そうしてみなさん、ホワイトデーですね
ま、バレンタイン何もなかった人にとってはただの平日か。ははっ………かなし(´・ω・`)
小さい頃から、自分がどうして生きているのかがよく、わからなかった。
物心ついた時、最初に見えたのは真っ暗な狭い小屋の中
腐臭が凄くて、血と胃液の匂いがそこら中からした。
その匂いの発生源が自分自身だと気付くのに、そう時間はいらなかった。
ごぼごぼと口から塊みたいになって落ちていく赤い血液
ブチブチと千切れて行く皮膚、そこから転び出る臓器。腹が胸が足が抉られ千切れた。
「お前のせいで私はこんな思いする羽目になったんだ。私が受けてきた苦痛はこんなもんじゃない」
首の骨を足で折られた。
ゴキッという鈍い音が鳴って、涎と共にまた血液が垂れる。
「簡単には死なせねぇ。生まれてきたこと後悔しろ」
そういって顔を踏まれる。
「私はもっと辛い思いしてきたんだから」
それは母親と言われる生き物だった。
銀の髪を振り乱して、赤い瞳でこちらを見下ろす化け物は己の母親だった。
こんな狭くてボロくて酷い匂いの漂う場所で母は自分を嬲り続けた。
なんどもなんども踏まれ、蹴られる。
血が口から溢れて、息すら苦しい。
気づけば視界が真っ暗闇になっていた。
そして起きた時には誰もいない。
冷たい床。静かな静寂で目を覚ますのがいつもだった。
母親は満足したら家を出ていく。そうしてある日ふらっと戻ってきて、また自分で遊び始める。
外が騒がしくて、怖い音が響いて、獣みたいな音とか甲高い金属音が聞こえてきても、母は帰って来なかった。
一人部屋の片隅で縮こまって、ボロボロの布を抱きしめて耳を抑えてうずくまる。
(……はやく…かえってきて)
感覚がおかしくなっていたのだろう。あれだけ暴行を働かれても、この狭い世界しか知らない自分にはその異常性が分からなかった。だから、縋るようにただ一人帰りを待っていた。
「最悪最悪最悪!!!」
其の日、帰って来たと思えば母親はいつにもまして荒れていた。
がりがりと爪を噛んで、地面を踏み鳴らす。
「殲滅隊が近くをうろついてやがる……くそ、ここにいるしかないか」
踏み鳴らす母の足に手を伸ばす。
小さな子供とは思えないほど骨張った手だった。
そのか細い力に母は「あ?」と視線を落とす。
床に這いつくばった自分と…目があった。
「いっしょ……」
喉を動かして言う。
「……いっしょに、いてよ…ずっと、いっしょ」
それを聞いて母は心底嫌そうに舌打ちをする。
そして、がっと伸びていた手を踏み潰すとしゃがみ込み、ぐっと顔を近づける。
「そう!一緒!!ずっとずーっと一緒!あの忌々しいゴミ共がいる限りっ、いや、彼奴等が消えてもお前のせいで巫蟲のところにすらいけなくなった!!!どう?嬉しい?!お前のせいでっ…!!!!」
ギャンギャンと甲高い声で責立てる母
だが、そんなことはどうでもよかった。
重要なのは"ずっと一緒"という単語だけだ。
いつもは手足を踏み千切られる勢いで踏まれると痛いと顔を歪めるのに、この日は違った。
善はとろりと心底幸せだと言うような、柔らかい笑みを浮かべ、母を見あげる。
「そ、っか……じゃあ、さみしくない」
キュルリと腹が鳴った。
あれから1年が経過した。
善は一人の部屋で、幾分か綺麗になった部屋の中、ヨイは床に寝転がり、天井を眺めていた。
その手元には本が転がっていて、どれもこれもボロボロだ。
それに目を向けることなく、がさついた唇を動かす。
流れたのは歌
ぽつりぽつりと零しながら、また眠りにつこうと目を閉じて…。
「だ、だれか!!!」
声が響いた。
目を開いて起き上がり、扉を開けて外に出ると、そこにはでかい不死者に蔦で体を掴まれている子供の姿があった。
