少し時間が遡り、追悼をささげた会場
既に時間も遅いため、すでに会場内に人はいない。
ただ一人、目を腫らした紡がぽつりと座り込んでいるだけであった。
紡はぼーっとした顔で未だに充幸の文字を眺めている。そんな彼の肩を叩く人物がいた。
「こんにちは」
「……あ」
顔を上げるとそこに居たのは、茉莉であった。
紡は茉莉の顔を呆然と見上げる。
「な、んでここに…」
「いえいえ、少し此方の頭首に用事がありまして、偶々君が見えたものですから来ただけですよ」
「……そう、なんだ」
「ええ……にしても、死んだんですね」
茉莉もまた、充幸の名前が書かれた紙を見る。
「弱いくせに出しゃばるからこうなるんですよ。御笑い草、というやつですね」
「…………」
「…今回は怒らないんですか」
茉莉が聞くが、紡は反応することなく俯いたままだ。やがて茉莉は「はぁ」と溜息を吐く。
「貴方は本当に、あの女の事を大事に思っていたわけですか」
「……僕は、友達だって思ってた」
「残念ながら僕は金以外に価値を見出せないので、その感覚が分かりません。
ですが、これだけ誰かに思われているなら…きっと悪い気はしないでしょうね」
「あの世というものがもしもあるならば、喜んでいるんじゃないですか?知りませんけど」と茉莉は肩を竦めながら言う。
「でもそうですね。やはりこれは筑波紡。貴方に渡すべきだ」
そういって茉莉はポケットから取り出したハンカチを渡す。
紡は少しハンカチと茉莉の顔を見つめ、そっとハンカチを受け取るとハンカチを開く。そこにはビーズが一つ、転がっていた。
「これ…」
「渡されたんですよ、一応親族である僕が持っているべきだと…こんなもの、渡されたって困ると言うのに」
顔を顰める茉莉
「僕には無価値ですよ……なので、貴方に差し上げます。貴方のような人間はこんなものにも価値を見出せるのでしょう?」
その言葉に紡は少し見つめ、首を横に振ってハンカチを差し出した。
「それなら、僕なんかより亜怜さんっていう人に渡した方がいいよ……きっとミユちゃんも喜ぶと思う」
紡は知っている。充幸がどれだけ亜怜を思っていたのか。
充幸が亜怜の為に命を落としたことは絶対に許せないことだ。
でも、彼女の思いは苦しいほどに知っている。
亜怜のことを思ってどれだけ悩んでいたのかも。
だからこそ、友人だと認められてもいない自分が受け取るのは違うと紡は思ったのだ。
そんな紡を茉莉は数秒見つめる。
「……僕、荒ぶることって苦手なんです」
「え?」
「疲れるじゃないですか。怒ったり泣いたり喜んだり。一々疲れるじゃないですか。
その行為に価値なんてないし、やる意味もない。気力の無駄遣いですよ。
だから、どれだけ感情が波立ってもすぐに鳴りを潜めるようになっているんですけどね。
だからこそ、僕は貴方が凄いと思うんです」
茉莉はチラリと紡をみる。
「他人のために一々感情を爆発させられる貴方が」
「!」
「きっと、通常の感性を持った人間ですら、あそこまで人のために怒って泣ける人間いないと思います。
少なくとも、この場で彼女の死に本当の意味で怒り、悲しんでいたのは貴方くらいでしょう」
そういうと茉莉はしゃがみこみ、紡の手にハンカチをしっかりと握らせる。
「あくまで僕の個人的な意見ですが…形見というものは死んだ人が大切に思っていた人が持つものではなく
死んだ人を大切に思っていた人が持つべきだと思ってます」
茉莉がハンカチから手を離す。
「それでは」
其れだけ言い残して茉莉は立ち去っていく。
「……ミユちゃん、コレ、僕が貰っちゃっていい…かな」
ハンカチを抱きしめ、紡は一人呟いた。
「早緑さんって意外といい人、なんですね!」
「藪から棒になんですか」
外に出れば、そこに居たのは萌だった。
「妙なこと言ってないで早く帰りますよ」
「あ、綾坂くんがまだ来てなくて…」
「……また彼ですか」
頭が痛いとばかりに額を抑える茉莉
「放って帰ったらダメですかね」
「ま、待っててあげましょうよ……」
「仕方ないですね、あ、ライター持ってましたよね、一本ください」
「え、ここ禁煙スペースじゃ」
「窓開ければ平気でしょう」
茉莉は窓を開け、煙草を一本取り出す。
萌がライターを渡せば、手慣れた手つきで煙草の火をつけた。
「早緑さんも煙草とか吸うんだ…金の無駄とか言って吸わなさそうなのに…あぅ、生意気いってすみません!」
「……まぁ煙草は高いですからね…ですが偶になら吸いますよ。というか僕としては貴方が吸う方が驚きですよ」
「あ、これ貰い物で…煙草を買うお金なんてないので…偶に先輩方がくれるんですよ。味に飽きたからって」
萌もまた煙草を吸い始める。
「ここ禁煙スペースだって言ってませんでしたっけ?」
「ま、まぁそうなんですけど……人が吸ってるの見てると吸いたくなっちゃって」
