

「サーマはトゲトゲズラね~」

 

ライフルを抱え、やってきた萌と茉莉、彼方が小屋に飛び込んでくる。

下では飛鳥が一人でばっさばさと不死者を殺していく光景

あれだけ多かった不死者が見る見るうちに薙刀の錆と化していく光景は圧巻の一言に尽きた。

 

「相変わらず修羅みたいっすね……ま、彼のおかげで一気に不死者が消えたっす。

ここからは言っていた通り分担して不死者を殲滅して回るっすよ!!!」

 

會が言えば、戦闘部隊全員が「はい」と声を上げ、西は別れ始める。

 

「分担?」

 

突然の會の指示に茉莉が首を傾げる。

 

「こうした方が効率がいいんです。予め、東、西、南、北と担当を付けてありまして。

各々を引っ張るのは実力者となっていますからそこまで心配はいらないんですよ」

「護さん。行きましょう」

「あ、そうですね。では自分たちも行ってきます」

 

そういって天緒と共に護もまた小屋を飛び降りていった。

そんな彼らを見て茉莉は納得したように「ふむ」と顎に手を当てた。

 

「す、すごい計画たててるんですねぇ……僕ら、どの不死者を捕まえろ、とかそういう話しかされてないのに……」

「流石チーム連携を主にしている西ズラ~、生存率が高い理由も頷けるズラね!」

「ええ、ただ効率は少し悪くなりますが……その辺は単独に慣れている僕等にカバーしろというコトでしょうね」

 

「いいでしょう」と言いながら茉莉は重火器を取り出し、一斉放射する。

 

「お望み通り、カバーして差し上げましょう。まぁ、何分協力など苦手なので流れ弾を喰らって文句を言われても困りますが」

「えええ?!きょ、極力気を付けましょうよ!協定結んでるってボスも言ってましたし!」

「ええ、善処はしましょう」

 

クスクス笑いながら彼は引き金を引いていく。それにより、更に大量の不死者が死んでいくのを眺めて、彼は口角を上げ、機嫌よさげに笑う。

そんな彼を見て萌は「やっぱこの人マトモそうな顔してしっかりイカれてる!!!こわい!」と内心悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

北の方では、會達が戦っていた。會達は素早く動きながら確実に敵を減らしていく。

そんな中、一匹の不死者が蓮に近づく。蓮はその気配に気づくと鎌を振り上げる。その瞬間、蓮の鎌に蔦が絡まる。

蓮は思わず舌打ちをする。蔦を切ろうにもなかなか切れず、逆に引っ張られそうになる。

蓮は蔦を千切る事を早々に諦めると、その蔦を足場にして高く飛ぶ。

蔦に捕まったまま不死者も一緒に飛んでいくが、その蔦に刃を突き立てる。

そのまま蓮は蔦に掴まりながら不死者に蹴りを入れ、蔦を切る。

地面に着地すると、他の不死者を巻き込み、蓮は地面へと降り立つ。

そこにいるのは不死者の死体だらけであり、その上に立つ蓮の姿は死神そのものでしかなかった。

そんな様子をみた叶恋は小さく笑う。

 

「蓮すごーい!」

「叶恋も相当」

 

叶恋の方を見れば彼女の足元にもまた大量の潰れた不死者の死体があった。二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑う。そんな彼らを見て會は呆れる。

 

「ほら、不死者殺してニヤニヤしてんじゃないっすよ。さっさと資料奪取して帰るっす。朔、様子はどうっすか?」

「前方に花咲きが2体いる。でもそれ以外目に付く不死者はいないし、建物も目視できる範囲にあるから突っ切ってもいいかもしれません」

 

朔は蓮の気づいた死体の山に登って遠くを見ながら言う。

朔の見ている先にはサビれた建物が立っていて、それをみて叶恋は「えぇ」と嫌そうな顔をする。

 

「今からあの中にはいるのぉ?埃とかカビとかすごそうだよぉ……」

「そういう作戦だヨ」

「そうっすよ。文句言わない」

「それより建物にも不死者が結構いるんで気を引き締めて挑んだ方がいいでしょうね」

「わかってるっすよ」

 

