夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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今回も鬱です。雑草は泣いた。


第二項

「だ、誰とも会わない。

誰か、!お願いしますぅ、誰でもいいから出てきてくださいぃ!」

 

誰も居ない静かな廊下。そこを泣きそうになりながら一人よたよたと歩いているのは萌だった。

ぎゅっと銃を抱きしめながら彼は扉を開けては誰も居ない空間を歩く。

 

「くぅ、今回配給される報酬金さえあれば、もうこんな仕事しなくて済むんだぁ…弟たちも待ってるから早く帰りたいよぉ……こわいよぉ…」

 

ぐっすぐっすとベソをかきながら部屋を歩く。

 

「うわぁぁぁ!」

 

がんっと激しく揺れる建物に萌は大袈裟に跳ねあがって怯える。そうしてガコンッと地面に罅が入って割れる。

 

「わ、わ!」

 

思わずその穴から落っこちそうになるが、萌は何とか回避する。瞬間

 

「ごふっ」

 

ばたんっと地面に倒れ込んだ。

 

「い……たた…やっぱり僕にはまだ早いですよ…うぅ」

 

涙目になりながら顔を上げる。そうしてまた無人の部屋を歩こうとして

 

「ん……風?」

 

ふと気づく。目の前には壁。だが罅割れから空気が流れ込んでいるのが分かった。

 

「あ、そっか、こっちにも部屋が繋がってるからそりゃそうか……ん、なんか音聞こえる」

 

耳を張り付けると薄っすらどたどたと言う音が聞こえた。

 

「もしかしてこの奥に人がいたりして!」

 

そう思い立った萌は銃を構え、バンッという音と共に壁を貫いた。

そして壁の奥には……。

 

「くっそ!此奴を殺せばこの訳分かんねぇ構造も解けるかも知んねぇのに!」

「此奴図体でかいうえ、スライムみたいに滑りやがる!」

 

ぎりっと歯を食いしばる隊員五人の姿

彼等の目の前にはゼラチンのように体を震わせた巨大な不死者

此奴こそが、この時空を捻じ曲げている不死者であった。

 

「く”っ」

「逃げろ!」

 

そうして一人の隊員に向かってゼラチンのような体が押しかかって来て、息ができず窒息しそうになる。

 

「助けてる暇ねぇよ!」

「見捨てる気か!?」

「ちげぇよ!それよりはやく此奴を…!」

「お前等!!」

 

言い合っている二人の元へまたゼラチンの体が迫って来るのをみて、一人が叫ぶ。

だが躱すことなど出来ず二人纏めて飲み込まれそうになった、その時、バカデカい不死者の巨体が右へ左へ行っていたのだ。

その時、壁をぶち抜いて飛んでくる弾丸

その弾丸は不死者の目玉を背後から撃ち抜いたのだ。

 

「や、やった!壁が崩れ____ひぇぇぇ!?誰でもいいって言ったけど!人から外れちゃ駄目でしょ!?!」

 

突然現れた黒い不死者の巨体に悲鳴に上げる萌

萌が悲鳴を上げると同時にダンっと不死者がひっくり返り、ゼラチンの体が水のように溶けていった。突然の展開に追いつけなくて萌が放心する中、捕まっていた隊員は溺れた後かのように水を吐き出し激しく咳き込んでいた。どうやら彼は死なずに済んだらしい。

その隊員の背中をさすりながらも戦っていた隊員たちは立ち上がると、武器を持って走っていく。

そうして最後の一人。捕まっていた隊員が地面に座り込んでいる萌の元へ駆け寄るとその肩を叩いた。

 

「助かったぜ神楽!お前女々しくてうぜぇ奴だって思ってたけどやればできる奴だったんだなっ!」

「え、あ…え??」

 

そのまま困惑する萌を放置して走り去っていく。萌はその背を見届けながら目を瞬かせ

 

「……え?」

 

意味が分からず首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、空間が…」

「おお!誰かが不死者殺したっぽいな!よくやった!誰かしらんけど!!!」

 

それに真っ先に気づいたのは和真と叶恋の二人であった。彼らは落ちてきた不死者を対処した後、元に戻った空間に表情を明るくさせた。

 

「あ”ーー!でも全然だめだ!!襲われてる奴の悲鳴ばっかで耳痛い!ぎゃんぎゃかぎゃんって感じ!ずっきずきする!!!」

 

和真は耳を押さえて言う。

その言葉に叶恋はハッとした顔をした。

 

「そう!そうですよぉ!!!空間が戻ったってことは悲鳴の元に行けますよねぇ!案内してくださぁい!」

「え、なんで?」

「なんでって、助けるんですよぉ!

