professional of joker   作:たいたい35

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ドラキッドのソレア

酒場から徒歩数分の路地裏に二人は案内された。路地裏といってもジメジメとした陰気さはなく、さっぱりとしていて気味悪さは感じなかった。

 

「ただいまみんなー。今日はお客さんがいるよー」

 

周囲を伺いながら室内に足を踏み入れても、一人しかいなかった。

 

「あれ、シェラだけか。あとの二人は?」

「奥」

「おっけー。ま、だべってたら出てくるでしょ。ソファ座っていいよ。お茶持ってくるからちょっと待っててねー」

 

拠点というよりは一軒家のように見える。会議に使用した形跡のあるホワイトボードや、洗い物が溜まっているキッチンなど、どっちつかずな印象を受ける拠点だった。

 

「はい、お茶どうぞ。あ、この子はシェラね、警戒心が強い子だけど、慣れたらたくさんお話ししてくれると思うから、今は許してあげて」

「よろしくお願いします、シェラさん」

 

ユウリの言葉に反応することもなければ、一瞥を見ることもなく奥の部屋へと去ってしまった。それと入れ替わりで、華奢な女の子がやってくる。

 

「ソレア、また新しい人を見つけてきてくれたんだね!じろじろ、うーむ、ルタよりちょっと年上かな?私の名前はルタ!おにーさんおねーさん、よろしくね!」

 

水晶のような丸い瞳を二人に向けて、興味津々のようだった。その陰には、一匹のぶちスライムを連れている。

 

「この子はぶっちー、ルタの友達なの!ほらぶっちー、ご挨拶だよ!うんうん、よくできました。とってもいい子だから仲良くしてあげてね!」

 

ピキーッ!その声はスラっちより一回り高い音だった。隠れていたスラっちも思わず飛び出し、共鳴している。初対面のはずだが、ままごとをする子どものようにじゃれあっていた。

 

「ルタもあたしの仲間で、ドラキッドのメンバー。シェラも含めて合計四人で、だからほんとはもう一人いるんだけど、今は研究で忙しそうだ。研究の虫みたいな人だからきっと配合について文献を漁ってるんだろうね。さ、最後にあたしの自己紹介といこうかな、ちゃんとしたことはまだ何も言ってないしね」

 

ソレアはスカウトリングを自慢げに見せびらかして、髪をかき上げた。指輪に埋め込まれた宝石は、虹のように鮮やかに光り輝いている。

 

「改めて、あたしはソレア、ここドラキッドのリーダーやってるよ。そして、第六回バトルGPの覇者。そういうことで、結構融通が効くから何かしてほしいことがあれば何でも言ってちょうだい、できることなら手伝うから」

「ソレアは魔物と人間が共存できる世界を目指してチームをつくったの!とっても強くて、とーっても優しくて、街のみんなから慕われてるんだから!」

 

ルタの無垢な笑顔が二人を貫く。目尻の下のドラキーのタトゥーが印象的だった。もしかして、僕はとんでもない人と応対してるのかな、そんな疑問に答えるように、リーヤが言葉を放った。

 

「虹色のスカウトリングは、協会が主催する闘技場のSSランクを制覇しないと貰えない物なの。ソレアさん、モンスターマスターとしての実力はトップクラスみたい。私が思っているより悪い人じゃないのかも。ねえユウリ、ちょっとだけこの人たちの話を聞いてみましょうよ」

「う、うん、リーヤが言うなら」

 

さてと、どっしりと対面のソファに腰かけたソレアは、ワインをルタに持ってこさせる。

 

「あたしがモンスターマスターになったのは、モンスターへの価値観を変えるため。かつて、人とモンスターの力の差は明らかだった。強靭な身体を持ち、牙を持ち、爪を持ち、そんなのに人間が勝てるわけがない。モンスターを恐れ、慄き、逃げ惑っていた。そんな中、ある男がモンスターをこちら側に迎えようと考え、『バトルGP協会』を発足した。研究の末生まれたスカウトリングは、まさに革新的だったよ。埋め込まれた宝石はモンスターの凶暴性を吸収し、味方に引き入れることを可能とした。それによって人類はモンスターとの共存という新たな境地に達し、さらに発展していった。はず、だったんだけどね」

 

グラスに注がれたワインは、すっかり空になっている。語るソレアも先ほどまでの明るさは消え、前屈みになってうつむいている。思い出したくないことを思い出してしまったようだ。指先は確かに震えていた。

 

 

「自分たちが優位に立った瞬間にこれだ。娯楽のためむやみやたらに虐殺し、素材をインテリアにした。あれは共存じゃなくて、吸収だったよ。協会を後ろ盾にモンスターを蹂躙するくせに、街でその子のような半分野生のスライムを見たら恐怖し、狂ったように排他的になるんだ。あーあ、笑えてくる。ほんとはスカウトリングなんかよりもずっと強固な絆なのに。だよね、スラっちクン」

 

ピキーッ、ソレアの微笑みにも全力の笑顔で応えるスラっちこの笑顔のどこに恐れる要素があるのか、嗜虐を唆られる要素があるのか、ソレアにはやはり理解できない。ただのかわいいスライムだ。

 

「だからあたしはどっちかっていうとモンスター側に立って、皆のモンスターへの価値観を変えたい。モンスターの地位をもっと上げたいって言ってもいいかもね。そうすれば人もモンスターも幸せに共存できる世界がきっと……」

 

自分を奮い立たせるソレアのその姿は、まるで誰かに誓ったようだった。その拳は強く握られ、一筋の涙が頬を伝った。その姿に、ユウリとリーヤの警戒心は氷のように静かに溶けていった。

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