professional of joker 作:たいたい35
「ちょっと話しすぎちゃったかな。話が長いのはどうも性分みたいで。ここまで聞いて何か質問はある?なんでも答えるよ」
「どうして私たちを招いたんですか」
「おっといけない、すっかり失念しちゃってたね。また長くなるかもしれないから、二人ともワイン飲む?そんなに酔わないやつだよ、酔ったら酔ったであたしはめんどいらしいし」
「一口だけ、もらっちゃおうかな。ワインなんて高級品、僕たちの田舎じゃ滅多に飲めないから」
ささ、どうぞどうぞ、ドラキッド自慢の自家製ワインをご堪能あれ。さっきまでの翳る空気を吹き飛ばすようにソレアは茶化す。あれ、視界がぼやけて……。一口でユウリの顔は真っ赤になっていた。意識が朦朧としている彼を、ルタがじろじろ観察している。
「ありゃりゃ、弱ったな。今度は酔わないやつにしとかないとね。さ、それで質問の答えなんだけど。ずばり、二人は野生のスライムと仲が良かったから」
「それが私たちと話をする理由になるんですか?」
「もちろん、大いに。野生のモンスターと心を通わせるのは、あたしが目指す世界の第一歩にして、完成形。モンスターのための世界をつくりたいなら、彼らの気持ちが分からなきゃ意味がない。そして、その気持ちを持ち続けられれば、世界は変わったと言えるよね。だから二人にはどうしても話を聞きたかった、といった感じかな」
すっと腑に落ちたようで、リーヤは無意識に頷いていた。ソレアが目指すのは、モンスターが差別されず、恐れられない世界。そのためには、モンスターとリングを介さず繋がることができる人間がどうしても必要だったのだ。
「そしてルタも、ぶっちーとリングなしでここまで仲良くやってる。一応リングも持ってるけどね」
「えへへ、これがルタのリングだよ!見て見て!きれいでしょ?」
くるりと一回転するルタの指には、確かに黄色の宝石が埋め込まれたリングがはめられていた。宝石の輝きは天井のシャンデリアの光を吸収し強く鈍く放たれる。
「ユウリクンたちの存在は、あたしの理想を大きく前進させる存在だ。君たちを絶対、逃したくない」
目を見開き、その視線はリーヤを貫く。そんなに見つめられてしまっては、彼女も恥ずかしさで少し狼狽してしまった。
「そ、そんなこと言われても、私たちだってやらなきゃいけないことがあります。簡単に分かりましたなんて言えないわ」
「もちろんタダでとは言わないよ。ここを拠点として使えるように空き部屋は貸すし、あたしの立場を利用して色々行動しやすいようにしてあげられる。あ、不正をするわけじゃないよ、あくまでも常識良識の範囲内でね。別に本気を出せば何だってできるけど、くくっ、冗談だよ冗談!」
酔いが回っているのか、少しずつリミッターが外れ始めている。めんどいと言われる理由が分かった気がした。ルタはため息をついて、リーヤは少し引いていた。凍える空気に、ユウリの酔いもすっかり冷めてしまった。
「こ、コホン。あー、だからその、チームに入るだけならメリットばっかりだと思うよ、ソレアちゃんは。資金の援助だってしてあげられるし、旅の道具も調達する。とにかく、何もアクションを起こさないまま二人がここを去ってしまうのがあたしには強烈にマズいっ!悪いようにはしないから、どうかどうか!」
長い紅の後ろ髪が前に垂れてしまうくらい深く頭を下げるソレア。ユウリもリーヤも簡単には了承できないとは言ったものの、彼女が悪い人でないと分かった以上協力をしてあげたいとは思っていた。しかしペラペラと好条件をいくつも提示してくれたのだからラッキーであることこの上ない。今後のためにも、ドラキッドに加入しない選択肢はなかった。二人は顔を見合わせて、同時に頷く。それを見たソレアの嬉しそうな表情は、見ているこっちが恥ずかしくなってしまうほどだった。よし、よしとガッツポーズしている。
「何か手続きは必要なんですか?」
「いや、全部こっちで何とかしとくよ。でも、一つだけ。モンスターを含むチームに加入するなら、当然モンスターマスターじゃなきゃいけない。もちろん、ユウリクンのことだよ。リーヤクンはスラっちと関係ないことにしとくからどっちでもだいじょぶ。だから、今日の試験、絶対に突破してもらわなきゃいけない。ゴクリ、緊張するね、でもだいじょぶ。あたしに任せて」
胸に手を当て立ち上がり、どーんと構えるソレア。これはもう、ワインにだいぶやられている。特別酒に強いというわけではないのに飲みまくってしまうのが彼女の悪い癖だった。絶対に突破しろと言われても、ユウリのペーパーテストの結果は悲惨なもの。リーヤも彼も、そのことをとても口に出せなかった。
「その感じだと、あんまりうまくいってなさそうだね。でも心配することないよ、ユウリクンは絶対にリングを手に入れられる。あたしが言うんだから間違いない。こう見えても人を見る目だけは自信あるんだ、あたし。試験までは時間もあるしここでリラックスしてってよ」
いくらソレアに言われたからといって、試験の結果が実技だけで大きく変化するとはとても思えない。でも、それでも、ソレアの冗談混じりの言い方には、妙な説得力があった。もしかして、諦めなければまだいけるのかな、ユウリの胸の内に消えていた闘志がメラメラ燃え始めた。
「僕、次の試験だけは頑張って絶対リングを手に入れて、認めてもらいます!」
「うんうん、その意気その意気。やっぱり若い子はエネルギッシュじゃなきゃいけない。もちろんあたしもまだ負けてないけど」
「ユウリおにーちゃんかっこいい!」
その後は数十分の休憩の後、ユウリとリーヤは張り切って会場に向かっていった。
「騒がしいな、またなんか連れてきたのか、ソレア」
「お、フューン、おはよ。研究の調子はどう?」
その乱れ髪では、どれが寝ぐせか分かったものではない。奥から出てきた背の高いその女は、汚れた白衣を身にまとっていた。
「上々、騒がしいのも案外悪くないのかもしれない。それで、どんな奴だった」
「元気が良い子で、一発でビビッときたよ。ユウリクンはきっと、あたしの理想の世界にいなくてはならない存在。あんなに優しい瞳をもった男の子、あたしは初めて見た。スライムと彼、お互いがお互いを尊敬し、大切に思っている。魔物に不自由ない世界をとは言うけれど、人間を陥れたいわけじゃない。魔物だって今より自由になったら凶暴さを顕にする個体だって出てくるさ。だからこそ、あくまでも尊重し合うような、そんなバランスの世界を。誰も傷つけない平等な世界を。それがママとの約束だから――――。それにあたしは、人間も魔物も大好きだしね」
「その長話、聞き飽きた」
「誰かさんの研究報告ほどじゃないさ」