「な、なんで!なんでこんな所に不死者がいるの!?ひっ!お母さん助けてっ!!!!」
そう悲鳴を上げる子供と
___おかあさん
過去の自分が重なった気がして
近くにある石を掴んだ。
「ねぇ、なにしてるの」
声をかければ不死者が声に反応するように振り返える。
その瞬間に石を投げる。
細い腕から飛んだとは思えないほどの威力
その石は見事大きな目玉を打ち抜いた。
すると、子供は蔦が緩み地面に落ちる。
「ひうっ」
そうしてお尻をさすっている子供を放置して小屋の中へ戻る。
そうして先ほどと同じように古い床の上で横になる。
「ねぇ開けて!」
直後、ガンガンと扉を叩く音がした。
「……」
ゆっくりと立ち上がり扉を開く。そこにいたのは先程の子供だった。
短い三つ編みに可愛らしい花の髪飾りをつけた少女
その耳には不似合いのシルバーピアスが輝いていた。
「あの…!私」
「ねぇ」
その少女が何かを言う前に、口を開く。
少女は口を噤んで首を傾げる。その顔を見ながら言う。
「ころして」
「………ぇ?」
突然の言葉に眼の前の少女は戸惑ったような表情をする。
きっと気味が悪かったはずだ。体中ボロボロで髪の長いおばけみたいな見た目の子供の開口一番に言うことが"殺して"なんて
でも
「だ、だめ!!!」
彼女は引かなかった。細い肩を掴んで全身全霊で叫んだ。
今度はこちらが驚く番で目を何度も瞬かせて少女を見上げる。
「あのねっあのねっ!!生きていればいいことがあるものなんだってお母さんが言ってたよ!!絶対!だからそんな悲しいこと言わないで!!」
「……でも、しんだほうがいいって。はやくしねってうるさい」
「ひどいよ!だめだよそんなの!
死んだほうがいい人なんてこの世界には絶対にいないの!それに貴方は私を助けてくれた!」
ぎゅっと手を握りしめて少女はいう。
少女の必死な表情が瞳に映る。
地区に設置された月を模した人工的な光を背負った彼女の表情は酷くキラキラと輝いて見えて。
「私、
そう言われ、ヨイは気付けばぽろりと口から零す
「…よい」
この出会いこそが天満善の人生の分岐であった。
「えぇ!?ここに一人で住んでるの!?」
目を見開く旭にヨイはコクコクと頷く。
「あ、あぶないよ!外には不死者っていう化け物、あ、さっきのドロドロした怖い怪物の事なんだけど。
ああいうのに一人であったら死んじゃうかもしれないよ!」
(……ばけもの…?)
旭の一言でヨイは固まる。
ヨイはすでに自分の種族のことを理解していた。
母親が叫んでいた内容を覚えていたのだ。
自分は不死者と呼ばれるものでその中でも特に強い夜縁で…そして人間の掛け子だと
(不死者が化け物なら……)
自分は…?
「あ、そうだ!!」
と、旭が突然声を上げた。
「一緒に住めばいいんだ!」
「へ」
「私の家ね、ココから少し離れてるんだけど…そこにはおかあさんとアマネがいて、二人は不死者を倒すお仕事してるから凄く強いんだよ。だから、ここよりずっと安全だよ!お母さんに聞いてきてあげる!!」
ぎゅっとヨイの手を握りしめる旭
ヨイはキョトンとした後、首を振る。
「迷惑になる……それに人の生活、よく分かんない」
ヨイの言葉に他意はなかった。思ったことをいっただけだ。
(そっか、こんな場所に一人でいたんだから、分からないよね。捨て子かな、可哀そう…!!)
だが旭は別の解釈をしたらしい。
少し考え「あ」と何かを思いついたように手を打つ旭
「なら私が毎日ここにくるよ」
「……んぇ?」
「で、私がヨイちゃんに色々教えてあげる!!それでお母さんに許可貰ってあげる!そしたら一緒に住めるよ!…って、あ!時間!!門限過ぎそう!やばいやばい!
