professional of joker 作:たいたい35
「ほら、あそこ、キラーパンサーが子どもを守ってる!」
「ほんとだわ!健気でかわいい……。でも近づかないようにしなきゃ、私たちも襲われちゃう」
「確かに、襲われるのは困るね、非常に。なら、スカウトしてみるかい?」
ギラリ、ソレアの瞳が光る。早口で、ユウリのスカウトリングに目を向けていた。森は深く、周囲の警戒で精一杯のリーヤに対し、ソレアはスカウトのことしか頭にないようだった。
「いきなりキラーパンサーだなんて、無理です!」
「いやいやリーヤクン、ユウリクンの腕をナメちゃいけない。ユウリクンにかかればSSランクの一体や二体どうということはないさ、だよね、ユウリクン?」
「はい、もちろん」
キラーパンサーに近づこうとしたその瞬間、またまた茂みから一匹の影が現れた。そのモンスターを見たユウリは一歩下がった後、躊躇いなくリングを掲げた。
「スラっち、行くよ!」
「い、いきなり大丈夫なの!?」
ユウリの背中から顔を覗かせる彼女の心配をよそに、スカウトリングからは深緑の炎があがる。それはスラっちを温かく包み込み、やがて吸収されるように消えていった。
「リングの炎は対象の凶暴性を一時的に著しく低下させる。その間に自分の強さを対象に突きつけてやるんだ。スカウトとはつまり、己の実力を認めさせること。今回の場合は、スラっちの一撃がどれだけあのドラゴンキッズの心に響くかどうかってところかな」
炎を吐きかけたドラゴンキッズの動きが止まる。その隙を逃さず、ユウリの快声にピキーと鳴いたスラっちが、全力の体当たり。それを正面から受け止めたドラゴンキッズは、ぎゃうと悲鳴のような声をあげた。ユウリは急いで駆け寄ろうとしたが、ストップだ、ユウリクン、その一言が耳に届いた。
「スカウトは、どれだけ強い一撃を与えたとしても、身体へのダメージとなることはない。リングの炎がスラっちを包み込んだのは、相手に直接的なダメージを与えないようにするため。まったく、昔の人はすごいよね。ま、できたの最近だけど、くくっ」
「笑ってる場合じゃないですよ!」
「ほんとだ、笑ってる場合じゃないよ、リーヤクン。ほら、ユウリクンの初スカウトの結果を見届けないとね」
スラっちの一撃を受け、動きが止まる。数秒の沈黙が一分のように感じられた。そして唐突に、ドラゴンキッズの両目が大きく開いた。リーヤは相変わらずユウリの背中から相手を覗き込んでいたが、それはやがて親を見つけた雛鳥のようにユウリのもとへ走り寄ってきた。小さな翼をパタパタ羽ばたかせ、彼の足に細い腕で抱きついている。いや、もしかしたら前足かもしれない。さっきまでの野生味溢れる警戒心はどこへやら、今はもうスラっちの周りを飛び回り、じゃれあっていた。
「こ、これって……」
「ユウリクンの初スカウトは大成功だったみたいだね。まさかここまで懐くなんて、一応さっきまで見境なく人を襲う魔物だったんだけどなあ」
感嘆の声を漏らすソレアは髪をかき上げ掻いていた。ドラゴンキッズを抱き上げ頰をすり合わせるユウリの動作が眩しかった。
「名前をつけてあげないと!ねえリーヤ、何か良い案ないかな」
「と、突然そんなこと言われても困るわよ」
「それならあたしが決めてあげよう。その子は将来有望なドラゴンの子だ、だから荘厳で雄大な力強い名前を与えてあげるのがいいわけ。つまり、この子の名前はキャロル!」
目を輝かせ、天を仰ぎ、それはそれは指を一直線に立たせソレアは言った。キャロル、キャロル、キャロル……。反芻するように何度も口ずさむユウリは、大いに納得したようだ。
「うふふっ、ユウリ、笑ってる」
「キャロル、とってもカッコいい名前ですね!よしよし、君は今日からキャロルだよ!」
「いやー、そんなに喜んでもらえると照れちゃうね、でも考えた甲斐があったあった。キャロルクンもユウリクンも、もうすっかり家族だねえ」
小さい翼は、キャロルの丸々とした身体には不釣り合いだった。それでも踏ん張りながら翼を羽ばたかせ、ユウリの側を飛んでいる。初めての仲間に満面の笑みを浮かべられる彼の姿に、この子はどこまでもモンスターマスターとしての魅力に溢れている男であることを、ソレアはまたまた思い知らされた。
「ひゃっ、何!?今、ブーンって!」
手をブンブン回してリーヤが取り乱す。どこからやってきたのか、彼女の周りには大量の蜂が集っていた。白銀の針に毒を纏わせた何十匹のヘルホーネットがリーヤに襲いかかろうとしていたのだ。そんな状況でまともな判断が下せるはずもなく、泣きじゃくりながらひたすら暴れている。
「ヘルホーネットか、リーヤクン落ち着いて!暴れても刺激するだけだ!」
パニックに陥ってしまった彼女にソレアの声は聞こえない。
「まずい、ティアラ!」
仲間を呼ぶソレアの声が森林中を駆け巡る。しかし、その声と同時に背後から何かの気配が飛び出した。
「リーヤ伏せて!」
無意識に屈んだリーヤの頭上数十センチ、火炎が燃え盛る。不意打ちに火傷を負ったヘルホーネットの大群は森の奥へと逃げていった。その火炎の正体は、キャロルだった。健気に頬を膨らませ、火炎の息を吐いていたのだ。
「危なかった……、リーヤ、大丈夫?」
「遅いわよばかぁ……。ほんと、ほんとに怖かったんだからぁ……!でも、ありがと……」
「リーヤは虫、昔から苦手だもんね!」
まぶたを腫らす彼女の顔が赤いのは、泣きじゃくったせいなのか、それとも他に理由があるのかは分からない。でも、襲われたにしては満足そうな表情をしていた。
「キャロル、お疲れさま。よしよし、偉いぞー!ここか、ここがかゆいのかー!」
「ふふっ、キャロルもありがと!」
「ピキーッ!」
キャロルはユウリに抱き抱えられ、腕の中に収まっている。それはそれはまるでペットのように。犬と犬が戯れあっているように見えた。一方、援護にやってきたティアラを帰らせたソレアは、仲睦まじいユウリ一行を歓喜の眼差しで見つめていた。
「ユウリクン、君はほんとにすごいな……」
リーヤクンが魔物に襲われ、あたしの声に反応したティアラがこちらへ来るまでは一瞬だった。その間に、ユウリクンとキャロルのコンビはヘルホーネットの群れを追い払った。これがフューンの仕業だったなら、あたしも全然驚かない。あの子はモンスターマスターとしてももう長いから、これくらいのレベルはとうに過ぎている。でも、ユウリクンは、今回が初めてのスカウトだった。そして、仲間となったばかりのこの子は、ユウリの声に刹那に反応し、火炎の息を放った。さながら熟練のモンスターマスターとその相棒のコンビネーションだ。これはもう、ユウリクンの才能以外の何者でもない。彼の底知れないモンスターへの愛は、モンスターマスターとして必要な才覚を全て包含している。二人の前だから乾いた笑いを見せているけれど、ほんとは心臓の高鳴りがうるさくて仕方がなかった。それほどまでに、あたしは今興奮している。
「はあ、マッタク。ユウリクン、君は一体どこまであたしを驚かせれば気が済むんだ」