呪い、呪われ、覚り、覚られ   作:謎の通行人 δ

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収束

「さて…とりあえず、ここらへんに帳は降りてるけど出入りは普通に可能だから一回離脱して」

 

「は、はい!」

何でそんな謎の帳が降りてるんですか、とは聞くに聞けなかった。さっきの疑似〝赫〟を使った覚中の目が脳裏に焼き付いていたからだ。

呪霊に対してどころか、この世の全てのものに対してあらゆる興味を失ったかのような、冷たく鋭い目だった。

 

 

 

 

「さて…特級は向こうか。今は…真希さんと恵君が交戦中かな?」

タタタッ、と走る。わざわざまた引っ込めるのも面倒なので25%の呪力を体に回し、強化された身体能力で目的地点まで駆ける。

 

と…

 

「!いた…!」

()()()集まりを発見。が、状況は良くないようで。

 

「クソ…鵺!玉犬、渾!」

鵺が空から不規則な動きをしながら電気を纏いつつ人形特級呪霊に突貫、その間に真希が三節棍を、伏黒が黒い刀を叩き込む。そしてその後に二段構えに玉犬の爪が呪霊の胸元にしっかりと傷を作った。

 

『…素晴らしい。とても良いコンビネーションです』

 

「!?」

音として耳から入ってきたのは意味不明な言葉。だが、意味は理解できる。そんなとんでもなく気持ちの悪い感覚に少し動揺するが一度無視。そういうものだ、と納得させる。

木陰から飛び出て目の辺りから木のようなものが生えている人形呪霊の右肩を蹴り抜き、一瞬硬直した隙に顎を踵で上に蹴り飛ばす。

そして視線がズレたその瞬間に両手に呪力を収束させる。

 

「私達の生徒に手を出すってことは、こういうことだよ」

夜見を発動して相手の行動を把握、回避より防御を選択したのを見越して縛りを一瞬解放する。

瞬間的に約150%まで跳ね上げられた呪力を一気に放出することにより、特級呪霊…花御の左半身をしっかりと抉った。

 

「覚中さんっ…ゲホ、」

 

「!!恵君、」

 

「恵、それ…!」

その隙に覚中は呪霊から距離を取り、真希と伏黒を抱えて水辺から出る。

ふと見ると伏黒の腹から、謎の赤い植物が体を食い破って生えていた。

 

「これは…呪力を吸ってるのかな。恵君、呪力の供給を止めて帳の外に。真希さんは恵君が交戦しないように補助してあげて。あれは私が…いや、」

真希に反転術式を施しながら、祓う、と言いかけたその瞬間、空中に出現した二つの呪力反応。

 

「…手を出す必要もなくなったかな」

その二つの呪力は空から急降下し、なんとか回復したらしい花御の真ん前に派手に着地した。

 

「行けるか、親友(マイフレンド)!」

「応ッ!」

虎杖、東堂が到着したのだ。

 

 

「悠仁君、葵君、」

 

「!これは、Ms.覚中!」

 

「久しぶりだね、葵君。まず報告だけど、この呪霊かなりタフだね。まあ一回左半身吹き飛ばしたから相当消耗はしてると思うけど…多分まだそれなりにダメージ与えないと祓うのは厳しそう」

 

「ッハハ!相変わらずぶっ飛んでいるな!」

ちなみに覚中も東堂と初見の時に件の質問をされており、その回答に対しては概ね及第点を貰っている。

 

「まあ今回の花形は虎杖(ブラザー)だからな、行ってこい!」

その中で聞いてみたところ、どうやらこの戦いの中で虎杖に黒閃を習得させる試みを立てているらしい。

 

「気に入られたね、悠仁君。…さて」

その間に覚中は花御の思考を少しずつ深い所まで読んでいく。

そして、気付いた。

 

「…嘘」

 

「ん?」

 

「葵君!悠仁君の事と呪霊のこと、任せても良い!?」

 

「んっ?無論だ、元より虎杖(ブラザー)が黒閃を習得すれば二人で祓うつもりだった」

突然の剣幕に少し仰け反りつつ東堂は答えた。

正直な所不安要素は残るが、すでにかなり消耗させていたのもあり、なんやかんや彼になら任せられるという信頼もあったためその言葉に甘えて任せることにした。

 

「ありがとう…!」

そう言い残すと覚中は空を飛びながら、最悪だ…!と考える。

花御の主な役割は()()

その隙に、呪術高専の最重要呪物保管庫である忌庫(きこ)から特級呪物を持ち出すというのが作戦のようなのだ。

 

「クソ、クソ…!」

悪態をつきながら急ぐ。向かうのは夜蛾の元。

あいにく覚中は忌庫に繋がる建物を知らない。高専の敷地内にある1000を越える神社仏閣の扉のどれかが()()だということしか知らないのだ。しかも毎日場所が変わるとかいう鬼畜仕様。

