高評価、誤字報告もありがとうございます。
(1話の「プロポーション」は身体的な調和割合とかスタイルっていう意味もあるようなので、直さずにしてあります。体付き的にヤの付く人っぽいげと君と思っておいて下さい)
「何、取って食うわけじゃない。さっきまで機嫌は悪かったが…気が変わった」
淡々と話す宿儺。
だが、その全身から溢れ出る雰囲気は紛うことなき呪いの王。
一挙手一投足が命に直結することも考えられた。
「…虎杖君が気絶したから出てこれた、って感じ?」
「まあ、間違ってはいないな。元々あのもう一人が外から合図をし、その時に俺と小僧が変わる、という作戦を立てていたようでな、主導権が若干曖昧な状態になっていた」
「それで出てこれた、と」
呪力を練り、万一に備えられるようにする。
まあ領域を広げるレベルの呪力なら残っているし、
が、
「ふむ…そこまで警戒すること無いだろうよ。全く…いつの世でも呪術師は中々厄介だ」
バレていた。
不味い、と直感的に判断する。
下手に動けば何をしでかすかわからないのだ。それに、動きを読もうにも術式を発動すると見た目に変化が現れるため、感づかれればそれこそ危ない。
「まあまあ、俺が出てきたのも一つ、やる事があるからだ」
「…やる事?」
「指を渡せ。さっき回収していただろう?」
「っ!」
そう来るか!と歯噛みする。
今ここで渡せば宿儺は呪力量も増え、強化される。
まだそこなら勝てなくもないかもしれないが、術式が分からない。
もし確殺系の術式を持っていたとするならもうかなり不味い。
「…どうした、渡さんか」
「眼の前の敵に強化する術を、はいそうですかと渡す訳にはいかないでしょ」
警戒を解かない。
相手の動きを、よく見る。
「ふむ…まあそれもそうだな。なら、こうしよう」
ス、と宿儺の右腕が動く。
覚中は、来る、と呪力を固めて回避体制を取ろうとする…が、狙いは、違った。
「っ!」
宿儺は自分の胸に手を突き刺し、中で蠢かせた。そして…
「よっ、と。…こいつが、人質だ」
心臓を、抜き取った。
呪物である宿儺は心臓がなくても生きていられるが、受肉体である虎杖はそうは行かない。心臓がなければ血が回らず、死に至る。
「っ…指を渡しても治すとは限らないでしょ。そもそも治せるかも分からないし、それじゃ交渉にならない」
奥歯を噛み締めながら覚中は言い放つ。
と、宿儺は少し残念そうに眉尻を下げて言った。
「…そうかそうか。なら、死ね」
その次の瞬間、宿儺が指をこちらに向けた。
本能的に察知し、横に転げる。
同時にさっきいた場所にザックリと割れ目ができていた。
「っ…!?これが、術式…!」
「ほう、よく避けたな。並の術師なら今ので終わっている」
並じゃなくても終わるわ!と言いたいのを我慢する。
そして同時に、これ以上は構っていられない、と判断する。
「力づくで、今あなたを倒して心臓を治す」
「ほーう?やってみろ」
ザ、と二人共が戦闘態勢に入る。と同時に覚中が跳ぶ。そこに斬撃が通る。
「っ!これも避けるか…!!」
言葉を出さずに常に術式を使い、いつもの如く相手の行動を先読みする。
そう。だからこそ、動揺した。
「なっ、不味っ…!!」
いつの間にか、指が取られていたのだ。
妙に見える余裕はソレだったわけだ。
「ククク、避けるのに必死過ぎて気付かなかったか?」
と、宿儺はそれを飲み込み、ふー、と短く息を吐く。
「(…時間がない。人間は心臓が止まっても肉体的には8時間生きてると言うけど、それは閉鎖血管のお陰で血がまだ残って体温が下がりきらないから。心臓が抜かれたってことは、体に血が、酸素が完全に行き渡らなくなるって事…!限界はおおよそ3分、最悪でも5分。…縛りを使うか!)」
「虎杖君!…まだ戻ってこないでね」
ザリ、と足を引き、覚中は叫ぶ。
うん?と宿儺が首を傾げたその瞬間。
ズド、と呪力が爆発した。
…いや、その表現すら生温い。
呪力が噴火したとでも表現するべき、嵐が起きた。
「な…!?」
これには宿儺も驚愕を隠せない。
「う、ラァっ!」
その量の呪力で強化された、目で追えないスピードで接近してきた覚中の蹴りを受けきれず、宿儺は顔面にもろに食らって吹き飛ばされる。
「クッ…面白い…ッ!」
と、宿儺も後方に飛びながら四方八方に不可視の斬撃をばら撒く。
覚中は器用に自分に向かう物だけを呪力で叩き消し、宿儺の頭を更にもう一度蹴り飛ばす。が、少し手でガードされて威力を殺される。
「指三本分、それだけでも今のに反応するかぁ…まだこの程度ならいけるけ、ど!」
覚中は更に追従、空中で体制を整えた宿儺と交戦する。
ほとんどゼロ距離で放たれる斬撃を避け、目に見えない速度の蹴りと拳を浴びせる。
「クッ、これは…少々キツいか?」
その言葉とは裏腹に口角はつり上がり、4つの目がギョロギョロと動く。
「呪術師!名乗れ!」
