幼馴染
「何かあったか?最近なんか疲れてるぞ」
「ん?…あー、実を言うとさ、最近なんか変なのが見えるようになったんだよね」
「変なの?」
とある中学校の教室の中で机を挟んで向かう二人。
片方は頬杖をつき、片方は椅子でシーソーを漕いでいる。
頬杖をついている方は学校でもかなり問題児扱いされている問題児、
そして変なのが見えるようになったのは覚中の方らしい。
「何か…人?なのかどうかも分かんないんだけどとりあえずすごい気持ちの悪い形してるやつ。ものによっては色がついてたりするんだけど…誰も気づいてないみたいなんだよね」
「…ふーん」
「できればもうちょっと興味を持ってほしかったなぁ…!?聞いてきたのそっちでしょうに…!」
と一度落ち着いてからはぁ、と小さくため息をついて、頬杖をついて覚中は言う。
「やっぱりお化けとかそういうのっているのかなぁ。それか私がイカれたか」
「……、いるね」
「…んぇ?」
割と普通に返された覚中と、割と普通に返す夏油。覚中は眉間を少しほぐすようにして聞き直す。
「ごめんなんて?」
「だから、お化け…と言うより、俺達は呪霊とか呪いって呼んでるけど、そういうのはいるよ」
少しの間ポカーンとしてから、覚中はクスクスと笑ってからそっか、とだけ言った。
「…何がおかしい」
「いや、ごめんね?変なこと聞いたなって。それに…まあ、ありがと。少し気が楽になった」
「何がだか」
次は夏油がはぁ、とため息をつくと覚中は、またふふふ、と笑って秘密、とだけ言った。
幸い、この教室には下校時間を少し過ぎていたことや、
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「傑ってさ、もうちょっと人付き合いとか考えないの?」
「人付き合い?何でそんなもの」
下校中、そんな話をしている二人。
夏油は基本一匹狼というやつで、あまり周りと関わろうとしない。まあ周りが近づきたがらないというのもあるが、それも大本の原因は彼自身にあるわけで。
「ただでさえガラの悪い見た目してるんだからせめて口調とか態度だけでも何とかしようとか考えないの?」
「…さあね」
「間があるってことは考えないわけじゃないんだ」
「うるさいよ」
カラカラと笑いながら歩く覚中の隣で夏油は頭をかきながらため息をつく。
そこら編のチンピラに舐められるのはきっぱりゴメンだが、身長差おおよそ15センチメートル程の幼馴染にいじられるのはさほどだった。こういうコミュニケーションを取っていることも知っていたからだ。
と、覚中は夏油の進行方向に立ち、人差し指を彼に向けて続ける。
「で、やろうとは思ってもやり方が分からない、と」
「ちょっと、勝手に話進めないでくれるかな?ん?」
「でも人に聞くのはなんとなくプライドが許さない」
「おいおい」
「そのままずーっと置いておいて、ズルズルと今のままー」
ふらーっ、と両手を広げて彼女はくるくると煽るように円運動を始めた。
「………」
またため息を一つ。
何が問題かって当たっているのが問題だ。普段ふわふわしているくせして何故こういうところの勘がいいのか。
「図星かな?なら私が教えてしんぜよう」
「何様だよ」
「外様」
「徳川幕府に付き従ってな」
分かるんだー!と覚中は、両手の指を合わせてまたカラカラと笑う。
舐めてんのかよ、と言いながらも、まあ悪い気はしない。覚中も本気で分からないと思っているわけではないのだ。まあ要するにいつものいじりだ。
そういえば、いつもこんなやり取りをしながら帰っているという事を中学のスクープに取られて学校新聞に出され、新聞部に夏油が殴り込みに行き、いつものプリントの束で作ったハリセンで覚中が彼の頭をホームランしたのは記憶に新しい。
…文面に書き出したら書き出したでどんな状況だこれ。
なお、ハリセンは夏油が何かしらやらかすたびに横から覚中が引っ叩く用の自前である。
「そうだなぁ…傑とかなら、一人称変えるだけでもだいぶ印象変わるんじゃない?ほら、私、とか」
笑うのをやめ、顎の下に人差し指の腹を添えて少し考えるふうにした覚中はそんな提案をした。
