夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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ついに三月ですねぇ。あったかくなってくる時期となりました。
一章より文字量はこっちの方が多いには多いんですけど、別にそこまで差はないはずなんです。
でも区切りの関係で六節まで行きそう………。
区切るの難しいんですよねぇ………ははっ(;^ω^)


今回初手からシンドイ展開来るよ!雑草は泣きそうです(´・ω・`)


第三節 第一項

「ひな…た」

 

目の前の光景に立ち眩みがした。

地面に座り込む日向(ひゅうが)の目の前には体を貫かれた日向(ひなた)の姿があった。

その腕や顔からはドクドクと脈が生き物のように蠢いているのが見えて、反射的に日向(ひゅうが)は糸ごと蔦を切った。

倒れ込む日向(ひなた)。その体を日向(ひゅうが)は慌てて抱きかかえ、肩を抑えた。

 

「おい……ひな」

「殺せ」

「はっ…?」

 

日向(ひなた)が苦し気に顔を顰め乍ら、それでも真っすぐ日向(ひゅうが)を見ながら言う。

その言葉に日向(ひゅうが)の息が詰まった。

 

「なに、言って……」

「じ……かん…なぃ…こ……ぉせ」

 

脈が動き、少しずつ日向(ひなた)の目の白身が黒く染まりだし、頬を突き抜け蔦があふれ始める。

それをみて、時間がないという意味を理解しつつも脳がその現実を拒んだ。

 

「わ、かんねぇだろ!?もしかしたらウイルスの血清剤ができるかもしれ___」

「…わ、か……ってん……だろ」

 

睨まれる。

不死者よりも彩度の高い赤い目を見て……思い出されたのはいつかの会話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホワ・アンヘルってウイルスなんだよね?血清とかって出来ないのかな?」

 

一回のロビー。その一角には共有スペースとして小さなソファーと同じく小さな机が設置されている場所があった。そこに座った日向(ひなた)はふと湧いた疑問を口から吐きだした。

その話題に応えたのは偶々通りかかった楓であった。

 

「無理でしょうね。勿論何百回と開発のチャレンジを行いましたが、もれなく全滅でした」

 

「来栖さん」と日向(ひゅうが)が名前を呼べば彼は「どうも」と軽く会釈し、椅子に浅く座ると前かがみになって手を組む。

 

「ホワ・アンヘルって植物を元にしてるんだろ。そもそもなんで植物をチョイスしたんだろうな」

 

次いで日向(ひゅうが)がなんとなく疑問を言えば楓は顎を撫でる。

 

「植物の生命力は強いですから」

「そんなに凄いんですか?植物って」

「ホワ・アンヘルの原材料になった植物が何かはわかりません、が記録を見る限り大木なら軽く一万以上長生きする個体があり、再生力も高い。挿し木をすればものによっては増え、成長する。

水や光のない場所でも平然と咲く花もあります。

生命力は非常に高い。故に選んだのでしょう」

「なるほど。そのもとになった植物が何か分かれば血清とかできたりしないんですか?」

「無理でしょうね。ホワ・アンヘルは細胞を破壊してその細胞の栄養を吸収、根を張るウイルス。

壊れた物は治らない。繁殖能力が高すぎるゆえに植え付けられた時点で終わりです。

遅延させる薬なら出来ない事もないかもしれませんが、それでもどこまで抑えられるか分からない

そもそも体に根っこを生やすわけですから、その根っこを体内から取り除かない限り無理でしょう。

ただまぁ、解剖記録を見る限り現段階の技術じゃまず除去不可能ですが」

 

ハッキリと言い切る楓の言葉が脳内に過る。

それはつまり、日向(ひなた)はどう足掻いても助かることはない、ということで。

 

 

 

「で、も……だからって、無理ってきまった、わけじゃ」

 

泣きそうな目をしながら拒む日向(ひゅうが)。彼の側頭部の髪を片手で鷲掴むと顔を引き寄せ、日向(ひなた)は叫ぶ。

その手は既に植物化している。手だけではない。額にも、いつの間にか赤黒い瞳が一つ。開いていた。

 

「甘っだれん”な!!」

「!」

「職務、を…!はたせ…!!雪村日向(ひゅうが)…!!」

 

