夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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これにて過去編は終了!
この話は六章第一節第一項の途中。空白の時間での善の行動です。
覚えていない場合はそっちを読み直してから見てね!


第三項

善は試験を受けた。

旭が受けた半年後の試験に。

予定よりかなり早かったが、善の実力ならば問題もなく、難なく館中の不死者を一掃して見せた。

しかし最後の最後でミスを犯し、善。そして虫生(むしゅう)(のぞむ)の二人が館に閉じ込められることとなった。

困った善は偶々見つけた地下室へ降り、脱出する手がかりを探した。

しかし見つかったのは「天人計画」と呼ばれる不死者の成り立ちが掛かれた資料のみだった。

報告書を読み終えて善は「はぁ」とため息を吐く。

 

「……不死者が元人間なのは…まぁ聞いてたから知ってたケド…………。

死なないウイルスを作るために人を殺す…そうまでして不老不死っていうのになりたいんだ。

よくわかんないなぁ、そういうの…子供だからわかんないのかな」

 

そう呟きながら善は考える。

 

(それとも人間じゃないから、そう思うのかな)

 

ふと湧いた疑問。しかし今はそんなことを考えている場合ではなかった。

一先ずこの館から出なくてはいけない。そうしないと不合格になってしまうのだから。

 

「あ、そうだ。ここの資料すごい大事そうなものばっかだし、さっきのマッチで火事でも起こせば開けてくれるんじゃ…。

あーでもダメか流石に……やっぱ今年は諦めるしか…でもあの子に悪いし、あの子は諦めるって言ってたけど…やっぱりなぁ」

 

別に最悪自分一人が不合格になるのは、問題なかった。

元々今回参加する気はなかったし

ただ、やはり懸念するべきは自分を待っていたがために一緒に閉じ込められることとなった望のことだった。

望まで不合格になってしまうのは流石に気が引けた。できることなら彼だけでも合格にしてあげたかった。

「うーん」と考えてつつ、善は一旦ファイルを戻して一先ず地下から出ようとしたところで机の脚に足を引っ掛かけ転びかける。

 

「わっ……いった…」

 

転ぶことこそなかったものの、棚に思いっきり顔をぶつけてしまう。

その振動により、棚の上に積み上げられていた資料がバサバサと頭上から降ってくる。

埃が積もっているため、辺りが埃塗れとなりゴホゴホと思わず咳き込んだ。 

 

「けほけほっ、はぁ、ついてないなぁ……ん?なにこの資料…」

 

手に触れたのはなんてことない資料だった。

すぐに片付けようと思って、手が止まる。

 

「半不死者計画……?」

 

なんとなく気になって、善は資料を一枚捲った。

 

 

 

 

【半不死者計画について】

 

東の殲滅隊が夜縁の捕縛に成功

その夜縁を衰弱させ、実験に利用を開始する事となった。

夜縁の血肉を利用し、硬い武器の開発や、今までよりずっと丈夫な壁の生成に成功したのである。

 

 

 

「……夜縁って不死者で一番強い種族、だよね。捕まえたんだ」

 

 

 

【緊急報告】

 

〇月☓日、とある研究員の一人が夜縁を姦淫(かんいん)しました。

一人の研究員がすぐに気がつき引き剥がしたものの、性交は既に終了していたようです。

その後、異変はなく経過観察となりましたが三ヶ月ほど経過し、夜縁に異変が生じました。

激しくえづきはじめ、苦しみ出したのです。

その様子は妊娠の初期状態に非常に酷似しており、すぐに確認をとったところ、妊娠していることが発覚いたしましたのでここに報告いたします。

腹を切り、中を確認するというこえもあがりましたが、当時管理権を譲渡されていた浅葱の判断により、不死者と人間の子供、というのは如何なるものか調べるため、このまま何もせず出産を待つこととなりました。

 

 

 

資料の右下には、腹のデカい夜縁の写真が貼られていた。小さな写真だった。しかし鮮明に当時の光景を映し出していた。

 

「………………は?」

 

その写真は、何年も前にいなくなった善の母親。月美の姿が映っていた。

資料を持つ手が微かに震え、紙の端が僅かにくしゃりと皺が寄った。

だが、目は善の意識に関係なく、勝手に文字を追っていた。

 

 

 

【報告】

 

捕まえた一体の夜縁が逃げ出した。

今までなんの脱出意思も見せなかったことで見張りが手薄になっていたところをやられた。

やはり待たずに解剖するべきだった、と佐久間は怒り心頭であったが……あの夜縁は今も生きているのだろうか、もし生きているなら、出産したのかは定かではない。

 

 

 

【人為体妊娠】

 

今までの研究の結果、組織は新たにとある研究を始めた。

それは不死者の雄から採取した精子を人間の子宮にいれる、ということだ。提供元は確保している。”生”の施設だ。

そこから出産した女児をA地区からC地区の三地区の施設へ移動させ、育てる。

豊かな土地なので、20までは何のストレスも与える事無く育てることができるだろう。

そうして一部の女児の子宮に注入するのだ。

しかし中々うまくいかない。

最初は順調かに見たのだが、3か月半年と経過するごとに皮膚が変色し、不死者となり果てるのだ。

 