じゃ、じゃぁねヨイちゃん!また明日ね!」
そういって旭は慌ただしく走り去っていく。
嵐のように立ち去った彼女をヨイはきょとんとした顔で見送り。そして扉を閉めて布を被って考える。
「明日……早く来ないかな」
そうして目を瞑った。
「……ん」
数時間後、目を覚ますと
「あ、起きた」
「……!?」
旭の姿がそこにはあった。
驚いて跳ね起きると「おお、跳ねた」と楽しそうにクスクス笑っている。
それをみて、少し恥ずかしくなり、ぼろ布で口元を隠す。
「もう明日?」
「あはは、そうだよ。もう明日なの」
優しい笑みを浮かべる旭は「じゃーん」といって早速とばかりにパンパンになったリュックを見せる。
「一杯持ってきちゃったら、満帆になっちゃった!えへへ、さっ、早速やろっか!」
そういって旭はヨイの手を取り床に色んな物を並べた。
箸やら本やら鉛筆やらが床に散らばる。
そうして一つ一つ教えていった。
「みてみて!私こんな計算もできるんだよ!すごいでしょ!」
「うん、すごい」
「でしょでしょ!お母さんもね呑み込みが早いって褒めてくれるんだ!」
「そうなんだ」
「うん!あ、でもヨイちゃんも呑み込み早いからね!」
「そう?」
「うん!」
ただ、教えるというより自慢に近いが、ヨイは対して気にする様子もなくコクコクと相槌を打つ。
「それにしてもおなかすいた…なにかないの?」
聞けばヨイは少し考える。
そしてなにか思いついたように外に出る。
旭も一緒に外に出る。
「んと…」
「なにしてるの?」
「ここに…あった」
そういって草をかき分けた先、そこには
「わっ、なにこの丸いの!」
でてきたのは黄色い実だ。
「食べれる、これ」
「え、食べたい!」
そういって旭はヨイからそれを受け取るとがぶりとかぶりつく。
「!、おいしい!!」
「そっか」
「うん!!!」
そうしてパクパクと食べきる。
「おいしかった!」
「よかった」
「ところでヨイちゃんは食べないの?」
不思議そうにする旭にヨイは「うん、最後の一個だったから」とけろっとした顔で答える。
「えっ」
予想外だったのだろう、旭はきょとんする。
「あ、あれ最後の一つだったの?」
「うん」
「よかったの…?」
「旭ちゃんお腹空いてたんでしょ。いいよ」
「…」
その言葉に旭はどこか気まずそうな顔をする。
そして「あ!」と声を上げ、小屋の中に入る。
そして大きなカバンをもって旭は戻って来る。リュックから何かを取り出した。
それは綺麗で少し分厚い布と服
「これ!もってきたんだ!ヨイちゃんのボロボロだし薄いから寒いかなって!私のお古だけど服ももってきてて!」
そういわれヨイはキョトンとした後、ぎゅっと抱きしめる。
「…ありがとう」
思わず口からこぼれた言葉だった。
「どういたしまして!」
ボサボサの髪を撫で、旭は無邪気に笑った。
「それじゃぁヨイちゃん、また明日!」
「うん」
コクコクと頷くヨイの動作が可愛くて、面白かったのか旭はまたクスクスと笑いを零しながら出て行った。
その背中を見送って、ヨイは「あれ…?」と首を傾げる。
「……ありがとう…?ありがとうって…なんだ……?」
首を傾げる。
しばらく考え込んで「ああ」と思い出す。
「…ちがう、そう。感謝だ感謝……そういってた…いってた……?」
疑問が消えたと思えば新たな疑問が湧いてくる。
しかし面倒くさくなったのかヨイは首をふる。
「まぁ…いいや」
そうしてヨイもまた小屋の中へと戻っていった。
それから、何日も過ぎる。
言葉を教えて貰ったり、外の知識を教わったりして毎日を過ごす。途中から子ども同士の遊びに発展していったが、それでもこの時間は酷く楽しいものだった。
そうして
「ヨイちゃん!私のお家おいでよ!」
その日はやってきた。
旭はヨイに向けて手を差し伸べて言う。
ヨイはその手と旭の顔を交互に見てどこか自信なさげに眉を垂らすとそっと旭の顔を見上げた。
「…ホントにいいの?」
「うん!お母さんは遠征で聞けてないんだけどアマネはいいって!