へにゃんっと眉を下げながらも、萌はすーっと煙草を吸うと、吐き出す。静かな夜、白い煙がもくもくと空へ上がっていくのを二人はボンヤリと眺める。
「……ままなりませんね」
「………ええ、ホントに」
そうして時間は過ぎていく。
「てことで、明日すぐ会議が開かれことが決定しましたっす。内容は」
「夜縁襲撃でしょ?」
「そうっすね。東の方にもあとで通達行くらしいっす。流石に夜縁との直接対決ともなれば、絶対にくるでしょうね……それにしてもZ地区への遠征で人手、減ってるっつーのにこんな特大イベントくるとは思って無かったっす」
「嫌だよねぇ」
「あと、朔くんが探してましたっすから」
「げ」
「んじゃ、ちゃんと伝えましたっすから」
自動販売機の置かれている本部の通路
善はジュースを飲みながら、やって来た會の話をきいて「ありがとー」といつも通りの表情を浮かべる。
そうして會が立ち去った後、善は飲み切った缶ジュースの容器を片手で握りつぶすと、そのままゴミ箱に投げ込む。ふわっと、窓から入って来た風に善は僅かに反応する。
「誰かが煙草吸ってんな、これ」
「本館は禁煙なのにー」と呟き、そのまま部屋に入ろうとして
「なんでここにいるの」
「待ってたんだよ」
断罪部隊のフロアまで上がって来るとさっさと自室へ行こうとしたところで、部屋の前に人影があった。見ればそこにいたのは
普段彼がここに来ることなんて滅多にないので善は首を傾げる。
「なんか伝達来てたっけ…?」
「ちょっと飲みに付き合えよ」
「…はぁ?今?」
顔を顰める善に
善はあり得ないと言いたげな表情で彼を見る。
「いやいや、情報回って来てるでしょ。明日会議開かれるの知ってるよね?始業時間一番に会議、早いの。分かってる?
多分明日か明後日には襲撃に駆り出される。酒とか悠長に飲んでる場合じゃ___」
善がいうが
「いや、だから」
「むしろ逆だ。今日しかゆっくり酒飲めねぇだろ。だから飲むんだよ」
「……わかんないかなぁ、今日は飲む気になれないの」
「知ってる」
「は?」
「それでもだ」
「…………やだ」
「あ?」
「飲みたくない」
善はそっぽを向いて言う。
「なんでだよ」
「……」
「……お前って意外とビビりだよな」
「はぁ?」
顔を顰める善に
「大丈夫だよ、約束する。だから…頼む」
「……」
善を見る
数秒の沈黙
先に折れたのは善だった。善は盛大に溜息を吐く。
「……眠く成ったら寝るから」
「ああ、それでいい」
「……はぁ、寝巻に着替えてくる…」
そういって善は部屋に入る。
そうして少しして出てくる。その服は本人曰く寝巻と言われている私服で、その手には酒瓶が二本持たれてる。
それをみて
「なんだよ。意外と乗り気じゃねぇか」
「どうせ飲むならってやつだよ…たく」
二人は階段を降り、戦闘部隊のフロアの廊下を歩く。
そうして連れていかれた先は
「あ、きたきた」
部屋を開ければそこに居たのはツマミを準備していたらしい
「やっぱ
「僕が居たら不満?」
「
「違うよ。
「今日はあんま飲まねぇよ。明日に響くとやべぇからな、流石に酔うほど飲まねぇ」
「いやそもそもこんな状況で飲むこと自体が可笑しいんだけど……」
呆れた様子で言った善は用意されていた座布団に座る。
その隣には
そして、すぐにグラスが用意されると、3人は適当に飲み物を注ぎ特に乾杯らしいことをすることもなく各々勝手に飲み始める。
喉を通るアルコール独特の苦味を感じながら、一息ついた。
そうして善は
「ていうかさ、余計なことしないでくれる?」
「余計なことって?」
「わかってて黙ってただろ。あれ一歩間違えれば
「でもならないでしょ?」
善の言葉で何をさしているのか察した
「証拠がない以上善が知っても結果は変わらなかった」
「報告義務はどうした」
「なら処罰する?一度目の報告義務違反なら反省文だっけ?別に僕はそれでもかまわないけど」
にこっと笑顔を浮かべ
善はその顔を見つめ、深い溜息を吐く。
「……要らないよ。でも、もう二度としないで。善意だとしても、わざわざ君が手を汚す必要ないんだから」
「…」
「別に、うれしくないし」
善は特に顔色を変える事無く、両手でグラスを持って酒を煽る。
「…善意なんて綺麗なものじゃないよ」
だが一転したように笑みを浮かべる。
「まぁ、今日はドンドン飲んでいいよ。なんなら追加分も僕の部屋にあるから」
「お、マジか!」
「お前には言ってない」
喜ぶに
「ちゃんと宣言したからにはブレーキかけつつ飲んでね。二日酔い引きづったせいで夜縁相手に死んでも知らないから」
「はぁ?そこは助けろよ!」
「やだよ。面倒ごとは勘弁」
「お前どの口がっ!この間のこと忘れたのかよ!」
「ああ、あれね。仕方ないでしょ、僕の本位じゃないよ」
「なんかあったの?」
突然始まった兄弟話に善が首を傾げて聞けば、
「此奴に捨てられた女が見回り中の此奴を久々に見たとかで、会いに来たんだよ!
