もし、ライナがあのまま村に帰っていたら   作:恵ノ島すず

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もし、ライナがあのまま村に帰っていたら

「ここにいるなら丁度良い。ライナ、今すぐギルドマンを辞めてうちに戻ってこい。明日、俺と一緒に馬車に乗ってな」

 

 兄のこの言葉に、ライナは、逆らうことが()()()()()()

 故郷は、ただの田舎の狭い村だ。

 兄だって、その中の、しかも自分たちの家の中でしか偉ぶれないような、大したことのない男だ。

 強力なギフトや有用なスキルに恵まれたわけでもない、弓の腕だって自分と比べたって大したことのない、凡庸な男。

 この街に来てよく分かった。

 

 そのはずだった。

 

 それでも、ライナはどうしても、自分一人の力では兄に逆らうことができない。

 この日、この場には、ライナがこの街で一番頼りにしている兄貴分が、()()()()()から。

 幼い頃身に沁みついた恐怖は反抗する気力を削ぎ、相変わらずの兄のライナは自分に従って当然だという横柄な態度は、あの頃のような無力感を彼女に思い起こさせた。

 

 だから、誰にも相談せず、不義理を詫びる手紙だけを残して。

 将来有望な若手シルバーランクのギルドマンライナは、輝かしい未来もささやかな夢も芽生えかけていた恋心も、なにもかもを諦めて、レゴールから姿を消した。

 

 

 

「ライナちゃん、最近見ないと思ったら、故郷に帰っちゃったんだって?」

「そうそう。あっちで結婚するんだってさ」

「かーっ、もったいねー! シルバーランクを捨ててまで嫁ぐなんて、相手はどれだけの色男だ? あるいは金持ちか? 領主の跡継ぎにでも見初められたとかかー?」

「さあ。案外、幼馴染同士で昔から思いあっててーとか、そんな普通の話かもな」

「あーよくあるパターン。ま、ギルドマンなんかいつまでも続けられる仕事じゃないしな。それも一つの選択肢か」

「だな。しかし、いなくなってみると寂しいっつーか……。色気はないけどやっぱかわいかったよな、ライナちゃん」

「おいモングレルぅ! お前がちゃんと捕まえておかないから、ギルドの華が減ったじゃねーか!」

「うるせー俺のせいじゃ……、ない、だろ」

「お? けっこうへこんでんな? つまり、モングレルが振られたってわけだな? ははっ、ざまあねえな! いつまでもライナちゃんの好意に気づかないフリしてっからだ!」

「うるせー。俺とライナは、そんなんじゃないっての。……そんなんじゃ、なかったんだよ」

 

 

 

「この前、うちのみんなで揃ってハイム村に行ったんだー」

「アルテミスが? わざわざあんな何もないところに?」

「うん。近くまでの護衛任務で行ったついでにって感じでね。何もないっていっても、あんまり人がいないだけにそこそこ豊かな狩場があるみたいだったからさ。……なにより、ライナの故郷だって、聞いてたし」

「ああ、そっか……」

「別に、乗り込んでやるとか、無理に連れ戻すとか、そんなんじゃないけどね。でも、あの時はあまりにいきなりだったから、みんなやっぱり心配だったし。元気かなーって、見に行ってみたの」

「……ライナは、元気だったか?」

「うん! こっちにいた時と違って、あんまり体動かさないから太ったーなんて言ってたけど、ちょっとふっくらして、穏やかにニコニコ笑ってて、その、……お母さん、の、顔になってた」

「……早くね?」

「ね、ね、早いよね! びっくりしちゃった! 私たちが行ったときにはもう、ライナのお腹、けっこう大きくてさ! ……夏には生まれる予定、なんだって」

「お、う、そうか。……めでたい、な」

「そう、だよね。めでたい、よね。うん、ライナの旦那さんも、ちょっと、だいぶ年上だけど、ライナの事は大切に……、して、くれてるはずだし」

「歳いってからの若い嫁なんか、大切にするに決まってるだろ。まして、子どもまでできたら、なあ?」

「そう、そうだよね! ……『もう、レゴールには戻れないっス』って言われた時は、さ。なんか、ライナがすごくつらそうに見えて、つい『子どもなんてうちのみんなで育てるし! 戻っておいでよ!』って言っちゃったんだけど、断られたし……」

