12話の始まりを少し変えました。そこまで話に影響あるものではないのでわざわざ見る必要は無いです。
…上手いお話が浮かんできません。
件の日から一日後。
伏黒と釘崎は、どこか暗い表情で階段に座り込んでいた。
「結局何にも出来なかったわ」
「…ああ」
そう呟く釘崎に対して、認める事しか出来ない伏黒。
彼もまた同様に考えている一人だった。
虎杖は現在も意識不明なのだという。何とか命も取り留め、覚中の反転術式があと数十秒遅れていれば後遺症でも残っていたかもしれない、とのこと。
「…覚中さんの戦いを見てた。正直…次元が違った。俺たちじゃまだまだ足手まといどころの話じゃない。完全な荷物だった」
「そう…」
「…暑いな」
「…ええ、夏服はまだかしらね」
恐ろしいほど会話の続かない二人の前で、ザリ、と砂利を踏みしめる音が聞こえた。
ん?と顔を上げると深緑の髪に黒縁のメガネをかけ、肩に長い入れ物を背負った女性が一人。
「いつにもまして辛気臭いな、恵。お通夜かよ」
「…禪院先輩」
「私を名字で呼ぶんじゃねぇ」
伏黒が答えると、彼女…禪院真希は姿勢を変えて言い返した。
彼女は生まれの家柄…禪院家を嫌っており、その方の名前で呼ばれるのが嫌だった。
と、灯籠の影から二人の…二人?一人と一体の影が差し、彼女に声をかけた。
「真希!止めとけ!」
「おかか!」
「んぁ?」
そちらの方を向くと口元まで襟を伸ばして口を隠した白髪の少年とパンダがいた。このパンダの場違い感よ。
「マジで死にかけてたんスよ、昨日、一年坊が一人!まだ意識も戻ってねぇって話!あと覚中さんも気絶しててまだ目を覚ましてない!」
それを聞いて、真希は首を油が切れて動きの悪くなったブリキ人形のようにギギギ、と二人の方を向く。
「は、早く言えよ!これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みたいなやつに見えるだろうが!」
「いや、それはそれで間違ってないと思うゾ」
「しゃけしゃけ」
「…何?あの人達」
目の前で繰り広げられる謎の漫才のような状況に、ハテナマークを浮かばせた釘崎は伏黒に聞く。
「2年の先輩方だ。禪院先輩、学生の中で近接戦闘最強。パンダ先輩、見ての通りパンダだ。狗巻先輩、語彙がおにぎりの具しか無い。あと乙骨先輩っていう唯一手放しで尊敬できる先輩がいるが…今ちょっと出てていない」
「いや、あんたパンダをパンダで済ますつもりか」
パンダはパンダだからしょうがないのである。しかもこの三人の中ではパンダが一番まともだというのも事実なのだ。
ちなみに、本物のパンダというわけではなく夜蛾特製のパンダ型完全自立呪骸である。肌触りもほとんどパンダだとのこと。
あと、乙骨は少し前から高専に帰ってこれない程忙しくなっており、まだ少し帰ってこれなそう、との事。
と、
「まぁすまんな、心の整理もつかんうちから。だが、お前たちには…“京都姉妹校交流会”に出てもらいたくてな」
思ってもいなかった勧誘。
弱さを実感した二人には、これ以上ないピッタリの機会だった。
─────
「……」
一方その頃、夏油は保健室の中、若干魘されている覚中のベッドの前で考え事をしていた。
「どうした、幼馴染を視姦中か?」
「硝子。…全く、そんな訳無いだろうに」
突然後ろから降ってきた声に合わせて後ろを向くと、保険医である家入が薄く笑って立っていた。
「っははは、冗談の一つでも言わないと今にも死にそうな顔してるやつのことが見てられなくなるものでね。
カラカラと笑って家入が言うと、夏油は一つため息を付いて続ける。
「あのなぁ。そんな間柄じゃないのは分かってるだろうし私にも、恐らく心音にもそんな気は無いだろうさ。ただ…」
「…?ただ?」
少し吃った夏油を前に、家入は若干眉をひそめて聞く。
「…いや、もう昔の事だね。下手な枷になっていないと良いなと思っただけだよ」
夏油は、影切を付けたこともしっかり覚えていたし、影切が何らかの形で動けば夏油もそれを知ることができた。
そして、影切は回収
祓われたのだ。
あの日、夏油は家におり、影切が祓われた情報を拾った夏油は隣の家を見た。
窓から一人の男が落ちていったのを、しっかりと目にした。
その男の情報までは拾えなかったが、呪力は拾えた。つまり、その男は呪術師だった。…いや、影切が反応したということ覚中に手を出そうとしたという事だから呪詛師か。
まあ幸い、影切が祓われたのは分かったが覚中の呪力はまだ拾えていたため何とかなったか、という風に取っておいた。
だが、今考えると色々おかしい。
影切は影に住まう呪霊だ。能力的には影と相手の肉体を呪力で繋ぎ止めてダメージを与えるというもの。
ただ、相手にも体を呪力でガードされると繋がりが切れてしまい、干渉できなくなる。
しかし、影切の厄介なところは攻撃性能ではなく逃避性能だ。奴は影に隠れればどこにでも逃げられる。
そんな影切を祓える実力を持つ呪詛師が、覚中をそう簡単に見逃すだろうか?
何か向こうにも事情があった可能性もあるが、あの頃の覚中は四級も良い所、四級呪霊を祓うのもギリギリ、と言ったラインだったのだ。
事情があったにしても、自分の姿を見たほとんど一般人の呪術師をを呪詛師がおいそれと逃がすとは思えなかった。
「…まあ今が無事なら良いか」
「あんたらしくないね、そこまで大事に想うなんて」
にやにやと笑いながらいう家入に、夏油もふっと笑って言い返した。
「当たり前だろう。私の命の、人生の恩人だよ」
その表情はこれまで何年も付き合ってきた家入も見たことのない表情で。少し驚いて反応ができなかった。
と、そんな所で夏油の携帯が鳴った。
ポチポチとメールを開きながら声を漏らす。
「ん、メールか。どうせ悟…だね。…一人じゃ暇だから手伝えって…学生の連れションかよ」
気を取り直してハハハ、と笑いながら家入は行ってきなよ、と言う。
「まあね。行かないとまたごねるだろうし…いつまで経っても大人子供のままだな」
「どの口が言ってんだか。後で心音にあんたの言ってたこと教えてあーげよっと」
はぁ、とため息をつく夏油に家入が言うと夏油は後ろを向いて家入を睨みつける。
「や め ろ よ ?」
「…そんなにキレる?」
「トップシークレットで」
「はいはい」
今度は家入の方がため息を付きながら首を振る。
恋愛の方では好きじゃないとは言ってたけど、こりゃ下手に好きになられるより厄介な感情持たれてるよ、と目を瞑ったままの覚中を横目で見ながら肩をすくめた。
「それじゃ、行ってくるかな…ってクソ近場じゃん!?わざわざこんなのに呼び出しって…悟あいつマジで何考えてんだ」
「お土産よろしくー」
メールを読みながら頭を抑える夏油に家入は言う。
「…お土産買うほどの距離無いよ。ここから車でも30分くらいの所だ」
「じゃあつまみか何か買ってきて、甘くないやつ」
「パシリじゃん…」
まあ良いけど、と溢して夏油は保健室を出ていった。
やった、ただでつまみゲット、と思っていると後ろの方でゴソゴソと音がした。振り向いてみると、覚中の目がゆっくりと開くところだった。
「…や、起きたかい」