professional of joker 作:たいたい35
「ただいまー。さ、ご飯だご飯だー。ユウリクンはリーヤクンにベッドまで連れてってもらうとして、今日はあたしが腕を振るっちゃうぞー!」
拠点に到着した頃にはすっかり満月が台頭し、モンスターたちの顔にも疲れが見え始めた。アジトの外、暗夜に賑わう酒場や家屋から漏れ出るのはアルカン繁栄の光だった。ドラキッドも例外ではなく、初めての遠征を終えた二人を労う仲間たちが出迎える。それはルタやフューンだけではなく、もちろん魔物も含まれていた。
「待ったリーダー、アンタはまともな料理なんかしないだろう。この前だってルタがいなかったらアルカンは火の海に、いや獄炎の嵐になっていた」
「あの時はほら、酔ってたから……。今日は見て!こんなにシラフなあたしをさ!」
「はあ、ま、いいか。ルタが見張ってくれていればなんとかなるだろう。俺はとりあえずユウリを運ぶから、悪いけどリーヤ、手伝ってほしい」
ドア越しにティアラが心配そうに見つめている。ユウリを運んだ彼女からしてみれば、快方に向かうまで様子を見たいと思うのは当然のことだが、やはりアジトで暮らすにはその身体は大き過ぎる。それに気づいたソレアは扉を開け、しもふりにくを与えると共にそっとティアラを撫でた。
「お疲れ様、ティアラ」
ソレアは優しく微笑みかけた後、ようやくキッチンへ。ルタも子犬のように彼女のそばへ。そしてユウリは自室のベッドへと運ばれていった。
「この治療はキートスのベホマか。あんなぶっきらぼうでも底はやはり最強のマスターだ。モンスター同士の治癒は二流でもできるが、モンスターに人間の治癒をさせるのは数段階レベルが上がる。それを易々とこなすキートスも、仕込んだソレアもさすがGP優勝者ってとこだな」
寝息を立てるユウリをまじまじと見つめ分析している。隣のリーヤは少しむず痒い。何も言えずにいると、口を尖らせてフューンが尋ねた。
「あのヘルコンドルは、ユウリが?」
「はい、気を引くために、捨て身で向かっていきました」
「俺は硬派な人間で、データの虫だ。今からリーヤの気に障ることを言うかもしれない。キレるのは構わない、だが少しだけ留まって聞いてほしい」
廊下の奥から喧騒が聞こえてくる。しかし、この部屋の静寂をいっそう引き立てた。ぎゅっと拳を握る手に汗が滲む。
「スラっちはただのスライムだ。キャロルもただのドラゴンキッズ、さらにその中でも一人前ですらない。ランクで言えばFとF、そんなパーティでヘルコンドルに挑むなんて、自殺行為も甚だしい。ソレアがいなかったら間違いなく命を落としていた。そう、データの通り、ユウリはいたって正常な流れに沿って死んでいた」
「でも――」
耐えられない。ユウリの行動は決して褒められたものではないけれど、それでもリーヤは彼を信じたかった。彼の無上の愛とその勇姿、そして身を賭したスカウトは正しかったと。唇を噛み、反論しようとしたその時、遮るようにフューンは言った。
「でも、ユウリは生きている。そう言いたいんだろ?ああ、その通りだ。あろうことかユウリはヘルコンドルのスカウトに成功し、傷は負っても生き延びた。その力の差は誰が見たって明らか、でも彼はスカウトしてみせた。自らの力量を遥かに上回るモンスターを」
希望に満ちた瞳だった。その手は少し震えている。それは怒りでも呆れでもなく、興奮だった。
「ヘルコンドルと冒険したい、それだけの思い、しかしどこまでも純粋で高潔なその思いが常識というデータを吹き飛ばし、スラっちとキャロルの士気を高めた。彼の思いに報いたいと全力で相手にぶつかる。まるで童話みたいだ、こんなことがあるのか、俺は今どこまでも昂っている」
いつか見たソレアに似ている。案外似たもの同士なのかもしれない。
「データをユウリの強さが打ち破った。じゃあここで問題だ、リーヤ。これは奇跡だと、君は思うか?」
饒舌に語っていた矢先、突如向けられたクエスチョン。ちょっと待ってくださいと慌てる隙もなく、話を続けてしまった。
