professional of joker 作:たいたい35
「クギャウゥゥ!」
空に突き抜ける甲高い威嚇の声。それは間違いなくユウリ一行に向けられていた。
「信じられないくらい怒ってるじゃない……。どうやってスカウトするっていうの?」
「ふふーん。リーヤ、ちゃーんと見てて!」
どうしてそんなにテンションが高いのよ、リーヤの呆れ声は彼の高まるテンションにかき消された。ヘルコンドルはランクにしてCランク。クラス分けのみで比べたのなら、スラっちもキャロルも遠く及ばない。ユウリがそれを知っているかは分からないが、勤勉なリーヤは図鑑を読み込みそれを知っていた。こちらを凝視するヘルコンドルを好奇の眼差しで見つめ返す。束の間の静寂の後、スライムが一匹飛び出した。
「スラっち、キャロル、行くよ!」
彼の両脇からクロスを描いて飛び出すスラっちとキャロル。ユウリのスカウトリングから放たれた翡翠色のオーラに包まれた二匹は、勢いそのままにヘルコンドルにタックルを仕掛けた。ぎゃぅぅう、反動で吹き飛ばされたヘルコンドルはユウリを睨みつけて静止した。スカウトリングの効力を纏った二匹の攻撃を噛み締めているようだ。
「動き、止まったわ」
「どうだ、僕の仲間は強いんだ!さあさあ、君も僕たちと一緒に行こう」
「ほんとに大丈夫なの?あの真っ赤な目、とても仲間になってくれるとは思えないわ……」
「大丈夫大丈夫、見てて!」
えっへんと胸を張るユウリ。しかしそんな余裕の表情も虚しく、我に返ったヘルコンドルがスラっちに襲いかかった。あれっ、どうして!ユウリが頓狂な声をあげているうちに、鋭い爪が伸びてきた。間一髪のところでその刃は空を斬る。さすがのスラっちも、冷や汗をぷるぷるの身体に滲ませて、ユウリの後ろに隠れた。
「キャロル、一旦引いて」
さっきの慌てようが嘘のように冷静に指示を出すユウリ。やっぱりCランク、この森ではレアなモンスターだろうし、なかなかうまくいかないな。でも、僕は君が欲しいんだ!彼はきりっと白い歯を見せた。
「全然ダメじゃない!やっぱりまだ敵わないわよ!」
「真正面からでダメなら、あの子の弱点をつくしかない」
「そんなこと言ったって、どうするって言うのよ」
「危ないから、リーヤは離れてて」
決心を含んだような冷たい声に動揺したのか、理由を聞くこともなく数歩後ずさった。スラっちとキャロルを自分に寄せて、リングを掲げた。またしてもその光はスラっちとキャロルを包み込んだ。
「僕が合図を出したら二人の出番だよ」
重心を落とし、思い切り駆け出すユウリ。その恵まれた身体能力で木々の間を縫うように移動し、ヘルコンドルの注意を引きつける。
「こっちこっち、僕はこっちだよ!」
痺れを切らしたヘルコンドルがぎゃうと大声をあげた時、ユウリは生い茂る雑草の中から飛び出した。
「ぎゃるうぅぅぅ!!!」
踊らされた怒りに震えるヘルコンドルがアイスピックよりも鋭利な鉤爪で彼に襲いかかる。いける、ここが踏ん張りどころだ、僕!やるしかないんだ、僕がここで彼を足止めする!
「ユウリっ!」
リーヤの叫びが届いた時には、その剣はユウリの腕に届いていた。両足、六本の爪は彼の腕に深く抉り込み、骨まで届こうとしている。想像を絶するような出血と悲鳴が辺りを惨状に変えた。
「ぐぅあああぁぁぁ!!」
「ユウリ、ユウリ!?何を、何をしてるのよ……!早く、早く逃げて……!」
錯乱し、泣き崩れるリーヤ。その豪脚に爪を食い込まされているユウリに逃げることなんてできない、けれどもリーヤは必死で訴えていた。しかし、それがユウリの狙いだった。ユウリの挑発に乗り、怒りのままに爪を深く深く届かせてしまったヘルコンドルも、彼から離れなくなっていたのだ。さらに、ユウリは持てる力を全て使い、逃げられないよう抱きしめた。機動力が高く空も飛べるヘルコンドルは、どんな生物よりも自由に動ける。ゆえに「いざとなったら」をまるで想定していないのだ。その自由を絶たれた時、必ずパニックを起こす。自分を守ることなんて到底叶わず、無防備を晒してしまう。ユウリはそれを知っていたのだ。
「二人とも、今だ……」
全身を焼かれるような強烈な痛みと薄れていく意識の中で、ユウリはリングに力を込めた。彼の蚊の鳴くような小さな声を確かに聞き取った二人は、大地を強く蹴り飛ばしてヘルコンドルに向かっていった。大翼を扇子のように振り回して脱出を図るが、ユウリの束縛からは抜けられない。痛みに悶えながらも、彼は絶対にヘルコンドルを逃すことはしなかった。
「ぎゃぅぅうう!」
会心の一撃、スラっちとキャロルの体当たりは脇羽辺りに直撃し、その衝撃で身体はユウリから離れた。よろめき、ふらふらと後退する。ああ、血の気が引いていく。視界が霞んでくる。同時にユウリも静かに血の海に倒れた。
「ユウリ、ユウリ!?起きて、起きてよ!」
涙で顔がぐしゃぐしゃに乱れている。服が血で濡れることなんてお構いなく、ユウリの身体を揺さぶっていた。お願い、死なないで……、あなたがいなくなったら、私……。嗚咽のような掠れた泣き声に、ユウリの身体が僅かに動いた。
「ねえ、リーヤ、あそこ……」
「えっ……?」
震える指先の向こう、リーヤの背後には、心配そうに彼を見つめるヘルコンドルの姿もあった。もちろん、キャロルとスラっちの姿も。
「えへへ……、スカウト、成功してよかった……。さっきまでは赤くて怖かったけど、つぶらでかわいい目だね……」
ユウリ、ユウリ!何度呼びかけても、彼の瞳は閉じたまま動かない。けれど、仲間に囲まれる彼の表情は、まるで眠っているように穏やかだった。