professional of joker 作:たいたい35
まだ自分がモンスターマスターとなったイメージがぼんやりとした浮かんでいなかったユウリだが、新しい仲間という言葉を聞いて、はっきりと意識した。これまでずっと、スラっちと共に過ごしてきたこともあって、新しい仲間に対して緊張もあったが、どこか胸が疼く思いもあった。
「そうだ、僕はもうモンスターマスターなんだ……!」
「お、いいね、その意気だ。元気がいいのは若者の特権だよ。それに、ユウリクンが元気だと隣の子も露骨に機嫌良くなるから、一石二鳥だ、くくっ。痛っ、痛いってリーヤクン、冗談だってば!」
「ソレアとリーヤおねーちゃん、すっかり仲良しだね!」
照れているのを悟られたくないのか、リーヤは頬を染めてポコポコソレアを叩いている。最初は用心深く彼女を疑っていたリーヤも、彼女の長話とジョークに乗せられ、まんざらでもなく打ち解けていた。
「と、いうことで、明日にはさっそくスカウトに挑戦しよう!最初だから当然あたしもついてくよ。ルタはシェラと一緒に留守番ね」
皿の上のケーキはいつのまにか消え去っており、ワインの瓶も空だった。もう日は落ち切っているので、明日のためにも今日は早めに就寝することにした。ソレアの案内で部屋へ向かっている途中、彼女は何気なく尋ねた。
「モンスターマスターになって、何かやりたいことはある?やっぱりバトルGPの優勝?それともレアなモンスターの発見?」
昼間と同じ、ユウリの瞳が濁った。途端にリーヤは怯えたように彼から距離を取る。おっと、失言だったかな。ソレアがそれに気づくのに、そう時間はかからなかった。
「僕は、グラスターをぶっ倒します。僕とスラっちの絆を否定し、規則に反したらモンスターを処刑することもいとわない。僕には、どうしてあんな人間が協会のトップに立てているのか分かりません」
それを聞いて、ソレアは顔を背けた。ユウリの憎悪の眼差しにうろたえたのか、目にゴミが入ったのかは分からない。しかし、二人からでは彼女の表情を見て取ることができなかった。数秒後、いつもの笑顔に戻って言った。
「うんうん、だったらますます強くならないとね。グラスターとは違う強さを、『絆』の強さを、ユウリクンなら掴めるはずだ。そしてそれは、いつの日かバトルGPの優勝を引き寄せて、あたしでも届かなかった史上最強のプロフェッショナル、グラスター会長への重い扉を開く。しまった、また長話をしちゃったね。さ、こことその隣が二人の部屋、好きに使っていいよ。別に同居しても構わないし。じゃあ、おやすみ」
くるりと半回転して、ソレアは戻っていった。その足取りは軽く、ピクニックに行く子どものようにも見えた。
ユウリが部屋でモンスターについての文献を読み漁っていたところ、ノックの音がした。ドアの先には、シャワーを浴びて艶やかな髪が印象的なリーヤが立っていた。
「入るわよ」
返事を待たずに部屋へと侵入する。彼が眠るはずだったベッドにちょこんと座った。口数も少なく、どこか不安げな様子を見せるリーヤ。その表情に、お茶を注いだユウリも何も言えなくなってしまった。ようやく彼女が口を開いたのは、十分後のことだった。
「ねえ、ユウリ。私の話を聞いてほしいの」
深夜まで営業していた酒場の灯りが消え、夕闇に溶け込むアルカンの頭上には、こぼれ落ちてきそうなほど広大で、美しい星空が広がっている。それなのに、窓から見える街は風の音さえしなかった。
「グラスターを睨むユウリの顔、とっても怖かった……。放っておいたら、ナイフで斬りかかっちゃうんじゃないかって、そう思った……。さっきソレアさんに聞かれた時も、同じくらい怖い顔をしてたの。ごめんね、私、変だよね。グラスターはスラっちに酷いことをして、嫌味ばっかり言って、悪い奴だからユウリが怒るのも当然なのに。でも、でもね……」
ぐちゃぐちゃにかき乱されそうな感情を、どうにか頭で整理して、言葉にして、彼女は伝えようとしている。ユウリは唾を飲み込むことを忘れるほど、聞き入っていた。そうでもしないと、今のか細くて小さな小さな彼女の声を、聞き漏らしてしまいそうだったから。
「私はユウリに、そんな顔してほしくない……!私の知ってるユウリはもっと優しくて、私にたくさん笑顔を向けてくれて、料理の話になると上機嫌で、誰かにそんな冷たい目をするような人じゃない……!私、ユウリにそんな怖い顔されたら……」
ユウリは反射的に、彼女を優しく抱擁していた。触れるか触れないか、その瀬戸際。ごめんね、そうつぶやいて、彼女の嗚咽が止まるのを待った。彼女の体温が少し上がったのを感じて、ようやく離れた。
「知らないうちにリーヤに辛い思いをさせちゃってたんだね。ほんとにごめん。でも、リーヤのおかげで気づけた。グラスターに向けるのは憎しみじゃない、モンスターの尊さのはずだよね。もう自分を見失ったりしないよ。約束する。僕がリーヤに見せるのは、笑顔だけだからっ!」
そのあどけない笑顔は、凝り固まって心臓にこびりついていたリーヤの不安を、雪のようにあっけなく溶かしていった。むしろ彼女の体温を急上昇させて、顔を真っ赤にしてみせた。ユウリの笑顔に固執するくせに、いざ向けられるとすぐ顔を赤くしてしまうのは、リーヤの悪い癖なのかもしれない。
「もう、絶対なんだから……!約束だからね!破ったら今度は許さない!おいしいご飯作ったって私とスラっちが許さないんだから!」
そう言って二人は指切りをした。彼女の精一杯の笑顔は、いつもと違って目が少し腫れていた。シャンプーの柔らかい香りがユウリに伝わって、少しクラクラする。彼があくびをしたのを見計らい、上機嫌で部屋に戻っていった。ユウリも読書を止めて、さっきまでリーヤが座っていたベッドに潜り込んだ。
「いいね、若いっていうのは。ユウリクン、君なら、今の惨めなあたしまでも救ってくれるんじゃないかって、密かな期待をしてしまったよ」
一人夜空を見上げる赤髪のワイン、その水面で月光が揺らめいていた。