それに私はヨイちゃんと一緒にいたいもん!だからヨイちゃん、一緒にいこう!」
こてんっと首をかしげて聞かれ、ヨイは少し視線を右往左往させた後、恐る恐るその手を握った
そうして、二人は家を出た。
この時外に出なければ、また違った未来もあったのかもしれない。
「ということで!ヨイちゃんです!」
「おお、この子が!」
気づけばヨイは旭の家へと辿り着いていた。
そこは普通の一軒家
周りは自然に囲まれている中にぽつんと立っているため少し不自然に感じられたが中はいたって普通だ。
そして部屋の中には一人の青年がいて、ヨイを見るなり笑顔を浮かべて近寄ってくる。
そしてヨイはささっと旭の後ろに隠れた。
「あれ?」
「
「え、!?怖がられてんの俺!!」
「えぇ……俺も仲良くなりたいんだけどなぁ」と苦笑いしながらしゃがみ込んで目線を合わせる。
チラッとヨイが旭の体から顔を出すと笑みを浮かべる。
「びっくりさせてごめんな。俺
「……ヨイです。よろしく…おねがいします」
「お、ちゃんと自己紹介できて偉いなぁ!」
そういって近寄り頭を撫でる。
今度は逃げる事無く撫でさせてあげるが、力が強くグワングワンと首が動く。
「ねぇ日生、お母さんはまだ帰って来ないの?」
「もうしばらく帰ってこないんじゃないか?夜縁襲撃後だ。怪我人殺到してるし、あと一週間は泊まり込みだろうな」
「そっか。日生はコッチに居て良いの?」
「ん?いいんだよ!ばっちり非番もぎ取ってたしちゃんと仕事はしてきたから!っと、ごめんな放置しちまって。
あー、結構汚れてるし風呂入るか」
日生がヨイを抱き上げる…が
「に、日生!ヨイちゃん女の子なんだよ?!だめだよ!!だめ!!」
「見た所5、6歳じゃないか?」
「9才!!」
「え?!これで?!?!いや、でも流石に気にしすぎだろ!大丈夫だって!」
「で、でもっ!」
「それに旭は不器用だから入れてやれないだろ」
「うっ」
指摘に旭は顔を歪め、大人しく引き下がる。
日生はそれじゃ行くかと再びヨイを抱き上げた。
シャワーの音が響く中。日生はヨイを見て少し難しい顔をしていた。
(小さな子供が一人山小屋に住んでるって聞いてたから何かあるとは思ったが)
日生はヨイの顔や体を見て納得する。
(虹彩異色症。それも赤目)
ヨイの右目。それは赤い色をしていた。
(更に中性体質者の体…)
傷や痣が多いことを除けば、ごく普通の少女の体にみえるだろう。
だが乳頭がなく、ただ赤くなった肌が広がっているだけだった。
(先天性中性体質者は差別の対象になることが多い。
大方縁起が悪いってことで捨てられたか……明らかに人的怪我も多いし)
日生は顔をしかめる。それに気づいたヨイが頭に泡を乗せながら首を傾げる。
「ああ、いや。なんでもない」
首を横に振って日生はヨイの頭をすすいでやった。
「あがったぞー」
「あ、おかえり二人共!ご飯準備しといたよ!」
「…ごはんっつーか缶詰開けただけじゃん」
「いいでしょ別に!」
更に缶詰の中身を出して準備をしていたらしい旭
そんな会話をしながら食事をとる。
「え、最近箸使えるようになったんだよな?」
「そうだよ」
「いや上手くね?」
「だって私が教えたんだもん!明弥より上手いんじゃない?」
「まじかぁ」
飛び交う会話に耳を傾けつつ、ヨイはもぐもぐとご飯を頬張る。
そうして食事も終わったころ。
「所でさ、ヨイちゃん」
「?」
「ヨイちゃんの名前ってどう書くんだ?」
そう聞かれヨイはキョトンとする。
「あれ、もしかして漢字わかんない?」
「あ、漢字はまだ教えてない」
「えぇ、じゃぁ聞いてもわからないか…」
ヨイは首をひねる。
いつも使っていたあのボロ布に確か文字が書いてあったはずなのだ。そうして思い出しながら紙に文字を書いていく。
それに気づいた旭と日生が身を乗り出して紙を覗き込む。
すこしぐにゃりとした文字。だが読めるレベルだ。