その言葉に日向(ひゅうが)は目を見開く。

濁った、それでも大切な片割れの言葉

その言葉に、日向(ひゅうが)は顔を歪めながらも刀を振り上げる。

そうして振り下ろそうとして

 

「泣かせる兄妹愛やなぁ」

「!」

 

その場から横に転がる日向(ひゅうが)

彼の真上を糸が通過する。

声の発信先を見れば、そこには子禽の姿

だが先程とは違い、脊髄をむき出しにし、腹からは蜘蛛のような手足が出ている。

そこにはラズベリーの華が咲いていて、その中央には目を固く瞑った目

 

「眼球は痛覚通常の8倍になるさかい、原則覆うことも隠すこともできひん。

そやけど体内の開いてる空間に入れといたら基本的に痛みを伴わへんで隠せる。

まぁ出し入れする時は激痛が走るさかい。やりとうはあらへんけどな」

 

そうして瞼が上がり、目玉があらわになる。

顔からは肉が削がれ、ぐっちゃグチャの中、子禽は日向(ひゅうが)を睨む。

 

「ホンマ不快やわ。この惨めな姿見られたのも不快。存在自体不快や。ちゃっちゃと死んでくれへん?なぁ、あんさんもそう思うやろ?」

「?…!」

 

瞬間、左脚を何かが貫通すると同時に激しい熱に襲われる。

脚を見る、そこには日向(ひなた)の蔦が貫通していた。

そうしてその蔦の近くには蕾が生え始め。

 

「__!」

 

直ぐに足首を切り飛ばし、距離を取る。

 

「やっぱし花無し一体やと核の植え付けは遅いなあ。

それにしても足切り飛ばすやら凄い根性やん」

 

同時に糸が飛んできて、日向(ひゅうが)の体を切りつける。

躱そうとするが、体勢を崩し地面に転がる。

 

「そやけど、その足でウチ等相手にするとか難しいんとちゃう?

ここで大人しゅう兄弟仲良う配下になった方が楽やろうに。

そやけどもうあかんで、ウチはあんさんのこと好かん。

生きてること後悔するくらい惨めったらしく殺したる…!!!」

 

ぎょろりと此方を向く目玉がそしてゆったりと細められた。

狩りを楽しむ狩人のように。

 

戦いは一挙に、その苛烈さを増して豪奢な屋敷に破壊をまき散らしていた。

片足で迫って来る蔦を躱し、糸と刃の打ち合う音が擦過音に紛れる火花が弾かれる金属の衝撃が、周りの建物を崩していく。

軽やかな音を立てて受付の窓ガラスが弾け、床を砕かれる衝撃にタイルが舞い上がり、壁に掛けられた時計が粉砕される。

 

(やっぱ二対一は不利か…)

 

内心で呟いた日向(ひゅうが)は地面に落ちていた銃を拾い上げるとそれを日向(ひなた)に向ける、が

 

「………っ」

 

撃つことが出来ず、ぶんっと銃をぶん投げた。

投げられた銃は その勢いのまま壁に突き刺さる。

 

(蔦の伸び範囲は決まってる。この距離なら蔦の邪魔は入らねぇ)

 

そのまま刀を持ち、糸を切っていく。

 

「へぇ、その片足で器用なものやな」

 

伸びて来た糸を踏んづけ一気に飛躍。そのまま更に糸を踏んで飛ぶ。子禽は直ぐに糸で刻もうとするが

 

(此奴…さっきより早っ)

 

日向(ひゅうが)の方がワンテンポ早く、刀が振られる。

子禽は少し出した糸を自身の腕に巻くと糸を纏った腕で防御をする。

受けた反動でそのまま後ろへと宙返りすると同時に日向(ひゅうが)は自身の脚に迫る糸を切ると直ぐに身を翻して子禽の元へ

子禽が糸に絡まって落下をこらえようとするが、糸を切ることで、糸をチギリ、そのまま子禽が着地するより先に空中にて子禽に体術を交えた追撃を仕掛ける。

体をよじって回りながら次々と攻撃を繰り出し、下がり続ける子禽への追撃の手を緩めない。

やがて日向(ひゅうが)の連撃を避けるのに手いっぱいだった子禽は、下がる足が廊下の終点に辿り着いたことを察して顔を上げた。

 

「ぶっ潰れろ!!」

 