悲鳴って事はまだ生きてる筈。不死者を殺して被害を抑えてってすれば助けられる命がある筈ですもん!」

「なんで?」

「え、いや、だからぁ!人が死ぬのは嫌じゃないですかぁ!?」

「なんで?人が死ぬと俺ら困んのか?」

 

きょとりと首を傾げる和真に叶恋は「えっ」と驚いた顔をする。

まさかそんな返答が返って来るとは思ってなかったのだ。

 

「い、いやだって!死んじゃったら死んじゃうんですよぉ!?」

「ん?おう、そうだな?」

「家族が待ってる人もいるかもじゃないですかぁ!死んじゃったら家族が悲しむかもしれないですし…友達も……」

「そんなの皆だろ?俺も母ちゃんだろ?父ちゃんだろ?あと妹と、弟と、祖父ちゃん祖母ちゃんも待ってるし!友達もいるぜ?

その仕事は支援の仕事じゃん。

戦闘部隊とか……あと断罪部隊と一部の科学部隊は前線張れって言われてるし。なら俺等はボス狩りに集中でしょ」

「支援の手が全然回ってないんですよぉ!不死者もまだそこらへんに蔓延ってます!支援の人たちで戦闘できる人は少ないんですよぉ!?」

「でも俺等の仕事じゃないし。ボスさっさと殺せば終わるんだから、いいじゃん」

「そ、れは……」

「ここでボスを逃せばそれこそ死んでった奴らの命が無駄になるだけだろ?

それとも叶恋は私情で余計なことしてボスを逃がす気?」

「!」

 

その言葉に叶恋は目を見張る。そうして辛そうに顔を歪める。

だが和真は「んー」と耳を澄ませ。

 

「おっ、わかってくれたっぽい音する。うん納得してくれてよかった!よかった!!」

「…………はい。すみません」

「いいぞ!!さてラスボス殺しにいくぞー、れっつハンティング~」

 

「こっちだこっち!」と言って走り出す和真

 

「え、さっき場所わからないって」

「わかんないから一旦静かなトコいく!

こっちが比較的静かだからそこで音聞いてボスっぽいの探しに行く!れっつごー!ごー!」

 

そういって走り出す和真の後を叶恋も慌てて追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、おーい起きろ」

 

そんな声と共に、ゲシっと誰かの脚が誰かの胴体を蹴った。

蹴られた方はうっすらと目を開ける。

その目に移ったのはしゃがみ込んだ善の姿。

善はひらひらと白い手を顔の前で揺らす。

 

「……ぉ、まえ」

「こんな戦場で吞気に仮眠とるとは流石駄犬。図太いね」

 

膝に腕を付いて頬杖を突きながら善がいう。

その言葉に狗星飛鳥(いぬほしあすか)はゆっくりと体を動かした。

無事とは到底言い難い現状だが、それでも彼は生きていたのだ。

痛む体を起こせばダバダバと服に含まれた血が地面に滴った。

今までに見たことがないほどのズタボロさに善は意外そうに目を丸くする。

 

「い"……」

「面白いくらいボロボロだね。夜縁とかち合ったっぽいけど…そんな苦戦する相手だったわけ?」

「感覚共有の能力持ちだ。クソが、いてェ…げほっ」

「え、きも。相手殺してんのになんでショック死してないの?精神力異常かよ。きもすぎ」

「うっせェよクソガキ…」

 

前髪を掻き上げながら飛鳥は顔を顰める。

 