「久しぶりにアルテミスのみんなと会ったから、懐かしくなっただけだろう。あっちには家族もいるんだし、……きっと、しあわせにやってるさ」

「そう、だよね……」

 

 

 

「シルバーウルフだ……っ! それも二匹!」

「つがいか!? 子どもでも奪われたのか、妙に気が立ってる!」

「どうしてハイム村に……!」

「女子どもは逃げろ! 戦える男は前に出ろ! ……うわぁああっ」

「いやだ、ヤダ、死にたくな、ぁぐっ」

「あなたぁあああああ! ぁ、あ……っ」

「おいライナ! た、倒せ! どうにかしろ! お前、シルバーランクだなんて、偉そうに言ってただろ!」

「むちゃくちゃ言わないで欲しいっス! シルバーウルフ二匹なんて、倒せるわけ……」

「ここでどうにかしなきゃ、村は全滅だ! ひるませて追い返すでもしなきゃ、村人全員食い殺されるだろ! 子どもたちだって!」

「……削れるだけ、削るっス! その代わり、この子を逃がしてほしいっス!」

「や、や、いっしょににげようよぉ、ママぁ……!」

「だーいじょうぶっスよ、モナ。ママはちょー強いっス。あんな犬っころ、バシッビシッと倒してみせるっス」

「うそ、うそだよ、うえっうええええん!」

「モナ、良い子だから……。兄貴、頼んだっス」

「……俺の命に代えても、モナだけは守る。ここを、村を頼んだ、ライナ」

「やだ、はなしておじちゃん! ママ、ママ、ままぁあああ……!」

「ははっ、クソ兄貴の兄らしいとこなんて、初めて見たっスね。アレを頼もしく思うなんて、末期かもしれないっス」

 

 

 

「レゴールを離れて、五年。いつの間にか、私の弓の腕も、衰えちゃったっスかねぇ……。いや、あんなの、元々倒せるわけがないっスけど。村の人らもがんばってはくれたっスけど、そこまで役に立たなかったっていうか、ほぼソロっスよね、コレ。ソロでシルバーウルフ討伐なんてモングレル先輩じゃあるまいし……、先輩なら、これもどうにかできたっスかね……?」

 

 

 

「も、んぐ、れる、せんぱ……」

 

 

 

「ハイム村が、魔物に襲われて壊滅!? それ、あれだろ、ライナの故郷の……」

「そう。ライナ、無事かな……」

「情報を集めてみるわ。隣村に逃げのびた人たちも幾人かいるということだから、もしかしたら……」

「そ、そうだよね! ライナなら、きっとうまいこと逃げてるよね! ……モングレルさん、どこにいくの?」

 

 

 

 

 

 ライナが、死んだんだそうだ。娘を一人残して。

 娘の名前はモナ。四歳。

 その子を、なんだかんだあって、俺が引き取ることになった。

 

 ライナのご両親は逃げきれずシルバーウルフに殺され、お兄さんは、シルバーウルフから逃げる途中チャージディアに襲われて死んだらしい。

 モナを樹の上に登らせてやっている最中に、ぐさりと、とか。

 

 隣村に逃げのびた村人の中にモナの父親=ライナの旦那がいたにはいたんだが、村が壊滅し、財産を失った状況で子どもを養っていけるわけないと、モナの引き取りを拒否。

 それどころか、大変不快なことに、『ライナはモングレルという男の話ばかりをしていた』『あまりに妊娠が早かった気がする』『ライナは処女じゃなかった』(膜は運動で裂けることもあるらしいからどうせそれだろという気がするし、仮にそうだとしてもそれがなんの問題なのか)だのなんのかんのあーだこうだと理由になってない理由を並べ、『だから、モナはきっと自分の娘ではない』なんてことを、よりにもよって子ども本人の前でぎゃーぎゃーわめいていたから、『ああそうだよモナは俺の娘だ!』と啖呵切って引き取ってきちゃったんだよな……。

