夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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今回は短いよ!寂しいよ!(=_=)


第三項

「なにニヤニヤしてるんすか?」

 

そこは開発部隊の研究室。その部屋に、ノックをすることもなく入ってきたのは會であった。

部屋にいた楓はニヤニヤとしたまま、特に咎めることもなく「ああ、それがですね」と會の方を見る。

それにより、楓の体が動き、楓の前にあったものが會の目にもはっきりと見えた。

 

「え?!」

「ああ、やはり驚きますよね」

 

寝台に横たわっていたのは亜怜であった。正しくは、亜怜の死体

首にはくっきりと何かに締められた痕があって、首からしたにはシートがかけられている。

 

「これから彼女の検診を行おうとしてるところなんですよ」

「いやいや、何で死んでンすか?!え、生き残ったんじゃっ」

「どうやら彼女、首を吊って自殺したらしいですよ」

「うわぁ、充幸さん報われなっ」

 

會は顔を歪める。

彼もまた、死んでしまった亜怜に対する感想よりも先に、彼女のために命を落とした充幸のことを哀れに思ったらしかった。

 

「まぁ耳の早い方々は色々と面白おかしく話してますけどね。

”優しい亜怜さんは充幸さんが自分のせいで死んだことに強い責任感を感じており自殺した”とか

”実は二人は親子ではなく恋人で後追いをした”とか

”充幸さんが寂しくなって亜怜さんを道連れにしようとした”とか、色々とね」

「まぁ、本人たちからすれば嫌な話なんでしょうが、関係ない奴らからすれば話のネタっすからね、こういうの」

「そうですね……」

「で?なんでそんなニヤニヤしてたんすか?」

「そんなににやついてました?」

「そりゃもう」

 

少し引き気味でいう會にキョトンとして首をかしげる楓

會は何かに気づいたようにハッとした表情で楓をみる。

 

「もしかして……亜怜さんの裸体に興奮してる感じっすか…?」

「違いますよ。死体は好きですが、興奮はしません。屍姦趣味はないので」

「そ、そう……なんすか?」

「ええ、まぁ。あえて理由をあげるなら思い出し笑い……というやつでしょうね」

「思い出し笑い?」

 

死体を見て思い出し笑い。

繋がりのなさそうな言葉に會はますます首を傾げる。

 

「ええ、私の母は首を吊って自殺したんですけどね」

「え」

「とても美しかったんです」

 

楓は無表情のまま淡々という。

 

「母は鬱病にかかっていまして、寝てるときですら苦しそうなのに、その時だけは心底安心したように目をつぶっていたんです。本当に綺麗でした。ええ、本当に

だからどうにか保存できないものかと冷蔵庫の中身を捨てて、冷蔵庫に入れたんですけど……保存状態がよくなかったんでしょうね。長く持ちませんでした。

今思えば冷蔵庫に入れるのではなく、すぐに内臓を取り出して乾燥させ保存すれば、今でも腐らずにいられたんでしょうけどね。

でも……朽ちた後ですら母は美しかったので、後悔はありませんが。

今でもその時の光景を鮮明に思い出せるんですよ。それくらい、強烈で大切な思い出です」

 

愛しい記憶を思い出すような声音で、口角も僅かに上がっている。その様は間違いなく狂人のそれであった。

 

(ま、正常な人間がこんな仕事するわけないか)

「こういう女性の自殺体をみると関連で思い出してしまうんです。だから思い出し笑いでしょうね」

「なるほど。そりゃお楽しみを邪魔してすみませんでしたっす。はい、これ資料は渡しとくんでここらで失礼しますね」

「ありがとうございます……っと、一つ伝言を頼んでもよろしいでしょうか」

「伝言?」

 

楓の言葉に眉をひそめる會。楓は會の方をチラリとみる。

その表情は相変わらず無表情で目の下には濃い隈があって矢張り普段通りだ。

 

「出雲くんが天満くんを探しているようでして。なので良ければ彼の部屋にいくように言ってあげてくれませんか?」

「えぇ、それ俺じゃなくても良くないっすか。というかリングで呼べばいいじゃないですか」

「天満くんのリングは今壊れてまして、修理中なんです」

「はぁ?リング壊すって…何してんですかあの人……なら朔が会いに行けば」

「出雲くんはどうやら天満くんを怒らせたそうで、会えないんですよね」

「いやいや、部隊室とかにいればあの人に会えるっすよ…」

「天満くん鼻がいいですからね。出雲くんの匂いを察知して逃げるので無理だと思いますよ」

「ああ、なるほどっす」

 

一先ずは納得したような反応をするが、それでもその表情は嫌そうに歪んでいる。

 

「そんな顔しないでくださいよ。伝言をちょっと伝えてくれたらいいんですから」

「俺があの人の事嫌いな事知ってますよね?」

 

