夜の帷が消えるまで   作:発狂する雑草

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ある意味今回が最終回!いえい!等々決着!やったね!!!


第三項

ばきりと何かの音がした。

砕けた鋏、崩れる善の体。全員がハッと息を呑む。

彼等の脳裏によぎった言葉は一つ

 

____駄目だった

 

それだけだ。

善の力の強さは殲滅隊内で三本の指に入るレベルだ。それほどまでに強い。そんな善に砕けなかった目玉

この事実は西でも東でも有名だ。私情を交えず仕事に没頭できる人間ならばいい。だがそうじゃない人間には___

 

「もう、駄目____」

 

唯一の希望を奪われ絶望する。

心がおられる。項垂れ、死を待つ。可能性がありそうな飛鳥は既に満身創痍。正真正銘、最期の希望だったのだ。

それがおられたのだから

 

そうしてその場の全員が希望を手放しかけた……その時だ。

 

すっとぞわりと全身の毛が逆立った。

何が起きたのかわからない。ただはっきりといえるのは、明らかに場の空気が変わったことだった。

ひりひりとする空気の温度が下がるような、そんな感覚に襲われる。

見る。そこには素手で枝を握りつぶし回避する善の姿だった。

素手で破壊するというのは衝撃的だが、それでも善ならと納得は出来る光景だろう。

その他に変化はない………ないように見えた……後ろから見た感じは。

しかし一瞬振り返ったその姿を見て、飛鳥は目を見開く。

 

先程まで皮膚の剥がれた肌だったが今は皮膚がしっかりとつき、見慣れた、元の善の体に戻っていた。

だがそれは一瞬のことだ。

白い肌にバキバキと罅が入りばらばらと皮膚が剥がれ、黒に侵食されていく。手も足も、見えている胴体も同じだ。

眼の角膜さえも黒く染まり、片方の紫の瞳には僅かに罅が入り、その奥に紅色が見えた。

 

先程までの人間であろうとした姿とは程遠い。明らかに夜縁となり果てた善の姿があった。

 

「あいつ……!」

 

一瞬視線が混じる。その目はどこまでも無機質だった。

ぞくりと飛鳥の背に震えが走る。だがぐっと歯を噛みしめると一歩を、力強く踏み締めた。

体中から血を流しながら飛鳥は近くにある目玉へと刃を振るう。

 

「諦めんな!テメェら耐えろォ!!」

 

血の絡んだ濁った声で叫ぶ彼に全員がハッとした顔をし、目玉を潰しに戻る。

 

「後のことは考えなくていいっす。今は、前だけ向いて戦うっす」

 

飛鳥に続くように會が周囲を鼓舞する。

全員死んだわけではない。動けなくなったわけではない。まだ戦える。それならば、まだあきらめる時ではない。

人間らしく欲深く、足掻け

 

熱風が肌を焼き、光に網膜が焼かれ、全身が苦痛と恐怖で震え悲鳴を上げている。その痛みは精神すらも食いちぎっていく。

しかし、その程度の事で止まる事は出来ない。止まってはいけない。

 

「ぎあ”あ”あああああああああああああああおおおおおおおおッッッッ!!!」

 

巫蠱は絶叫する。絶叫し悲鳴を上げる。

善は無表情に淡々と地面に着地すると地面に転がっていた刀を5本ほど一気に掴み、そのまま駆け上がる。

善目掛けて大量の枝と水が向けられる。

枝が一つに固まり、まるで鳥かごのように善を取り囲むとその外側から水の檻が二重で生成され、一気に縮小する。

善はそれらすべてを意に返す様子もなく切り裂いた。

だが全てを切り落とすことはできない。だが体が傷つけられた様子もない。当然だ。その前に善は自身の蔦で身を守っていたのだから。

切り漏らした枝は蔦を切り裂いただけで終わる。

ばらばらと崩れ落ちる枝と蔦。その奥にはただ冷たい瞳で巫蠱をみる善の姿。

ばきりと更に黒が白を侵食する。

 