「覚中、心音!」
「良いぞ覚中心音!更に魅せてみろ!!」
ズバババババ、と恐ろしい速度で展開される斬撃を紙一重で避け、後ろに回り、宿儺を地面に叩き落とす。
「うわぁ!?」
と、下にいたのは車に乗ろうとしていた伊地知や伏黒達。
いきなり起こった土煙に反応してそっちを見る。
「っ…!?なんて、呪力量…!?」
規格外すぎる呪力量を目の当たりにして目を見開く伏黒と、小さく震え始める伊地知。
そして、その交戦は幕を閉じようとしていた。
「これで…終わりッ!」
ダン!と踏み込んだ覚中は空中の宿儺を捉え、三段にも四段にも加速する。そして宿儺の首に足をかけて体を半回転、背中に回り込む。
「ククク…よい呪い合いだったぞ、覚中心音」
「もう二度と出てこないでほしいくらいだけど」
短くそれだけ言うと、覚中は目に見えるほど呪力を纏った右手を宿儺の心臓のあった位置に叩きつけた。
その瞬間、黒い稲妻が迸り、2.5乗の衝撃が加えられる。
「…黒閃!…そして…反転術式ッ!」
叩きつけた手をそのまま開き、ありったけの正の呪力を宿儺の引っ込んだ虎杖の心臓付近に流し込んでいく。
みるみるうちに心臓は治り、それは弱々しくも拍動を再開させ、間もなく平常通りに機能し始めた。
「っはァー…もう二度とやりあいたくない」
吐き捨てるようにそう言うと、覚中は地面にトス、と降りてそのまま呪力を収めた。
そして崩れるように仰向けに倒れた。
「「覚中さん!」」
ふと、伏黒と伊地知の声がした。気がした。
───
「覚中先生、大丈夫なんですか?眠ったままですけど」
「恐らく反動でしょう。息はありますし何より、覚中さんの強さは私もよく知っています」
爆発的な呪力が収まったあと、覚中は倒れて気を失い、車に乗せられて釘崎、虎杖と共に高専へと運ばれていた。
車の中で伏黒と伊地知が話している。
「…覚中先生ってあんなに強かったんですね。実際に戦うところ、見たことなかったので…普段の呪力量でもそれなりに多いと思ってたんですが、比じゃなかったです」
「?ああ、あれは違いますよ」
運転しながら、伊地知は助手席に座る伏黒に説明する。
「覚中さんは常に自分に縛りを設けているんです。普段の呪力を25%までカットする代わりに、1日に5分間だけ出力を200%まで跳ね上げられるようにしている、と」
あそこまで呪力を跳ね上げらせた話はここのところ聞いてませんから、恐らく反動で気絶したんでしょう、と付け加えて小さく息を吐く。
「200%、って…」
あんな量の呪力、半分にした所で莫大なのには変わりない。普段でも一級レベル、もしくは特級に踏み入れるか入れないか、のレベルの呪力を内包しているように感じられたのだ。それでたったの四半分。本来ならその四倍の呪力を所持していたと考えると…恐ろしい。
伏黒の先輩、乙骨のように過呪怨霊が憑いていた訳でもなく、五条のように六眼を持っているわけでもない、普通の術師、しかも元一般人の覚中が、だ。
ちなみに、普段は25%もいらない、と10%位までカットしているのは覚中しか知らない。
あと本当に200%を解放したことはなく、周りへの影響も考えて出しても120〜150%に留めていることも。
「…とんでもないですね」
ええ、と伊地知は答える。
「ですが、その力を振るう理由は彼女の信念にありますから」
「信念、ですか?」
「はい。自分より等級が上だろうとなんだろうと、子供であろうと大人であろうと、年下の事を守れるのは年上の特権だ、と。まともを通り越して崇拝気味になる人もでる始末ですし、私も実際頭が上がりません」
また小さく息を吐く伊地知。
正直、普段夏油や五条の担当をオーバースローでぶん投げられる彼にとっても覚中の対応は本当に大助かりなのだ。
夏油はまともそうに見えて沸点が低かったり人に当たりやすかったり、五条に至っては任務はやるが報告書などの後処理などはすべて
確かに庇ってくれる人もいるにはいるのだが、家入や京都校の庵などは会うことがそこまで多くなく、他の窓や監督者はむしろ五条案件をぶん投げてくる始末。その中で覚中はいつも庇ってくれたり報告書製作を手伝ってくれたりして、割とガチで崇めかけていたりする。
「人が良い上に自己肯定感が若干低いですからね。自分が死んでもいいとまでは考えてませんが、あくまで他人優先なのが逆に怖いです」
「(これもし先生が五条先生と夏油先生だけだったらうちのクラスどうなってたんだろ…ヤバかったかもな)」
伊地知の話を聞き、心の中でちょっと失礼気味な事を考える伏黒であった。
覚中さんの呪力量表
普段→10%位:一級〜特級レベル
戦闘時→15%位:特級レベル
初手のふんどし特級呪霊相手→25%:特級の上澄みレベル
宿儺さんvs→150%位:多分完全顕現里香ちゃんと同等。
縛り完全解放→200%:オマエニンゲンジャネェ!