夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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随分と間があいてしまった。
でも仕方ないんや。忙しいんだ。そして最終戦ってことは今までの戦いの中で一番盛り上げないといけないんだ。くそぉ、ハードルがたっけぇぜ!


第四項

「な、んだ」

「…」

「き、さま…なんで」

「…」

「なんで夜縁の血を引きながら、人間の味方をしている!?」

 

驚く巫蠱(ふこ)の声が辺り一帯に響き渡った。

凍り付き、固まっていた周りもその声に我に返ったのか途端にざわめきが辺りに満ちる。

当然だ。隊長クラスに夜縁が混じっていたのだから。

彼等は口々に「化け物」だとか「夜縁を招いたのか」とか混乱のままに喋る。

撤退誘導をするために残っていた會や飛鳥もまた目を見開いて善をみていた。

様々な視線をその背に受けた善は薄く笑う。そして巫蠱を見下ろす。

 

「決まってんじゃん」

 

愚問だった。

巫蠱の体を貫いていた鋏を勢いよく引き抜き

 

「___不死者が死ぬほど嫌いだからだ」

 

そして勢いよく目玉目掛けて鋏を叩きつけた。

巫蠱は咄嗟に腕で止めようとするが簡単に腕を貫通し、僅かに目玉に切っ先が刺さり罅が僅かに入ったことで悲鳴を上げると同時に善を振り払う様に水で善を薙ぎ払った。

その音にハッとした飛鳥は「お前らさっさと撤退しろッ!」と叫べば彼等もまた騒ぎながら撤退していく。

 

「…」

「おい!會行くぞ!」

 

まだ呆然としたままの會は他の隊員に引っ張られ蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。

果たして彼らが逃げ出した理由は巫蠱からか、それとも善からなのか。あるいはどちらからもか。

 

善は体を起こしつつ、その光景を見ていた。

その目は何も移してはいなかった。ただ現実を静かに映していた。

だが、それは上から降ってきた黒で覆い隠される。

 

「わっ」

「動けるかクソガキ」

「余裕」

 

それは先程落とした上着。飛鳥が善に被せたのだ。

善はそれを掴むと着て立ち上がる。

 

「………」

 

飛鳥はこちらを見ない。ただまっすぐ巫蠱を見ている。先程と同じように。

善はふっと笑みを零す。

 

「御覧の通り簡単には死なない体なんでね。駄犬の尻拭いくらいならしてあげてもいいよ」

「言ってろクソガキ」

 

どちらからともなく走り出す。

向かう先は既に立ち上がり、攻撃態勢に入った巫蠱

 

「神になれるチャンスをどぶに捨てるとは、愚かな」

 

振りかざされた刃。それは善の鋏の片方だ。

だがそれは巫蠱へ届くことはない。しかしその間に善は懐に入り込んでいた。

振りかざされた拳を躱し、飛び上がり顎へ蹴りを入れるとそのまま空中で蹴りと打撃の連撃を浴びせ、その反動を利用して距離を取れば着地と同時に再び飛鳥が巫蠱へと襲いかかった。

しかしそれは想定内だと水の砲撃で迎え撃つ。

それは飛鳥に直撃する。同時に彼は持っていた鋏の片方を巫蠱へ向けて投げていた。

攻撃をかわす巫蠱。だがそれは攻撃ではなく”堤”への譲渡だった。

空中で鋏を受け取った堤は刃を振り下ろす……と、同時にもう一刀、別の方から刃が振り下ろされた。

 

「被った!?」

 

声を上げたのは誠だった。

そうして彼等二人の攻撃は巫蠱へ命中し地面が瓦解する。

 

「……君ら残ってたの」

 

そんな彼らに驚いたのは善だった。

善としてはてっきり全員逃げたものだと思い込んでいたのだ。

 

「ああ、機をまっていた。敵を殲滅する」

「………俺は瓦礫に埋まって……他の奴らは?」

「全員撤退した」

「え”」

 

きょとりとする誠

どうやら彼は先程の崩落に巻き込まれ逃げ遅れるどころか逃げろと言われていることすら知らなかったらしい。おバカである。

それにしても、と善は二人を見る。堤の反応はなんとなくわかっていたが、誠が全然善を見て何のリアクションもしないのが少し不思議だった。

 

「それにしてもお前………」

 

と誠が善を見る。そして彼は無表情で言った。

 

「フォルムチェンジってやつか……?」

「なんだただの中二病か」

「おい、くるぞ」

 

直後、ドンっという爆発とともに地面が湧き上がった。

土煙が晴れると、そこに巫蠱が現れる。

だがどこか様子がおかしい。

全身がひび割れ、黒いドロドロとしたものが溢れ出ており、その体は徐々に黒に侵食されつつあった。

 

「………殺す」

 

ぎらりと目を光らせるとこちらに襲い掛かって来る。

それを横に躱すと水が辺り一面に溢れ、竜のような形となって襲い掛かって来る。

それをいなすが、飛び散った雫が弾丸のように鋭く尖り飛び掛かって来る。

 

「勢いで補っているだけ。やはり打つまでのラグが長くなっている。畳掛けろ」

 

堤が目を細め、そう指摘する。

しかしその隙をつき巫蠱の刃が堤の首を飛ばそうと飛んでくる。

それが届くより早く、善が踏み込む……がその更に一歩早く誠が巫蠱の脇腹を切り崩した。

普段の誠の雑な動きではない。重心をしっかりと保ち放たれた綺麗な一撃。

目の前の光景に善は僅かに目を見張る。

その姿が一瞬日向(ひゅうが)のそれに見えたのだ。

 

誠は一番日向(ひゅうが)に教えを乞うていた。

 