躊躇いはなく、善は一気に飛躍し、体を駆ける。

巫蠱の枝は善を捕らえようと押し寄せる。

だが、その枝も善を捕まえるには至らない。

切り裂き、駆け上がり、巫蠱に肉迫する。

それに耐えられなくなったのだろう。いくつもの水が連続で発射され、流石の善も足を止める。

その際振り払う様に大きく身を揺らす巫蠱

善は刀を1本、巫蠱の体に突き立てバランスをとると更に駆け上がり、ぶんっと持っていた全ての刀を投合し回復し、閉じてしまっていた歯へとぶつける。

刀は歯ではなく、その上。少し柔らかくなっている、人間で言うところの歯茎部分に刺さった。

よほど強く刺さったのだろう。ドンドンと裂け、上の歯が軒並み千切れ落ちる………が

 

「なっ!」

「目玉がっ!」

 

そこには目玉はなかった。

同時に戦場に靄が立ち込め始める。

誠が破壊したあの小さな目玉が回復し、能力を発動したのだ。

次第に暗くなる視界。それにより巫蠱の剥がれ落ちていた歯は元に戻り、再び一斉に能力による猛射が始まり、また一方的な蹂躙が始まる。その事実にぎりっと奥歯を噛みしめる………が

 

 

 

「_____皆さん。しゃがんでください」

 

 

 

キーンと何処か機械音の混じる音声が響く。全員が地面に伏せた瞬間ガガガガガッという

 

その靄は一瞬で晴れる。

 

晴れた先。そこには楓含める開発部隊がなにやら大きな機械が傍に設置されていた。

その表面には大量の穴がついておりその穴という穴から鋭い槍のようなものが装着されている。カチリとボタンを押せばまた一斉に目玉へ向かって飛び、回復しようとしている目玉を貫く。

カチリと音がし、空っぽの穴に槍が自動で装着された。

 

「ここら一帯は私達に任せてください」

 

その言葉に全員が頷き、残りの目玉へと向かう。

抵抗するようにウネリ、攻撃を繰り出す目玉と巫蠱

だがそれらは軈て潰されていく。

 

そこには鬼気迫る信念があった。

再び目玉が歯と歯の隙間で出現したのを善は見逃さなかった。

刀は使い切ったが、歯なら蹴り砕くことができる。一気に駆け上がる。

 

 

「あ”ぁあ……うおあああああああああああああああああ!!!!」

 

 

悲鳴を上げる巫蠱

狂ったように、嫌だ嫌だと駄々をこねる子供の用に枝と水を振り乱す巫蠱

それらすべてを躱す、が。

 

「あ”あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

目のまえに飛んできた沢山の枝を絡み合わせ分厚くした大木のような攻撃が善に襲い掛かる。

武器を持っていない善は躱しきることが出来ず弾き飛ばされる。

 

宙を泳ぐ善。だがその目は何かを見ていた。地上を必死に駆け上がって来る一人の青年の姿を。

 

 

 

うおあああああああああああああ!!!!

 

 

 

自身を鼓舞するように叫び戦場を駆けるのは氷雨誠だった。

彼は動けないほどに損傷していた。だというのに彼は今一直線に巫蠱の方へと駆け抜けていく。

接近しすぎたのだろう。攻撃の一端が誠に向くが彼は刀を抜刀するように降り抜くと枝を叩き切り、転がる様に枝全てを潜り抜けるがその途中刀は砕ける、が

 

「律ッッ!!!」

 

起き上がると同時に血を吐きながらも誠が叫ぶ。

すると彼の右手に何かが飛んでくる。

それは鋏だった。善がよく使っていた大きな鋏。

それが空を切り裂いて誠のもとへ届けられたのだ。

 

「起きたと思えば人使いの荒い」

 

律は珍しく汗を流しながら言う。

彼は誠に言われ、武器が置いてある避難場所まで走って鋏を取りに行っていたのだ。

がしっと振り返ることなく誠はそれを掴む。

そして

 

「うあ”…ああああああああああああああああああああっ!!!」

 