踏み込み、刀を抜刀する様に構え、切りかかる。

引き抜かれる瞬間物凄い風が巻き起こり、暗闇の診療所に月光を反射する銀色の暴力が子禽に迫る。

生身の人間が直撃すれば、間違いなく挽肉になるほどの威力

子禽は背を壁につけたまま、軽く膝を曲げて右の足裏を壁へ当てた。

そして迫る刀に対して狙いを定めて、突っ込ませるように鋭くした糸を差し出す。

再び鋼の甲高い悲鳴が響く。

 

「んな子供騙し、喰らうかよ」

 

子禽の目論見は、二本の糸を差し込み、突っ込む日向(ひゅうが)をそのまま串刺しにすることだろう。

しかし日向(ひゅうが)の身体能力は既に人間の域を越えている。

頬に多少の傷を受けながらも、刀を少し横に倒し、伸びて来た糸に充てれば、硬い糸は火花を散らしながら歪に曲がって圧し折れる……その寸前

 

「子供騙しな、ならこっちはどうや?」

 

その折れた糸は瞬間ばらけると、まるで鳥かごのように日向(ひゅうが)を囲うと一気に迫って来る。

 

「なんだ、心中する気か?」

「なわけあるかい」

 

そうして自身の弱点を貫こうとする刃が

 

「死ぬんはあんさんだけや、下等生物が」

 

しゃがむとそのまま横に抜け、分厚い糸の繭に日向(ひゅうが)を閉じ込めて閉める。

バタバタと血が繭の下側から染み出し地面に広がる。

 

「いっ…てぇぇなぁぁぁ!!!」

「!!」

 

次の瞬間全ての繭がバラバラに飛び散り、目の前に刃が迫る。

間一髪で躱す子禽の弱点スレスレに刃が突き立てられる。

その刃を突き立てた本人、日向(ひゅうが)の脚は太腿から下がなく、更に左腕もズタズタに切り裂かれ、ぷらりと揺れている。

ぎらりとした目が子禽に向く。

そんな日向(ひゅうが)の体や足元には千切れた糸くずが散らばっている。

 

(自分の腕と脚を盾にして、全部切ったんか…!

再生するウチ等やって手足切られたら怯むんに、此奴……ホンマに人間か…?!)

 

伸びてくる糸、ソレを間髪入れずに切り捨て日向(ひゅうが)は子禽を見て笑う。

その顔にもまた大量の傷が出来ている。そんな顔で日向(ひゅうが)はなお笑う。

 

「バケモンの攻撃も大した事ねぇな?そんなもんかよ」

「……死にぞこないが」

 

子禽が眉根を寄せると、そのまま闇に霞むように溶け…瞬間疾走

床を蹴る最初の音がしたと思えば、壁を穿つような音が上下左右から連続する。

自身が張った糸を縦横無人に飛び交う。

異様な速度で飛びまわる

狙いを絞らせない速度で糸を纏って日向(ひゅうが)に突っ込む。

 

「あ”ああああああああ!!!」

 

だが日向(ひゅうが)は強硬策に出た。

飛びこんでくる方向は見ずに雄叫びを上げ、持っていた刀を地面にぶっ刺す。

圧倒的すぎる破壊力を前に、地面は崩れ、砂埃が舞い上がる。

そうして、その一瞬、舞った砂埃に子禽の体が触れ、空気の軌道が僅かに変わったと察知した瞬間

 

「___ッ!!」

「!?」

 

糸を足場に急降下する子禽と、飛びあがった日向(ひゅうが)の刃がぶつかり、衝撃がつんざき、鼓膜を貫く音の暴力が月光の館の中鋭く揺すぶる。

子禽が横に高速回転、同時に無数の糸を手から滑らせ日向(ひゅうが)に向かわせる。

それを躱す日向(ひゅうが)、だがそんな日向(ひゅうが)に別の方向から糸が迫り、薙ぎ払われるように受付のカウンターに吹き飛ばさされる。

 

「まだまだ!!!」

 

白煙をたなびかせながら、転がる日向(ひゅうが)は即座に起き上がると追撃に来ていた子禽を煙の中迎え撃つ。

 

