professional of joker 作:たいたい35
朝食を終えて、まずは案内を兼ねて街へ繰り出すことに。ルタは自分の仕事があるので二人はここからソレアと行動を共にする。今日のアルカンはやけに賑わっており、モンスターマスターも大勢いた。何かイベントがあるのかな、彼女に問おうとした時、周りの視線にようやく気づいた。
「おい、ソレアが来たぞ!」
「今年のバトルGPは参加するのかしら」
「待てよ、あそこの子は昨日の新人じゃないか?どうしてソレアと一緒にいるんだ!」
ソレアを囲んで民衆が騒ぐその様はまるでセリ市場のようだった。
「いやー、人気者は辛いね。今日はオフとして二人を案内してるだけなのに、こんな騒がれちゃ街も歩けない」
笑顔で手を振ってあげてはいるが、声の調子は一オクターブ下がっている。ソレアはバトルGP優勝経験者。バトルGPという競技の熱狂具合を考えれば、その優勝者であるソレアがアイドルのように持て囃されるのも当然だ。優勝なんてするもんじゃないね、そう言って呆れたように苦笑いした。民衆に構わず歩いていると、その波をかき分けて二人の男がやってきた。高圧的に周囲の人間を蹴散らして、ソレアに向かう。
「ソレア、会長が呼んでいる。次の依頼はあなたでしかこなせないそうだ」
「あれ、今日はあたしオフだよって伝えなかったっけ。ねえねえ聞いてよ、ドラキッドに新メンバーが加入したんだ!」
じゃーん、効果音をつけて目の前の大男二人に紹介した。しかし二人は笑うことはなく、むしろ睨みを効かせて言い放つ。その振る舞いで神経を逆撫でしたようだ。ここに来たばかりの時、強い力で捕らえられたのを思い出したのか、ユウリとリーヤは震え上がった。ソレアさん、ソレアさん、大人しく話を聞いた方がいいよ、そう言いたかった。
「早く来い。そんなつまらない事情など後にしろ。お前のつまらない茶番でいったい会長の時間が何秒消えた?同行してもらうぞ。どけ、クソガキども。雑魚のくせに、邪魔なんだよ」
その汚い言葉遣いに、ソレアの眉は確かに動いた。しかし動じず、わざとらしく呆れたようにため息をついてから、男を押し退けて歩いていく。リーヤは震えていた。行こ、二人とも。その言葉を聞いた男はソレアの腕を掴み、怒りに任せて殴りかかる。しかし次の瞬間、男二人の身体は宙に浮いていた。放物線を描いて吹っ飛ばされた二人は悲痛な声をあげ悶えている。いったい何が起きたのか、ユウリが彼女を見ると、いつのまにか彼女のそばに一匹のモンスターが浮いていた。日光に光り輝くメタリックな身体と、巨大なマグロでも簡単に一刀両断してしまいそうなそのサーベル。リーヤはこのモンスターを図鑑で知っていた。
「出たぞ、ソレアのキラーマシン2だ!」
「おいおい、何が起きたんだよ、速すぎて何も見えなかった……」
一部始終を見ていたギャラリーが放ったのは、キラーマシン2という言葉。それは、彼女の強さを世に知らしめた絶対的エースにして、信頼を寄せる相棒だった。
「邪魔。あたしは今日用事あるから、グラスターに伝えといて。今度近寄ったら病院送りにするから。さ、行こっか二人とも」
倒れた二人の意識が朦朧とする中、そう告げる彼女は、余裕を見せながらも怒りに震えていた。しかしそれを悟られまいと、すぐさま顔を逸らしユウリとリーヤの手を引く。会話を交わすことなくしばらく歩いて、表情など伺えないソレアが口を開いた。
「あはは、物騒なところ見せちゃったかな。大丈夫、この子は見境なく人を襲うほど馬鹿じゃないから。今日は二人とのデートなのに、とんだ邪魔が入っちゃったね。気にしないで……って言っても無理か。いつかは二人にはあたしの仲間を紹介する時が来ただろうけど、こんな乱暴な形で見せたくはなかったんだけどね」
くるっと反転して、キラーマシン2を隣に寄せた。彼女が指を立てると、彼は礼儀正しく挨拶をする。両手の武器を背に隠して頭を下げた。目の代わりにギロギロ光る紅のモノアイがユウリを見て鋭く光った。
「この子、ロビンはあたしの努力の結晶。あたしの仲間で一番強いよ。バトルGPでは何度も助けられた。二人に何かあれば真っ先に飛んできてやっつけてくれるから、安心して」
ソレアはいつもの笑顔に戻った。少し照れくさそうにしていた。しかしユウリとリーヤは一切の負の感情を抱かず、むしろ尊敬の眼差しをソレアとキラーマシンに向けていた。これがソレアさんの仲間……、すごい!ユウリは思わず感嘆の声を漏らしていた。強引な手段だったので、多少なりとも引かれると思っていたソレアは、二人の反応に驚きを隠せない様子。
「あれ、二人とも、何も思わないの?怖いとか、逃げようとか」
「ソレアさんとロビン、かっこいいです!」
「へ?え、あ、そうかな。なんか照れちゃうね、へへへ」
ロビンは峰打ちだった。あの大男がソレアに手をあげようとしたのを、安全な形で救った、ただそれだけの話である。惨虐なことで知られるキラーマシンが彼女を救うため、かつ相手をなるべく傷つけないように救ったことは、ソレアとキラーマシンの紛れもない信頼の証だった。スカウトリングを通じてだが、ソレアは確かにキラーマシンと繋がっている。その姿に二人は尊敬の念を強く抱いていた。混乱するソレアに対し、ロビンが心配そうに首を傾げた。どうやら人間で言うところの、覗き込んでいる様子、らしい。
「ロビンとソレアさん、とっても仲良しなんですね!」
「うふふっ、そうね。私が図鑑で見たキラーマシンよりもずっと人間みたいで、優しい顔をしてるわ。これもソレアさんの実力なのかも。さすがだわ」
ソレアに鋭い衝撃が走った。まるで後頭部を鈍器で殴られたような。よかった、そう呟いて、光沢溢れるロビンの頭をそっと撫でた。
「だってさ、ロビン。この二人はあたしたちの絆を認めてくれたよ。いやー、嬉しいね。あれれ、涙なんか流して、らしくないなあ……。あたしはこんなに涙脆い人間じゃなかったはずなんだけど……」
ロビンは彼女に寄り添っていた。ソレアとロビンを取り巻いてきた環境がどんなものか、二人は知らない。しかしそれでも、二人の眼差しと言葉にソレアが救われたのは、紛れもない事実だった。