大声を上げる。

巫蠱にも負けないような声

同時に持っていた鋏を平面に構える。

同時に善がその上に………降り立った。

 

「あああああああああああああああ!!!!」

 

瞬間誠は鋏を振り上げる。

ばんっと上に乗っていた善もまた鋏を踏み台にして飛び上がった。

 

「使え……!!」

 

同時に鋏を空へ投げる。善はそれを片手で掴みとる。

巫蠱の体への着地まで残り1秒

そんな善を空中で仕留めるため、一斉に襲い掛かる枝

 

「っ、は………」

 

そこに飛び込んできたのは殆ど人らしい見た目をしていない堤だった。彼は最後の力を振りしぼるようにして、持っていた二刀の刀を翳し、善の足場として更に飛ばす。

善は上に上がったことで枝を躱す。だがその代わり善を狙っていた枝は一斉に堤へと襲い掛かった。

がんッと激しい音が下から響く。

だが善はそちらに目を向けない。ただ目の前の敵へ視線は注がれている。

ぎらりと鈍く光る鋏がざくりと閉じられた口を引き裂いた。

今度は上下の歯が落ちる。その奥には無防備にも曝け出された忌々しい紅

 

だが無防備なのは善も同じだった。

降りぬいた鋏をまた振り上げるにはどうしてもタイムラグが発生してしまう。

故に、今の善の背中は無防備そのものだった。

隙をつくように襲い掛かる水と枝の束。あの分厚い物も混じっていた。

 

きっと今の善一人ならばどうすることもできなかっただろう。

だが違う。この場には仲間がいた。

 

大きな水の塊たちは一発の弾丸で全て蒸発し、太い枝は投合された鋏の片方に貫かれボロボロと崩れ落ち、細い枝たちは一本の鎖に縛られたのだ。

 

「いい加減うんざり…なんだよ」

 

誠は肩で息を吐きながら銃を構えていた。

それは萌の武器だ。奪い取り撃ったのだ。

 

「……いけ」

 

飛鳥は刃を投合し、祈る様に呟く。

 

「善さん…!」

 

鎖の先には叶恋がいた。彼女だけではない。蓮や會もいて、鎖を握る叶恋を支えるように彼らは彼女の体を押さえていた。

全員が血まみれだった。

そんな彼らが決死で掴みとった奇跡

 

 

 

がっと口部分に着地すると同時に善は鋏を振り上げる。

朱殷のような色をしたそれに化け物となり果てた善の姿が歪に映りこむ。

それを眺めながら善は………鋏を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けばそこは白い空間だった。なにもない、真っ白な場所

その空間にぽつりと佇む巫蠱

あの醜悪な化け物の姿でそこに立っていた

辺りを見る。どこもかしこも真っ白だ

自我のない彼はただ本能のまま空間を歩きだす

歩いていればふと、離れた場所に誰かがいた。黒髪の少年と中年の男だ

引き寄せられるようにそちらにいき、枝を伸ばす。だが感触はなかった。殺すことができず。傷つけることさえも。なんせそれはするりと枝をすり抜けたのだから

 

何事もないように少年は口を開く

 

「お父様。僕も他のみんなみたいに遊びに行きたいです」

「ダメだ。お前のような疎かな人間が堕落していくんだ。いくぞ」

「…はい」

 

少年は顔を昏くさせて父親についていく

空間が歪み今度は少年と女が現れる

 

「お母さま。今日テストでいい点を取ったんです」

「今度の月曜日は洗礼の儀があるの。穢れた体を浄化してくださるのよ。準備は?した?早くしてらっしゃい」

「…はい」

 

満点のテストの紙を見せに来た少年。だが母親は少年の話に言葉を返すことはなく自分の言いたいことだけ告げると少年から視線を外し何かの用意をしている

残された少年の手の中で、まるで少年の気持ちを表すようにテストがぐしゃりと潰された

 

また空間が歪む

今度は父と母、そして少年の三人の姿

 