この不死者たちをどうするかという話になった所

一部は研究、残ったものは全て”試験”に利用する話となった。

これで態々外から不死者を調達する必要もなくなった。

また、試験の内容にも変更があった。

今まではリタイアした人間は直ぐに外に出していたのだが

今年からリタイアした人間を外に出す迄の流れは変わらないモノの、その後研究室へ連れて行き、不死者の実験の非検体とすることが決まった。

女児は今まで通りに使用、男児の場合は女の不死者を利用した逆実験に使用しようと言う計画だ。

これで更に計画は進めやすくなることだろう。

弱い彼らも人類の未来への貢献ができるのだから本望の筈だ。

 

 

 

【緊急報告】

 

とある隊員に研究室を覗かれてしまったという報告を受けた。

その隊員は此方の地区の隊員で、言伝を頼んだ際、見られたらしい。

其の為、精子を搾取後、女の不死者に投入したが、やはり今まで通りに不発

其の為、此方の研究所にて引き渡しを行い

男を不死者へ変貌させ、その精子を女に流し込む実験に変更

経過観察をするために遺族には死亡報告をし、観察した結果、変貌した男は異常な成長を遂げた。

花咲ではない不死者の筈が、どういうわけか蔦こそない物の花咲レベルの怪力を手にしたのだ。

今までにない結果に解剖を行ったが、やはりどこもかしこも通常の不死者と変わらないことから、ただの変異体という結果となった。

現在、西の試験会場の不死者として利用されている。

 

 

 

 

 

その隊員の名は____

 

 

 

 

 

 

「す…めらぎ……あま、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善はその資料を持って部屋の外に出るとそのまま歩きだした。

ふと見れば、足元にはあの巨大な不死者が地面に転がっていて。

善はしゃがみ込み、じっと見つめる。

 

「………あの既視感はこれか」

 

そう呟くと、そっと不死者の頭に手を置き。ゆっくりと撫でた。

 

「ごめん…明弥にぃ。ごめんね」

 

その不死者こそ、変貌を遂げた明弥本人だった。

善は目を伏せ、切り刻まれた目玉を隠すように瞼を下ろす。

そうして抱え上げると、壁に凭れ掛らせるようにして寝かせ、善は不死者が出て来た部屋を見る。

そこは酷い腐臭がしていて、思わず入るのをやめた部屋だった。

善は顔を歪めながらも、その中へと足を踏み入れた。

 

「…………やっぱり」

 

中は散乱していたし、なんなら不死者を閉じ込めているのか色んな檻のような物があった。

檻の中は空っぽだが、そんな部屋を見回し、隅の方に隠れるように置かれたソレを見て、思わず声が漏れた。

近づき、それを拾い上げる。

 

「こんなところにいたんだ。旭ねぇ」

 

それは………旭の”生首”であった。

半年放置されていることで腐敗し、ボロボロで。

しかしその顔は妙に安らかだった。まるでこの世の苦しみから解放されたかのように…。

 

「わかってたよ。旭ねぇは、明弥にぃが大好きだもんね。最初からなんとなくそんな気はしてたんだ」

 

だから明弥が死んだとき、善は旭を引き留めようとした。このままいけば旭もまた明弥の後を追う気がしたから。踏みとどまってくれたのだとあの時は思った。

でも駄目だったらしい。

きっと旭は不死者となった明弥に気づいたのだろう。そして恐らくわざと………。

 

「……たとえ君がどれだけ絶望しても……それでも生きててほしかったよ」

 

そう言って首を抱きかかえる。

 

”一緒にいるから”

 

あの日の光景がフラッシュバックして、善は顔を顰める。

腹が小さく鳴くのを無視して、キツク目を閉じると、そっと旭の頭を撫でる。

 

「笑ってる顔、昔は好きだったんだけどなぁ…」

 

旭の顔には、優しい笑み

いつか見た、あの笑みだ。

そのまま、旭の顔を明弥の死体のそばに置く。その腕に抱くように。

 

「やっぱあの小屋で死ねばよかった」

 

此の世に、天満夜帷という化け物が生まれたせいで、皇明弥は死亡し、それを追うようにして、皇旭もまた、死亡した。

それだけではない、その存在が生まれたせいで、今まで何人もの人間が犠牲となり、この先も犠牲とされて行く。

想像することも出来ない。だが、これが現実だ。

天満夜帷という化け物のせいで、幾多もの人間の命が踏みにじられて行く。

 

「……悪魔、ぴったりじゃん」

 

でもきっと、この連鎖は今更善が死んだところで止まることはないのだろう。

ならば、どうするか。

自分が築き上げてしまった屍を、どう精算していくのか。

決まっている。

 

「……不死者も、夜縁も殺す。こんな不毛な実験も…」

 

不死者が人間に戻ることはないだろう。

ならば、彼らの命を、奪った事実を背負って自分の手で殺すしかない。

そうして、同じ夜縁の血を持っている者として、夜縁を殺す。

そして、もうこんな実験が起こらないように止める。

これくらいしか、出来ることがないのだから。

 

善は膝を折ると、旭の耳に手を伸ばす。

そしてかろうじてついていた、錆び塗れのシルバーピアスを一つ外す。

そしてそれをそのまま自身の耳に突き刺した。

ぶちっと音が鳴って、血が流れるが気にした様子もなく首を見る。

 

「これ、貰うね」

 

そう言って善はもう一度二人の死体を見つめ、ニコッと笑みを浮かべる。

 

「またね二人共」

 

 

 

 

 

 

______また来世で




次回は現実に戻ります!
さぁ、次で四節も終わり。五節でファイナル。
おわかれが近いぞー!!!(ノД`)・゜・。
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