善の口元に僅かに笑みが浮かぶ。そして巫蠱は水を出す瞬間にその腕を切り飛ばした。

その間、堤は持っていた鋏の片方を上へ振る。走り込んでいた飛鳥はそれを掴むと巫蠱目掛けて振り下ろした。

巫蠱の体は切り裂かれ、黒い肉が噴き出す。

しかし、その傷は瞬く間に修復される。

だが飛鳥は構わず攻撃を続けた。

そんな飛鳥に追随するように善、堤、誠の三人もまた攻撃を行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

守ろうと腕を突き出す。

 

切られる。

 

攻撃しようと脚を振る。

 

潰される。

 

水弾を飛ばそうとする。

 

封じられる。

 

蔦を出す。

 

刻まれる。

 

どうすることもできない。

抉られ潰され切られ千切られ削られ抑えられる。

どんどんと消えていく体に巫蠱は恐怖を滲ませた。

こんなはずではなかった。こんなはずではなかったはずなのに、どうしてこんなことに。

先程まで問題なく人間を一方的に蹂躙できていたというのに

ああ、と巫蠱を無表情で身を削って来る飛鳥と善を睨む。

 

此奴らだ。こいつらが来たせいで…!

 

同じ血を持っていながら反逆する裏切者と人間とは到底思えない化け物。こいつらのせいでこんな目に遭っている。

 

ふざけるなと叫びたい気分だった。

どうして神になりえる己がこんな目に合わなくてはいけないのかと

己は神になるべくして生まれた生命だというのに、どうしてこんなものたちに……!

 

「っ」

 

がっと耳の横から激しい音が鳴る。

見る。目玉のすぐ横に鋏が刺さっていた。

 

そのまま顔が引き裂かれていくのがわかる。

ああ、最期の目玉がっ

負ける?こんなやつらに?いやそんなわけない。

だって私は神なのだからっ、こんな生物に負けるはずがっ

 

ああ、いやだいやだいやだ!!

こんな結果許さない。許せるはずもない!

 

殺さなくては粛清しなくては、神の鉄槌を下さなくては…………!

 

しかし出した腕も足も血を吹き出しながら宙に舞い、水の塊は一瞬で破裂した

切られたのだ。全て。一瞬で

対抗する手段を失った巫蠱は刃が自身の命を刈り取る様をただ黙ってみていることしかできない

 

 

そうして、刃は目玉に触れ____砕けた。

 

 

急速に体から力が失われていく。

黒い血がはじけ飛んで巫蠱の体は崩れていく。

巫蠱は節穴で割れて砕け、宙をきらきらと落ちていく目玉の欠片を眺めた。

 

 

 

ま、けた…この私が…?

この神にもっとも等しい存在である私が、こんな下等な生物に?

負けた。負けてしまった。目玉を抉られた。おわった

どうして?どうして勝てない?

何千年も生きている。強くなったはずだ。人間だって沢山殺せるほどに。不思議な力が操れて長寿で簡単には死なない体を持っている

なのに、いつも劣勢になっていたのは夜縁側だった

おかしいだろう?夜縁より脆くてすぐに死ぬ人間の方がどういうわけかいつも優勢なのだ。どうして?どうして?

 

思考を巡らせる。しかし、力が抜けていき、考えられる余裕も時間もない。しかし巫蠱は納得できなかった。

 

ならなくてはいけないのだ。神様に。“絶対”に。そうすれば………。

 

そうすれば、何だ? 

 

人を殺し、不死者だけの世界を築く。そうすればもう自分を虐げる存在はいなくなる。そうすれば自分の身を脅かす存在はいなくなる。

でもそうじゃない。巫蠱がなりたいのは神様だった。

彼が目指していたのはいつだって神という存在だった。

そう。神様になりたい。ならなくてはいけない。

だって彼は………そのために”自分の意思で”実験を受けたのだから。

 

ここで何者にもなれず、ただの化け物として死ねばどうなる。

あの時間は、あの地獄は、あの意志はどうなる?

 

 

 

_____誰が”彼”を(たす)けてくれる?

 

 

 

「!」

「おわって………たまるかぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

飛鳥が異変に気付いたのか飛び退いた直後、宙を舞っていた腕や足の断面から血が集まると一本の腕が出来上がる。

それが目玉の破片を掴みとり、自身の目玉があった場所に押し込んだ。瞬間赤が集まっていく。

 

「…………は?」

 

飛鳥は見た。いやその場の全員が見た。

目玉が急激に回復しているさまを。

 

(一度砕けたものが治るわけがない。いくら回復力が高くても、それだけが変わらないはずだろうがっ!)

「まさか…………」

 

全員が困惑する中、善だけは心当たりがあった。

巫蠱の体はドンドン大きく膨れ上がっていく。それと同時にその身から黒い靄のようなものが発生する。

それはあたりを覆い。どんどん気体から個体のように固まっていくと、次の瞬間すべてが開眼する。

合計33の目玉。そして肝心な本体には

 

「目が…………ない」

 

そもそも顔がなかった。顔のあった場所はがらんどうになっており、びっしりと牙が生え並ぶ。

 

「この土壇場で何かを差し出したのか」

 

夜縁がパワーアップする方法なんて等価交換の法則を使った意外考えられなかった。

何を差し出したかは知らないがこんな現状だ。よほど重要な何かを差し出したのだろう。

やられたと善は舌打ちをする。

と、全員が何かに吹き飛ばされる。

地面に転がりながらも全員が戦闘態勢に入る。

 

 

 

第二ラウンドが始まろうとしていた。




まぁあれですよね。ラスボスといえばお決まりの第二形態と言いますか。
これ昼ドラ並みにドロドロしてますけど一応これ、大筋は王道ダークファンタジーなんでね。まぁお決まりには乗りますよ。

さて、ついに四節も終わり。次回ファイナルです!いえい!!!
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