「いいか?恋愛をするなら必ず洗礼された人間の中から選べ」

「ええ、外界の穢れた人間(劣等種)との恋愛なんてすれば貴方の身まで穢れてしまうわ」

「はい」

 

父や母に言われた言葉に頷く少年

そしてまた空間が歪んだ

 

「聞きなさい。お前はこれから神になれるんだ」

「…神様に、ですか?」

「ええ、とても光栄なことよ!皆から愛され崇拝され、人を救済する…ああ、とても素晴らしいわ!」

「皆から、愛される」

 

少年はぽつりと言葉を漏らし、父と母を見る

 

「お父様、お母さまもですか?」

「当然だろう?かわいい我が子が敬愛する神となるのだから」

「当然愛するに決まっているわ!」

「そうですか」

 

無表情だった少年は僅かに笑みを浮かべる。

 

「暫く会えなくなるらしいが立派に神となるため励むんだぞ」

「勿論です」

「ならすぐに身を清めましょう。水と塩を用意するわね」

「体内も綺麗にした方がいいだろう。今日は1日断食だ。できるな?」

「はい」

 

頷くと彼らは「いいこだ」と褒める。

そしてまた…空間が歪んだ。

少年は一人ぼっちだった。ただ一人その場にたっていた。

その両手は真っ赤に染まっていて、服も顔もべったりと血が飛び散っていた。

足元には…肉塊がいくつもごろごろと転がっていて、それを虚ろな瞳で眺めながら彼は、ぶつぶつと非常に小さな声で何かを言っている。

 

「神様になるんだ。そのために私はここに来たんだから。神様になれ、耐えろ耐えろ耐えろ」

 

何度も何度も正気とは思えないほど、気が狂ったとしか思えぬほどに少年は何度も呟く。

それはまるで自分自身に暗示をかけるように。千切れかかった精神の糸を必死で引き留めるような痛々しさがあった。

 

「救済しなくては、浄化された洗礼された者を救済し、穢れを祓わないと………そうすれば、皆から___」

 

顔を上げながら少年はか細い声で呟く。

元気だったころの若々しさは抜け、子供だというのに酷く草臥れた顔。今にも折れそうな傷塗れの手足、そして綺麗な黒髪はストレスからか真っ白になっていた。

 

「みんな…」

 

それは願いだった。彼にとっての祈りだった。

彼は人を殺し、征服したかったわけではない。ただ、愛されたかっただけだ。

 

「…にんげん、にんげんは、醜い。醜いは、きたない。きたないは、けがれ…けがれは…はらわないと、はらう?はら…わたし…きたな…あ”あ……」

 

子供らしい、純粋無垢な願いはいつしか醜い欲にまみれ歪に姿を変えてしまった。

 

「「あ”ああ…あああああああっ!!!!」」

 

突如、少年と巫蠱が同時に悲鳴上げた。

同時に巫蠱はその体から煙が発生し、どんどんと体は小さく溶けていく。

 

苦しみ藻搔く巫蠱を他所に、光景は変わる。

 

「ははははは!!!ようやく!漸く私の夢が叶う時が来た!」

 

化け物に成り果てた少年は、奇妙な服を身に纏いげらげらと笑う。

 

「さぁ、粛清を始めよう神の名のもとに!!穢れた下等生物(人間)を排除し洗礼されし我ら()だけの世界を!!!」

 

 

笑う

 

 

嗤う

 

 

哂う

 

 

目の前の破壊されていく光景を前に少年は笑った。その瞳から血涙していることにすら気づかずに

 

 

 

____違う。こんなことがしたかったわけじゃない。

 

 

 

どろりと溶けた巨体。その中で…巫蠱は一糸まとわぬ姿で座り込んでいた。

だがその体もドンドンと溶け始める。

 

 

 

「ただ…わたし、は」

 

 

 

彼の本来の望みは

 

 

 

「ただ、見てほしくて。愛して欲しくて…」

 

 

 

その願いは

 

 

 

「誰かに…助けてほしかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふわりと意識が引き戻されたような感覚を覚え、巫蠱は目を開ける。そこは戦場

