結局交流会は一時中断も中止も無くなり、翌日に持ち越されはしたものの実施されることになった。
…が、内容はまさかの野球。
本来は夜蛾が個人戦を設定していたのだが、五条がその内容をちゃちゃっと書き換えてしまいこうなったらしい。
まあ結果的には東京校が勝利することになったのだが残念ながらその日は覚中は任務に駆り出されており、その試合を見ることはなかった。そして、それから少し経った日…
「久しぶり、メカ丸君」
「お久しぶりでス」
覚中は私用で京都校の方に来ていた。
その際にそうだ、と歌姫にメカ丸を呼んでもらったのだ。
そして別室で座って待っていると、ドアをノックして彼が入ってきた。
「用があると聞きましたガ」
「そ。最近は元気?体調の方は言うまでもなく良くは無いんだろうけど…」
「まア、それなりにはやってますヨ」
メカ丸は真希と同じく天与呪縛を身に受けたものであり、その効果は莫大な呪力と実力以上の呪力放出量、広大な術式範囲だ。その引き換えに肉体の大部分を損傷させられた上に下半身の感覚を奪われ、かつ常に体中に苦痛を与え続けられている。
この「メカ丸」も彼の術式、傀儡操術によって遠くから彼が動かしているもので本体ではないのだ。
「そっか。…ここからちょっと独り言を続けるから無視してもいいよ」
「?」
と、彼の前で覚中はカタ、と椅子を引いて立ち、彼の横に近づいていく。
「…内通者」
その言葉に、少なからずメカ丸は動揺を顕にした。
「この頃意思疎通の図れる呪霊が出てきてるんだよね。今判明してるだけでもそんな特級呪霊が四体もいる。それを束ねてる呪詛師と繋がってる内通者が高専内にいるっぽいんだよね」
息が詰まった。
内通者というのは、メカ丸がそうだ。
人が人を恐れることで産まれた特級呪霊…真人の術式、無為転変で魂を変えて天与呪縛を直してもらうことと、京都校高専の人間には危害を加えないという縛りのもとに情報を流しているのだ。
「まあ別に私としては本人にも事情があるだろうから晒しあげたりする気もないし、そもそもする必要もないんだろうけど、まあそこはおいておいて。呪霊側と繋がらなきゃいけないほど切羽詰まった状況なら何を要求されても堪えなきゃいけなくなる可能性があるんだよね」
必要もない?何を言っているんだと今度は首を傾げる。
呪術規定におかなくても味方を売るというのは裏切り、視点によっては敵であり、それが呪術師という命をやり取りするものであれば処罰する必要がないわけがない。
「私は、教師陣の中にはまず内通者はいないと考えた。悟や傑は言うまでもなく、庵先輩もまず無い。夜蛾先生は生徒を大切にする人だし、学巌寺先生は保守派だから呪霊と繋がるのは特に避けるはず。日下部さんとか他にもいるけど、そもそも呪霊と繋がれるような隙のある人がいなかった」
右手を顎の下に持っていき、覚中は小さくため息をつく。
「なら生徒かとも考えたけど、できれば私は生徒に疑いの目を向けるような真似はしたくないし、他の人達にもさせたくない。さっき言った通り本人にも事情があるんだろうしね。でも悟とかはともかく傑とか学巌寺学長あたりはそこら辺厳しく行きそうなんだよねぇ」
「…何が言いたいんですカ」
メカ丸は少し耐えられなくなったように声を上げた。が、覚中は小さく笑って続けた。
「別に、これは私の独り言。他の先生も先生で動いてるみたいだけど、どうしても血の気の多い人もいるから嘆いてるだけだよ。で、私はここで連絡先を落としていくと」
覚中はポケットから財布を取り出し、電話番号を記した紙を机の上に落とした。
そして、少しだけ呟いた。
「もしその人の
「っ…!!」
ふふふ、と笑って覚中はメカ丸を一瞥し、部屋から出た。
覚中が
条件としては呪霊と繋がることで何らかのメリットがある人間、もしくは元より呪霊の味方の人間だ。
が、そんなもの簡単に見つかるわけがない。誰にだって何らかの欲や願いは存在する。そこで見方をシフトした。
周りに一切気づかれずに呪霊、呪詛師と接触できる人間だ。
別にタイミングさえ噛み合えば誰でも可能だろう。
が、一番楽なのは本人が
まあ正直言って覚中とてあまりそんな理由で疑うのは嫌だったが、真人という存在を見つけて無為転変という術式を理解した上でメカ丸が天与呪縛に苦しんでいることを加味してしまえば、分かりやすい理由にもなる。
脳の形を変えて順平を一般人から呪術師へと昇華させることができるのならばその逆も然り、何なら天与呪縛のみ排除する芸当だって不可能とは言い切れない。
その上メカ丸というのは傀儡。パンダのような例外を除いて、それ自体に意思や思考が宿っているわけではない分覚中の術式も効かないし、顔に出たりということもないのでポーカーフェイスにも最適。声紋も多少操作されているし、動きも機械感が大きく違和感をつかみにくい。
相手側がそこまで考えているかまでは分からないが、少なくとも覚中が考える中では内通者としては最適ではないかと考えたのだ。
「…この件は私だけで何とかしないとな…」
部屋から出て覚中は思考を回す。
顔色や行動では推測しにくかったが、言動や反応からメカ丸が内通者であることはほとんど確信した。
確かに、助力という意味合いで五条や夏油なんかに頼めば一瞬で片は付くだろう。だが、相手が内通者に対してどういう感情を宿しているかわからない以上、下手に広めるのは得策じゃないと考えたのだ。
さっきメカ丸に言っていた通り、五条はまあそこまで気にしないだろう。割と「強けりゃ良いじゃん」的なところが大きいため情状酌量の余地はある。歌姫も理由は違えどこの「大丈夫」な部類だろう。
その一方で夏油は微妙だ。あれはあれで下手なところで真面目だからだ。自身に危害が及ばないとしても仲間が危険に晒されるとなるとどう行動を起こすかわからない。夜蛾も同じく微妙だ。
そして、一番身近で不味いのが学巌寺だ。
保守派筆頭だけあって下手すれば即刻処刑、甘く見ても情状酌量はほとんど飲まれずに呪術界から追放だろうか。上層部系は基本不味い気しかしない。
一応無理やり納得させる方法もあるにはあるがやるべきじゃないし彼女自身もやりたくない。
なら一番確実なのは、一人で片を付けてしまうこと。気付かれないうちに、内密に事を終わらせて、報告はその後してしまえば弁明もしやすいし処罰はされずらいだろう。
くるくると思考を回しながら帰っている所に、携帯に着信が来た。
「ん?悟?」
メッセージは、「京都にいんだろ?僕等も行くから今日歌姫の家行こーぜー。んで朝まで騒ごーぜー」*1というものだった。
急だなぁ、と思いつつ、「先輩に連絡はしたの?」と返信すると秒で既読が付き、「モチのロンよ!傑と硝子も一緒に来るから行こう!」*2と返ってきた。
まあ傑はともかく硝子も一緒なら問題は無いかと思うと同時に、保健室抜けて大丈夫なの…?と思ったが、流石にそこら辺はちゃんとしているだろうという考えのもと了解の旨を伝えた。
「…さて、どうしたものかな…」
いつ
早いところ準場はしないとね、と思いつつまた帰ってきた五条からのメッセージに返信をする覚中だった。