息つく暇もなく、日向(ひゅうが)を追って飛び出してくる子禽

その細い腰を目掛けて蹴りが放たれる。

直撃、感触がない。

子禽は異常な体捌きで身を回し、蹴りの衝撃を腹の表面を撫でさせるような軌道へ変えて回避

逆に足を伸ばした状態で動きの止まる日向(ひゅうが)へ、空気を切り裂きながら迫る。

 

それをブリッチをするように身を逸らして躱すとそのまま片手で刀を振り上げる。

軋る音。弾け飛ぶ赤と黄色の火花

驚嘆に見開かれる黒瞳と、胴を開けた子禽

その弱点へ向かって刃を向かわせ

 

「ッ!」

 

その一撃を中断し、勢いそのままに横に逃げる。

瞬間地面から太い糸が地面を割って出てくる。

避け遅れた左耳が吹っ飛び、血霧の中を転がり抜けて回避行動

壁に足をつけ、追い縋る斬撃を飛ぶことで逃れて避ける。

 

避ける、避ける、避け切る。

 

そうして追撃に隙間を生み、その間に離脱する。

地面の上に手足をつき、日向(ひゅうが)は消失した左耳の上半分からの出血を掌で押さえた。

荒い息をつき、焼けるような痛みに日向(ひゅうが)は歯噛みする。

それから、もうもうと立ち込める噴煙を切り裂いて、歩み出てくる子禽を見て口角を上げた。

 

「マジで、夜縁の攻撃ってチートばっかじゃねぇか」

「人間のくせにここまで戦えたことは褒めたる。

そやけどそれだけ。どう足掻いても人間はウチ等には勝てへんで。そないな運命や」

「運命……はは、運命とか必然とか宿命とか、全部くそくらえだ。

んなもん、自分が招いた結果を受け入れる時に使う体のいい言い訳だろ。

俺はんなもん口にしねぇよ。運命なんざ存在しねぇ

俺は俺の全力で、その先に出た結果しか見ねぇんだよ!!!」

 

振り下ろされる刃を糸で受け、鋼の軋む音と火花を上げて斬撃が受け流される。

互いに生じた隙を縫い、豪風をまとう蹴り、その蹴りからでる糸が空気を裂いて日向(ひゅうが)の胴体を切りつけるが、切り裂かれる前に刀で切り伏せる。

その間に子禽は回る勢いで反対の手が糸を日向(ひゅうが)の顔目掛けて振るい、頭部を両断に迫るが

 

「あめぇな」

「!」

 

太い糸を歯で噛み、一瞬止まった隙に刀で切り伏せる。

 

(正気か此奴…!)

 

ペッと日向(ひゅうが)は糸を吐く。

同時に、口内が傷ついたのだろう、血の混じった唾も一緒に吐き出しながら、流れる様に刀を突きだす。

 

(此奴の糸発射速度より今の所俺のが刀を振る速度は上……なら、トコトン詰める)

 

左から右へ、切り込んでいく。

それを子禽は舌を打ち腕や足を犠牲に躱し切ろうとする。

その一瞬の怯みの隙に、日向(ひゅうが)は体をかがめ、背後に回り込む。

体が爆発力で後ろへ飛び、背を向ける形になった子禽にその体勢のまま圧し掛かる。

 

「___っ」

 

その過程で、子禽の糸が首に当たり、肩と首が僅かに裂ける。

だが、怯むことも無く日向(ひゅうが)は突き進む。

刀が子禽に触れる一瞬、その身を僅かに引く。

それを分かっているからこそ、腕をのばす。

そうしてざくっと子禽の上半身を切り崩す。

態勢が前のめりになった所で、視界に日向(ひなた)の姿が映る。

銃を引き抜き、自由になった日向(ひなた)

 

(一旦引くか……いや、片足でここまで踏み込んじまった以上無理だ……!!!)