先程まで何もない場所にいたというのに、だ。

体から煙が噴き出しているのがわかる。

それは巫蠱が失っていたものを引き戻されてしまったことを表していた。

夜縁の強化は等価交換だ。渡したものを還されたら受け取っていた物を還さなくてはいけないのは当然だった。まぁ要するに弱体化しはじめている。

 

だが、不思議と恐怖はなかった。

 

ただボロボロと目から涙を流す巫蠱は顔を上げる。

 

巫蠱は気づいている。

この世に神は居ない、仏も居ない。

だからこそ彼は神に成り代わろうとした。

 

だがそれは端から不可能だった。

だって彼は他者を救いたいんじゃない。彼は救われたかった。

救済が欲しかった。でも誰も助けてくれないから、彼は自分を救済するために神になりたかった。神になって願いを叶えたかった。

 

”救済を求めてしまった”

 

その時点で彼はもう、神になることなど出来なかった。

だって神様を救える生物など、この世にはいないのだから。

 

…顔を上げた巫蠱の視界に飛び込んできたのは、皮膚全てを真っ黒に染め、片翼の葡萄の蔦のみで作り上げられたものを背から生やした生物。悍ましいそれの手には鈍く光る鋏

誰もが化け物だと思うだろう。だが巫蠱には

 

「かみ…さま…」

 

 

_____誰よりも美しい神に見えた。

 

 

掠れた声が空気を微かに揺らす。それと同時にばきりと音がなり…巫蠱の目玉は______砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての音が消えた気がした。

何かが砕ける音がして、巫蠱はびくりと一度体を逸らした後、ぐったりと地面に横たわる。

どさりとデカい音がして、同時に目玉は全て再生することなく地面に堕ち、そのまま朽ちた。

誰も動けずその瞬間をただただ見つめていた。

 

「おわった…?」

 

本拠点から戦場を見ていた環 率いる東のメンバーはその光景を前に唖然とする。

まさか、本当に人間が夜縁を全滅させるとは思っていなかったのだ。

だが環はハッとした顔をすると「死亡確認!支援の子たちと現場いくよ!転送準備マジ急いで!」と声を上げれば放心していた彼らもハッとした顔で頷くと急いで戦場へ向かう準備を始める。

 

そして肝心の戦場は

 

「勝った…か、っ、げほ」

 

喜びの声を上げるが勝ったからと言って傷が治るわけではない。

ばたりばたりと地面に倒れ込む彼等

 

「茉莉、生きてるかー…音聞こえないんだけど。死んだ?」

 

和真は空を見上げながら聞く。その傍には気を失ったのか、それとも彼の言う通り死んでしまったのか、茉莉が倒れ込んでいる。和真は眠そうに目を瞬かせる。

 

「てか俺喋れてる?耳が聞こえないんだけど

あー、しんど。やば、しにそー………ねえちゃんに漫画返してもらってないのに」

 

そう呟くと、彼は限界が来たように瞼を閉じる。

 

「律、死ぬなよ、死にそうでも根性で耐えろ」

「………無茶いうな。死ぬときは死ぬ」

 

そしてまた、誠は血を吐きながらも懸命に意識を保とうとし、律はぐったりとしながらも会話に応じる。

 

「あっ!環さんたちです!!助けて!たすけてぇぇぇぇぇええええええ!死にますぅぅぅ!」

 

その近くにいた萌はぶんぶんと両手を振って叫ぶ。

彼だけ異様に元気だった。

 

「すぐに担架で運んで!意識がある奴は声をかけた時にマジ反応頂戴!動かない奴は脈見て、助かりそうなやつマジ人優先で!!」

「はい!!」

「動ける人は悪いけど手伝って!」

 

環の指示を受け、走っていく科学部隊と支援部隊

 

「無理に動いたカら失血が…」

「俺が負ぶっていくッス」

「デも會くんも傷…」

「折角生き残ったのに、ここでくたばってたまるか…!」

 

血を吐きながら會は叶恋を背負うと走り出す。

 

「……」

 