「そんなズタズタなトコ悪いけどさっさと立ってくれる?ちょっと不味い状況になってるから」

「不味い状況…?」

「周り見てみな」

「は?」

 

そう言われ周りを見ると、そこには大量の不死者の残骸が転がっていた。

そのうえ、周りにあった扉はあけ放たれ、奥の部屋の更に奥の部屋まで見通せる。

 

「空間を捻じ曲げてた不死者が誰かに殺されたらしい。

これにはメリットとデメリットがある。

メリットは、合流がしやすくなったことと、遠くまで見通せる分探索が楽になったこと。デメリットは」

「俺みたく気絶してる奴とか怪我で動けねぇ奴がヤベェことになるってワケか」

「そういうこと…でもまぁ、これに関しては…」

 

二人に飛びかかってくる不死者を善はみることもなく瞬殺する。

 

「運が悪いとしか言いようがないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな言葉と被さる様に、律は現在不死者に囲まれていた。

 

「ちっ」

 

煩わしそうに舌をうつ律

両足ともに既に抜けきってはいるものの、腰から下は血がダバダバと出ており酷い怪我となっていた。

 

(失念してた。そもそもこの空間事態不死者の能力……こういう状況になりかねないに決まっている)

 

だが、此処で音をあげるわけにもいかないと律は立ち上がる。

 

(死ぬこと事態は構わない。ただ、一体でも多く殺す必要がある)

 

そうして決死の覚悟で削り始める。だが異常なほどに雪崩れ込んでくる不死者

削っても削っても寄ってくるのだから嫌なものだ。

 

(不死者は元人間。騒がしい方に集まってくるもの。

だから、こいつらの地響きに誘き寄せられて次から次へと沸いてくる。

それはそれで好都合……此処に集まるぶん他の場所にいく不死者が減る。だがこの量の不死者は流石に異常だ)

 

目を細める律

そして、奥の部屋……かなり奥の部屋に黒い不死者がいて、その不死者が口を開ければ、そこから不死者が出てくるのが見える。

その不死者が扉を開けるような動作をしている。

まぁ扉はないのでからぶっているが。

其れをみて律は目を細める。

 

(あの不死者。ハコビと似たタイプ。あの口がワープゲートで繋がってる先は……恐らくZ地区か?

扉を開け閉めする動作をひたすらするあたり、ハコビと同じ動きしかできないのか。

なら、まずあいつを殺す……が、この量じゃ流石に…)

 

顔を歪める。これじゃぁ対象にたどり着く前に潰される。

なにか打開策はないかと考えて

 

「わぁぁぁぁぁぁやっとでれたぁぁってなにこれぇぇぇ!?!?」

 

悲鳴が聞こえる。

姿は見えない。だが確実に自分の知っている人物だろうことはここ半年で嫌というほど一緒にいたからだろう。誰が来たのか確信した律は彼の名字を叫んだ。

 

「筑波!!!」

「はっ、りっちゃん!?りっちゃぁぁぁん!!!!」

 

叫び声が聞こえた瞬間目の前の不死者が吹き飛んでいった。

流石と言うかなんと言うか。

視界が開けた先にはやはり紡の姿があった。

 

「りっちゃぁぁぁん!!!!」

「うるさい」

 

飛び付こうとしてくる紡の頭にチョップをいれ、首根っこをつかみ前を向かせながら、崩れている瓦礫の上に一旦避難する。

 

「って、りっちゃんその足!!!」

「平気だ。それより見ろ」

 

そういって指差す律

 

「あの黒いの見えるか」

「う、うん、なんかいるね」

「あれが不死者がわらわら沸いてくる原因だ。まずあれを殺さないときりがない」

「そ、そうだね?」

「お前がこの不死者蹴散らしてあの不死者殺せ。サポートはする」

「わ、わかった!」

 

頷く紡はぴょんっとその場から飛び降りて言われた通り特攻を決める。

元気な紡は武器を振り回し敵をドンドンと蹴散らしていった。

紡の死角から襲いかかる不死者は律が殺し、二人は確実に黒い不死者へ突き進む。

 