會がわかりやすく顔を歪めていえば楓は心底不思議そうな表情で首をこてりとかしげる。

 

「……天満くんはなぜそこまで嫌われてるんでしょう。甚だ疑問です」

「いや、あの人を好きだっていう人の方が少ないでしょう」

「そうですか?私は逆だと思います」

「は?」

「本気で嫌ってる人間の方が少ないと思います。皆さん、集団心理が働いているだけで」

 

會に言葉を返して楓は亜怜の死体に向き直り、メスを入れる。そうして、作業を行いながら口を開く。

 

「垣本君もそうでしょう?」

「……同調じゃないです。俺は本気であいつが嫌いだ」

「そう思っていないと辛いからですか?」

「…………いやに突っかかるじゃないっすか」

「でも本当でしょう?」

「なわけないでしょう…なんせ俺の両親は……あいつに殺されたんだから」

 

楓が母親の死体を鮮明に思い出せるように、會もまた両親の死の瞬間を鮮明に思い出せる。

會の頭を撫でてくれる両親はいつも優しかった。

暖かくて優しくて、今思い出すだけでも笑みを浮かべてしまうほど、幸せな家庭だった。

 

『ほら、こっちにおいで』

『楽しそうだな、何かいいことでもあったのか?ぜひ教えてくれ』

 

その日あったことを聞いてくる両親。仕事をした後で疲れているはずなのに自分に時間を割いてくれる両親が大好きだった。

毎日膝の上に座って楽しく話をするのが日課になるほどに。

 

『今日は、カエちゃんとスキくんと遊んだんだぁ』

 

そんな風に楽しく過ごしていたある日のことだった。

 

「父は、まだわかりますよ。

不死者になってましたから……でも母は違う。生きてたし、人間だった……なのにあいつは…」

 

遊びに行っていた帰り、家に帰って来た會は元気よく扉を開けた。

その日も両親に今日の出来事を話したくてうずうずしていた。

 

しかし彼を出迎えたのは暖かいいつもの光景ではなかった。

濃い鉄の匂いに血肉の臭い、そして香水と煙草の混じった匂いが中から漂ってくる。

酷い匂いに頭がガンガンとして気分が悪くなって、匂いのせいか、視界に映るその光景のせいか、酷く吐き気がした。あの日の、あの光景が、あの声が脳裏に焼き付いて離れてくれない。

 

『助けて………!!!』

 

悲鳴を上げる声、鋏から垂れる血の光景と宙に散る紅い飛沫

父は既に死んでいて、母しかいない。

會は「なにしてんだよ!!」と叫び善に掴みかかる。

 

『…まだ残ってたのか』

『っ、よくもお父さんを!!!!人殺し!』

『…』

『っ、やめろぉぉぁ!!!!』

 

血まみれの母めがけてハサミを振り下ろそうとする善に會は掴みかかる。

 

『おかあさんたちにはもう僕しか残ってないんだ!殺させない!殺させない!!!!』

 

泣き叫びながら非力な力で何度も何度も善を押しのけようとするが出来なくて

善は少し顔をしかめながら會をみる。

そうして、善は會の腕を引くと、自身の腕で會の目元を抑え

 

『…ぁああああああ!!』

『おかぁさん!!!!!!』

 

振り下ろした。

母の頭に。

目を塞がれて何も見えなかった。

だからだろう。母の肉が避ける音も母の悲鳴も、地面に体が落ちる音も、濃い鉄の匂いも、全てがはっきりと會の五感を刺激して

 

『あ"ァあああ!!!!!!殺す!殺してや"る"ッ!!!!!!!』

 

喉が避けるほど、會は絶叫した。

 

 

 

 

 

「俺が殲滅隊に入ったのはアイツに復讐したいから…そのために地道に努力して、今の地位まで登ってきた。勝手なこと言わないでくれません?」

 

瞳には分かりやすく憎しみがにじみ出ているのが分かる。しかし、楓は気に留めることも無く淡々と一言言い放つ。

 

「その割には漢字、気に入ってるんですね」

 

その言葉で、會の目が僅かに揺れる。

 

「………」

 

會は楓の言葉に何も言わず、ただ顔をぐっと顰めると、踵を返す。

 

「伝言の件、ホントに嫌っすけど、どうせ顔合わせるでしょうから、その時にいっといてあげますよ」

「ええ、助かります」

 

ヒラッと手を振って會は部屋を出て行った。




今回は楓と會のお話
どっちも中々にヘビーなお話

そして善の優しさが実が本編でもチラチラ出てたりする。
雑草はそれとない優しさを見せる子が好きなのです。
目に見えて分かりにくい分周りからはあんまり理解されないけど、当人に伝わればいいんじゃないかなって!!
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