で、俺のこと
「やっぱまだ淫行してんじゃん」
「俺は被害者だっつの!」
「僕だって誤解だよ。というかそもそも捨てられたってなに。
僕誰かと付き合ったことないんだから捨てるも何もないんだけど…妙なこと言う人多くて困るよね」
「どうせ思わせぶりなことでもいったんでしょ。12歳で20以上の奴何人も引っかけてくるような奴だったし」
「棘ある言い方するじゃん。僕から言い寄ったことは一回もないよ」
「うそつけ…吃驚だよ。人の恨み買って殴られることは多々あったけど、真坂色恋で殴られる日が来るとは思ってなかった」
「は?!殴られたって、大丈夫だったのかよ」
そういう
そんな彼らをよそに
「たまたま僕といる時に部屋に押しかけられちゃってね。
あれは申し訳なかったなって思ってるよ。
そのあと僕、善の部屋に泊めてもらっちゃったし」
「………は???」
その言葉に
「は?泊まる??誰が、??誰の部屋に?」
「僕が善の部屋に。一緒に寝たよ」
「…善」
「ン?」
「何もされなかったか?!大丈夫か?!」
先程以上に顔を真っ青にして
善は「なにってなにが」と首を傾げる。
「大丈夫大丈夫、なにかする前に善、寝ちゃったから。ベッド入った瞬間寝たからね。あれはびっくりした」
「睡眠時間はちょー大事」
「たしかにね」
「そうか、ならよかっ………あ??」
ほっと息をつこうとして、
「てめぇ今なにかするっつったか??なにする気だったんだよ」
「えぇ?ここでいっていいの??」
「てめっ!!!」
顔を真赤にした
「仕方ないじゃん?部屋をそのまま占領されちゃって泊まれる部屋が善のとこしかなかったんだから」
「俺のとこくりゃいいだろうが!!!!」
「いやだよ。むさくるしい」
「はぁ?!」
そう喧嘩する彼ら
善は何で嘘付いてるんだろ、と首を傾げる。
というのも、部屋に泊まっていいと言い出したのは善からだった。
部屋を女に占領され、頼みの綱である
他の人の部屋に泊まるか、とボヤいていたので善が部屋に来ていいといったのだ。
なんならベットで一緒に寝ようといったのも善だ。
どうせ
体が資本の戦闘部隊。硬い床で寝たら体を痛める可能性があった。
幸い善は小さく寝相も悪くないので
ちなみに
「お前はいつもそうだ!ちったぁ反省しろよ!」
「反省って…そもそも僕悪くないし」
「悪いからいってんだよ!大体、テメェがちゃんと精算しねぇから面倒事につながってんだろうが!!!」
善が前のことを思い出している間もぎゃんぎゃん叫ぶ
だがその言葉は
「は?なにそれ。
言っとくけど君を殴った子も部屋に居座ってきた子も僕が十二の時、もしくはそれ以前に関わりがあった子だった」
「え"」
その言葉に
攻守が逆転した瞬間だった。
「僕、質の悪そうな子は基本相手にしなかったんだけど。
そういえばお前は割と見境なしというか、くるもの拒まず、みたいな感じだったよね?」
「……」
「本当に彼女たちの相手をしてた
「……俺は、記憶にねぇ…けど」
「覚えてないだけじゃなくて?」
「……お前だってそんな言い方するってことは覚えてないってことだろ」
「……」
「……」
二人の間に重々しい空気が流れる。そうして
「善」
「ん?」
「棚の後ろに
「まじ?」
「まてまてまて!!!」
「お前まじ陰湿だぞ!!!!」
「陰湿?なにが?僕はただ
「うそつけ!」
「あ、でも結構痛々しいタイトルだったよね。なんだっけ?ぜっ____」
「おいコラテメェヤメロ!!!!」
そこからまた始まる兄弟喧嘩
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_______善さんが子供っぽいというよりあの二人が大人すぎるんですよぉ
ふと、よく言われる言葉を思い出す。
善と彼らは同じ年で同じ隊長で入隊時期もほぼ一緒だ。
だからかよく比べられるのだが…。
未だに喧嘩をする二人を見て善はつまみのチーズを食べながら首を傾げる。
「ばーかばーか!」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだよ。知らないの?」
(…………大人っぽい…?)
疑問を募らせつつも、善は酒を煽った。
_____綻ンダ待雪草ハ縋リツク
今回は比較的ほんわかとした回…かなぁ??
個人的に結構気に入ってます。
外では自由に振る舞っている善と大人びている雪村兄弟
雪村と一緒にいると素が出る善(素は割と落ち着いてるからちょっと大人びてる……気がする)と善がいる空間では気が抜けて素が出る雪村兄弟(the男子高校生!って感じだと雑草が嬉しい)
うーん。とても好き。かわいい。