不死者がすごい勢いで死んでいく。

だが其れを凌駕する勢いで増えていく不死者

 

「っ!」

 

やがて律の太ももを不死者の蔦が絡み付いた。

痛みに顔をしかめる律の足を締め上げる。

 

「りっちゃん!」

「はやく……いけ!!!」

 

蔦を叩ききって叫ぶ律

すぐに続いてくる攻撃を交わす。

紡は律の為にも頷いて走る。

だがやはりこれだけの不死者がいれば花咲きがいてもおかしくはないわけで

 

「っ!!!」

 

花咲き。それも地面を液状化するというとんでもない能力

部屋を跨いだ瞬間地面が沈んだ。

完全な水ではない。どろりと溶けて、纏わりついてくる。

進む速度はがくりとさがり、変わりに不死者が飛んでくる。不死者は蔦をだせば素早い

そのまま首を掻っ切ろうとしてくる。なんとか腕を振って対抗するがやはり上手く動けないというのは足を引っ張る。

 

蔦が首に向かって飛んでくる。

 

「り、ちゃ」

「はやく、いけ…!」

 

不死者の死骸を踏み台にしながら律が斧を振るう。

そうして、出来上がった死骸を前に飛ばした。

その死骸に飛び付きヘドロ地獄から抜け出すと落ちないようにしながら不死者を殺す。

そうして、ヘドロの不死者を殺し、ようやく元凶へ

 

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

叫びながら刃をたたきつける。

・・・

 

「えっ」

 

ガンっと言う甲高い音と共にツヴァイハンダーが根本から折れる。

火花がちって辺りに飛び散る。

そうして、割れた刃は不死者に飲まれる。

 

「う、そ……わっ!!!」

 

開けた空間から更に産み出されていく不死者の群れ。

どうしようどうしようと考える紡の背を蹴り飛ばす律

すると紡の体は飛び、岩の上へとあげられる。

蹴った衝撃で顔をしかめる律

 

「りっちゃん!!!」

「お前の力で無理なら大抵の人間じゃ無理だ。

作戦変更。お前はさっさと離脱。武器補給してこい」

「わ、わかった!すぐもどって」

「違う、他の応援にいけ」

「……え?」

 

固まる紡

 

「な、なんで!?」

「俺がこいつらを引き寄せ続ける。発生源はここだってわかってる。

お前はボスを探しにいけ。お前の怪力は役に立つ」

「ちがっ、そうじゃない!りっちゃんはどうするの?!あの黒いの殺せる算段は?!」

「ない。お前が無理なら俺の力でも無理だ。なら、お前はさっさと上に上がって加勢しにいけ」

「りっちゃん死んじゃうじゃん!一緒に」

「最初からそういう役割だ。問題ない」

 

肩は食いちぎられながらもきっぱりと言い切る律

 

 

 

「なんせ俺は”戦闘人形”死ぬこと含めて役割だ」

 

 

 

勅使河原律は孤児だった。

両親は判明していないが、律のような親がわからない孤児というのは珍しくない。

捨て子、ということもあるが、その大半が【生の施設】で出産、それぞれの孤児院に流された子供が多いのだ。

そして律もその一人であった。

そんな律が流された場所は【育】の孤児院。

【育】それは子供を育成するだけの孤児院

だが地区によって育成の内容は違う。

 

子供の意識を尊重した、ある程度の自由がある孤児院

将来もある程度の自由がある孤児院は氷雨誠が入っていたような場所である。

多少荷物の運搬やら、建築の手伝いはあれど基本自由だ。

 

反対に、殲滅隊専用に育てられる孤児院も存在する。

それが律のいた場所だった。

 

幼少期から厳しい訓練を受け、泣き言を言うこともできず育てられる。

その過程で死者が出ることもある。

彼らの人生の意義。それは"一匹でも多く不死者を殺し、人類に貢献して死ぬこと"だ。

感情の消失など決して珍しくなく、中には人体改造を受ける人間だって存在する。

人権なんて存在しない。彼らは正しく戦闘人形なのだから。

 