慌ただしい戦場

飛鳥はかひゅかひゅと息を吐きながらぼんやりとみる。

 

「飛鳥くん!マジおつかれ!すぐ運ぶから!」

 

環が飛鳥を担架に乗せる。

飛鳥は血を失ってろくにまわらない思考のなか、ぼんやりと考える。

 

 

 

_______飛鳥

 

 

 

 

声がした。誰かの声

それは酷く聞き覚えがあって

 

「……ひき、と…めて」

 

ぼそぼそと呟く飛鳥。だがそれが限界だったらしい。彼もまた糸が切れた人形のようにぐったりと目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

誰もいない場所に”夜帷(よい)”はずりずりと歩いていた。その背には重たそうに引きずられた悍ましい羽

肌は全て黒色に染まりきっていた。

その手には鋏。

意識もないまま、夜帷は一人、誰も居ない場所へとただただ足を動かした。

なにもない更地。人口電球だけが見えた。

夜宴は死んだ。なのにこの世界は闇に閉ざされたまま。

 

 

当然だ。だって夜縁は全て死んでいないのだから。

 

 

夜帷は足を止める。

そのまま鋏を持ち上げ…かろんっと音がした。

横からだ。生物が反射的に反応するように夜帷はゆっくりと顔を横に向ける。

そこには何かがあった。

 

それはぬいぐるみ。更地に似合わない代物だった。

 

夜帷は引っ張られるように、一歩、一歩そちらに歩みを進める。

そのぬいぐるみは…そう。夜帷の自室に置いてあったものだ。

立ち止まって、ぬいぐるみを見る。

ぬいぐるみは服を着ていた。夜帷の寝巻になっているあの服を模したものだった。

そして耳には銀色のピアスが嵌められていて、左腕にはぎゅっと切れたゴムが片結びされていた。

 

 

 

 

 

 

 

_______これ、あげる

 

 

 

 

 

 

 

 

_______ふーん?まぁいいんじゃないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

_______次は二人で見に行こう

 

 

 

 

 

 

 

_______善ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ」

 

ばらばらと音がした。

それは砕けたものが集まって、一つになっていく音

カチカチとパズルのピースがハマる度、記憶がフラッシュバックをする。

 

「…………みず」

 

手のひらが透明の液体で濡れた。

眼から止めどなくあふれる水。頬を滑る度に黒い皮膚が溶けて、白い皮膚に塗り替わっていく。

軈て、背に生えていた蔦の羽は枯れてなくなり、気が付けば夜帷(化け物)に戻っていた。

 

どさりと力が抜けたように善は地面に崩れ落ちる。

手に持っていた鋏はカランっと高い音を立てて地面に転がった。

地面に座り込みながら、善は引き攣り、震える唇と喉をゆっくりと開く。

 

「……本当にろくでもない記憶ばっかだ…ろくでもなくて、大事な……」

 

そこまでいって善は顔を歪める。水は今もとめどなく溢れている。震える手で目の前のぬいぐるみを抱きしめ、歪に口角を上げる。

思い出を詰め込んだソレを抱きかかえたまま、善は顔を上げる。

空には電球が吊るされている。もうすぐあれは本物の月と変わり、この世は闇から放たれるだろう。

善は地面に転がった鋏を手に持つとそっと自身の紅い瞳に宛がう。

その切っ先は震えていた。それは単に疲労からくる震えなのか、はたまた恐怖からの震えか、その両方か…。

だが善はそれらすべてを握るように目をつぶり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______貫いた。




かっこいいいいいいいいいい!!!!
本作の主人公ムーブ決めてた誠と東の主人公みたいなポジションの飛鳥とこの”世界”の主人公である善のトリプル主人公戦が書いてて一番楽しかった。激熱でした。
えー、皆さんにも激熱になっていただけたら幸いですね。はい。

そしてとーっても、とっっっっても!寂しいですが、次回エピローグを投稿したら終わりです。とても、とーーっても悲しい。だが仕方ない。始まりがあれば終わりは来るものなのさっ(*´▽`*)
ということで次回会いましょう。ばいにゃら
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