professional of joker   作:たいたい35

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牧場主のファスリアン

夕食後、研究室には二つの影があった。

 

「ユウリクンがまさかヘルコンドルをスカウトするなんてね。あの森の生態系じゃ上の方だったんだけどなあ」

「彼はこれからだ。いずれはドラキッド最強のマスターになるかもしれないな」

「おっ、あたしを差し置いて?どうやら彼が相当お気に召したようだ」

「勘違いするな、ユウリとリーヤのセットで俺は目をかけているんだ。ユウリだけならアンタには勝てない」

 

付箋だらけのレポートをペラペラめくりながら、悍ましい色のフラスコを傾けながら、どうも落ち着きのない子どものように興味津々に部屋を見渡していた。部屋の実験道具やレポートが気になるようだ。

 

「ユウリクンが本当にあたしより強くなったら、それに越したことはないんだけどね。急がず弛まず、まずはバトルGP、開会式は一週間後、いよいよだ」

「ヘルコンドルがいるならユウリを出してもいいだろ。配合は後で体験してもらえば万事OK、なんとか土台には立てるはずだ」

「まあフューンがそう言うならちょっと話をしてみますか。あ、そうだ。闘技場にも行ってもらわないと。まだまだ楽しみが尽きないね」

「まったくだ」

 

 

 

日は流れ、ユウリたちは牧場に来ていた。スカウトしたヘルコンドル、「バット」はなかなかのサイズのため、ソレアが懇意にしている牧場で暮らしているとのことで、二人に会わせたい人物もいるらしい。その牧場はアルカンから馬車で一時間ほど、山林を抜けた先に存在している。山道の荒さに酔いながら、キメラの奇襲でスラっちが投げ出されそうになりながら、一行は森に囲まれた場所へ。ドラキッドがお世話になってる牧場だよ、馬車を降り、ソレアの案内で少し歩くと、二人の視界いっぱいに開けた芝生が飛び込んできた。

 

「な、なんて広い牧場なの……!」

 

空いた口が塞がらない。敷地ギリギリに打ち立てられた柵がつくる外周は、目線でなぞるのも一苦労だ。ごく平凡な牧場のはずなのに、雄大で冷涼な空間を渡る風が肌をそっと撫でる。余韻も束の間、ソレアは小さな小屋を指差した。牧場の脇に佇む木造の小屋には管理人が住んでいるようだ。

 

「や、久しぶり。調子はどう?相変わらず清潔に保たれてるね、牧場は」

「あ、ソレアさん。久しぶりです、いらしてたんですね。ちょっと待ってください、すぐに片付けますから、って、あわわ!」

 

雷のような大音が響いた。小柄な少女が転倒し、抱えていた書物を大量にばら撒いたのだ。

 

「いたたた……。ごめんなさい、またやっちゃいました」

「くくっ、相変わらずだね、君は」

 

ソレアは数冊拾って棚へと戻した。荷物を落とすのには慣れているのか、一瞬目を離した隙に書籍は棚に戻されていた。しかしそれでも、小屋の中はお世辞にも整理されているとは言えなかった。資料が乱雑に積まれ、窓の光を半分遮っている。

 

「いけないですね、今年こそは整理整頓を目標にしていたのに」

「ここは君しか使わない。牧場の子たちさえ健康なら、どれだけばら撒いても散らしても構わないと、あたしは思うよ。あたしが君を買っているのはそんな理由じゃないからね。ところで先日、ヘルコンドルがここに来たと思うけど、元気してるかい?」

 

あっ、それなら!頭のくせ毛をピンと立てて、彼女は資料の山を漁り始めた。

 

「紹介しよう、彼女はファスリアン。この牧場の主だよ。二人と年齢は大差ないけど、かなりの手腕の持ち主だ。ドラキッドの中でも大型のモンスターたちはこの子の元で暮らしてる。当然、ユウリクンから引き継いだバットもね」

 

ありました!紙束から自信満々に一枚取り出すと、そこにはバットの写真とステータス、その他データが詳細に記録されていた。牧場に到着してからの体重の変化、羽と爪のツヤ、クチバシの欠けに至るまで細かく、それでいて克明に刻まれている。

 

