呪い、呪われ、覚り、覚られ   作:謎の通行人 δ

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ちょっとミスしてましたので再掲です。
様々な評価ありがとうございます。

過去編は好き嫌いが分かれそうですが、必要な所なので…

あと、げとさんの幼馴染のIF小説あったんですね…(読んだ。面白かった)


目覚め

なんだかんだとありつつも、それからの小学校生活は割りと気楽なものになり。

夏油からの態度も(若干ではあるが)軟化し、たまにポツポツと返事が返ってくるようになった。

 

人には、裏と表がある。

 

そんなことはとうに知っていた。

知っていたけれど、それが人が人であるが所以で、秘密のない人間なんていないんだと気づくのに三年もかかってしまった。

 

「すーぐるっ!」

 

「んだそんな変な動きして」

 

「酷っ!」

軽口をたたきながらコミュニケーションを取っていくうちに夏油の人となりも分かっていった。

周りからは喧嘩っ早いと思われがちだが、彼にとって、正確には自分に降り掛かった火の粉を払っているだけの感覚に過ぎず、別に喧嘩っ早い訳ではなかった。やけに強い力で自衛をしていたら元のガラの悪い見た目とあわさってそういう風に広まっていってしまったらしく。

 

「皆そんなに避けること無いのにねー」

 

「別に、俺は気楽だから良いけど。ただでさえいっつもうるさいやつがいるのに、これ以上うるさくなっても困る」

 

「相変わらずひっどいなぁ」

あと、たまに毒を吐きはするが大抵三回に一回位は例の()のやつであり。

まあ彼なりのコミュニケーションだろうという風に読み取っている。

 

「…つーかお前メンタルやばくね?自分で言うのも何だけど、割と俺ヤバいこと言ってる気がしてきた」

 

「今更?」

そしてたまに反省はする模様。素直である。

 

 

 

そして、二人共同じ公立中学校に進学し、二年のある時…事件が起きた。

 

 

 

「〜♪」

昔の彼女はもうすっかりと鳴りを潜め、今では素でこの状態になった覚中。

鼻歌を歌いつつ帰宅している所で…ゾワ、と嫌な予感がした。

 

「…何…?」

鼻歌を止め、周りを見渡す。

特になにもない。

が、幼少期から培ってきた第六感はかなりの高反応を示しており…それは、間違っていなかった。

 

「は、っ!?」

いきなり、なにかに殴られたように体が仰け反った。

目線を外し、再びそっちを向くと…異形のナニカがそこに居た。

 

「ヒ、っ…!?」

人の形をしているようにも見えるソレは、ギョロリと覚中を見据えた。

全身白く、一応二足歩行はしているようだが体は溶けているようにドロドロで。顔と思える場所はなく、胴体の中に浮かんでいた目と目が合う。

咄嗟に目を逸らして一目散に逃げ出そうとした。

が、腰が抜けてしまったのか足に力が入らない。走るどころか、そもそも立つことすらままならない。

 

彼女の記憶の、どれにも合致しないその動物…否、生きているのかすらも不明なソレはゆらゆらと体を揺らし、意味不明な言葉を言いながら嗤い声を上げた。

 

「いぃぃぬぅ゙ぅ゙、じいぃぃい、ねえぇぇぇえ!」

 

「は、は、?」

必死に頭を動かし、ここから何とかする方法を探りに探る。

もたつきながら肩から鞄をおろし、座った状態で振り回す。

 

「来るな、来るな来るなぁっ!」

幸か不幸か周りに人は居なかった。

と、次の瞬間。

 

ボスッ、と音を立ててソレが体を曲げた。

 

「…へ、」

見てみるとソレの体の真ん中にまた別のナニカが食らいついており。ドロドロのソレはそのナニカを引き剥がそうと必死になっていた。

 

「は、はっ…?」

助かった…?と少し安堵し、すぐに思考を切り替える。

 

逃げなきゃ。

 

何とか立ち上がり、震える足を動かしてその場から逃げた。

後ろから、断末魔のようなものが聞こえた気がしなくもなかった。

 

家に着き、戸を閉めて鍵をかけてその場に倒れ込んだ。

急すぎる緊張状態から開放されて体に力が入らなくなっていた。

 

「な、何、あれ…」

息も絶え絶えとおったようにつぶやき、体を仰向けにして息を整えることにした。

 

 

 

それからというもの、視界の中に例のアレっぽいものが視界に入るようになった。次第に慣れはしていったものの、怖いものは怖いのだ。できるだけ目に入らないようにしつつ生活しているとどうしてもストレスがかかる。

で、夏油に聞いてみた所で呪霊というものの存在を知った。

 

ちなみに、呪霊同士が戦うことは基本的に無いことらしい。

 

 

 

 

そんなこんなでまた時間が経ち。

中学も三年に上がった。

もうこの頃になると夏油の態度は完全に軟化しており、一人称を「私」に定着させていた。

初期の頃の夏油本人の噛みながら言う「私」と、それを聞いた周りからの明らかな「…え?」みたいな疑問の目で見られていたのは本当に面白かった。

 

あと、一人称を変えたからなのか問題事を起こす頻度も減り(無くなったとは言っていない)、あの夏油傑を軟化させたということで謎に覚中の株が上がった。

 