「この字は…”天”だよな?」
「うーん、これなんの字だろ…」
「”満”じゃないか?」
「じゃぁ天満が苗字ってコト?」
「多分な。読み方は”てんま”か?」
「訓読みで”あまみ”とも読めそうだよ?”てんみつ”とか!」
「いいだしたらきりないだろソレ…で、下が…”夜”と…これ、なんて呼ぶんだ…」
「わかんない」
「…
「てことは、これで夜帷ちゃん?」
そう聞くとヨイはコクンと頷く。
だが日生は「ちょっと言いにくいんだが…」と口を開く。
「この時代”夜”とか”帷”っていう字は縁起があんまりよくないんだ」
「あぁ、確かに!あ!じゃぁさ!下の名前の漢字私達が考えたらいいんじゃない?これから家族になるんだし!!」
「うーん、でも漢字があるってことは少なからず親御さんが考えた大切な物じゃ」
「…べつに」
「え?」
「変えてもいいよ」
「だって!」
「……そうかぁ、なら考えるか!」
「うん!」
頷くなり二人は早速と言わんばかりに分厚い辞典を持ってくる。そうしてあーでもないこーでもないと言い合いながら数十分が経過していた。
「ヨイちゃん!」
「ん?」
「今日からヨイちゃんは」
そういって旭が字を書く。
「天満善ちゃんって名前!どうかな?」
「苗字結局あまみ、なのか」
「苗字わかんないって言ってたし、
「…………」
そう言われキョトンとしながら、字が書かれた紙をなぞり。
「うん、この名前が良い」
そういってヨイは嬉しそうに微笑んだ。
「ただいまぁ」
そんな彼ら3人の空間に第三者の声が響いた。
ガラガラと開かれた扉へ目を向ければそこには一人の美女の姿があった。
「あ、お母さん!え、まだ帰って来れないんじゃなかったの?!」
「その予定だったんだけどねぇ、交代で帰らせてもらえることになったのよ」
女性は抱きついてきた旭を抱きとめると優しく頭を撫でる。そうして顔を上げて……ヨイと目があった。
「……」
ヨイと目が合った瞬間…一瞬笑みが消えたのがはっきりとわかった。その目の冷たさにヨイの肩が僅かに跳ねる。
だが女性は直ぐにニコリと微笑んだ。
「で、その子は?」
「ほら、旭が前に話してた子。善ちゃん」
「…………ああ、言ってた子ね。そう。勝手に連れてきたの」
「だめ?」
「ううん。だめじゃないわよ」
女性はニコニコと微笑んだまま、善の前にやってくる。
「はじめまして。私は
そういって手を差し出される。
「えっと………
そういって手を握り
「!」
ぐっと手に力が入る。
善は少し顔を歪めながらも顔を上げて、固まる。
「あら!ごめんなさい!力加減を間違えちゃったみたい!ゴメンナサイね、ホントに……大丈夫かしら?」
「もう、お母さん!」
「本当にごめんなさい…氷を持ってくるわね?」
眉をハの字にして亜怜はそそくさと氷のあるという奥の部屋へと向かっていった。
その後姿を見ながら善は自身の手を握りしめる。
「大丈夫?善ちゃん。
ごめんね、お母さん、力加減が苦手で…悪気があった訳じゃないから、許してあげてね?」
「……ん」
そう言いながら善は顔を上げることはない。
(……あの人…こわい)
一瞬此方を見た、あの目がフラッシュバックする。
握られた手にはくっきりと痕がついていた。
「ほら日生、早く行って来なさい」
「あーい」
「旭は今日一日鍛錬に付き合えるからね」
「ホント?やった!」
「ええ、早くいきましょうか」
そう言ってさっさと外へ行く彼女等を見て善は一人椅子に座って足をぶらつかせる。
(暇…)
顔をうつ伏せ、外を見る。
(あれから、どれくらいたったんだっけ…えっと…一、二、三…あ、一カ月か)
脳内でボンヤリ思いながら外を見る。
(人がいるから、寂しくないはずなのに
小屋に居た頃と、あんまり変わらない気がする……。
旭ちゃん、午前はずっとあれやってるし、午後は日生くんと喋ってばっかだし……)
