「オロ…オルルゥ…」
「っ!」
改造人間を相手にしながら考える。
とりあえず、下手に手を抜いて勝てる相手じゃないのは確実。耐久力も普通の改造人間よりは高く、膂力もそれなりにある。
真人にリソースを割きながら戦うとなると少し手厳しい相手になりそうだ。
「…ラ…イ…ツラ、ィ、オォ…」
「…ごめんね、」
口から紡がれるのは苦悶。その言葉に、覚中は応える。
振るわれる腕を躱し、追従してくる巨体を欺いて避け、倒れ込んできた所に飛んで回避して目の前に立っ。
「痛くないようにするから、じっとしてて」
真人への意識を一瞬カットし、目の前の元人間に忌忌を使う。動きが止まり、棒立ちになる。
「(…最後ぐらい、ね?)」
思考を読み取り、記憶を読み取る。
そんな彼の頭の中から、
「──拡張術式…想起」
思い起こさせる。
楽しい記憶を、嬉しい記憶を、目の前に想像させる。
そして。
「…じゃあ、ね」
バシュ、と音が鳴り、改造人間の首がまず切り落とされ、次の瞬間には体中が呪力で焼き尽くされる。
痛みなど感じさせない、生半な手加減はなしにして放出された呪力はコンマ何秒もかからずにその巨体を一撃で葬った。
「…さて、」
再び真人の方に意識を向けると、虎杖が上から降ってきているところだった。
「アァ…!ワアァァ」
「ぐっ…うぅ!」
三体の改造人間が虎杖を追い詰めていた。
虎杖は、良くも悪くも優しすぎたのだ。そして、ついこの間まで一般人だった事もあって「元人間」として知っている改造人間達を殺すことに躊躇してしまっていた。
それでも、やらなければこちらがやられるのが道理。奥歯を噛み締めながら内一体の首に手をかけた。
「アソボ、オソ、ボ、ォ…!」
小さくなっていく声で改造人間は呟くように言う。その言葉に、虎杖の手が止まる。
と、横から緑色の改造人間が這い出てきた。
「コロ、シテ、ェ…」
「ゔゔぅぅぅ…!」
痛む。心がただひたすらに痛む。
感情を振り払って他二体も手にかけ、震える手を押さえつけて下に飛び降りる。
順平と七海が相手をしていた真人を見据え、さっきまでの感情をぶつけるかの如く呪力を込めた拳で真人の脳天を狙い、拳を突き出して一撃…いや、
「逕、庭…拳ッ!!」
虎杖の高すぎるフィジカルに呪力がついていけずに、初撃の次に呪力による二段階攻撃が発生するというまたトリッキーな技。
それが真人の顔面に直撃した。
七海と順平しか視界に入れていなかった真人は面白いようにそれをモロに喰らい、慣れない感覚に大きく仰け反った。
「殺してきたか…人間を!」
その言葉に反応せず、虎杖と七海は真人に攻撃を仕掛けた。
回避行動を取ろうとするが、再び体が硬直した。その瞬間に虎杖の拳が顔に、七海のナタが腕に直撃する。
順平の澱月の触手が視界を遮り、無理やり回避しようとすると体が硬直に襲われる。
どんな手を使おうとしても回避が取れなくなってしまっているのだ。繰り出される二人の乱打は真人に隙を作らせない。精々体の形をとっさに少し変えて七海の術式を発動させないようにする位の事しかできない。
徐々に、真人に死が近づいていることが分かった。
しかし、その新鮮なインスピレーションと窮地に立たされたことに寄って掴んだ呪力の本質に触れ、真人は呪力を思いっきり練り上げる。
「っ!不味…」
「領域展開────!」
覚中の忌忌が間に合わない内から、ガパリ、と開けられた口の中で二対の手が印を結ぶ。それと同時に、周囲に漆黒の手が大量に顕現した。
その手は虎杖を避け、近くにいた七海のみを結界に閉じ込めた。
「──
結界の中は多数の手が繋がり合って作られた領域であり、文字通り常に手のひらに触れた状態で七海は立たされた。
「今はただ…君に感謝を」
七海は、ゆっくりとメガネを外し、少し思考に耽ることにした。
「何で…ナナミンだけ…!」
領域の外では虎杖が結界を殴りつけ、揺すっていた。が、当然その程度でどうこうなる代物ではない。
「(領域展開…結界で遮断されてるから外から干渉はできない…!外部の人間にできることと言えば、外からこの領域を超える精度で広く展開して結界ごと中和させるしか…!)」
そばに駆け寄り、グッ、と右手を強く握りしめる。そして…覚中は胸の前で祈るように両手の指を絡めて印を結ぶ。
「領域───!?」
が、呪力を一気に練り上げた瞬間、ガシャン!とガラスの破砕音のような音がした。驚いて音のした方を見ると、虎杖が結界の上に乗り上がり、勢いよく拳を振り下ろしていた。彼の拳が、結界を貫いたのだ。練り上げた呪力が霧散する。そして、そこに向かって大きく足を振り上げ、結界に振り下ろした。
それだけで結界は上部が大破し、領域効果が弱まった。
領域の中で使われた術式には必中効果が付与される。
つまり、真人の領域に入った瞬間に無移転変の効果を受けるということに他ならず、再び
触れてはいけない存在、天上天下唯我独尊、史上最強の呪詛師が目を開いた。
大きく、拍動の音がした。
『言ったはずだぞ?
真人は再び宿儺の生得領域に引きずり込まれ、見下される。
宿儺はそう低い声で言い放ち、クイ、と小さく指を動かした。
たったそれだけ。それだけで真人の胸から左肩までが“解”によってバッサリと切断された。
『お前が死のうと…お前が死のうと、心底どうでもいい』
いかにも興味なさげに宿儺はそう言い放ち、ズズ、と闇に消えていき、領域を保っていた結界が完全にバラバラに砕け散った。
切断された真人の胸からは、夥しい量の血が噴出していた。
それを隙と判断して虎杖は急接近、右手に呪力を思いっきり込める。
一方真人はもはや継戦は不可能と判断し、逃避を真っ先に選択して体を肥大化、視界を防いた。
それを前に、少し驚いたようだが虎杖は怯まず構える。怒りを、憎しみを、負の感情を、迷わず拳に乗せる。
「逕庭拳!!」
その拳は真人の体にまっすぐ入り…その体は風船のように弾けた。それを見て虎杖は目を丸くする。
手応えが全くと言っていいほど無かったのだ。
それもその筈、さっきのは完全なダミー。真人はその隙に排水口に向かって逃走を図る。
「逃がしません」
が、先回りしていた七海が待ち受けていた。
それでも、とてつもなく使いづらくなった無為転変を無理やり行使して小さく形を変えながら十劃呪法を防ぎ、追尾してくる澱月の触手も躱して排水口へと潜っていった。
「バーイヴァーイ」
「っ…!すぐに追います…!」
それに焦った七海が真人を追従しようとしたが、覚中が静止する。
「いや、しなくて良いよ」
「しかし…」
「大丈夫、考えはちゃんとあるから。それより…彼らのほうが先じゃなくて?」
体育館と順平の方を指しながら覚中は言う。
ハァ…と七海はため息を付いて「そうですね」と言い、事情聴取と救急への連絡をすることになった。