そして、夏油に相談した日から呪霊の見る頻度があきらかに減った。まあ、視界に入る前に夏油の忍ばせた準一級呪霊、「影切」が処理しているからなのだが、当人はそんな事などいざしらず、なんかラッキー、と思って夏油に話していた。

まあ夏油も夏油でその事を一言も話さなかったのだ。覚中がそんな事を思うはずもないが、もしかしたら恩着せがましいと思われるのが嫌だったのかもしれない。

 

 

だから、というのも変な話だが、()()なってしまったのは不運としか言えないのかも知れない。

 

 

「なぁおい、なんか言えよ?」

とある日。家に戻った覚中の目の前に、最悪の記憶を蘇らせる人物が居た。

フラッシュバックする。

灰皿が飛び、お酒の瓶が振り下ろされて危うく大怪我に繋がるところだった記憶。

ドアを開けると漂ってくる強い酒気の匂いと怒声の記憶。

母親と、内密に逃げた、昔々の、記憶。

 

「久し振りなのによお?無視はさみしいじゃねえか」

白髪の混じった、シワの深い無精髭の顔が詰め寄ってくる。後ろにふらつきつつ下がるが、玄関のドアが阻む。裸足のまま外に出ようとしてドアを開けようとしたが、濃い焦りが混じって閉めてしまった鍵が上手く開けられない。

お酒と煙草の混じった、強い匂いが漂ってくる。

 

「な、んで、」

喉が収縮する。

声がうまく出せない。

 

「まあまあ色々あってなぁ。にしても…えらく美人になったじゃねえか、なぁ?」

ぐい、と腕を取られて引きずられる。

 

「や、だ、…や…!」

抵抗しようとするが、信じられないほど力が強い。

リビングに投げられて、頭が完全に混乱状態に陥る。

顔を、見れない。

 

「良いじゃねぇか、この頃()()()()んだ。あんだけ動けたんなら月のモンは大丈夫だろ」

それを聞いて、その瞬間にゾク、と背筋に冷たいものが走り、体が硬直する。

これから何をされるのか、察してしまった。

 

「っ…!」

震える手足を必死に動かして逃げようとするが叶わず、仰向けに転ばされる。

 

「おいおい逃げるなよ。悪いようにはしねぇ──」

制服のスカートに手を掛けようとした、その瞬間。

 

「──よ?」

スパ、と。

綺麗にその腕は肘から落とされていた。

 

「…は、」

 

「……っ、だああぁぁ!?」

仰け反り大声で叫ぶ彼の隣に、ズズ、と覚中の影から完全に真っ黒な人の形をした、手が鋭くなっているものが現れた。

 

「…へ…呪、霊…!?」

「なっ、心音…テメェ呪術師か!なら…これはテメェのか!」

激昂した男は立ち上がり、切られていない左手を振りかぶる。が、その動作に合わせられたように今度は左肩から左腕が飛ぶ。

影切は影に住まう呪霊。彼が干渉した影へのダメージは肉体へとフィードバックされる。

それを見て、覚中はこの呪霊が自分を守ってくれているのだと理解できた。

が。

 

「カカカ…!俺に術式を使わせるとは、生意気なガキじゃねえか…!」

ボコボコ、と男の両腕が異形へと変化していく。

 

「俺の術式は呪霊容術、俺の体に呪霊を取り込んで使役し、自分の肉体にすることができる…!変化させた一部を取り落とせば使役した呪霊に戻すことも可能だ…!これで、お前の呪霊を殺して…お前はめちゃくちゃに犯してやる…!」

ギリギリ、と男の歯が鳴る。

その瞬間。

 

「(………え?)」

ふと、彼の考えていた攻撃の軌道が何となく頭に入ってきた。

 

トン、と影切を押すと元々影切のいた場所に男の拳が通る。

一歩下がるとそこに刃が通る。横にずれればそこに呪霊が飛んできて、屈んで避ければ頭の上を投げられたナニカが通り抜けていく。

 

「は…?」

尽く攻撃をかわされる状況に呆気を取られたのか男は手を止めた。

その瞬間だった。

 

ズルリ。

 

支えを失った上半身が崩れて地面に落ち、下半身だけ立ったまま残った。

 

「え…う、っ…」

その状況を目の当たりにして、覚中は急いでトイレに駆け込み、吐いた。

脳裏にこびりついて消えない異常な記憶。

確かに自分が犯されかけた事に対する不快感はあった。が、それでも、あんな殺され方をするなんて、と。

 

少し落ち着いて…というか出るものが無くなった彼女は一度トイレから出て…また目を見開いた。

あれだけ凄惨に、血だって大量に流れていたはずの死体が、綺麗さっぱりなくなって、元通りの状態を形取っていた。同時に、あの真っ黒の呪霊も居なくなっていた。

血液の染みすらなく、まっさらな、綺麗な状態だった。

開いた窓から風が入って、白いレースカーテンがゆっくりと揺れていた。

 

「………夢?」

一瞬、割と本気でそう思ったがすぐに否定する。

どうにせよ、彼女の脳裏に焼き付いたその光景が心に多少の歪を作ったことには変わりなかった。

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