「すごい、まるで図鑑みたいです」

「バット君はここに来てからも元気でしたよ!最初は一匹狼だったのですが、今は他のみんなとも仲良くしてくれてます。でも、羽を広げた時、右翼に違和感がありました。骨折を隠し切るのは難しいので、小さな傷だとは思いますが、庇うようなクセがつくのはいけません。ぜひ気にしてあげてください。また、クチバシの色も白く、カルシウムが足りていません。なので昨日から魚介と豆を多く使った食事を摂ってもらうようにしているんです。好き嫌いは良くないですから!」

 

よく見ているんですね、その言葉も飲み込んでしまうほどの観察眼だった。遠目から見ただけでも牧場には何十匹と魔物がいる中で、バットの性格と弱みを性格に見抜き、改善に努めている。さっきまでは慌ただしく頼りなさそうな少女だったのに、今は別人のようだった。バットのレポートに記載された赤字の量が物語っている。

 

「ユウリクンがモンスターマスターとして天賦の才があるのなら、世の中にはこういう天才もいるんだ。ドラキッドや他のマスターも、彼女に支えられているってわけ」

「天才だなんて大袈裟な、照れちゃいますよ、えへへへ……」

 

今度は年相応に照れている。感情豊かな彼女が少しかわいらしくて、リーヤはクスッと笑った。彼女の笑みを見たファスリアンは目を大きく開き、子犬のように駆け寄った。

 

「あなたがリーヤちゃんですね!あわわ、お噂通りの美人さん……。そちらがユウリ君ですね!自己紹介が遅れてしまいました、牧場主のファスリアンです。皆さんに託してもらった子たちのお世話をしています」

 

スラっちが机に飛び乗ると、台上の紙がひらりと舞った。たまらずそのままファスリアンの胸へとジャンプ、狭い小屋の中でなんとか受け止めたがその勢いで倒れてしまった。

 

「いたたた……、スラっちさん、お怪我はないですか?」

 

満面の笑みで身体をファスリアンに擦り付けている。派手に尻もちをついたファスリアンはえへへと小恥ずかしそうにしていたが、微笑ましかった。ダメだよスラっち、ユウリに抱き抱えられ腕の中に収まった。

 

「牧草が綺麗なのも、彼らの寝床の清掃が行き届いているのも、モンスターみんなが健康でいられるのも、ひとえにファスリアンの努力の賜物だね。それを可能にするのは、他でもない彼女のモンスターへの愛情だ」

「ファスリアンさんも、モンスターが大好きなんですね」

 

リーヤはてっきり、その言葉に食いついてくると思っていた。しかし表情は芳しくない。何かから目を背けるように下を向き、顔を曇らせる。

 

「ボクに魔物が大好きだなんて言う資格はありません。僕は、逃げただけですから……。いけない、もうこんな時間。掃除に行かないと!皆さん、こんな山奥ですが、ゆっくりしていってください」

 

ファスリアンは逃げるようにその場を立ち去った。リーヤは咄嗟に待ってと手を伸ばすが、もうそこにはいなかった。

 

「私、何かいけないことを言ってしまったの……?」

「うーん、頼りのファスリアンがあの調子なのはいただけない。ちょっと探りを入れてみますか。しかしリーヤクン、思い詰めてはいけないよ、彼女は確かにモンスターが大好きなはずだ。並々ならぬ思いがあるからこそ、彼女は悩んでいるだけさ」

「と、とりあえずご飯にしようよ!僕、さっき森に美味しそうな野草が生えてたの見逃さなかったんだー。サバイバルは得意分野です、僕のスキルをソレアさんに見てもらわなきゃ!」

 

リーヤが落ち込んでいるのは誰の目にも明らかだった。しかしユウリにこの空気は耐えられない。俯き考えこむ彼女を前にして、いてもたってもいられなかった。

 

「後はソレアさんに任せて、リーヤはお腹いっぱいご飯を食べればいいさ!全部忘れちゃうようなとびきりのサバイバルメニューをご堪能あれ!」

 

スラっちを抱えて森へと走っていってしまった。行っちゃった……、返事をする間もなく、口はポカンと開いている。我らがドラキッドのリーダーは、どこか誇らしげだった。

 

「どこまでも明るい子だね、ユウリクンは。あれだけ張り切っているんだから、昼は彼に任せちゃおうか。あたしたちは牧場見学でもして暇を潰そう」

 

まるでこの展開を予想していたかのような口ぶりで語る。ファスリアンが行ってしまった以上、手持ち無沙汰だった彼女はユウリが戻るまでソレアについて行くことにした。

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