 

そんな彼を見た子禽もまた笑みを浮かべる。

 

「貫け!!!」

日向(ひなた)!!!」

 

二人の声が響き、次の瞬間物凄い速度の蔦が

 

 

 

「あ”ッ」

 

 

 

子禽ごと日向(ひゅうが)の胴体を貫いた。

 

貫いた位置は腹辺り。子禽の弱点は頸にあるため問題はないが、人間である日向(ひゅうが)は血を吐き出す。

 

「甘いのんはそっちやな。ちゃっちゃと殺してもうたらこうはならへんかったのにな?」

 

そういうと子禽は蔦をきって腹の貫きを引き抜いた。

 

「ほら、食べてええよ。食癖があらへんさかい味わからへんやろうけど、兄弟食べるっちゅう背徳感くらいは味わえるんとちがう?」

 

子禽は唇を舐め乍ら笑う。

導かれるように日向(ひなた)が蔦に貫かれた日向(ひゅうが)に手を伸ばした。

 

その二人の行動に子禽はいつかの記憶を思い出し、うっそりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、血まみれの鉄格子が嵌められた暗い部屋だった。

響く室内。鉄の匂いと赤で塗れるそこで、子禽は小さな少年を抱きしめていた。

そう、この頃の子禽は黒い髪だった。まだ人間だったころの記憶だ。少年は子禽の実弟だった。

周りの子供は皆死んでいった。実験の材料に使われたのだ。

もうこの檻には二人しかいなかった。

殴られてボロボロになった弟。もう名前も覚えていない弟を抱きしめて生きる日々はきっと地獄だった。それこそ、髪がストレスで白くなるほどには

 

 

 

そうしてそこから日が過ぎて………そして

 

 

 

「ぉ、ねぇ……ちゃ、や……だ…たす、け……」

 

地べたを這いつくばる殆ど骨だけになった弟の姿を子禽は無言で見下ろした。

黒かった髪はすっかり白くなって、瞳も黒ではなく化け物の証とされる紅へと変化してしまっていた。

 

「……おいしそう」

 

目の前で転がるそれを抱き上げる。

まろい頬はすっかりやせこけ、皮だけとなったソレは酷く軽い。

弱弱しく上げられた手を握る。

 

「なんでやろうな。家族かて思うとったのに、今はただ肉の塊にしか思えへんの」

「……ぇ、ち”…ぁ………」

「痛くないようにするから」

 

 

___大人しく食われて

 

 

子禽は別に人への恨みがあるわけではなかった。それこそ巫蠱(ふこ)のように酔狂なこと考えているわけでもない。でも駄目なのだ。人が存在し続けられると。

 

「おかあさん!えほんよんで!!」

「ええよ」

 

家族(これ)を食べることができないから。

食べたら巫蠱に殺されかねない。実際過去に何度か殺されかけた経験があった。

愛する可愛い家族。母の中に還ることなく穢れた下等生物に殺され土の肥料になる命。

その度に腹が煮えくり返りそうな衝動に駆られる。

だから、人間には死んでもらわないといけない。

だって彼女は家族を”愛している”のだから。

彼女はこの運命を受け入れている。受け入れて、人を殺す…ただそれだけ。

 

 

 

 

 

食癖(呪い)に従うだけなのだ。

 

 

 

 

「さ、うまいで。召し上がれ」

 

今まで食べてきた子供の味を思い出して恍惚な笑みを浮かべる子禽

そうしてついに日向(ひなた)の手が日向(ひゅうが)に触れる。

 

その____頭に

 

その手に日向(ひゅうが)は目を虚ろわせながら、日向(ひなた)を見る。

血はとめどなく口から零れる。

だが日向(ひゅうが)日向(ひなた)の顔を見て、笑う。

 

「……は、はは、そうだよな…お前だって悔しいよなぁ……!」

 

日向(ひなた)の顔は判別がつかない程ぐちゃぐちゃになっている。

だが、その顔には何処からともなく透明な粒が流れ出している。

 

「俺も、悔しい……だから、今度こそ」

「は…?」

「一緒に、殺すぞ」

 

踏み込んだ脚。その足は真っ直ぐ子禽に向かっていた。

貫かれた胴体にはきつく栓をするように蔦が巻かれ、欠損していた右足には義足だと言わんばかりに蔦が巻かれている。

 

「なんなんそれ……可笑しいやろ。やって…」

 

混乱したように呟く子禽。だが気にしないとばかりに日向(ひゅうが)は刀を振る。

その刃を躱す子禽

 

(さっきより動きに切れがない。大それたこと言ったところで何処までいっても人間は人間。今は動けても三分もすれば完全に動けなくなる。精々死ぬまで嬲ったる…!)