だからこそ、これでいいと律は受け入れる。

人形だから、人じゃないから死んでも構わないと。

これは生まれた時から決まっていた役目だと受け入れる。それは諦めに近い。

だが、今この現状においてその諦めは幾分か気持ちを楽にさせてくれた。

 

みんな同じだから受け入れられる。

自分だけじゃないから我慢できる。

仕方のないことだから諦めがつく。

 

そうして自分を納得させて、ただ死ぬ瞬間まで切り続けて。

 

「っ」

 

遂に太腿を貫かれ、地面に倒れる。

蔦は更に内部に侵入しようと蠢き、ふくらはぎを内から壊していく。

悲鳴を噛み殺し、それでも泥臭くとも懸命に殺す律

 

「おい、何やってる。早くい___」

「わけわかんないわけわかんないわけわかんない!!!」

「ばかっ!」

 

飛び降りた紡に不死者が襲いかかる。だが

 

「りっちゃんは人間じゃんっ!!!!」

 

紡は思いっ切り蹴り飛ばした。

不死者の目玉が潰れる。

そうして、蔦を掴んで叩きつけ、振り回した。不死者の体と他の不死者の体が激しくぶつかり死んでいく。

 

「痛みもある感情もある!どこが人形なの?!

そもそも死ぬのも役目ってなに?!死ぬ役目を持つ生き物なんて存在しない!!!!!」

 

そして、そのまま他の不死者も同じように力任せに地面に叩きつけた。

地面が割れて、不死者を押し潰す。その光景を律は呆然と眺める。

 

「そんなわけわかんないものでりっちゃんを殺すな!!!りっちゃんは死んじゃだめなんだ!!」

 

そう叫び、不死者を殴り飛ばし、必死に硬い不死者を殴り続ける。

しかし効き目はないのだろう、口から不死者が出て行く。

その不死者の口の中から蔦が飛んできて、紡の鎖骨を抉るが、すぐに殴り殺す。

そうして

 

「しんじゃ…だめなんだよ!約束したでしょ!一緒に色んなとこ行こうって!!!約束したじゃん!!!」

「それは、他のやつといけ。かわりはいくらでも」

「いない!!」

 

そう一刀両断する紡

 

「変わり!?いるわけないじゃん!僕はりっちゃんだから行こうって言ったの!なんでわかんないんだよ!」

「誰と行こうが変わらないだろ。俺だろうが、他だろうが…俺にこだわる必要は__!」

「りっちゃんだけだった!」

「!」

「僕の夢を、幻想だって言わなかったのは!叶えればいいって言ってくれたのは!りっちゃんだけだったっ!!!あきらめろって、無理に決まってるって みんな言ったのに!りっちゃんは…りっちゃんだけは諦める必要がないって言ってくれた!」

 

その言葉に律は目を見開く。

ふと、律の脳裏に、この間の………食堂で交わした叶恋との会話を思い出した。

 

 

 

『確かに、叶恋ちゃんは勅使河原君じゃなくても同じことを言ったと思うし…大勢にとって勅使河原君は替えのきく人間なのかもしれない』

 

 

『でもっ、やっぱり勅使河原くんを大事に思ってくれる人にとって勅使河原くんは、唯一無二の存在に変わりないと思うのぉ!』

 

 

『今理解できなくても、いつかきっとわかるときが来るからぁ………だからぁ…そのぉ…や、っぱり!替えが聞くとか、ゴミとか、思わないでっ!』

 

 

 

(なんで今、こんなことを…)

「い”ぐっ」

「!」

 

紡のわき腹を蔦が抉る。

だが、それがどうしたものか。

 

「う、うあ”ああああああああ」

 

断末魔のような声を上げると、不死者を掴む。

そうして抱きしめる。

口を塞ぐようにすると、口がドンドン膨らんでいく。

 

「な、何やってる!そんなことやったって不死者は死なない!武器じゃないとその不死者の目玉は砕けない!」

「っ」

 

その声に、紡は歯を嚙み締める。

 

 

 

 

_____力が分散しないように一点に集中して力込める練習をしろ。

 

 

 

 

(力を分散しないようにっ、でも、腕じゃ倒せないっ。なにか武器が……力を込め易い物っ、どこかっどうにかっ!!)

