終わりが見えてきてほっとする半面悲しいどすえ(´・ω・`)
顔をしかめながら彼らは化け物へとなり果てた巫蠱をみる。
背中から噴出するように生えている、禍々しい“黒い翼”
だが普通の羽ではない。木の枝のような骨組みだけの翼。
その先には黒いタッカ・シャントリエリが絡みついていた。
顔にできた牙だらけの深淵に僅かに背筋に冷たいものが走る。
その姿は悍ましくも何処か神々しく、彼の言葉から禍津神を髣髴とさせた。
「あ”ああああああああああああああああああああ」
声を上げる。
理性が飛んでいるとしか思えない咆哮と行動
ただ本能のままに暴れ狂っている。
巫蠱が一歩、足を踏み出す。
踏みしめるだけで一帯の地面が陥没し、周囲の目玉たちが轟く。
「っ」
直後、飛鳥の背中に衝撃が走る。
飛鳥だけではなく誠の頬や堤の腕や腹にも一閃の傷が走る。
それは水の刃だった。だがそれは先程みたものと一緒。違うのは量だった。
本体からだけではない。目玉からも放たれた大量の稲妻と彼らを燃やさんと迫る火の手
まるで大災害に呑まれたように荒れ狂い、隙間を埋め地面を抉る。
それだけではない。肥大化した巫蠱の口元に光が溜まり、水の砲弾が鋭く放たれた。空気が震える。
(一つの能力以外も使えんのかよ!?)
ぎりっと誠は顔を顰め躱す。
(くそ、この中で一番俺が劣ってる。足手まといだけはさけねぇと…!)
捌く。だが手数が多すぎて捌き切れず体が傷ついていく。誠だけではない。他三人もそれは同じだった。
このままではじり貧だ。そう思ったのだろう。
四人はそれぞれが自分たちの近くにあった目玉を切りつける、だが善だけは4つの目玉が破壊されたのを確認した瞬間、踵を返すとザクリと本体の体を切り裂いた。
だがすぐに傷は治ってしまう。本体の体が動き、がんッと善目掛けて巨大な羽が振り下ろされる。
地面を抉り迫るそれに善は地面に堕ちた刀を掴んで回避する。
その一撃で刀は壊れたのを見届けながら、善は後ろに下がる。
潰された目玉は僅かに蠢いた後、ぐるんと元に戻る。
だがすべてではない。元に戻れば自分たちの首を絞めることになることくらいわかっている。
だからこそ、刃や振り下ろされる翼、水の塊を躱しつつ完全に回復する前に目玉を潰していく。
善はもう一度巫蠱に攻撃を仕掛ける。片方の刃
その分力を籠めるように両手で握り込む。
ざっくりと切られた体。だが弱点である目玉が破壊されていない以上死にはしない、が
「……やっぱり」
善は目を細めると攻撃を捌いている彼らに声をかける。
「周りの目玉を一つ壊すたびに回復力が下がってる。
目玉全部破壊すれば死ぬかかもね」
「あいつの目玉、ありえねェことだが戻ってたぞ。それがあの顔面の中にあるって可能性はねぇのかよ」
「ありえない話じゃないけど、あそこまでいくにはやっぱり周りの眼が邪魔だ」
「どっちにしろやらないといけないってわけか」
直後、頭上に影が出来る。
みれば巫蠱の羽が生き物のようにうねりこちらへ飛び掛かってきていた。
目を見開き、回避に入る。
(………体が、動かねぇ…!)
飛鳥、善、堤の三人はそれなりに経験と実力を持っている。
だが誠は?彼は新人だ。更に螺との戦闘の後だ。ずきりと痛む体。体内に蓄積された疲労、尋常ではない。
だがそれでも彼がここまで動けたのは一重に根性のお陰だ。
しかし、彼の体は当に限界を迎えていた。
(蔦じゃない。不死者化する心配はない。
なら被害を最小にすることを優先しろ。怪我してる腕なら……最悪潰してもいい。少しでも動かせる部分を残せ……!)