會が建物に向かって走り出す。不死者の頭を踏みつけ、時に殺しながら最短でその建物へ向かう。

他三人もまた會に続いて走り出す。

 

そして

 

「ん?」

 

ひゅーっという音と共に、空に何かが打ちあがる。それは青い色の煙………発煙弾だ。

 

「え?なんで発煙弾がぁ…?」

「そんな予定アった?」

「いや、なかったはずっすけど」

 

首を傾げる會

 

(まぁでも、西を率いてるのは天緒くんだし多分大丈夫っすね)

 

天緒は元戦闘部隊というだけあってかなり動けるうえ、冷静に物事を見る頭も持ち合わせている。

そうそう危ぶまれることもないだろう。

一先ず今は自身の任務遂行が優先だと、會たちは建物を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青の発煙弾?」

 

同時刻。小屋内にて亜怜は空に撃ちあがったソレを見て首を傾げる。

 

「あんなもの、作戦にはなかったわ。東の皆さん。あれは貴方たちのものかしら?」

「いえ、僕らはそもそも発煙弾など滅多に使いませんから。恐らくあなた方のものかと」

「…そう。何か胸騒ぎがする。少し見てくるわね」

 

亜怜は小屋から飛び降りる。

素早く両手剣を取り出し、下にいた不死者を瞬時に殺して着地する。

 

「狗星君」

 

そうして近くにいた長身の男、狗星飛鳥に声をかける。名前を呼ばれた飛鳥は「あ?」と亜怜の方を振り返った。

 

「アンタ確か…」

「西の殲滅部隊で支援部隊隊長をやっている皇亜怜です。どうぞ、よろしくね。

っと、自己紹介はここまでにして、上に私の部隊の子達を残しているから怪我をしたりしたら上に上がるといいわ。ただ、あの子達自衛が弱いから良かったら守ってあげて欲しいの。お願いしてもいいかしら?」

「…アンタはどうすんだよ」

「少し西を見てくるわ。それじゃぁ任せました」

 

亜怜は飛鳥の返事も待たずに走り去る。

 

「俺ァまだいいともなんとも言ってねェだろうが……ちっ、おいお前ら!」

 

上に声を上げると支援の隊員がひょこッと顔を出す。

 

「そこから落ちたやつは知らねェ。死にたくなけりゃ死んでもそこから落ちねェことだ」

「は、はいぃぃぃ!」

「お、おねがいしますぅ!」

 

腑抜けた返事をする彼女等を見て、分かりやすく顔を顰めた飛鳥は舌打ちをして不死者に目を向け、刃を突き立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「く、くそ!なんだってんだよ!」

 

一方西は大変なことになっていた。

というのも、先ほどの非にならない程の不死者が何故か西に密集してきたのだ。

 

「さっきの発煙弾ですかね…」

 

顔を顰める護は何とか枯れた木に登るとボウガンを構える。

 

「天緒くん!大丈夫ですか!?」

「なんとか」

 

ライフルを片付け、天緒は暗器を持って不死者を斬っていく、が

 

「天緒くん後ろ!」

「!」

 

炎が飛び込んできて、天緒は間一髪横に避けるが染めた髪の一部が僅かに焦げて顔を顰める。立っていた敵は

 

「花咲き…」

 

異形の姿をした不死者であった。この混戦状態、花咲きに来られるのはかなりの痛手である。

 

「ここじゃ身動きが取れないうえ他の隊員を巻き込む…護さん、更に西に行きます。スミマセン。援護頼んでいいですか」

「了解」

 

二人は不死者を薙ぎ倒して他の隊員の少ないさらに西へ向かう。

護もまた、器用に木と木を渡ってそれを追う。そうすれば、花咲きもまた二人を追いかけてくる。

 

「うまく誘き寄せられてくれましたね」

「そうですね。こっちで速やかに対処しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人がいなくなった頃、同じ場所ではとある事件が発生していた。

 

「なんやなんや、ゴミがぎょーさん居るわ」

 