 

額に汗を滲ませながら糸を飛ばす。

それを切りながら、だが動きが鈍くなったこともありすぱんっと腕が飛び、刃が折れる。

血飛沫が上がる。

 

だが次の瞬間

 

(___は)

 

ガクンっと体が下に落ちる。

見れば脚に銃弾が入っていた。

目だけ後ろにやればそこには蔦を使って背後から銃を操る日向(ひなた)

直ぐに態勢を立て直すために上に糸を上げようとする。だが既に死神はすぐそこまで迫っていた。

 

「ま___」

「う”ああああああああああああ」

 

咆哮を上げ乍ら、折れた刃を素手で掴み、子禽の体をバラバラに切り刻む。

其の中には目玉も入っていた。

サイコロのようにばらばらにされた子禽の肉片は地面に崩れ落ちる。

 

 

(___は、なんで?なんでウチが負けたん?)

 

 

地面に落ちた子禽は困惑する。

体は動かない。真っ暗だ。

 

 

(死に損ないのくせに、なんでウチが負けたん?

なんで?なんでなん。可笑しいやろ、やってウチは……うちは)

 

 

___お姉ちゃん

 

 

いつかの弟の声が耳に過る。

辺りを見る。でもどこにもいなかった。

声は聞こえる。でもそれだけ。

一人は寂しい、会いたい。あの顔をもう一度見たかった。

 

手を伸ばす。

肉の欠片がピクリと動く。

しかしそれだけだ。

 

 

(なにいってんねんやろ。ウチが殺したのに)

 

 

そう。彼女が何百年も前に殺したのだ。自分の手で、自分の意思で。泣き叫ぶ弟を食い殺したのだ。

 

食癖は夜縁にかけられた呪いだ。

人を無理やり辞めてしまったゆえの代償

 

(そうや。わすれてた。ウチ……家族の事、守りたかったんや

家族の事守りたくて、弟を助けたくて………)

 

 

食癖は呪いだ。

願いを食い潰す呪い。ソレがある限り幸せになることは叶わない。

 

___ああ、なんでウチ…”あの子たち”のこと、食べてしもうたんやろ。

 

 

 

気づいたときには何もかもが遅すぎた。

大きな後悔を抱え彼女の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

「げほっ、げほ」

 

子禽が息絶えて数秒。とうとう限界が来たとばかりに日向(ひゅうが)は膝を折った。

鼻や口、目、耳、頭、その全てから血を噴き出す。

しかし、フラつきながら立ち上がると掌から血を滴らせながら刃を強く握り込み、日向(ひなた)の元へ行く。

日向(ひなた)はただ静かにその場に立っていた。攻撃することも逃げることもなく。

この後の展開をわかり切っているとばかりに、静かに。

 

「s√繧#√縲>帙逞」

「人として、殺してやれなくて……ごめんな」

「ヲ縺」縺ェ縺↓帙縺ク蟷」

 

日向(ひゅうが)日向(ひなた)の額に刃を突き立てる。

 

「………s√繧#√縲ヲ縺○輔縺→薙縺↑後雖」

 

軽い音を立てて目玉が潰れ、瞬間ガクンっと日向(ひなた)の体から力が抜け、日向(ひゅうが)の方へと倒れ込む。

 

「一緒だっつったろ……一人には、しねぇから」

 

そういうと日向(ひゅうが)は自身の首に刀を突き立て、日向(ひなた)を抱えたまま地面に倒れる。そのまま、目が少しずつ濁りだす。

 

「お前はわるく、ない、から……あの世でも……らいせ…でも……ぃっ、しぉ…ぁ…」

 

そうして日向(ひゅうが)もまた日向(ひなた)を抱きかかえたまま、その瞳は黒く濁らせ、光はやがて虚ろとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

建物を豪快に破壊して走る善

そんな善の髪ゴムがぷつっと音を立てて落ちる。

それにより、血で固まっていた髪が解けて揺れる。

 

「あーあ、切れちゃったよ」

 

善は髪を押さえてしゃがみこむ。

だがどこを探しても千切れたゴムは見つからない。

僅かに顔を顰め、溜息を吐きながら立ち上がる。

 

「!、すっごい揺れたな、今……」

 

ガラガラと天井から物が落ちてくる。

それを軽いステップで躱しつつ溜息を吐く。

 

(これ、絶対落石被害受けてる奴いるだろ……ま、先行くか)

 