どうせ躱せないならせめて最小限に
殲滅隊で生存率を上げるうえで重要ともいえる考えを、誠はすでに学んでいた。
だから片膝を折る。体ががくんと傾いて、殆ど潰れた腕に枝が伸びる。
それでどうにかなるはず、だった。
「下がれ!」
「!!」
鋭い飛鳥の声が響く
だが誠の耳には届かない。
彼は目の前の光景から目を離せなかった。
一つの枝。それは鋭く尖っていて、本来なら誠の腕を貫くだけで終わるはずだった。
しかしそれは直前で………八つに裂けた。
まるで口のように広がったそれが、誠の体全身を覆う様に広がり…………。
かんっと甲高い金属の音が響いた。
どさりと体に響く衝撃。でもそれは思っていたようなものではなくて。
最初に見えたのはぎらりと鈍く光る斧。そして次いで見えたのは黒い髪と黒い服が視界で揺れた。
「り……つ……?」
枝を切り裂いてバラバラにしたのは彼の同期でチームメイトだった律だった。
彼が助けたのだ。否、彼だけではない。
「あの目玉を潰せェェェ!」
声が響く。
見れば先程逃げていた殲滅隊員たちが武器片手に飛び込んできていた。
「化け物に成ってる!!」
声を上げたのは科学部隊に所属する隊員だった。
彼は上から偵察機を飛ばし、離脱した後も戦況を見ていた。
「御影隊長の通信機は!?」
「繋がってる!ただノイズが酷い!」
東の隊員も又堤のリングを通じて状況把握に勤しんでいた。
「ま、まずいんじゃねぇの……?」
「これ、俺らも戻った方がいいだろ!」
「ああ、体調も良くなったし」
「あの人たちだけに任せるわけにもいかない」
そういって武器を握り戦線に復帰しようとする隊員たちもちらほらいた。
そう、ちらほらだ。全員ではない。
何故か、それは………。
「どうせ化け物がもう一人いるんだ。仲間割れしてるんだろ。お互いに潰し合えば良いんだよ」
善の存在だった。善の夜縁バレ。それが彼等の気持ちを分離させていた。それだけではない
「大体隊員全然いねぇじゃん!特に西。
全員死んだって?そんなわけないだろ。アイツ等逃げたんだ!死にたくないからって!
だったら俺等だけ死にに行くようなことする必要ないだろ!」
浅葱の一部の隊員への持ちかけ。
それに誰も気づかないわけがなく。それもまた不和を生む原因となっていた。
「ふ、ふざけんな!命かけて戦うって決めたんだろ!最後までやり通せよ!」
「うるせぇ!そういうならお前らだけで行けよ!」
「落ち着けって!」
ドンドンと悪化していく空気に耐え切れないという様にまた一人の隊員が叫んだ。
「雪村隊長と副隊長はどうしたんだよ!」
「誰も見てないのか?」
「も、もしかして死んだんじゃ………っ」
その言葉に顔を青くする戦闘部隊
「嘘だろ。あの人たちが死ぬなんて」
「まだ決まったわけじゃっ」
「じゃぁなんでこないんだよ!!あの人たちが逃げるような人たちじゃないことくらい知ってるだろ!?そんな人たちがここに来ないなら………きっと」
その言葉に全員が俯く。
殲滅隊の中でヒナタやヒュウガの背を見ていた人間は多い。彼らに助けられた人間も。
だから彼らが逃げるなど到底思えなかった。
「そういえばアイツ、幸村さんたちと元々チームメイトだったよな」
ふと一人が言葉を漏らす。
「雪村さんがそう簡単に死ぬわけねぇ!」
「アイツが裏切り者だったんだ!」
「前から怪しいと思ってたんだよ!」
そう喚きだす。
別に彼等だって本気でそう思っているわけではないのだ。
ただ、自分を納得させる理由と、この身に感じる恐怖を怒りとして誰かにぶつけたい。湧いて来る不信感を誰かにぶつけたいだけなのだ。
だがそれを黙って聞いていられないのは断罪部隊にいる叶恋だった。
「よ、善さんは化け物じゃない………!!っ、裏切っても、ないよぉ!」
「叶恋。怪我してるんだから、動いちゃ駄目。シヌ」
「っ、なにも、しらないくせに……!