知っているのは極上層の人間だけ。特級の五条、夏油ならともかくせいぜい二級程度の覚中はそれを知らない。

知っていて、かつ今向かえる…というか向かっている人といえば東京校の学長である夜蛾位なのだ。

 

「……いた!」

夜蛾がいくつかの建物の間にいるのを発見し、その場所に急降下する。

 

「夜蛾先生!」

 

「っうお!?…と、覚中か、どうした。生徒達は…」

 

「急ぎなので移動しながらでお願いします。生徒はほとんど退避済み、向こうの主戦力である花御…特級呪霊には手を負わせた上で葵君と悠仁君が交戦中です。問題なく祓えると判断しました。それよりです…!敵の主目的は忌庫から複数の呪物を盗み出すことです、主に両面宿儺の指と呪胎九相図の一から三番を…!」

 

「何!?」

これには夜蛾も驚愕を隠しきれなかった。

急ぐぞ、と夜蛾は急き立てて速度を上げ、走る。

忌庫の中の呪物は特に危険性の高いものがほとんど。

特級呪物故に破壊もできず、存在を保証する代わりに活動を停止させる縛りを結んだ危険な呪物が山程も仕舞われているのだ。

 

もしそんなものを悪用でもされようなど…笑えない冗談である。

 

 

「っ…!」

「一足遅かったか…!」

が、夜蛾に連れられてたどり着いた場所は既にもぬけの殻。

忌庫の番をしていた人は無惨な形に変えられ、忌庫の門は破壊されていた。

 

「この呪力の残穢に術式…真人か」

 

「真人…あぁ、件の特級呪霊だな」

忌庫番を見、生死の確認をしながら覚中が言う。

というか人をこんな形に変形できるのは無為転変の術式ぐらいしか知らない。

 

「…忌庫の中から何が持ち出されたかを把握するぞ」

 

「はい」

 

 

内外部を捜索した結果、忌庫番二人に加えて二級術師が三人、準一級術師が一人、補助監督者が5人殉死していた。

加えて忌庫内からは高専の保有していた宿儺の指六本全て、そして呪胎九相図一〜三番が盗み出されるという事になった。

 

 

「……この件って生徒達とも共有しておいた方が良いですかね」

一段落したところで教職員達は集められ、概要を聞いていた。その中で伊地知の報告を受け、歌姫がそう言う。が、夜蛾と学巌寺の見解は…

 

「…いや、上層部に留めておこう。呪詛師界隈に呪物流出の確信を与えたくない」

「そうだな」

とのことだった。それもそうだ。もしこのことが下手に大きく伝わってしまえば、呪詛師の群が高専になだれ込んできてしまう可能性すら有り得る。

 

「捕らえた呪詛師からは何か聞けたのか?」

 

「それについては私から」

と、夜蛾の言葉に手を上げたのは覚中。捕らえた二人の呪詛師…組屋(くみや) 鞣造(じゅうぞう)重面(しげも) 春田(はるた)への尋問には彼女が組み入っている。

 

「色々と質問しながら思考を覗いてみましたが、どうにも芳しい状況では無いですね。片方…組屋の方は思考そのものすら支離滅裂で、分かったことと言えばハンガーラックを作りたくて参加した、という事と白髪でおかっぱの中性的な人間に唆された、という事くらいです」

 

「白髪でおかっぱ…?心当たりあるかい?」

冥冥が五条の方を見て言ってみるも、当然知り得る情報はなく。

 

「っていうかハンガーラック?」

 

「はい。…彼は、人間を解体して物を作る事を趣味にしていたようです。もう片方の重面の剣も人の手を切断し、何らかの方法で意識だけ残して手が当たれば掴み返す呪具として活用させていたようです」

 

「う、っ…」

歌姫の問に覚中が答えると、彼女は口を手で覆った。

まあ、どう考えても聞いていて気持ちのいい話ではないだろう。

 

「そしてその重面ですが、こちらの方も分かりづらく。質問に答える気がなかったのか、これだから俺は運が悪い、等を繰り返していました。しっかりと思考させて再び聞いてみても、背後にいる呪霊と呪詛師…件の集団が後ろにいることしか分かりませんでした。また、こちらにも先程の白髪おかっぱの人の話も出てきていましたね」

 

「ならばそのおかっぱ頭の呪詛師が敵の中でも重要人物といった所か…」

 

「可能性は高いです」

うーむ、と夜蛾は唸って小さくため息をつく。

 

「…どちらにせよ、交流会は中止だな」

 

「ちょっとちょっと、それは僕たちが決めることじゃないでしょ」

と、そこに横槍を入れたのは五条だ。

曰く、その判断は生徒に委ねるべきだと。

それもそうだな、と夜蛾も学巌寺も、納得したため五条はじゃあ聞いてくるねー、と生徒の集まる待機所へと歩いていった。

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