「奇跡じゃない、これこそユウリの実力であり、強さなんだ。つまり、ソレアが惚れた部分だ。闘技場で行われた実技試験、彼がベビーパンサーを相棒のように従えた時、奇跡を起こしたと思った。普通、人間が魔物を一瞬で使役するなんてありえないからな。まして訓練も積んでいないのならなおさら。だからまぐれの奇跡だと高を括っていた。しかし今、彼はヘルコンドルをスカウトしてみせた。俺は気づいてしまった、これが彼の唯一無二の強さなんだと」
ユウリの眉が少し動いた。起きることはなかったが、まるで声に反応したように。
「常識を顧みない破天荒さと野生味、そして勇気とモンスターへの愛、これからバトルGPを優勝する最強のモンスターマスター、ユウリの正体はこれだ」
へへっ、へへへっ、闇商人のようなだらしない笑い方だった。しかしフューンは今、あらゆる希望をたぎらせている。ユウリのモンスターマスターとしての適性の高さ、これから積み上げていく実績。ああ、俺は一体どれだけの期待をユウリに向ければいいんだ。彼の行く末が楽しみで楽しみで仕方がない。
「データが通用しない奇跡をいくつも起こし、その奇跡が実力だと証明した。ユウリがこれから何を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。個人としても研究者としても、な。話が長くなってしまった。これではリーダーのことは言えないな。さあ、今度はリーヤの番だ」
「手、ユウリから退けてほしいです」
少し時間を空けて、ぼそっと不貞腐れるように言った。ユウリはまだ休んでいるのだから、ゆっくりさせてあげないと。彼を起こしてはいけないと、フューンとは対照的な小声だった。
「ユウリがすごいのなんて、当たり前です。ユウリは自然も動物もモンスターのことも大好きだから、みんなが応えてくれる――。だからかっこいいんです。フューンさんに分かってもらえて嬉しかったし、ちょっと信用できました。でもそんなペタペタ触るのは、やめてください。ユウリが嫌がってます」
もちろん彼からの反応はない。しかしそう言われた途端、ユウリが少し寝苦しそうにしているように映った。へへっ、なるほど、そういうことか。フューンは大きく頷いた。最強のモンスターマスターになるであろうユウリに不可欠な最後のピースは、リーヤなんだ。
「ユウリは自分を顧みないし、自己犠牲を厭わない。だからこそリーヤ、君が守ってあげるんだ。物理的じゃなくていい、あえて優しい言葉をかけてあげなくてもいい。その時々、ユウリをどこまでも想う君の言葉が、彼に最適解を与えるはずだ」
「えっ、どういうことですか……」
腑に落ちない様子の彼女に対し、フューンは表情を氷のように崩すことはない。いたって真剣な顔色をしている。自然体でいればいいんだ、そう付け加えた。
「要はリーヤが思っている以上に、ユウリは君を意識しているってことだ。大切な仲間としても、もちろん女としても。おお、ソレアの言う通りだ。耳まで赤くなってるじゃん」
「な、もう、からかわないでください!せっかくちょっと信用できると思ったのに、酷いです」
「へへっ、研究者ジョークだ、軽く笑い飛ばしてくれ。でも軽くってのは、半分本気ってことだ。俺やリーダーの忠告は聞かなくても、リーヤの声になら耳を貸すこともあるってのは本当だ。ずっと一緒にいた人の言葉はやまびこより響くってもので、リーヤがユウリの言葉一つ一つに胸を躍らせるように、彼もまた君の言葉を気にしているのさ。ちなみに、こういうタイプはデータ上、案外簡単に恋に落ちたりするものだ。まあ、俺にそんな経験はないが」
「そ、そういうものなのかしら……。ユウリが私の……」
ぶつぶつと呟く彼女を横目に、フューンがキッチンの様子を見ようと立ち上がった時、ユウリが目を覚ました。
「あれ、リーヤ……?」
「ユウリ……!もう、やっとで起きた。何百回も心配したんだから!ソレアさんがご飯作ってくれたみたい、早く行きましょ」
「僕のこと、いつもみたいに怒らないの?また危険なことして!って」
「今回だけは許してあげる。ちょっとだけ、ほんの少しだけ、かっこよかったから……」
「リーヤ、ちょっとご機嫌?」
「ふふっ、そう見える?」
リーヤの頭上に音符が出ている。どうかしたのかとフューンに聞いてみるが、わざとらしくはぐらかされてしまった。彼が眠っている間にどんな会話があったのか、彼に知る術はなかった。しかしそれよりも、怒られなくてよかったと、とりあえずほっと胸を撫で下ろすのだった。