僅かな不安が胸に湧いた。だがそれに気づかないふりをして善はまた走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、いじょうぶっすか!律くん!」

 

そう叫ぶ會。目の前には大量のコンクリートがあった。

會と律は先程までともに行動していたのだが、ひび割れていたそれが先程の揺れで一気に降って来たのだ。

 

「……平気です」

 

コンクリート越しに答える律。だがその体は下半身が埋まってしまっていた。

 

(脚折れたか潰れたか……)

「こっちこれそうっすか」

「足が挟まっています。俺に気にせず先行ってください」

「でも不死者が来たらどうするんすか!?」

「大丈夫です。不死者は扉を開けられません。この部屋に不死者が居ない以上増えることはほぼないでしょう」

「……本当に大丈夫なんすね」

「はい」

 

律が言うと會は立ち上がる。

 

「わかりました。足抜いて戦線離脱するべきだと判断したら遠慮せず外出ちゃってください」

「了解」

 

返答を聞くと同時に會は走り出す。

その間に律は黙々と斧を振り上げ、瓦礫を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

「う、わわ!!」

「ととっ」

 

揺れにより落ちそうになる叶恋の腕を掴み引っ張り上げる和真

 

「すっごい揺れたな!」

「そ、そうですねぇ…」

 

するとガンッという音と共に上の階に居たらしい不死者が降って来る。

 

「不死者も降って来たな!」

「そうですねぇ!?!」

 

大量の不死者にニコッと笑みを浮かべる和真と泣きそうになりながら武器を握る叶恋の二人。そして

 

 

 

 

 

「見つけた」

「他の皆さんは…もう手遅れらしいですね」

「……ウン」

 

堤、茉莉、蓮の三人は、とある部屋に辿り着いていた。

そんな彼らを前に足を組んで古ぼけた椅子に腰を下ろす巫蠱(ふこ)の姿。

その周りには大量の死体の山。その全ては不死者殲滅隊の隊員の物だった。

隊員の体には貫かれたり、ズタズタに刻まれていたりと様々な殺され方をしているのがわかる。

 

「思ったより早かったな……子禽が死んでしまったのは少し予想外だけど、でもまぁ、今日で全て終わらせるんだ。その犠牲だと思えば、仕方ないと受け入れようか」

 

そういうと、手を広げる。そうして彼はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「さぁ、私は神となる存在。精々私を楽しませてくれ、人間」




「あのさ、善くん」
「んぇ?」

声をかけられて善は後ろを振り返る。そこにはチームメイトである日向(ひゅうが)がいた。
彼は何処か緊張した面持ちで立っておりぎゅっと右手を握りしめる。
そうして頬を少し赤くしながらぐいっと握りしめた拳を差し出した。
不思議そうな顔をしながら善がその拳に手を差し出すとゆっくりと拳が開かれポトリとなにかが落ちた。それは赤紫のゴムに金の糸が入った髪ゴムだった。

「お前最近髪伸びてきたから…その、よかったらと思って」
「……」
「…い、いらないなら、別に」
「ううん。嬉しい。ありがとう」

本当はそろそろ切る予定だったのだが、折角もらったので切るのは延期しようと内心で決める。

「でもゴムかぁ…すぐちぎれちゃいそう」
「千切れたらまた買ってやるから………その、次は二人で見に行こう」

気恥ずかしくなったのか尻すぼみになる言葉
だが善の耳にはしっかりと届いており善は無表情を崩すとわずかに口角を上げ頷いた。










あ”ああああああああああああああああああああっ!!!

なんてこったいぱんなこったい!え、古いって?うるせぇ!!記憶に残ってる限り古いもくそもないんだよっ!!!!
そんなことより雑草、現在鬱でございます。
作中トップクラスに好きなキャラだったのに!!死んだよっ!!!なんでや!?
生き返って雪村ぁ!生き返るのよォォォと叫ぶ雑草と
この地獄感がたまらなぁぁぁいっ!と悦んでいる雑草とで殴り合いが現在巻き起こっております。

仕方ないじゃん思いついちゃったんだから。仕方ないよね?ね??
そしてついに堤、蓮、茉莉の三人が巫蠱(ふこ)と出くわしました。最終決戦は近いぞ!そして深まる地獄!おらわくわくすっぞ(・ω・)
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