何で、と聞いてみれば、割と頭いいし、ガラは悪いけど顔も悪くない。あとちょっと大人びて見えるから、とのこと。
「私、か…うっわ、違和感が半端ない…」
「あはは、慣れだよ慣れ。私も元々一人称ウチだったし」
自分で言っておきながら口元に手を当てて眉をひそめる夏油を見ながら、覚中は軽く言った。
「…え、マジ?」
お前が?と目を丸くしながら言う夏油に、覚中は首を縦に振って答える。
「私が傑の小学校に転入する前だけどね。元々はそっちだったんだけど、ちょっと色々あって変えたんだ。ま、今じゃこっちに慣れちゃって今私が「ウチがー」とか言ったら違和感街道まっしぐらなんだけど」
あははー、と笑う覚中。
それはそうだな、と言いつつ夏油もそれには同意する。もし俺が一人称私なんかにしたらクラスの奴らはどんな反応するんだろうかなぁ、なんて考えながら夏油は覚中の隣を歩いて帰っていった。
夏油がその隣で感知して見るに、やはり覚中には呪力があった。
しかし、それでも制御できているという訳ではなく、漏出も少しあるし、この量を漏らしているとそれこそ呪霊の餌になりかねない。
そう察知した夏油は影切りという準一級呪霊に彼女、覚中心音の身に危険が迫れば助けるように、と指示を出して彼女の影にこっそりと忍ばせた。
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そんなこんながありつつ夏油が呪術高専に進むことになった頃。
「そういえば傑は呪術師ってやつになるんでしょ?呪術…なんとか高みたいなのに行くって言ってたよね」
「あー、そうだね。なんでまた?」
「いや…別に」
「…元気ないね、何かあった?」
「………まあ、無かったわけじゃないけど…あ、やっぱ嘘、普通にあった」
いつもより笑う回数が少なく、疲労が濃く見える覚中に夏油は不審感を覚えた。
聞いてみると、よくわからない声が聞こえるらしく、それが中々にストレスになっているようで。
「呪霊が見える次は声かい」
「あいや、そう言うんじゃないんだよね。…なんていうか…人の思ってること?みたいなのが頭の中に叩き込まれてくるっていうか」
「…?」
それで頭が痛いし疲れるしで大変なんだよねー、と軽く流したが、夏油にとってはそれはある意味問題であり。
「心音、ちょっと後で私のところに来てくれるかい」
「?良いけど」
あいにくながら、夏油の勘も当たりやすいのだ。
…結論から言うと、やはり覚中は術式をも持っており、しかも無意識的に術式を常時展開していた。
「そりゃ疲れるわけだね。しっかし…術式の使い方を教えるならまだしも使わない方法を聞かれるとはね…」
「いやだってしょうがないでしょ、今も傑の心の声ずっと聞こえてきてるし。…あ、普通に心配してくれてるんだ。あーあと好きな娘のタイプとか…ほうほう」
「ちょっと待たれよ」
なんでそんなところまで使えるようになってんの、とかなんでそんな質問をチョイスする、とか色々とツッコミどころは浮かぶが、それより何考えてんだ、の方が強い「待たれよ」が出た。
「あはは、冗談だよ」
「心臓に悪い…」
全く、といいつつ夏油は考える。
自分の術式を理解したからか、覚中の呪力が目に見えて増えた。同時に、その操作能力も安定している。
本来呪力というのは、怒りや嫉妬、苦しみや寂しさといった負の感情から生まれる負のエネルギー。大体の人は最初はそれを使うだけでも大変なのだが…
「(できてるんだよなぁ…)」
操作出来ているのである。
呪力の操作というのは別に呪力を打ち出したりとか、そういう物だけに使う訳ではない。というかまだ打ち出すのは簡単な方で、術式を使うとなると呪力の操作能力はかなり必要だ。
更に、そもそも初心者ともなれば呪力を扱うどころか呪力の波を安定させることだけでも至難の業なのだ。
それを無意識に、更に常に垂れ流すことすらできるとなれば操作能力もだが、素の呪力の総量も色々おかしいというのもあるだろう。
……ところで、呪力とは負の感情から作られる負のエネルギー。その総量が多いということは…?