 

膨らんでいく不死者の体

その身体からじわりと穴が開き、蔦が紡の首に巻き付く。

 

「あ”っ、ぐ…」

 

顔を歪める紡を助けようと律が立ち上がるが、片足しか使えず、膝をついてしまう。

 

「く…そ……!」

 

無理に立とうとする律

そんな律を視界の隅に見ながら紡は、泣きそうになる。

 

 

 

そうして考えて考えて

 

 

___紡、これは仕方がないことなんだ。ほら、受け入れなさい。お腹が空いているんだろう

 

 

___やだ、やだよ。お腹は空いてるけど、食べたくないよ

 

 

___いやじゃないんだ紡、だって私たちは

 

 

 

「ああああああああああああああああ」

 

 

___こうやって生きてきた”鬼”なんだから

 

 

咆哮を上げ乍ら紡は不死者に噛みつく。

そのまま食い破り、齧りついて食らいついた。

 

「あ”ッ、あああああああ!!!」

 

喉に蔦が突き刺さる。

それは中に居たであろう不死者のもの。

他の蔦も紡の体に突き刺さる。

脚に、胴に、腰に、胸に、顔にささってささって。

 

「あ、ああ、!あああ!」

 

掠れた方向を上げ、更にくらいつき、口の中の不死者に手を突っ込み粉砕する。

不死者の肉片が宙に舞って、紡の体に付着する。

蔦も肉片も紡の血と共に彼の体を汚す。

その様は正しく悪鬼であった。そのままワープの不死者の目玉を喰らう。

そのまま歯に挟んで噛む。

 

 

 

 

(硬い骨を齧るときと変わらない。砕くことだけに集中しろ。大丈夫。これなら……力は分散しない)

 

 

 

だって昔からやってきた行動だから。

 

 

歯が欠け、落ちていってもなお紡は目玉を嚙み締め続けた。

ドロリと血が溢れるのも気にせず血走った眼で紡は唸り声をあげ砕くために集中する。

軈て、目玉に罅が入り

 

 

 

ばきんという音が響くと同時に紡の口が漸く閉じられた。

 

 

 

不死者の肉片は先程まで蠢いていたと言うのに、ピタリと動きを止め沈む。

逸れこそが、死亡を表していた。訪れる静寂

 

「へっかく…もらっひゃにょに…」

 

紡はポケットから取り出した其れは、充幸(みゆき)の形見だった。

 

「おこりゅ…かな…」

「つ、くば…」

 

そこで掠れた声で律が声をかけると紡は振り返る。

生きて立っているのが不思議なほどに穴だらけな彼は笑みを浮かべ、一歩、また一歩とゆらゆらと律に近づく。

 

「ほ、くね……処のひへ、つ…な……ぉ」

 

僕ね、処の施設なの…………そう彼は言った。

 

【処】の施設

その施設はいわば”墓場”を担当する施設だった。

主に孤児で伝染病や、不治の病にかかってしまった人間

大怪我で利用することができなくなった人間

その他の理由で使えなくなった人間を殺して処理する施設

そして処理の仕方は施設によって違う。

紡の施設の処理方法は____”食事”であった。

 

おあか……いっはい、ひほ、はべは……(おなか……いっぱい、ひと、たべた……)

 

一歩

 

でも…いおお、あかおく…なりああった(でも…ひとと、なかよく…なりたかった)

 

一歩

 

わるひおお…ひた(わるいこと…した)

 

悪夢に魘されたことなんて何度もあった。

その度に気持ち悪くて吐くことだって少なくなかった。

気持ち悪くてでも食べたくて、最悪で最低で仕方がなかった。

 

一歩

 

紡は律の目の前に立ち、彼を見る。

 

ほく…ばけもの、みたい…こあい、よね(ぼく…ばけもの、みたい…こわい、よね)

 

潰れていない片方の目から涙が出て、汚れた血が頬を流れる。

 