 心当たりなんか、少しもないのに。

 

「もんぐれる、おなかすいた」

 

 結果、俺の元に、このライナをちみっこくしてジト目マシマシ愛想抜き笑顔抜き表情トッピング全部ナシって感じの無表情青髪幼女、モナがやって来たというわけだ。

 いくら『俺の娘だ!』と吼えたところでDNA鑑定があるわけでもないこの世界で(DNA鑑定があったとしても俺の子ではないんだけど)認知は不可能なので、モナと俺は養子縁組をした。

 つまり、もうこいつは俺の娘なのである。娘にした。あんなのの所に置いておきたくなかったからな。

 勢いのままレゴールまで連れて来てしまったが、どうしようねこれ。

 

 まあ、とりあえず、腹が減ったと言っているからにはまず飯を食わせるか。

 

「おう、そうだな。そういやそろそろ夕飯時だもんな。あー、なんか食いたいものとか、あるか?」

「ママがいってた。もんぐれるのつくるごはんは、おいしい。だからなんでもいいよ」

「ん、おう、そっか。ありがとな。っつっても、今日は材料もないし、外食な。その上で、食いたいものとか、逆に苦手なものとか……」

「がいしょく。だいじょぶなの? ママがいってた。もんぐれるは、へんなものばっかりかって、いつでもきんけつ」

 

 あいつは自分の子に何を教えてるんだ。

 いや、というか、待て。

 あのおっさん(モナの父親、なんて呼びたくないほど理解不能で不愉快なことをわめいていた肉塊)が確かに言ってたが、ライナはそこまで俺の話を頻繁にしていたのか? 四歳の子どもが、ここまではっきり覚えるほどに?

 まさか、ライナ自身がこのくらいのペースであらゆる話題を俺に結び付け、俺の話をしていた、とか?

 いや、いやいや、まさかな。

 それより、目下の問題は、幼女な養女モナに外食代を心配されている現状だ。

 こわいだろ、そんな保護者。飯の心配をさせるのは、もはや虐待の範疇だわ。

 

 ごほんと咳ばらいをしてから、改めて言う。

 

「大丈夫だ。いくら俺だって、さすがに自分と子ども一人くらいの飯には困らない。だから、ほれ、遠慮なくなに食いたいか言え」

「じゃあにく。さかなはすきじゃない」

「おう、そっか、了解了解。肉な。子どもが好きそうな肉、ね……」

 

 いくつかの店を思い浮かべ、味、食べやすさ、治安や雰囲気まで含めて熟考する。幼女先輩をお連れするわけだからな。下手な店は選べない。

 

「あ、でも、もんぐれるがつくってくれるなら、さかなでもいーよ」

「お。そうか。今度街の外に釣り行って、その場で食おうな。うまいぞー。お前の魚嫌いもなおるかもな」

 

 熟考に割り込むようにモナの声が響き、俺は笑顔でそう返した。が。

 

「ママがいってた。もんぐれる、つりはへたっぴ。さかな、つれるの?」

 

 なかなか残酷な切り返しをされて、俺の笑顔が凍り付く。

 おいライナぁ……。お前自分の子になーに吹き込んでくれてんだ。へたっぴて。あんなのは実力じゃなくて運の問題でだなぁ……。いや運が悪いと認めるのもそれはそれでなんか嫌だな……。

 

「あ、でも、ママがいってた。もんぐれるのエビりょうりとカニりょうりは、さいこー。ママのじんせいで、いっちばんおいしかったくらい。エビかカニなら、もんぐれる、つれる?」

「……つ、れるよ。おうよ。釣ってやるよ。魚も、エビもカニも。時期はあるけどな。行けばなにかは釣れるさ。近い内に行こうな」

 

 モナが無邪気に続けた言葉に、怒りもなにもかも吹き飛んで、一瞬言葉に詰まった。

「たのしみー」なんて言う声ははしゃいでいるのに、ぴくりとも口角は持ち上がっていない器用なはしゃぎ方をする幼女を見ながら、考える。

 

 そうか。お前が人生で一番おいしいと思ったのは、故郷の母の手料理でもなく、貴族様のお屋敷で食べた凝った料理でもなく、俺と食ったエビとカニだったか。

 素揚げ、うまかったよな。食えるドブ……いやドブじゃない。かにこ汁だ。うまかったよな。

 

 ……そんなんじゃ、ないつもり、だったんだけどな。

 ライナがここにいないことが、エビもカニもどうしたってもうライナには食わせてやれないことが、どうしてもつらくて仕方ない。

 俺、こんなにライナのこと、好きだったのか……?