物凄い音と共に地上に舞い降りた青年が居た。彼が空から降ってきた瞬間、周りの不死者や人は吹き飛び、死んでいく。そんな様子は彼の言う通り正しくゴミそのものだ。突然降ってきた異端に隊員は目を剝き顔を白くさせる。

 

「なっ」

「夜縁……!?」

「な、なんでこんな所に……!」

「とにかく報告を」

 

何処か気だるげさを感じさせる青年の目は赤く輝き頬には合計六つの目玉がくっついた青年、(まと)は誰がどう見ても不死者であった。知性のある不死者、ということはそれはつまり夜縁だ。

Z地区というただでさえ死亡率が高い地区に更なる化け物の投下

隊員たちの表情は”絶望”一色で塗りつぶされた。

 

「さてと久々の殺戮。楽しんでいこか」

 

絡が笑みを浮かべた瞬間、六つの目がカッと見開かれ、紅く光る……瞬間

 

「!?」

「うあああああああああああ!?」

 

地面から大量の黒い柱が聳え立つ。否、それは柱ではなく”影”であった。

影が地面から鋭利な形となって飛び出したのだ。

影は不死者だろうが人間だろうが、建造物だろうがお構いなしに飛び出し、無造作に突き刺していく。貫かれた隊員の体から血が溢れ、地面に落ちた。

 

「あはは、酷い声をあげるなぁ。まるで獣や。ホンマおもろいわぁ」

 

ケラケラ笑いながら絡は人を殺していく。それは一方的な虐殺であり遊び。

しかし、その猛攻も唐突に終わりを告げる。

 

「オイタはいけないわ」

「おっと」

 

彼の立っていた場所に勢いよく振り下ろされる両手剣

それをひらりと躱した絡と対峙したのは、中央から駆けつけた亜怜であった。

 

「へぇ、オネエサン、ええ体してるやん。人間なのが惜しいな。どや?不死者になってみーへん?最後までたーっぷり可愛がったるで?」

「ふふ、面白い口説き文句ね。でも生憎不死者は嫌いなの」

「そら奇遇、俺も人間は嫌いや」

 

地面から影が生える。亜怜はそれを瞬時に弾き、飛び退く。

 

「そんな重いもんぶら下げてるくせに動き素早いなぁ」

「あまり女性の体についていうのは良くないわよ?」

「そうなん?覚えとくわ」

 

再び襲い掛かる影を切り裂きつつも亜怜の表情はあまり明るくない。

 

(これは、ちょっとまずいかしら)

 

絡の攻撃は速い上に正確である。その上攻撃範囲が広く、威力も高いため非常に厄介であった。

ただでさえ相手は不死者の中でも上位の実力者、力量で言えばかなり不利だ。

更に、周りに味方がいない。皆目の前の敵に集中していたり、先ほどの攻撃で死んだりと、とてもじゃないがこちらを援護できるような状態ではない。そして何より

 

(リングが使えない…妨害電波でも発生しているのかしらね。

それなら此方の情報が向こうに漏れていたと言うことになるわ。裏切り者がいるわけね……まぁなんにせよ、増援は望めない)

 

そうなるともう自分の力でどうにかするしかない。

 

(やるしか、ないかしらね)

 

亜怜は覚悟を決める。ここで自分が負ければ後ろの仲間達にも被害が出る。

それだけは何としてでも避けなければならない。彼女は剣を構え直す。

その様子を見た絡は嬉しそうに笑う。その顔を見て亜怜は確信した。

あの男は自分と戦うことを心の底から楽しみにしているということを。

だからこそ、全力を持って相手しなければならない。彼女の纏う雰囲気が変わる。

それを察してか、絡の顔の笑みは更に深まる。お互いが臨戦態勢に入り、その場の雰囲気が変わった。

 