それでも…りっひゃんと…(それでも…りっちゃんと…)

 

 

ぼろぼろと赤い涙が零れ堕ちる。

 

ともあひで………ひははった(ともだちで………いたかった)

 

 

グッと唇を噛み律は紡を見る。

 

「勝手に決めるなよ。俺とお前は遊びに…行くんだろ」

「…!」

「お前は人間だろ。化け物じゃない。怖がるとか、そんな感情は俺にない」

「り、っちゃ」

「しょうもないこと考えてないで、生きる事だけ考えろ……遊びに行くんだろ」

「!」

 

目を見開く紡

目を緩めてそれを突き出した。

 

「あず、かってて」

「!」

 

それは充幸のビーズ

 

「きのう、もらったばっかりなのに……なさけないけど…いまのままじゃ、なくしそうだから

いき、て……ぜったい、うけ、と…いに、いう…から。だから……まってて__」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、紡の顔が……裂けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は」

 

紡の顔の中心から、何かが飛び出ている。

 

それは……刃

 

紡も律もなにが起こったのかわからなかった。だが紡は「あ”ぁ」という小さな呻き声を上げ、地面に崩れ落ちる。その血が律の顔にかかった。

 

「大丈夫か新人!!」

「すぐ医務室に運んでやるからそれまで耐えろ!」

 

そんな声と共に律は隊員に抱き抱えられる。

担がれ運ばれる律は地面に倒れた紡を見る。

まだ、生きているのだろう。少し動いたことで紡の顔が見える。皮膚がめくれ上がっていた。骨が砕け、血が溢れているのが見える。視神経が切れたのだろう。眼球がおち、ついに紡が動かなくなるのを律は見た。

最後に見た紡の手元にはあのハンカチが握り込まれ、中からはビーズが一つ、転がりおちた。

 

そして次いで自分の状況と、今起こった現状を脳が冷静に判断する。

ああ、と。思わず口から声が漏れた。

 

(恐らく、この人たちは筑波を不死者だって思ったんだ。

悪気はない。それに、筑波にはあんなこと言ったが、助かるわけないのは明白だった。

この人たちを恨んでも仕方ない。

そもそも、あんなことになったのは俺が役目を全うできなかったからだ)

 

 

___りっちゃんは人間じゃん!!!!

 

 

(俺が……)

 

 

___痛みもある感情もある!どこが人形なの?!

そもそも死ぬのも役目ってなに?!死ぬ役目を持つ生き物なんて存在しない!!!!!

 

 

(俺…が…)

 

 

___しんじゃ…だめなんだよ!約束したでしょ!一緒に色んなとこ行こうって!!!約束したじゃん!!!

 

 

 

「…お前が、破ってどうする。阿保が」

 

そういう律の目からは絶え間なく涙が溢れ

 

 

「っ_____」

 

 

声にならない嗚咽だけが、静かに溶けて………消えた。




ああああああああああああっ、雑草の癒しガァァァァっ!!!

▽雑草は膝から崩れ落ちた。

ただただ鬱としか言えない展開に雑草は泣いたよ。
しかしこれにより、子禽、螺、婁邪、絡の四人の撃破に加え、通常の不死者の排除にも成功しました。これでいよいよ残すは巫蠱(ふこ)のみでございます。
漸くやで!!やったね!!!


【世界観メモ18】
施設「育」では生命を育成する施設である。
施設によって育成方法は様々であり
普通に意思を尊重し育成する方法もあれば律のように意志など関係なく定められた未来のために育てられるケースもあり、なんなら機械人形のように改造される場合もある。
人によってはその過程で感情消失するケースも少なくはない。
問答無用でブラック判定だが黙認されている。


【世界観メモ20】
施設「処」では生命を処理する施設である。
施設によって処理方法はさまざまであり、普通に死体などを処理するだけのケースもあれば、スナックフィルム映えするように死体ではなく生きた状態で運び込み、実際に解体させられる場合もある。
紡のいた施設のように食事があまりない荒れた地区では食事として処理する場合も珍しくはない。
こちらもブラック判定だが黙認されているもよう。
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