考えながら、うつ伏せる。
その先には泥まみれになって武器を振る旭の姿
__旭ちゃん……何かするの?
__ん?ああ、アイツな。えーっと、殲滅隊の話は聞いてるんだっけ?
__…不死者を倒すお仕事
__そ、アイツそれに入りたいんだよ。元々は支援に入る予定だったんだが、最近になって戦闘部隊に入りたいって言いだしてな。母さんも俺も止めたんだけど、聞かなくて。だから、母さんが鍛えてんだよ
__戦闘部隊って、危ないんだよね
__まぁそうだな
最初に来た時の話を思い出して考える。
(旭ちゃん、なんで危ないことするんだろ。
前に不死者に襲われたときは怖がってなにも出来なかったのに…そんなことせずに安全なところで笑ってるほうが似合ってるのに…)
そう考えながら、目を瞑る。
(…もし旭ちゃんが強くなったら夜縁も殺すのかな…)
そうなったら自分のことも殺しに来るのかな。
そんなことを考えながら善は眠りについた。
「っ……痛いなぁ」
皆が寝静まった後、旭は一人、体にガーゼや絆創膏を張り付けていた。
涙目になりながら「しみるぅ」と呟き、消毒を体に押し付ける。
「……私、ホントに不死者倒せるようになるのかなぁ」
思わず弱音を吐く。
「…全然、勝てる気しないよ」
「旭ちゃん」
「!」
善が声をかければ旭は弾かれたように振り返る。
そこには善の姿。善の姿を見てふっと旭の体から力が抜けたのがわかった。
「善ちゃんか……まだ寝てなかったの?遅くに寝ると大きく成れないよ?」
「目が覚めちゃったから…傷、痛そう。大丈夫?」
「ん?うん大丈夫だよ」
笑みを浮かべる旭に善は「そっか」と呟く。
「ねぇ、旭ちゃん。
旭ちゃんはなんでそんなに痛い思いしてまで頑張るの?」
「え?」
「もともと支援に入る予定だったんでしょ。なのになんで痛い思いしてまで戦闘に入るの?」
「……」
顔を暗くする旭
その様子に善は「あ…別に頑張ってる旭ちゃんを否定したいとか、そういうのじゃなくて…ただ純情に、えっと、なんでかなって」という。
その言葉を聞いて旭は「純情じゃなくて純粋じゃない?」と聞くと善は「え」と固まり「あ、う……それ…」とちょっと恥ずかしそうにする。
その様子に旭はクスクスと笑い「私、ずっと甘えてたの」と空を見上げて言う。
「え?」
「お母さんは私を甘やかしてくれる。
私が何かしなくてもお母さんが全部やってくれて、我慢とかしなくてもよくて、嫌なことも疲れることもやる必要なかったの。
ずっとこれでイイと思ってた。これが普通なんだって。
でも…善ちゃん見てるとこれでいいのかなって、思うようになったの。
善ちゃんは私より料理もうまいし努力家だし一人で何でもできる。
でも私は全然。わがままばっかりいって。それが凄く…恥ずかしい」
俯く旭
「だから私に何ができるんだろうって思ったの。
そこでね、戦闘部隊に入ろうって思った。皆の助けになれる戦闘部隊に」
「支援でも、役には立てるんじゃないの…?」
「そう思ったよ。でも、思い出したの。善ちゃんと出会った時のこと。
泣いて助けを求めることしかできなかった。善ちゃんがいなかったら私はあそこで死んでた。
もし、あれが私じゃなくて、私の大事な人達だったら?