一触即発の状況の中、先に動いたのは亜怜であった。

彼女の持つ両手剣が風を切る音が聞こえるほどの速度で振り下ろされる。それは今まで彼女が振るってきたどんな一撃よりも速く、鋭いものであった。

しかし、そんな一撃を絡はいとも容易く受け止めた。ギリギリと金属が軋む音が鳴る。

亜怜はすぐに距離を取ろうとするが、絡はそれを許さない。鍔迫り合いの状態のまま、影を引き出す。

咄嗟に反応した亜怜は少し飛び、体を捻って躱す。それでも完全とはいかず、肩口を掠めてしまう。

傷口から血が流れ、痛みが走る。しかし彼女は止まらない。すぐに体勢を立て直すと、再度斬りかかる。

その太刀筋は美しく、流麗なものだった。だが、やはり絡はその斬撃を受け止める。

亜怜はその後も休む暇を与えず、攻め続けるが結果は変わらない。それどころか、両手剣を掴まれて引くことができない。

 

「っ!?」

 

捕まれた剣を引っ張られ、直後腹目掛けて影が生える。しかしそれを素手で受け止める亜怜。掌からはドロドロと血が流れる。

 

「やるやん」

「っ、貴方もね」

「気ぃ強い女は嫌いちゃうで」

 

離脱するために、亜怜が蹴りを放つがそれを掴んで止められる。

 

「でも傷つくわぁ。そないに俺から離れたいん?なら離れさせてあげましょか」

 

絡はぶんっと亜怜をぶん投げる。

着地地点には大量の影の刃、亜怜は奥歯を嚙み締め両手剣を横に凪いで影を折る、が

 

「影は自由自在なんよ」

「あ”っ!?」

 

折れたところから更に大量の影が襲い掛かる。脚に数本突き刺さり、亜怜は短い悲鳴を上げるが、何とか地面に着地する。

脚裏には穴が開き、長いブーツからは血が滲んで流れ出している。痛みに耐えながら、亜怜は剣を構える。その瞳には強い意志を感じさせる光が宿っていた。

 

「頑張るやん?せやけど俺、女をいたぶる趣味はあんまりあれへんねん」

 

彼女を絡は楽しげに見つめるが、しかしそれも束の間。一瞬で亜怜の視界から絡の姿が消え、背後に現れる。

 

「そやさかいまぁ、ちゃっちゃと逝ってもらおか」

 

そうして彼女が反応するより先に影が彼女の体を貫いた。

ブスリという鈍い音と共に鮮血が舞う。しかし、亜怜は倒れない。

すぐさま振り返りざまに、横薙ぎに払う。それを絡は後ろに飛んで回避する。亜怜は小さく舌打ちをする。

 

(外した)

 

致命的な隙だったのだが絡は攻撃してくることは無かった。代わりに

 

「!」

 

ぐわりと視界が強く揺れる。腹に穴が開いた状態で長く動けるはずがないのだ。

 

「オネエサン強かったけどやっぱ人間やな。脆すぎるわ。まぁ楽しましてもうたしトドメは刺さんといたる」

 

ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ絡がいう。

 

(だめ、このままじゃっ、私じゃ勝てない!なら)

 

亜怜はポケットに手を入れ、とあるものを取り出すと

 

「っ、まちな…さい!」

 

歯を食いしばり、口から血を吐きだしながら絡を睨みあげ、彼の足首を握り締める。

だが絡はそんな亜怜を気味の悪い笑みを浮かべて見下ろす。

 

「大丈夫やって、寂しい思いはさせへんから。

ほら周りを見て?オネエサンの体見て興奮してる飢えた不死者()ばっかりや」

 

そういって絡は足首を振り払いながらいう。亜怜の顔から血の気が引く。そうだ。ここには不死者が大勢いる。

他の隊員たちも気づけば周りにおらず、恐らく夜縁から逃れるために他の場所へ行ったか、死んだか。

兎に角この場にいるのは不死者だけだった。

 

「たーっくさん楽しんでって?」

「!」

 

絡が立ち去っていく。その直後、亜怜の視界には大量の不死者の顔が映ったのを最後に彼女の意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかすごい音しましたけど…」

「後ろで何かあったんですかね?」

 

そのころ、西へと走っていた天緒と護は後方で響いた爆音に首を傾げた。

 

「っと、この辺でいいでしょう」

 

