professional of joker 作:たいたい35
「歩いて行くにはやっぱりちょっぴり長いよね、この距離は」
「そう?私はちょうどいい運動になって嫌いじゃないわよ」
旅立ちの前、ユウリは早起きの眠気も忘れるくらいはしゃいでいたものだが、少しずつその興奮も落ち着いてきたようだ。その代わりに、今はリーヤがスキップしている。並んで歩く二人の後ろをよいしょよいしょと這っているのがスラっちだった。
「スラっち、大丈夫?疲れたらいつでも教えてね、僕たちもペース下げるから」
「ピキーッ!」
「まだ行けるみたいよ。ふふっ、スラっちは頑張り屋ね」
光る雫をほっぺたに伝わせながら、スラっちは反抗するように何度も跳ねた。この子がいつ産まれたのかは分からないため、当然何歳なのかも知る術は無いけれど、このかわいげのあるいじっぱりを見ていると、ユウリたちとそう変わらないのかもしれない。ユウリはエサを一粒取り出してスラっちの口まで近づけた。
「よし、じゃあもうひと踏ん張り、頑張ろう!」
行商人が連れる馬のいななきが響く山道を越えて、澄んだ川を越えて、ようやく辿り着く。整備された石畳の先は、見渡す限りの人並みだった。真っ直ぐに道が続いていき、広場にはユウリの身長の何倍もある噴水と、紙が何重にも貼られた掲示板に群がる人々。アルカンの街はまさに生きていると形容してしまう活気で溢れているが、とりわけ広場の辺りは活力に満ち満ちている。視界にはとても収まりきることのない情報に、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「何回来てもすごいなあ、ここは。リーヤ、スラっち、僕から離れないで」
「い、言われなくてもそうするわよ!」
リーヤがスラっちを持ち上げて、二人と一匹はアルカンの先へ先へと進んでいった。途中道具屋に寄って薬草や小物を買ったり、目を輝かせるスラっちに根負けして肉屋を訪れたりしたが、本命の掲示板前にようやくたどり着いた。
「えっと、どれを見ればいいんだろ」
一番目立つ中央に貼られた一枚の用紙。まるで王族の祝い事のように大々的に書かれた、「モンスターマスター募集」の文字。それに続くのはもちろん、試験の内容とその後についてだった。張り紙によると、まずはバトルGP協会本部で行われるペーパーテストに参加する必要があるようだ。モンスターマスターとして活躍するために必要最低限の知識を問われる。そしてその後、モンスターを実際に使った実技試験が催される。しかしスカウトリングを持たない人間が魔物を従えることは禁止されているので、協会によって飼い慣らされた魔物を扱う。この二つの結果を総合し、協会で十分に審議された上で合否が決定される。どこからか流れてきた情報によると、突破率はお世辞にも高いとは言いがたい数値である。ユウリの胸は高鳴っていた。しかしそれとは対照的に、リーヤの顔は青ざめていく。
「ねえ、ちょっと待って。実技試験をスラっちと受けることって可能なの?それに、そもそも……」
リーヤの言葉を遮るように間に割って入って、ユウリの肩を叩いた人物がいた。
「そこの君、ちょっといいか」
シルバーデビルを連れた男に声をかけられたユウリ。彼ははてなを浮かべていたが、リーヤは全てを理解してしまった。ユウリは、スライムを連れてはいけないということを。スカウトリングを持たない彼がスライムを連れているのは、協会で定められたルールから逸脱していることを。
「私たちバトルGP協会は、全てのモンスターマスターを把握している。君のような者はいなかった。にも関わらず、そのちっこいのはなんだ。同行、願えるかな」
「ちょっと何を言ってるのかさっぱり……」
男の腕を振り払って抗議するユウリに、震えた声で彼女は囁いた。
「行こう、ここで逆らったら、きっと後悔する。嫌な予感がするの。ユウリ、どうか堪えて……」
スラっちを乱暴に捕まえた男の後ろを、二人は鎖でつなげられた奴隷のようについていくのだった。