 そりゃ、後輩としてかわいがっていたし、ああも素直に懐かれて、悪い気はしてなかったが、こんな、今までの誰との別れより、つらいだなんて。

 マジかよ俺。ここまで来て、今更、BSS(僕が先に好きだったのに)とかほざくつもりか……?

 さすがに、それは、それはないだろ。

 

 

 

 結局無難に森の恵み亭に行けば、そこにはウルリカとレオがいた。

 

「モングレルさん、なにその子! かーわいいー!」

「本当、かわいいお嬢さんだね。としは? 四つ? 自分で答えられて、えらいね」

 きゃあきゃあとテンション高いウルリカと、やわらかくモナに尋ねたレオ。

 ちみこい手で四を作ってどこか誇らしげに示したモナに先導される形で、自然と同じテーブルにつく。

 

 おいやめろレオ。

 お前の顔で優しく話しかけてスマートに褒めて抱き上げて椅子にまで座らせてやったら、そんなのもう初恋泥棒だろ。

 そいつは、お前のような綺麗な男なんて一人もいない、つまらん田舎から出てきたばっかなんだ。うちの娘をたぶらかすな……!

 

 あやうく父性があんまりよくない方向に芽生えかけている俺に、ウルリカが訊く。

「っていうか、モングレルさん、なんかこの子、すごいライナに似てる、よね? どこの子?」

「ライナ、モナのママ。もんぐれるが、パパ」

「いや待て。まあ、パパっちゃパパだが。その言い方は誤解を招く。養子だ養子。こいつはライナの娘で、名前はモナ。身寄りがいなくなったから、俺が引き取ってきたんだ」

 真顔でとんでもないことを宣ったモナに被せ気味に、俺は一息に事情を説明した。

 

「えっ、なんでモングレルさんが?」

 ウルリカの当然の疑問に答える間もなく、レオが顔色を悪くして、俺に詰め寄る。

「モングレルさん、いきなりいなくなったと思ったら、ハイム村に行ってたの? 僕たちも、情報を集めてはいたんだけど……。ねえ、この子の身寄りがいなくなったって、まさかライナは……」

 

「……ママ、しんじゃったんだ。でも、かわりにいっぴきしとめて、だから、ママはすごいの。えらいの。モナは、そんなちょーつよいママの子どもだから、なかないの」

 

 モナの前では言葉にしにくいなんて躊躇っているうちに、当の彼女が、淡々とそう言った。

 

「う、うそ、ライナが……? そんな……」

 そんな言葉と共に、ぶわり、ウルリカの瞳から涙がこぼれ出た。

「うそ、うそだ……」

 そう呟きながらも、どんなに認めたくなくてもそれが事実だと本当はわかっているのだろうウルリカの瞳からは、とめどなく涙があふれ出ている。

 

「ねえ、モングレルさん、モナちゃんのこと引き取ったって言ってたけど、ちゃんと育てられるの? ずいぶんしっかりした子だけど、まだ四歳なんだよね。モングレルさんがこのままソロでギルドマンを続けるなら、さすがに無茶だと思うよ」

 そうレオが切り出してきたのは、ライナのことを大切に思っているからこそだろう。

「ライナのこと、僕らは家族だと思っているよ、今でも。だから……」

 

「もんぐれるは、いちばんつよいの!」

 おそらくは、自分たちアルテミスがモナを引き取っても良いと続けようとしたのだろうレオを、小さな幼女から発された、大きな声が遮った。

 

「も、モナちゃん……?」

 