天緒が立ち止まる。背後からは先程の花咲きが此方に炎を投げてくる。その攻撃を天緒は躱す。

周りの不死者を巻き込み、燃やしていく炎

その火力は降っている雨すら蒸発させるほどの熱だった。

 

「天緒くん!サポートはしますので、一先ず花咲きに集中してください!」

「っ、わかりました」

 

返事をするなり、天緒は器用に腕にある小型の拳銃で不死者を撃ちつつ、木に乗る。

天緒を狙って火の玉が投げられる。火は枯れ木を燃やしただけだった。

天緒は火を飛んで躱し不死者の頭を踏みつけ、移動する。天緒の前に躍り出て来た不死者は護が打ち殺し、道を開く。そうして天緒は花咲きへと切りかかる。

花咲きはすぐさま大きな火の玉を生み出し、迫った天緒に向けて放つ。

 

「っ」

 

天緒は近くにいる不死者をワイヤーで引っかけると、それを引っ張って盾にする。

盾にされた不死者は形容しがたい悲鳴を上げて燃え屑となる。屑となった不死者を離して天緒は花咲きに切りかかる。花咲きは天緒の刃を足で受け止めた。固い金属同士がぶつかるような音が響く。

直後、何かに気づいたのか護が声を張り上げる。

 

「天緒くん!太ももの裏に目があります!」

「!、ありがとうございます、護さん」

 

天緒は感謝を述べ乍ら、体を下げる。そうして太腿目掛けて刃を入れる。

ざしゅっという音と共に花咲きは足を切られ、体勢を崩す。

しかし、まだ死なない。護はボウガンを放ち周囲に近付いてきた不死者を葬っていく。

同時に天緒は花咲きへと渾身の一撃を叩き込むが手ごたえはなく、花咲きの手が天緒の腕を掴みそのまま地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ」

「天緒くん!」

 

たった一瞬の行動が命取り。周りの不死者が天緒に襲い掛かろうとする。

護は「天緒くん!起きてください!早く!」と叫びながら、不死者をうちぬいていく。

その間に天緒は何とか起き上がり不死者たちから距離を取る。

 

(この花咲き、思ったより手ごわい。なにより弱点の場所が分からない…)

 

花咲きが大きく息を吸い込んだ。そして花咲きの口から凄まじい量の火球が吐き出される。

それらは周囲の木々を燃やし、焼き尽くしながら天緒や、護に迫る。護は木から飛び降りて躱す。

 

「天緒くん!」

「弱点、見つけました」

 

一方天緒は、火の弾を死角にして持ち前の身軽さで地面を滑ると、そのまま不死者の背後に回る。

不死者の背後、髪を分けた首の後ろに僅かに光る赤い瞳を天緒は見つける。これこそが此奴の弱点だ。

しかし花咲きもまた、そうやすやすと取らせてくれるはずもなく、背中に炎を纏わせる。

だが、天緒はそれすらも読んでいた。

 

「この距離じゃ、熱気は届かない」

 

天緒は花咲きの背中から少し離れた場所に瞬時に移動すると同時にリングからライフルを取り出し構え、バンッと引き金を引く。

瞬間、花咲きの目玉がはじけ飛ぶ。

だが花咲きは動き”続ける”

 

(しな、ない?)

 

花咲きは死んでいない。

 

(……しまった。最後の悪あがき…っ)

「天緒くんッ!!!」

 

護の声が響いたと同時に、天緒は無理に攻撃せず距離を取ろうとして。

 

「っ」

 

 

天緒は足を止め、目を見開く。彼の目前には不死者の拳

それが天緒の首にぶつかり。

 

 

ひゅっという息を吐くような音と同時に、ゴキンっという骨が折れるような音が鳴って……力尽きた花咲きの体と共に彼の体もまた地面に崩れ落ちた。




【世界観メモ15】
転送機フラフープみたいな形をした転送装置
数はあまりないが、軽く。ハコビの能力を気軽に使用できる優れもの。
大事な時に使うらしい。



今回は色々一気に進む回でございます。
先にいっておきましょう。この章と最終章は滅茶苦茶人が死にます。やばぁい。泣いちゃうね☆(*´▽`*)
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