professional of joker 作:たいたい35
食事を終えて街に戻ってきた二人とスラっち。今度はスラっちを隠すように抱き抱えて道の端を歩いた。リーヤとしてはもう少し彼の知識を伸ばそうと思っていたので、次の試験まで授業ができるような場所を求めていた。そんな時、ジョッキいっぱいにビールが盛られた看板を発見。昼の酒場なら喧騒もそこまで大きくないだろう、そう予想したユウリたちはさっそく中に入っていった。店内は予想に反し静謐そのもので、客は一人しかいなかった。マスターも高級そうな布でグラスを拭いており、これでは酒場というよりもバーだった。
「な、なんか大人っぽい雰囲気だね」
「お客さん、緊張していますかな。どうか肩の力を抜いて、リラックスしていただけると幸いです」
グラスを拭く手を止めて、語りかけるように柔らかく微笑んだ。カウンターに並ぶカクテルは色とりどりで、子どもが見たら喜んで飲んでしまいそうだった。
「ワインもありますよ。アルコールの少ないものもございます」
「僕はそんなにお酒強くないから、優しいカクテルでオススメのやつください」
「わ、私も」
シャンデリアの灯りの下で、マスターの手捌きの音が響き渡る。シェイクの音が心地よく、その佇まいが美しくて、見惚れてしまっていた。
「そこのスライム、君の?」
椅子を二つ隔てたカウンターの端の席。一人静かに飲んでいた女性がユウリに声をかけた。スラっちはここに来るまで誰にもバレないように隠していたし、パッと見ただけでは分からない。まして、この人はこちらの方を見向きもせずワインを喉まで運んでいた。スライムの気配になんて気づけるはずがない。驚きを隠せない二人のもとに、その女は足音も立てずに近寄った。
「すごいね、君。リングも無しにモンスターと分かり合うなんて、並の人間じゃできないよ。よっぽどのセンスの持ち主か、野生に親しんだ人間か、あとはバカだけ」
「また、私たちを貶めるんですか」
敵意を剥き出しにしてリーヤが反抗する。それに対し、女は笑いながら下を向き、無抵抗だと言わんばかりに両手を挙げた。
「おっと、すまないね。そういうつもりじゃなかったんだけどな。あたしは別にリングの有無なんてどうでもいい。周りの人間がモンスターに変に日和る意味も分からない。ただ、君に興味があるんだ。ここに君達が入ってきた時、驚いたよ。そこのスライムの気配、とてもモンスターとは思えない。卵から墓場まで懇切丁寧に育てられたインコのように、暖かいオーラをまとっていた。その正体はきっと、君たちとスライムとの深い深い絆なんだと思ってね。リングの関係を超えた本当の絆。どうやったかあたしに教えてくれないかい?」
距離を縮めようとする女の前にリーヤが立ち塞がる。
「ちょっと待ってください。何言ってるか全然わからないです。だいたい、あなたは何者ですか」
「これはいけない。君たちに夢中ですっかり名乗るのを忘れていた。あたしはソレア、ドラキッドっていうチームに所属してる。この辺じゃ結構有名なんだけど、君たちは旅人みたいだし、知らないかな?」
袖を捲って腕の焼き印を見せつけた。確かにドラキーの跡がくっきり残っている。
「賊ですか、脅しですか。私たちはそんなのに屈しません!」
「待った待った、誤解だよ誤解!あたしは君たちとそのスライムとの関係を知りたいだけなんだ。リングを持ってないってことは、今日の試験受けにきたんでしょ?それなら試験までドラキッドの拠点でお話ししようよ」
なだめるように歩み寄るソレアに対し、戸惑うユウリと後ずさるリーヤ。「参ったな、これは。ビビらせちゃったか」そう言ってソレアは頭をかいていた。
「分かった、そういうことなら、これならどう?」
ソレアの左手、薬指に光るのは、虹色の輝きを持つスカウトリングだった。ユウリには何のことかさっぱり分からなかったが、リーヤは途端に絶句していた。
「虹色の、スカウトリング……」
「お、分かってくれたかな。それなりのいい子ちゃんじゃないとこれはもらえないからね。どう、信用してくれたかい?」
「分かり、ました……。少しだけ、少しだけなんだから」
「決まりだね」
終始ソレアにペースを握られたまま、交渉は終わってしまった。その後、引っ張られるように店を後にしたのだった。
「じゃ、マスターも元気で。お会計は次来る子につけといて。もちろん、この二人の分もね」
「了解でございます。ソレア様、ご武運を」