私は何も出来ずに泣いて、殺されるところを見ていることしかできない。
そう考えるとね。怖くて怖くて仕方ないの。
だから、お母さんや、明弥、善ちゃんを守れる力が欲しい。
どれだけ時間がかかっても絶対に強くなる。だから私は戦闘部隊に入りたいの」
「……人を、守るために戦うの?」
「そうだよ。守りたい人を守れる人間になりたい。
誰かを救ってあげられるような力が欲しい…だから私は頑張れるんだ」
そんな旭を善は見つめる。
そして
「殲滅隊、入る」
「え?」
「一緒に入りたい」
「だ、誰が?」
そう言われて善は自分を指さす。
「え、なんで?」
「旭ちゃんが守りたい人を守れる人になりたいって言ったから。守りたい人、いるし」
「……でも、危ないよ?」
「旭ちゃんもそうだよ?」
「わ、私は…!でも…あっ!善ちゃんの守りたい人私が守るよ!ならどう?」
「……無理だと思う」
「え、なんで!?」
「旭ちゃんだもん。守りたい人」
「……へっ」
その言葉に旭は目を見開く。
「旭ちゃんが色んな人守りたいのは凄いことだし、カッコイイって思う。
でもそれだと旭ちゃんを守ってくれる人、いないよ」
「そ、そんなことないよ?お母さんも明弥もいるし」
「でもあの二人支援でしょ?いざってときに駆けつけられないよ」
「……」
その言葉に旭の目が揺れる。
「旭ちゃんを守りたい。だから一緒に殲滅隊入りたい……それが理由じゃ駄目?」
「っ~~!もう、敵わないなぁ…!!!」
そういって旭は善を抱きしめ、頭を撫で回す。
「でも無茶はしたら駄目だよ?善ちゃんはまだ9歳なんだから!」
「うん」
ほんのり頬を染めて、善は嬉しそうに頷いた。
「っ…」
暗い室内。自分用にと敷かれた布団の上で善は一人片手をついて蹲っていた。
顔を抑える手からはぽたぽたと血が滴りおち、腕に赤い線の跡を残す。
「…日生くんに、買って貰って…よかった」
ぎりっと歯を噛みしめる。白い肌には玉のような汗がいくつも滲み出していてたらりと輪郭をなぞって落ちた。
善の手元には”青”と書かれたカラーコンタクトの箱が開封された状態で転がっている。
それはこの家に来て数日。日生が善に買ってきたものだった。
暫く呻いたあと、善は体を起こす。そうしてゆっくりと開けた右目。
本来紅い瞳が入っているその目は左目と同じ紫色をしていた。
天満善誕生秘話ってわけではないですけど、まぁそんな感じの話です。
善ちゃんの右目はカラコンが入っていて、実は常時死ぬほど痛むそうです。かわいそうに。ごめんな。雑草がいい誤魔化し方を思いつかなかったばかりに…。
因みに夜縁は瞬きしないらしいです。乾燥したりしないのかしら?
めちゃ余談ですが善の名字は天満月、という満月の別称から来てるんですけど。
天満月は"あまみつつき"と読むそうなんですが
雑草はずっと"あまみつき"だと思いこんでいた為
天満の読み方が"あまみ"だという。
あとから気づいて"あまみつ"に表記かえるか…?とも考えたんですが"あまみよい"の響きが好きだったのでこういう力技エピソードをいれることになったという。
ははっ、雑草ってばうっかりさん☆