 ウルリカも涙を引っ込めてぱちぱちと瞬きし、レオも困惑の声を上げているのに、そんなことは気にもかけず、がたんと椅子の上に立ち上がり、モナは叫ぶ。

 

「ママがいってた! もんぐれるは、すごくつよいんだ、なんでもできるんだ、とってもやさしいんだ、すごくたよりになるんだ、せかいでいちばん、かっこいいんだ! もんぐれるがいれば、どんなこわいてきだって、ぜんぶ、ぜんぶ、たおしてくれるんだもん!」

「おい、モナ……」

「ママがいってた! いってたもん! ほかのだれかじゃだめなの。もんぐれるせんぱいじゃなきゃだめだったの……! だから、だから、モナは、モナも……」

 

 俺が止めようとしても止まることなく幼女が続けた大演説は、しかしとうとうこれ以上の言葉が出て来なくなったらしく、しゅんと尻すぼみになって終わった。

 

「ありがとよ。そこまで言ってもらえるほどのもんじゃない、なんて言ったら、そう言ってくれたのだろうライナに失礼だよな。どれだけ娘に大げさに吹き込んでるんだよ、とは思うけどさ。うん、でも、ありがとなモナ。そこまで言ってくれて。でも、椅子の上に立つのは、危ないしお行儀が悪いからやめような」

 

 ひょいと一度椅子から抱えおろし、ササッと手でモナの靴の跡を払って、もう一度椅子に座らせ直す。

 モナの大演説にか、そこにありありと籠っていたライナから俺へのクソデカ感情にか、呆然としている二人に笑って、俺は宣言する。

 

「本人がここまで言ってくれてるし、もう、こいつは俺の娘だから。どうにか育ててみせるさ。俺ももうそこそこの歳だし、引退して食堂でも始めて良い頃かもな。いきなり店が出せる程の費用はないから、まずは屋台あたりから始めて……」

「モナ、てつだう!」

「おお、看板娘だな。いやー、これは繁盛するな! なにせ看板娘が最高にかわいい! 良いな! それに、俺の料理の腕は、知っての通りだしな」

「おさけもあったほうがいいよ! ママがいってた。もんぐれるは、とくにおつまみがじょーず」

「そーかそーか。モナは、アドバイザーとしても優秀だな。でも、お前がいるのに酒場はどうかな」

 

「モングレルさんがお店をやるなら、どうせ客層は、顔なじみのギルドマンとか元ギルドマンばっかりでしょ。良いんじゃない? 酒場。私たちも通うし、治安が悪くなりようがないと思うけど」

「それに、『もんぐれるは、いちばんつよいの!』なんでしょう? とっても強いパパが、モナちゃんのことをしっかり守れば良い。僕らも、協力はするし」

 

 俺たち親子の会話に、そんなウルリカとレオの笑い声交じりの意見が重なった。

 

「そうだな。朝から昼は、モナと遊んでやったりした方が良いだろうしな。やるかあ、酒場!」

 

 俺はよっしゃやってやるぜと気炎を揚げたが、ウルリカが渋い表情で首をひねる。

 

「えー、それ、モングレルさんいつ寝るの? しんどくない?」

 

「大丈夫だって。子どもの睡眠時間って、長いし。いざとなったら店で寝る。……って考えると、誰かを雇える規模でやらなきゃか」

「だねー。そこに行くまでが大変だろうけど……。まあ、モナちゃんのためにがんばってよ、パパ♡」

 

 モナにもレオにもパパ呼ばわりされたが、なんかウルリカだけ響きが卑猥だな……。

 こいつが言うと、愛人とかイメクラ方向のパパにしか聞こえない。なんでだ。語尾にハートマークが付いている気がする。どうしてだ。

 いやまあ、どうでも良いか。

 益体もない雑念を払うように頭を振って、俺はモナに声をかける。

 

「よし、そうと決まればさっそく敵情視察だ! 食うぞ、モナ!」

 

「おー」

 拳まで突き上げているのに相変わらずの無表情な娘にくすりと笑って、俺たちは賑やかな食卓を開始した。

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