怖いとか、辛いとか、全部善さんのせいにして…ただ、目を逸らして、逃げたいだけでしょ…!?」
「叶恋」
血を僅かに吐き出す叶恋に蓮が諫める。
だが叶恋の言葉は図星だったのだろう。指摘された彼らは気まずそうな表情で顔を合わせたあと「そ、そうだ!」と声を上げる。
「なら會に聞きゃいいじゃねぇか!お前隊長嫌いだって言ってただろ!どうなんだよ!」
「え…」
視線を一斉に向けられ會はたじろぐ。
彼は確かに善が嫌いだ。大嫌いだ。
だが嫌いだからこそ彼は善の人間性を理解していた。
『戦闘部隊から移動してくるなんて、どんなサディストかと思ったけど…そんな感じしないね。君はなんで断罪に移動してきたの?』
アイツは覚えていなかった。
會のことなんて微塵も。會はあれほど苦しんだのに、こいつは全部忘れてのうのうと生きていた。殺したかった。本気で。
『正直断罪業務って実行より書類整理の方が面倒だから、君書類整理しててよ』
『…わかりました』
『んじゃお願いね』
殺してやろうと思った。けど気づけば書類の山に囲まれて、殺すタイミングを失って…。
殺してやりたかったはずだった。
彼はゆっくりと口を開く。
「アイツは…クズっす。人の気も知らないで色々ぶちかましてくるし、地雷踏み抜きに来るし、仕事増やすしうざいっすし、ヘラヘラするし、肝心なこと言わないし」
「やっぱそうなんじゃないか!」
「副隊長がいうなら間違いねぇ!」
「か、かいくん…」
「でも」
確かにイライラすることは多かった。何度もやめてやろうと思った。
でも、17歳になっても會が断罪部隊に……殲滅隊に残り続けたのは____。
「……でも、誰より誠実だった。だから、裏切る様なことは絶対にしない。
人間だろうと化け物だろうと関係ねぇっすよ。
天満善であることに変わりない。あの人は…裏切ったりしない」
真っ直ぐと彼らを見て言う會
その言葉が予想していたものと違い、困惑する彼ら、だが。
「……操られてんじゃねぇの?」
それでも彼らは信じない。
当然だ。だって彼らは善を知らない。
知らないから憶測でいうのだ。さも憶測を真実としてみる。
誰も信じない。それが一番”都合”がいいから。
會はくっと顔を顰める。
(アンタの自業自得っすよ。肝心な所でごまかすからこうなるんだ)
俯く會
「関係ないだろ。そんなこと」
そこで、一人の男が足を引きずりながら不穏な空気をぶった切った。律だった。
「誰を信じるとか、信じないとか。それはそんなに大事なことか?」
彼はいつもの無表情でいう。
だがその声には隠しきれない情感があった。
「雪村隊長たちの言葉を思い出せ。
俺等にはそれぞれ守りたいものがあるから逃げずに戦うことを選んだんじゃないのか?
明日を生きるために、俺らはここに来たんだろ。なのに、今更なにを怖がってる」
律は目を動かす。
(ここにあのバカはいなかった。ならきっとまだあそこにいる。戦ってる)
ぐっと律は手を握りしめる。
「逃げ場なんて端からない。殺されるだけだ。自分も、他の奴らも。
生きたいなら____やることは一つ」
律の言葉に彼等はぐっと唇をかみしめる。
ここにいる全員が初めから命を懸けて戦う覚悟でここに来た。
それはなにが起ろうと変わらない。
それならばもう彼らは逃げるわけにもいかないのだ。
「化け物とか裏切りとか、もうどうでもいい」
「隊長たちの無念を俺らが晴らすんだ。晴らして生きる」
「武器を持ってこい。準備して…………いくぞ!」
誰かが叫んだ。その言葉に西の戦闘部隊は行動を始める。
すべては己の思いの為に。もう逃げることはできない。
文句を言っていた彼らも結局顔を歪めると人の波に流されるようにヨタヨタと武器を取りに向かう。
(情けは人の為ならず、ということでしょうか)
戻ってきていたらしい楓はその様子を見て目を細める。まるで眩しい物でも見るかのように。
その傍らで武器を集める茉莉たちの姿を目視し、声をかける。
「あなた達も行くんですか?」
「勘違いしないでください。僕らがここに来たのは状況の把握。物資の補充のためです。貴方がたのような腑抜けた理由とは違う」
「そーそー!だって俺等、仕事しに来てるし!」
「……そうですか」
と、楓は振り返る。
「さて、私達も仕事をしましょう。すみません皆さん。状況が状況のため補充地を替えます。
場所は…あの戦場ギリギリまで、人によっては…戦闘の援護に行ってもらうことになるでしょう。
…皆さん…どんなことになろうとも、生きる"覚悟"を決めてください。諦めることは隊長権限で許しません」
短くなった煙草をもみ消しながら楓が言えば、開発部隊はぎょっとした顔で楓を見る。
「た、隊長……死体好きなのにですか?」
「気でも触れましたか?!」
かなり失礼な発言をしているが、それほどまでに彼らにとって楓の発言はあり得ないことだった。それを理解しているからだろう。楓は特に気にした様子もなくシレっと答える。
「…私、ぐちゃぐちゃの死体には魅力を感じませんので
あんな戦場で死んだらグチャグチャ待ったなしですよ。はっきりいって死体の無駄です」
「よかった隊長は通常運転だった」
なんていつものように…いつもを装うように笑う彼ら。
楓は瞑目し、新たなタバコを吹かせるだけだった。
ダークファンタジーの王道あるある。最後は皆でラスボスに挑む。
まぁこの話は雑草の好みにより人間の醜悪さを出しているのですんなり挑ませずにワンクッション揉め事を挟みましたけどね
しっかしあれですね。同じ隊長なのにそれぞれの慕われ具合がすごいなぁって書いてて思いました(笑)